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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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25-数多の世界

ウィステリアとガーベラがセファールへ速攻を始め、ユウリがアオイの援護を受けてベルゼブュートと激突していた頃。


彼らの遥か上空では、いくつもの願いをその身に宿した者同士が容赦なく殺意をぶつけ合っていた。


『っ……!! 能力が多いなぁ……!!』


金色の炎を身に纏っていた蜜柑は、クリフォトが難なくそれらの攻撃を防いでいることに思わず顔をしかめる。

彼女が放ったのは金色の炎に加えて、輝かしい氷、自由に舞う風、豪快な岩石だ。


クリフォトはそれらを、直撃したものを吸収して、当たる前に解いて、歪な軌道にズラし、その場にとどまらせることでいとも容易く防いでいた。


もちろん、彼女自身も炎に氷、風に岩と四属性を網羅しているので、能力が多く万能であると言えるだろう。

しかし、だからといって相手の能力数が気にならないなんてことはない。彼女がぼやくのも無理はなかった。


『それはお互い様ですよ蜜柑さん。ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル。四大天使だなんて』

『でもあなたは悪魔でしょ? アドラメレク、ベルゼブブ、ベルフェゴール、ナヘマー。どれもへんてこで厄介すぎ』


しれっと言い放った彼に、軽くあしらわれている蜜柑はどの口が言うといった風に言葉を返す。


彼女の能力は、ウィステリア達が得たセフィラの力の還元。

炎、氷といった、自然そのもののように強力な祝福や呪いの力を操ることができる。


だが、彼女と同じように眷属の能力を還元しているであろうクリフォトは、使う力がやや不自然なものばかりだ。

単純な自然現象ではないので、どんな能力なのかの見極めも難しい。


まだそのアドバンテージがあるクリフォトは、余裕の笑みで彼女との違いについて話していた。


『ふふ、中身も木である私が概念的な力で、中身は元人間であるあなたが自然の力なのは、皮肉なものですね。

どちらが良いとは言いませんが、少し悲しくはあります』

『っ……!? 待って、なんであなたが知ってるの!?』


転生してきた元人間であることを指摘された蜜柑は、氷の剣を舞わせながらも目を剥く。


木という自然に宿る、不自然な概念。

人という文明に宿る、大自然の具現。


彼女達はたしかにそのような存在で、お互いがお互いの対極にあるようなものだろう。しかし、蜜柑はこの世界では木の精霊であり、中身などわかるはずもない。


なぜかいきなり本質を看破された彼女が驚くのは、至極当然のことだった。とはいえ、クリフォトが気にすることではないので、彼はそんな彼女を見て微笑みながら話を続ける。


『私とあなたは、数少ない同じ樹木の精霊ですからね。

違いくらいわかります。短期間でそれだけの力を得たのですし、最初から確固たる意識があったのでは?』

『っ……!! 中身も隙がない人だね……!!』

『木ですよ』

『わかってるわよっ!』


クリフォトに冷静にツッコまれて、蜜柑はやや声を荒げる。

ここでいう人とは、人間というよりは人格や精神性といった部分のこと。


能力ははっきりとしておらず理解が難しく、精神性も理知的な面が強いとなれば、そう言いたくなるのも当然だった。


『しかも、その隣の子は何? 何も攻撃当たらないじゃん』


クリフォトの厄介さを実感した彼女は、続いてその近くを飛んでいる、薄手のアウターを羽織った美少年――フュイールに話題を変える。


蜜柑とクリフォトの戦いは、一方が防ぐばかりであるため話ができているが、やっていることは壮絶だ。


ウィステリアの太陽程ではなくとも、空は焼かれて捻れており、ガーベラの氷星程ではなくとも、空は凍てつき停滞している。


そもそも人が辿り着けない高度ではあるが、仮に人がいたのならば瞬時に全身が壊死し、灰となるだろう。

まさに地獄のような環境だった。


しかも、風に包み込まれていることで一度入れば抜け出せず、地上からは岩柱や樹木も付き上がってくる。

たとえ環境に耐えられたとしても、直接的な攻撃を受けてはただでは済まない。


それなのに、フュイールはこの環境をものともせずに、岩柱などは棒立ちで羽ばたく彼に当たると砕け散っていく。

クリフォトと同じく攻撃こそしてこないが、あまりにも鉄壁過ぎた。しかし……


「え、おれ? おれのことは気にしないでいいよ。

おれはおばさんに無理やり連れて来られただけだから」

『これだけの攻撃で無傷の人を、無視なんかできるかっ!!』


彼の反応は、感情のないディアボロス並みに淡白なもの。

戦場にいるとは思えない程に気怠げで、内容はやけに他人事で状況から見ると無茶苦茶なものだった。


それこそ、彼の言葉を聞いた蜜柑が思わず全力でツッコんでしまう程である。


『ただ、硬いってだけなら……』


フュイールにツッコミを入れた蜜柑は、クリフォト達が攻撃してこないのをいいことに、突然パッと距離を詰め始める。


標的はやたらと鉄壁なフュイール。

火氷風岩。大自然を体現したかのような4つの属性の神秘とは違った、やや概念よりの神秘を行使していく。


"インストール・カマエル"


フュイールに急接近した蜜柑の拳に宿るのは、ユウリが持つ呪い――"破壊された平穏(カマエル)"の力だ。

周囲の空気をビキビキとひび割れさせているその拳は、棒立ちで飛び続ける少年の体に吸い込まれるように炸裂した。


『ッ……!?』


カマエルの破壊は、彼女が殴ったフュイールのみぞおち辺りを中心にして、周囲をひび割れさせていく。

空気は既にボロボロで、明らかに破壊されている。


だが、肝心のフュイール本人には一切効いていないようだ。

彼は変わらず棒立ちのまま、不貞腐れたようにそっぽを向いていた。


「……はぁ。気にすんなって言ってんのに。

おれは"光への拒絶(ルキフグス)"。ただ単に何者の影響も受けない、すべてを拒絶しただけの存在だ。ほっとけ」

『影響を、受けない……? そんなの、どうやって倒せば……』

「いや、能力は自分以外から影響を受けねぇだけだぞ?

攻撃もせずに居続けるだけなんだから、ほっとけよ」


新しく得たカマエルの力すら無効化された蜜柑は、彼の予想以上の鉄壁さに呆然とした様子で呟く。

その言葉を聞いたフュイールは、悪さはしていないのになぜか敵意を向けられ続け、ただただ困惑していた。


とはいえ、蜜柑からしてみればそれも仕方がないことだろう。アオイが追っていた事件の結末がこれなのだ。

敵は明らかに邪悪で、家族を傷つけられているのに、それと同じ陣営に立っている不安要素を放置できるはずがない。


しかし、だからといって彼を攻略する方法はなく、深入りしすぎた彼女は、クリフォトを警戒しながら一度距離を取る。

それを黙って見送っているクリフォトは、彼女が移動をやめてから余裕の笑みを浮かべた。


『……ふむ、一応これで全部見れましたか。

眷属を見ればどんな力を還元したのかはわかりますが、出力は本人によりますからね。見られてよかった』

『っ……!! それで? 私の力はどうだったの?』


手を抜いていたとも受け取れる彼の発言に、蜜柑は焦燥感を滲ませて詰問する。フュイールに手を出せない彼女は、それを還元しているであろうクリフォトにも手を出せない。


その上、自分の力まで見極められたとなれば、焦らない訳がなかった。


『そこそこ強いんじゃないですか? 眷属程の出力はありませんけど、それは私も同じですからね。ただ……』

『ただ?』

『質も量も、私の方が上です』

『っ……!!』


蜜柑が続きを促すと、彼はいくつもの世界を内包したかのような瞳を禍々しく輝かせて断言する。

そして、星1つない昏い夜空のような存在感を放つ彼は、ついに防戦をやめて攻撃に転じ始めた。


『そろそろ、邪魔者には消えていただきましょうか』


漆黒の翼と共に両手を広げた彼は、最初に乱入した時と同じように神秘を行使する。


範囲は戦場となっている場所すべてだ。

誰よりも高みから、黒いカーテンのように神秘の波動が幕を下ろしていく。


"インストール・サタン"


黒い波動は、天から地へと降り注ぐ。

彼の近くにいたことで、真っ先にそれを受けた蜜柑からは、身に纏っていた炎や氷が失われ、背中の翼も光の粒となって消えていく。


炎や氷、翼は神秘によって生み出されたものだ。

つまりは、すべてではないのだろうが、この場からはほとんどの神秘が消失していた。


『っ……!? 神秘が、私の存在が……!!』

『その強度を消せるほど強くはありません。

ただ、無力な人間に戻るだけですよ。……よかったですね?』

『……!!』


力が抜けた状態で落下していく蜜柑は、本体の木から抜け出しているという性質上、すぐに自分の身に何が起こったのかを察する。


だが、実際には彼女の存在を……神秘であるからこそ人の形を保っている彼女を消す程の力はなかったようだ。

同じく落下していくフュイールと共に、彼女は普通の人間として遥か上空から何もできずにただ落ちていった。


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