5-神の座する国にて・前編
「あ、いたいた。ガーベラ」
街の外で立ち尽くす蜜柑と別れてから、十数分後。
エリュシオンへと足を踏み入れたウィステリアは、とある店の前でぼんやりとしているガーベラを見つけて、声をかけていた。
「あっ……リ、リア」
「ちょ、逃げないでよ」
声をかけられたことでウィステリアに気がついたガーベラは、直前まで恥ずかしさで爆発していたこともあって、すぐに逃げ出してしまう。
しかし、もちろん彼が声をかけた位置はそう遠いところからではなく、身体能力的にもそう格差がある訳でもない。
彼がとっさにパッと手を伸ばすと、赤面して逃げようとするガーベラの右手は彼の手の中に収まった。
「お姉さんは置いてきたから……ね?」
「う、うん……」
手を掴まれて振り返った彼女はまたも涙目だったが、蜜柑はいないと彼が言い聞かせると、堪えるようにきゅっと口を結んで首を縦に振る。
まださっきの羞恥心は残っているらしいが、ひとまずは話す気になったようだ。彼女は気持ちを落ち着かせようと、何度も深呼吸をしていた。
「何見てたの?」
「えっと、このお洋服……」
彼女が落ち着いてきた頃を見計らってウィステリアが問いかけると、彼女は少しためらいながらもショーウィンドウの中にある服の1つを指差した。
その指先にあったのは、今彼女が着ている白く清楚なお嬢様風の服装とは、真逆のコーディネートをされたマネキンだ。
まず、全体的に黒く色が対極的であり、上着は現在のふわりとした感じから打って変わってジャケット。
スカートも濃紺のデニムスカートで、より生地が厚くなったが丈は短ややくなっている。とはいえ、ウィステリアと同じように黒タイツを穿いているため、露出自体はむしろ減っていた。
黒、濃紺と暗めな色ばかりで、前が開いているジャケットから覗くのもグレー、頭の帽子もグレーと、闇に紛れるようでひたすらにクールな印象だ。
数回瞬きを繰り返したウィステリアは、今まで見てきた格好とはかけ離れすぎていたため、やや言葉に詰まりながら感想を述べる。
「かっこいい服、だね? ……ほしいの?」
「えっと……あの、このお洋服なら、貴族のお嬢様って感じではなくなるんじゃないかなって。別に、あなたからの扱いが不満な訳じゃなくてね……? ただ、対等であることの証明というか……あなたはどんな服装でもあの扱いをしてくれるし、形から入るのもいいんじゃないかなーって思うの」
「うん、良いと思う。ぼくはどんなガーベラも好きだよ」
少し不安そうに予防線を張ってから理由を告げるガーベラに、ウィステリアは迷いなく頷く。
もちろん、彼女がさっきのやり取りを気に病んだという可能性はある。だが、他に何かあった訳でもなく、魔人に成った時点で彼女が持った決意なのだから、否定することはない。
今までと真逆でも全肯定されたガーベラは、またしても顔を真っ赤にしてぷるぷると震え始めた。
「〜っ!! そ、そうですよねっ!! わかってますよっ!?
サイズにもよりますけど、ちょっと買ってきますっ!!」
「あ、待って待って。ぼくが買うよ」
「えぇっ、私が変えたいものなのにっ!?」
照れている間に店の入り口に向かい始めるウィステリアに、ガーベラは目を見開いて止めにはいる。
自分の決意で、自分の選択。さらには、彼が見ていた輝きを変えるという面もあり、少し気が引けるようだ。
しかし、ウィステリアとしては彼女の見た目ではなく、中身に救われていた。彼女が彼女であるということが重要であり、その選択を否定しない。
むしろ、自分に気を遣わせることや好意の押し付けがないのかが重要であるため、逆に手を掴まれた彼は、困ったように頬をかいている。
「そうだけど……応援の気持ちとして、受け取って欲しいな。
大好きな君へのプレゼント」
「わ、わかりましたっ……!!」
一瞬、いつも通りに戻って止めていた彼女だったが、結局は大好きという言葉に照れてしまう。
そのまま手を引かれて、試着室へと促されていった。
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「ちなみに、あなたはかっこいい服にしないの?
気に入ったものがあれば買うけれど……」
彼らが店に入ってから、およそ十数分後。
ウィステリアに買ってもらって服装を一新したガーベラは、自分だけスタイルを変えたからか、少し気に病んだ様子で問いかけていた。
だが、手を繋いで隣を歩く彼は、特に気にしていない。
変わらず優しい笑顔を浮かべながら、愛情に満ちた言葉を紡ぐ。
「ぼくはこのままでいいよ。
どんな服装でも、かっこよくはなれるから」
「も、もちろん、あなたはいつも可愛いしかっこいいわ。
けれど、女の子っぽい格好は恥ずかしいんじゃなかったの?
私も変えてしまったし、男の子らしい格好でも……」
迷いなく断言するウィステリアを肯定しながらも、ガーベラは重ねて控えめに問う。女の子の格好でもかっこよくなれるからといって、恥ずかしさや男の子の服を着たいという気持ちはあるのではないか。
女々しいからといじめられていたとはいえ、自分が無理やりそう在り続けてさせているのではないか……と。
しかし、今のウィステリアの女の子っぽい格好は、ガーベラが与えたものだ。彼にそれを変える意思があるはずもなく、幸せそうににっこりと微笑む。
「これは、君がぼくのために考えてくれた在り方だからね。
まったく恥ずかしくないとは言わないけど、嫌ではないし、大切にするよ。着られる限りはね」
「そ、そうなのね……」
彼の答えを聞いたガーベラは、申し訳無さそうであり、同時に嬉しそうでもあるという複雑な表情を浮かべる。
彼女は普段から彼を可愛くしてみせると公言しているので、やはり喜びを隠しきれないようだった。
だが、女の子っぽい格好=可愛い子ということでもない。
格好は受け入れていて、可愛くあることも仕方ないものとしているが、前提として彼は並の女子より可愛いのだ。
だからこそ、ガーベラはその格好を提案したのであり、そう在る必要がなければ思いを踏みにじることにはならない。
着られる限りと言っていた通り、もしも男らしくなれれば、きっと彼がそれを続けることもないだろう。
嬉しそうな彼女を見上げるウィステリアは、さっきまでとは打って変わって悔しそうに呟く。
「でも、背はもう少し伸びてほしいな……
このままだと、なんか姉妹みたいだから」
「〜っ!! とっても可愛いわっ、リア!!
お姉ちゃんが守ってあげるからねっ!! その可愛さを!!」
「ガ、ガーベラしか伸びていないからって、まだぼくの成長が止まったって訳じゃないからっ! 伸びるからっ!!」
ウィステリアが珍しく神秘に成る前のような弱々しさを見せると、ガーベラはあまりの可愛さに悶え始める。
すっかり照れもなくなり、強気に彼を抱きしめて本能のままに愛でていた。
服装こそクールな雰囲気になっているが、中身は相変わらずだ。ウィステリアが必死になって主張しても、彼女の勢いは止まらない。完全に姉妹ノリで、近くの屋台に向かって手を引いていく。
「うんうんっ! なら、たくさん食べないとよねっ!
あそこにあるドーナツ屋さん、美味しそうよ?」
「うぅ、横に大きくなったって意味ないよ……」
「大丈夫、私達は神秘だから!」
「変化しにくいだけだよ……だから伸びない、辛い……」
「私は少し伸びたから、ただあなたが可愛いだけねっ!」
「やめてっ!? ぼくのライフはもう0だよっ!?」
「自信を持つのよ、リア! あなたは最高に可愛いっ!!」
「あぅ、蜜柑お姉さんも連れてくればよかったよ……」
弱気になったウィステリアに触発され、勝ち気な性格を取り戻したガーベラは、もう何を言われても揺るがない。
太ることはないのだ……と輝かしい笑顔で、されるがままの彼をドーナツ屋へと連行していった。
やたら細かな服装描写……
いいなと思ったイラストをトレース(?)してみたので、こうなりました。多分、FAの服装の方がイメージしやすいと思うので、普通にあっちで考えて大丈夫です?
(服には基本的に興味なくてわからない)




