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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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27-君の世界を守るために

「落ちるっ……!! その上……!!」


神秘をかき消され、普通の人間として地上へと落下していくアオイとユウリ。そんな彼女達に迫るのは、ずば抜けた身体能力によってユウリの塵を足場とするベルゼブュートだ。


彼も神秘をかき消され、普通の人間に戻っているはずなのだが、破壊され組み換えられた剣どころか、本当に塵までもを足場にして上空から2人に追撃していく。


「ッ……!? 彼、一体どういう身体能力をしているのです……!?

神秘なしで防ぐ術はないのですが……!!」

「俺ハ手足がナイ。君は扇子シカない。ナらバ……」


アオイ達は落下しながらも、唐突により上空へ昇っていった彼を見逃していない。どこを足場にしているのかははっきりと見えていないが、明らかに攻撃意思があることだけは感じ取り、焦っていた。


ディアボロスは彼女達から少し離れた位置で同じように落下しているというのに、えらい違いだ。


ユウリの四肢も量子の補助が消えているので、使えるのは風を起こせないのなら、ただの扇でしかないアオイの扇子のみである。


なおも無表情、無感情であるユウリは、わずかに残っている前腕でどうにかアオイの元まで辿り着くと、彼女を庇うようにベルゼブュートとの間に立ち塞がった。


「ちょ、ユウリさん何をしているのですか!?」

「守って、イル」

「馬鹿なことを言わないで!! あなたには手足がないじゃないですか、私の方が耐えられます!! 退いてください!?」

「俺ニ、記憶はナイ。ダガ、常識とシテ女の子は守ルものナノでショウ? 君が強くテモ、俺はソノためニここヘ来タ」


まだ手足が無事なアオイは、堪らず彼を押し退けようとするが、四肢がないはずの彼はなぜか微動だにしない。

空中でまともに動けないはずなのに、迫るクラウンメイクに対してアオイの前で両手を広げ続けていた。


実質空を走っているベルゼブュートは、そんな彼を見て愉快そうにその白いメイクで覆われた顔を引き伸ばしていく。


「ハッハハハ、いいじゃないか!! 俺に負けず劣らず、君も騎士ということだね!! 敬意を表して、全力で斬ろう!!」

「……アナタは、ピエロでショウ?」

「そーとも言う……か〜もねぇ?」


アオイはユウリの背後に守られたままで、彼らの話は進んでいく。元貴族である彼は騎士と評され、ピエロは見た目にそぐわない生真面目さで剣を振るう。


人の体でも神秘並の身体能力に、空を走るスピードも加わり、剣は岩くらいなら簡単に両断できそうな威力だ。

ただ壁になるしかできないユウリは、それをもろに体に受け、アオイを庇いながら大地に叩きつけられていった。




~~~~~~~~~~




アオイ達がベルゼブュートに斬られていた頃。

やはり同じように神秘をかき消されていたウィステリア達も、為す術もなく地上へと落下していた。


ただ、ピエロに斬られたユウリ達と違うのは、セファールが上昇気流に押し上げられており、追撃を仕掛けてきていないということだ。


リデーレも撃破済みであるため、彼らに外敵の危険はない。

翼を失って、制御できなくなった炎や氷に包まれながらも、抱き合う彼らは目下の問題である落下について相談をしていた。


「ウィ、ウィル!? これどうなっているの!?

いきなり氷を操れなくなったし、翼も消えたのだけど!?」

「落ち着いて、ガーベラ。これは君が来る前にもあったんだけど、どうやら敵は神秘をかき消せるらしいんだ。それも、プセウドスみたいな偽装ではなく、本当に消えてる」

「じゃあ、本当にただの人間になっちゃったの!?

ヤバいじゃない、落下死しちゃうわよ!?」


今起きていることを教えられたガーベラは、より現状のヤバさを実感して騒ぎ始める。丈夫な神秘であればなんともない高度からの着地も、ただの人間であれば死は免れないことなので無理もない。


しかし、ガーベラを抱きかかえているウィステリアは、一度体験しているからかそう焦ってはいないようだった。

彼女を落ち着かせるようにギュッと抱きしめると、優しく頭を撫でながら言葉を紡ぐ。


「ううん、大丈夫。これはそう長く続かないから。

神秘が戻ったのを見逃さず、地面と激突する前に飛ぶんだ」

「わ、わかったわ……!!」


冷静に対応を伝えるウィステリアに、焦っていたガーベラもようやく落ち着きを取り戻していく。

軽く震えながらも迫る地面を見て、神秘が戻るのを今か今かと待ち始める。だが……


「うっふふふ! どうやらもう慣れてしまったみたいね?

だけど、まだ甘いわ。長くあの方と生きている(わたくし)達には、この力の理解度では決して敵わない」


彼らが着地や再飛翔に意識を取られ、敵への警戒を緩めてしまっていると、上空から美しい声が響き渡ってきた。

慌てて空を見上げてみれば、そこにいたのはもちろん絶世の美女――セファールだ。


上昇気流によって吹き飛ばされていたはずの彼女は、彼らがまだ神秘をかき消されている中、早くも漆黒の翼を生やして追撃を仕掛けてくる。


大きくスリットの入ったドレスを蠱惑的にはためかせながら、自分にだけ翼があるというアドバンテージをフルに活用しての速攻だ。


普通に戦ったとしても厄介なのに、神秘がない状態で彼女と戦うなど正気の沙汰ではない。

波動の前と変わらない様子の彼女に気がついたウィステリアは、驚愕に目を見開く。


「な、なんで翼が生えているの……!?

さっきの技は、君達にだって影響を与えるはずだよね……!?」

「はっきりと見えていないのかしら? あれはクリフォト様から放たれる技。あの方より上の空には、影響がないのよ」

「っ……!! つまり、ぼく達が吹き飛ばしたことで……」

(わたくし)はいち早く影響外にいたの♡ 周囲にはもう波動はないけれど、あなた達が戻るにはラグがあるでしょう?」


同じように波動を受けたはずのセファールに、なぜこんなにも速く神秘が戻っているのか。

その答えは単純に外に飛ばされたからであり、意図せず原因となっていたウィステリア達は、思わず顔をしかめていた。


逆に、そんな彼らとは対象的で、セファールが浮かべているのは残酷ながらも美しい笑顔だ。この好機を逃さないよう、今までの貯蓄を元に、その細腕ではありえない程のパワーでウィステリア達に殴りかかっていく。


"すべてを取り込む欲(アドラメレク)"


しかし、どれだけ畏ろしい神秘が迫ってきても、当然彼らは何一つ抵抗することができない。

彼らはまだ神秘をかき消されたままで、ただの人間なのだ。


翼もなく、炎や氷などの神秘も人並み以上に扱えず、空から落ちていくだけの彼らに抵抗手段などなかった。

ウィステリアが唯一できることと言えば、やはりガーベラを庇うために彼女の体を包み込むくらいのものである。


「あなた達の命、頂きますわ♡」

「くっあぁぁッ……!!」

「リアっ……!?」


何十、何百、何千もの生命エネルギーを迸らせる黒翼の美女は、ガーベラを庇うウィステリアの背中に渾身の一撃を叩きつける。


背中を抉られ、骨を叩き折られ、彼らは落雷のようにあっという間に地上へと墜落した。




~~~~~~~~~~




眷属達と同じように、クリフォトの波動を受けた蜜柑もまた、全身から神秘をかき消されてすべての力を失う。


しかも、彼女の場合はその体自体が神秘で形作られたもの――いわゆる思念体やエーテル体のようなものだ。


本体から遠く、意識だけが放り出されるということは流石にないが、彼女は仲間達のようにもがくことすらもできていなかった。


彼は無力な人間に戻るだけと言っていたが、とんでもない。

元は引きこもり気味ながらも健康な学生だった彼女は、現在は腕を持ち上げることもままならない状態で落ちていく。


(うっ……!! 手足が、痺れる……!! 口を開くのも億劫……!!

目は動かせるけど、これ地面と激突したらどうなるの……!?

人になってるなら……って、あれは……)


丸太のように全身を硬直させた蜜柑は、辛うじて動かせる目だけをくるくる回しながら、落下を続ける。

すると、少ししてからその視界に入ってきたのは、ペオルを運んで空を飛ぶリデーレの姿。


既に波動の効力は消えているのか、敵の魔人たちには神秘が戻っていると思われるような光景だ。


それを見た蜜柑は、すぐさま手足を動かす。

痺れたように硬直していた手足は復活し、滑らかに動いていた。


「治った! みんなは……!?」


神秘が戻ってきたことを理解した彼女は、素早く純白の翼を広げて落下を止める。キョロキョロと空高くから眼下を見回してみれば、飛び込んでくるのはそれぞれベルゼブュートとセファールの攻撃で、血を吹き出している仲間達の姿だ。


無抵抗に地上に叩きつけられていく彼女達を見ると、蜜柑はみんなを受け取るべく、顔色を変えて飛んでいく。


「みんなっ……!!」


アオイはユウリが、ガーベラはウィステリアが庇うように抱きかかえているため、彼女が受け止めるのは2回だ。

守られながらも、大切な人が重傷を負って取り乱す彼女達をなだめつつ、蜜柑は地上に降り立った。


『ガーベラ、2人の回復はできる?

多分、攻撃食らった時には神秘に戻ってたはずだけど』

「え、えぇ。でも、この人……ユウリさんの手足は生やせないわよ? 傷口を整えるくらいしか無理」

『じゃあお願いね。あいつらも、みんな復活してるから……』

「……!!」


ガーベラに回復を頼んだ彼女が見上げる先には、クリフォトとその眷属達が立ち並ぶ。

それも、リデーレが運んでいったペオルを含め、倒れた者や負傷した者は全員、セファールによって完全回復している。


つまりは、ウィステリアとユウリが倒れている現在、蜜柑の側にいるのは、ガーベラとアオイの計3人のみだ。

クリフォト側にはセファールを含めた7人が全快の状態でいるので、彼女達とはまたも2倍以上の人数差があった。


これは蜜柑達が駆けつける前と同じ状況ではあったが、蜜柑達が駆けつけてもなおこの状況ということでもある。

たとえウィステリア達が復活したとしても、きっと同じことを繰り返すだけだろう。


だが、蜜柑が来る前とは違う部分……いや、それどころか神秘がかき消される前とも違う部分があった。

それは、クリフォト達が蜜柑達セフィラではなく、その上空を見ていたことだ。


いち早く異変に気がついたアオイが、バッと背後を振り返ると……


「よう。久しぶりだなぁ、クリフォト。

随分とまぁヤンチャしてんじゃねぇか」


口元しか見えないくらいに深くフードを被った、ボロボロの黒ローブを着た怪しい男――蜜柑達にクリフォトの伐採を依頼した男が、何もない空に浮かんでいた。




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