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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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24-壊風の漂白

「蜜柑さん、ベラ……」


ついにランジャへとやってきた蜜柑とガーベラを見たアオイは、量子となっているユウリの腕の中で守られながら呆然と呟く。


純白の翼を羽ばたかせてクリフォトと対峙している彼女達は、故郷に残っていたはずのアオイの家族。

ウィステリアと並んで、誰よりも信頼できて頼りにできる、最高の友人達だ。


まだ人数では負けているとはいえ、彼女が気を抜いてしまうのも無理はないだろう。


一度後退していたベルゼブュートが再び襲いかかってくると、ユウリは脱力状態の彼女を抱きかかえて回避することになる。


上空で蜜柑と話しているガーベラも、ちゃんとアオイのことを気にかけているらしく、ベルゼブュートやディアボロスへと氷の礫が飛んでいた。


「っ……!! すみません、気を抜いていました」


ガーベラの氷はアオイ達を狙っておらず、流れ弾が来たとしても彼女達の周囲はユウリの破壊粒子が舞っている。


ベルゼブュートの剣もガーベラの氷も、何一つ危害を加えられない安全な腕の中で、我に返った彼女は慌てて自分を包み込んでいるユウリの顔を見上げて謝った。


もちろん、彼にはまともな人格が残っていないので、そんなことを気にすることはない。無表情で、無感情に、無機質な声で淡々と言葉を紡いでいく。


「問題は、ナイ。オレハ、わカラないデスが……

アレは、君ノ大切ナ人なのデショウ?」

「……はい。あの子達が来たのなら、もう不甲斐ない姿を見せる訳にもいきません。私もなりふり構わず戦います。

倒しましょう、あの2人を。私達で」

「了解シタ。オレハ、記憶の欠片ノ意志ニ従イマしょウ。

破壊の塵ハ、アなタとイウ風に運バれ、敵を包ム」


"破壊の蝗"


アオイの決意を聞いたユウリは、ひび割れた瞳を敵に向ける。瞬間、周囲に撒き散らされるのは、彼の手足や大地を破壊することで生まれた大量の破壊粒子だ。


さっきまでもチラホラ舞っていた塵だが、彼女を守るために集まっていたものがすべて拡散し、ベルゼブュート達の周囲を瞬く間に囲い込んでしまう。


その量子の腕に抱き抱えられていたアオイも、既に自分の翼で羽ばたいているので余計な消費もない。

手足を補える最低限の量子だけを周囲に残し、あとは全力で敵を破壊しに向かっていた。


"アトマスフィア・コントロール"


それと同時に、アオイも扇子を優雅に振るう。

この場はユウリの破壊粒子に満ちているが、その粒子が舞うのは空気である。


彼自身も操っている破壊の量子を、より的確に制御できるように、逃げ道を塞げるようにその補助をしていた。

2人分の制御を受けた塵は、敵の動きまでも読んで確実に追い詰めていく。


「風は運びます、あなたの塵を。これは、誰に阻まれることもなく果たされる、あなたの復讐」

「破壊ハ風に順応シヨウ。コレは、自由ナル君の旅路」


破壊の粒子は風に乗り、風の流れは破壊を運ぶ。

その瞳に映るのは、ベルゼブュートとディアボロスを閉じ込める嵐の柱。


少し離れた先に太陽と氷星が浮かぶ中、この場において世界の中心は、確実にアオイとユウリだった。


「其は天と地を繋ぎ、幾多の存在を殲滅する嵐の楔」


"撃滅の神嵐"


誰も逃さないように天から地までを繋ぎ、破壊の嵐は内部に閉じ込めた敵に対して荒れ狂う。

その内部では地上の大地がみるみる崩壊していき、上空では空気すら破壊されていた。だが……


"サイレンスオペレーション"


嵐の柱が天と地を繋いだほんの数秒後、それは唐突に揺らぎ始める。もちろんアオイ達は、まったく手を抜いていない。

確実に内部が破壊され尽くされるように、ただ粒子が舞うのではなく風で吹き荒れさせていた。


だというのに、嵐は閉じ込めることを忘れたかのようにみるみる解けていく。もちろんかき消された訳ではないが、使えることと操れることが結びついていないかのように、ただ嵐としての形を失っている。


そして、嵐の中からは飛び出してきたのは、風を斬るように剣を振るうピエロ、ベルゼブュートだ。

彼はディアボロスを守るように風を打ち払いながら、ごちゃごちゃとしたやかましい口調で愚痴っていた。


「あーもう、危ないなぁ! 普通死んじょーよ、こんなん!

ほんま、無茶苦茶や。もう、うんちうんち!!」

「汚い……というのが普通の反応か?」


やたらとハイテンションで、頭の悪そうな文句を言い始めるベルゼブュートに、ディアボロスは無感情に問いかける。

性質的に本当に興味がないと思われるので、おそらくは彼が人間観察の結果得た普通をなぞる行動だろう。


しかし、その問いを受けたベルゼブュートは、彼に感情が無くてもお構い無しだ。彼を笑わせたいとでも思っているのか、変顔をしながら口を開く。


「普通とか知らんばい。下手したら死んどったんだで、文句の1つくらい言いたくなるってもんだらーわ。

そやさかいな、お前も一緒に言おうや。ほれ、うんちー!」

「……いつも通り、楽しそうで何よりだ」


変顔をし、ナイフでジャグリングをし、車輪のように回転までしている道化のベルゼブュートだったが、ディアボロスはもちろん無反応だ。


彼の同調圧力を無感情にスルーし、風や破壊が散らばっているアオイ達に向き直る。


「友人を殺そうとするとは、酷い子達だ。

別に何とも思わないし、こちらも殺すつもりなのだが」

「……あなたの方が酷いですよ。毎回街の平和を乱して、一体あなた方は何がしたいんですか?」


扇子を振るうも、上手く風を起こせなかったアオイは、少し黙り込んでから時間を稼ぐために会話に応じる。


ディアボロスが彼女達と会話を始めたからか、さっきまではすぐに斬りかかっていたベルゼブュートは動かない。

真面目な話をしているというのに、その隣で手のひらから花束や小鳥を取り出したりと、曲芸を披露していた。


アオイとディアボロスは会話中、ユウリにはまともな人格が残っていないので、もちろん全員無反応だ。


だが、彼は誰一人反応してくれなくても曲芸を披露し続け、誰に対してかドヤ顔を見せている。

そんなカオスな空間で、彼女達の会話は続く。


「……さてね。ワタシは言われたことをやるのみだ。しかし、目的か。あの人は好きに暴れているだけだと思うが」

「なんですか、それ」

「荒らすのをやめない限り、君達は邪魔をするだろう?

だから殺すのだよ。意味はない、目的もない。

ただ、クリフォトという邪悪が生きるためには邪魔なのだ」

「……やはり酷いですね、あなたは」


相変わらず主体性のない彼の答えを聞くと、アオイはバレないようにそっとため息をつく。

嵐が揺らいだ辺りから、ずっと手のひらの中で風を操ろうとしていた彼女だが、まだ思うようにはいかないようだ。


後ろで翼をひろげているユウリも、同じように手足を補っていた量子のほとんどが落下し、彼女よりも目に見えて制御を失っている。


この状態で戦闘が再開されれば、彼女達はただ逃げることしかできないだろう。そのため彼女は、まだ戦闘が再開されないように時間稼ぎをする必要があった。


しかし、彼女が次の話題を探している間に、タイムリミットはすぐ来てしまう。無表情のディアボロスは、無機質な声でセフィラへの要求を口にする。


「ところで、君達は今能力をうまく使えないと推察するが、まだ戦うつもりがあるか? 大人しく死んでほしいのだが」

「はぁ……死が選択肢の時点で、抵抗をやめるはずないです」

「そうか」


要求を拒否されたディアボロスだったが、もちろん彼は気にしない。まともな人格がない、何も感じることのできない彼なので、ポツリと返事をして会話は終了だ。


だが、やはり主体性のない彼から戦闘を始めることはなく、この場にはなぜか沈黙が満ちる。

正確に言うと、彼らの隣では相変わらずベルゼブュートが芸を披露しているのだが……


「おんやぁ? 話は終わったのかい? どーなった?」

「あぁ、戦うようだ」


しばらく1人でドヤ顔をしていたバカっぽいピエロは、やっと周りが静かになったことに気が付き、確認する。

自分から動かないディアボロスも、聞かれたことには答えるので、ついに戦闘開始のカウントダウンはスタートだ。


アオイが身構える中、肩や腕に止まっていた小鳥を羽ばたかせたベルゼブュートは、その鳥たちの羽根の一部からナイフを取り出す。


ヘラヘラと笑ってはいるが、彼は確実にアオイ達を殺そうと左右で色の違う派手な瞳を見開いていた。


「ほー。なら、今度は能力を操る思考を止める以上に思考を遅くしよう。さっきはディアボロスが死にかけたからね……

ちょーっと痛い目見てもらわないかん」


どうやら、アオイ達が未だにまともに能力を使えないのは、彼の能力によるところらしい。能力を使おうと考える速度を遅く……それこそ止まっているくらいまで遅くされたことで、制御できなくなっていたようだ。


彼の不穏な言葉を聞いたユウリは、少しずつ自身の周囲にひび割れを起こしながら口を開く。


「なるホド、剣で斬っタとイウ訳でハナカッたのデスネ。

なラバ、オレがソノ影響を破壊しまショウ。

端的に言うト……たかガ思考の鈍化ナド、無駄ダ」

「はっはっは、どれだけ対抗できるか見ものだね」


能力に関する思考を遅くされていたユウリだったが、多少は四肢を補うことができていたように、完全に止まっていた訳ではない。


破壊は少しずつ侵食していき、直に彼とアオイの周囲をひび割れで覆って、精神攻撃を破壊し始める。


わずかに真面目そうな表情になったベルゼブュート、無表情で彼に対抗するユウリ。彼らは互いに大切な仲間を守るために、目の前の神秘と激突した。



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