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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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22-生命と死の大樹

ランジャ付近で行われる殺し合いの現場に到着した蜜柑は、眼下に広がる悲惨な光景に、思わず顔をしかめた。


真っ先に目に飛び込んでくるのは、もちろんその環境だ。

地面はユウリによって粉々に破壊され、巨大なクレーターを作っており、中空には昼間を生み出す太陽がある。


その中心には敵味方含めて多くの神秘がいるが、彼ら全員を包み込むように破壊的な粒子が舞っているし、炎を編み込んだような風が肌を焼く。


ここにあるのは、神秘だからこそ生存できるような、容易く生物の命を奪える極限環境だった。


そして、環境に慣れてしまえば、次に驚くべきはその環境で戦う神秘達の……特に味方側の状態の酷さだろう。


太陽の付近で切り飛ばされた右腕を掲げるウィステリアは、四肢の欠損どころか全身に大火傷を負い肌が爛れているし、腹部は異常にひび割れていた。


ややぼんやりとしているアオイを守るように量子を広げているユウリも、やはり四肢を欠損している。

おまけに彼の場合、斬られたなどではなく自壊だ。


今もポロポロと体がこぼれている彼は、もちろん綺麗に斬られたはずもなく、傷跡と呼べる部分はギザギザとしていた。

それも、既に瀕死であるにも関わらず、未だビキビキと全身を破壊し続けているという凄惨さである。


味方のほとんどが満身創痍であり、それでもなお自らを燃やし、破壊して戦わなければ勝てない相手。

辛そうに表情を歪める蜜柑達は、こんな状況になった元凶である敵に……空で静観している青年に目を向ける。


『あれが、クリフォト……?』


彼女達の視線の先にいるのは、白髪碧眼で黒い軍服のようなものを身に纏っている、漆黒の翼を広げた青年に、不貞腐れた表情をしている、薄手のアウターを羽織った美少年だ。


彼らは2人共に漆黒の翼を広げていて、蜜柑達の純白の翼とは真逆だと言える。また、当然彼らは神秘であり、普通の人でも神秘的だと思えるようなオーラを放っていた。


神秘であるガーベラの目には黒っぽく見え、その質から魔人であることも確定だ。しかし、この場にいる敵は多く、普通は誰がクリフォトなのかがわかるはずがない。


部下任せで、いかにも偉そうに戦いを見下ろしている青年達を見たガーベラは、戸惑ったように蜜柑を見つめる。


「えぇっ、ここにクリフォトがいるの……!?

でも、あそこで静観している人は2人いるわよね……?

どちらのことを言っているのかしら?」

『ほら、あの黒い軍服っぽい服の人』

「あれが……? どうしてわかったの?」

「え……? だって、オーラが違うじゃん」


ガーベラの問いを受けた蜜柑は、何を当たり前のことを……とでも言うように迷いなく断言した。

だが、青年の方がクリフォトだと教えられた彼女は、なおも不思議そうに首を傾げるだけである。


豪華な服ならば主という訳ではないし、大人だから主という訳でもない。もしかしたら、蜜柑のように服装にこだわらない相手かもしれないし、身分の高い騎士という可能性だってあるだろう。


間違った判断をしないように、ガーベラが慎重に見極めようとしているのも無理はないことだった。とはいえ、もちろん蜜柑だって当てずっぽうに言った訳ではない。


オーラが違うと言った通り、確証があるのだ。

神秘に成った存在は、普通の人の目には神秘的な雰囲気だけが映る。同じ神秘であれば、その色で性質が。


しかし、精霊である蜜柑……正確に言うと、クリフォトと同じく樹木の精霊である蜜柑の目に映っていたのは、それだけではない。


いくつもの世界を内包したかのような彼女の瞳には、同じようにいくつもの世界を内包したかのような光を湛えたオーラが見えている。


だからこそ、彼女はあの青年こそがクリフォトであると断言し、自分が戦うべき相手だと理解していたのだった。


『うーん……見えてる景色が違うのかな?

でも、断言できるよ。あれは私と同質の存在。

誰かに力を与えて、それを我が身に還元することができる、樹木の精霊。彼の中には、私と同じようにいくつもの願いがある。たくさんの色で溢れているよ……』

「なるほどね……確かに、それなら彼がクリフォトみたい。

私には変な雰囲気の人としかわからないのだけど……それならウィル達を助けるために、倒さないといけないわねっ!」


たとえ理由を聞いたとしても、ガーベラの目にその色は映らない。だが、彼女が蜜柑を疑う理由はなく、ウィステリアを助けない選択肢などなかった。


少し釈然としない表情をしていながらも、軽く頭を振って長い金髪を揺らし、思考を切り替える。

閉じていた瞼を開くと、その瞳には結晶のように儚くも眩い輝きが満ちていた。


『あの人からの依頼もあるしね……』

「名前はないって言う、とっても怪しい上に、幽霊みたいなボロボロのローブを着てた人ね。本当に蜜柑ちゃんの本体を守ってくれるのかしら? 強くはあったけれど」


彼女達はマンダリンを旅立つ直前、突然現れた黒ローブの男に、本体の護衛と引き換えにクリフォトの伐採を依頼されていた。


それに伴う不安要素も当然あり、戦闘に入ればテレパシーをする余裕などもないため、氷を操って戦闘中の敵を攻撃していたガーベラは、そわそわしながらも問いかける。


すると、わずかに意識を遠くに飛ばした蜜柑は、クリフォトから目を離さずにゆっくり口を開く。


『そうだね……少なくとも、今のところは何も起こっていないみたいだし、危害は加えられてないと思うよ。

私だけならすぐ戻れるし、今は彼らを倒そう』

「そうねっ! ……あの、とても申し訳ないのだけど。

えぇっと、クリフォト達を任せてもいいかしら……?」


この場にクリフォトがいるとして、誰がそうなのかの確認、マンダリンにある蜜柑の本体が安全なのかどうか。

それらの懸念事項を聞き終えたガーベラは、下で戦っているウィステリア達を見ながら申し訳無さそうに問いかける。


聞いておかないといけないからと話し相手になっていたが、彼女の意識はずっと他に向いていたようだ。

当然そのことに気がついていた蜜柑は、後顧の憂いなく救いに行けるよう、優しく微笑みながら言葉を紡ぐ。


『いいよ。ずっとそわそわしてたもんね』

「べ、別にそわそわしてなんかいないわっ!?

私はウィルを信じているもの! ……ほーんの少しだけ。

ほーんの少しだけ、援護だけはしていたけれど……」

『うん、わかってる。あんな姿を見たら、誰だって辛いもの……私は気にしなくていいから、みんなをよろしくね』

「えぇ、わかったわっ! すぐに倒してくるから、無茶して倒そうとせずに待っていてねっ!」


蜜柑が1人で戦うことを了承し、ウィステリア達のことを頼むと、彼女はキュッと唇を引き結んで戦場を見る。


そして、結晶のように儚くも眩い輝きが満ちた瞳をひときわ輝かせると、強い決意を秘めた顔で宣言し、純白の翼を広げて一直線にウィステリアの元へ向っていく。


『無茶、しないと駄目でしょ……この状況は。

結局ユウリくんは、危険人物なんかじゃなかった。

リアと一緒に、あんなにボロボロになってる。

ごめんね、ベラ。私は、今度こそ家族を愛したいんだ……!!』


凄まじいスピードで下降していくガーベラを見ていた蜜柑は、彼女が最後に放った言葉を否定し呟いた。

その表情は直前までの穏やかさを失い、何かを耐えるように苦しげだ。


ガーベラに背を向ける彼女は、いくつもの世界を内包したかのような瞳を昏く輝かせると、傍観し続けているクリフォトの元へと飛翔していく。


『こんばんは、クリフォト。早速だけど、あなたを殺してもいいかな? 私は今世の家族を守りたいんだ』


一瞬で彼のいる高度まで到達した彼女は、挨拶もそこそこにいきなり殺害予告をする。瞳に広がるのは数多の世界。

眷属となった家族の願いを受けて、神々しいオーラを放っていた。


しかし、彼女と対峙するクリフォトも同質の存在だ。

瞳にはいくつもの世界を内包し、禍々しいオーラを放ちながら落ち着き払って言葉を返す。


『こんばんは、"友を護る神秘の樹(セフィロト)"。

義母から話は聞いていますよ。今回はちゃんと挨拶ができて偉いですね。しかし、もちろん死ぬのは御免です。

どうしてもと言うのなら、力尽くでどうぞ』

『……義母、ね。あの人が伐採依頼をした理由がわかったよ。

そして、彼が信頼できる相手であることも。

いいよ、殺し合おう。私はあの子達を、愛したいから……!!』


クリフォトの言葉を受けた蜜柑は、彼の背後にいるであろう人物や、伐採を依頼されたことについて瞬時に理解する。

敵は話し合いでどうにかできる相手ではなく、本体は決して傷つけられない。


地上から遥か上空で激突した2本の大樹は、本気の殺意をぶつけ合った。



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