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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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82/205

21-至光は死地にて輝く

ウィステリアの太陽は夜を焼き、クリフォトの視界も明るく照らす。それをわずかに険しい表情で見つめる彼らは、戦闘体勢を整えながら話し合っていた。


『穏やかじゃないですね。

彼は、もう概念にまで成ったのでしょうか?』

「そうなのではないかしら? 樹木型の精霊は、眷属を作り力を与える。彼女が現れてからのスピードは異常ですけど、(わたくし)達も似たようなものでしたし」

『それなら、君が出てくれますか?』

「いいですけど……フュイール?」


クリフォトとウィステリアについて相談していたセファールは、彼の要請に渋々頷くと同じく近くでサボっていた少年に声をかける。


リデーレへの援護でウィステリアに大打撃を与えていた辺り、もう既に十分過ぎるくらいに貢献していたと思われるのだが、どうやら参戦するつもりらしい。


しかし、彼女の要請を受けた美少年――フュイールは、薄手のアウターをキュッと閉じながら首を横に振った。

顔をしかめているどころか距離も取っていて、心の底から嫌そうだ。


「なんでわざわざおれが出ねぇといけねーんだ。

おばさん1人で行ってなよ。おれは弱いぞ」

「はぁ……つれないですわねぇ。まぁ、それならあなたは警戒でもしていなさいな。多分、もうそろそろだから」


フュイールに断られた彼女は、絵になる仕草でため息を付いて見せながらも、特に気にしてはいないようだ。

形だけ残念がっているが、そのただただ美しい瞳は遠くの空を油断なく見通していた。


嫌なら戦いには参加しなくても良い、警戒は怠るな。

話の内容的に、おそらくはセファールの方が立場が上だと思われるが、彼女の言葉はかなり良心的だ。


だが、その頼みすらも彼は拒否してしまう。

地上でペオルを蹴っていた時と同じように、不貞腐れた表情でそっぽを向いていた。


「知るか。おれはおばさんに無理やり連れて来られただけで、あんたのことなんて信じてねーんだ」

「それで結構。だからこそこの(わたくし)が選んだのです。

むしろ、ほいほいついて来ていたら殺してますよ」

「……だから信用ならねぇんだ、おばさん」

(わたくし)にそんな目を向けられる人は貴重なのよ。

せいぜい大事になさい。では……天使を狩りに行きましょう。

あなたはベルゼブュートかクズのところにでも行きなさいよ、ディアボロス」


警戒心全開のフュイールの視線を受けた彼女は、妖艶に微笑みながら太陽に目を向ける。楽しげに彼と話していた時とは打って変わって、浮かんでいるのは冷徹な表情だ。


クリフォトの隣で無感情にぼんやりとしていたディアボロスに指示を出すと、彼女はこの場で一番厄介な相手の元へと飛び立った。


ただし、わざわざ命令までしたディアボロスは、それを無視して虚空を見つめ続けているが。


「おい、おっさん。あんたは行けって言われたよな?

行かねーの? 別にどっちでもいいけどさ」

「ワタシは、言われた通りに動くとも。ただ……」

「ただ?」

「ベルゼブュートと、クズ……どちらへ行けばいい?」

「はぁ……!?」


フュイールがどうでも良さそうに問うと、彼は太陽の向こうで殺し合っている二組の神秘を透明な瞳に映し、呟く。

無表情で、無感情に、無機質な声で、淡々と。


まだ彼と知り合って間もない様子のフュイールは、そんな彼を見てあ然としていた。


「……あんたが好きな方行けよ」

「好きな方……どちらでも、いいのだがな」

『それなら、君はどちらにも干渉すればいいと思いますよ。

破壊に効くかは知らないですけど、元々君は前に出る子ではないでしょう?』

「……そうしよう」


フュイールには突き放された彼だったが、主らしく静観していたクリフォトが助け舟を出すと、素直に従って羽ばたいていく。


標的は、アオイとユウリの両方……3人の中でも特に関わりのある友人全員だ。




~~~~~~~~~~




ウィステリアが生み出した日輪は、一度リデーレを苦しめた日照りと同じように彼女の身を焼く。

だが、日照りはあくまでも水責めのための熱気が主だったのに対して、今回は本格的に焼くための炎だ。


夜闇を晴らして昼を生み出すその太陽は、ただ熱を放出するだけではない。太陽からは次々に炎の槍や弓矢、執拗に敵を追う触手のようなものが生み出され、この場にいる敵すべてに襲いかかっていた。


出処が太陽だけあって、その炎の範囲は広大だ。

とはいえ、クリフォトの眷属達も相当な実力者揃いなので、そう簡単には捉えられていない。


ベルゼブュートは曲芸のように派手な動きで避けているし、ペオルは醜悪に肥大化した肉壁にて身を守っている。

唯一、彼の目の前にいるリデーレは逃げ惑っているが、それも確実に致命傷は避けていた。


「次は、何を取引するのかな?」

「っ……!! そうポンポン出せる訳、ないじゃない……っ!!

うちの商品にだって、限りがあるのよ……!!」


他の2人にも炎を差し向けながらも、まずは目の前で相対しているリデーレを優先していたウィステリアは、ポンポンポンと手軽に爆発する炎球を放ちながら問う。


記憶や能力、挙句の果てにはけがまでも取引材料にした彼女に対して、相当警戒しているらしい。

しかし、それに対する彼女の答えは、商品などない……だ。


結果的に彼の手足を切り裂き、頭蓋をかち割り、爛れた皮膚を与えた彼女ではあるが、それすら耐えてくる彼にはもう他に手はないようだった。


もちろん、彼女もただやられるばかりということでもない。

必死に炎の剣や弓矢、蛇のように口を開く炎などを避けつつ、素早く目を動かしていく。


「あなたはどうしても炎の価値で取引したいようね。

なら、また押し売ってあげるわ!

もちろん、今回もちゃんと価値あるものをね!」


"ディールウィズ・ザ・デビル"


左腕を焼かれたリデーレは、痛みを堪えながらも再び取引を持ちかける。攻撃をする権利などの取引はどうせ炎の価値で押し通されるため、商品はその後も意味のあるものだ。


すなわち、一度成立すればその瞬間に意味を成す商品。

生命を維持する上で必須という最高の価値を持ちながらも、炎に引火し爆発を起こすような危険物にもなり得る、大量の酸素を……


「ッ……!?」


金色の炎を身に纏って太陽の近くにいた彼は、取引が成立した瞬間に爆炎に飲み込まれる。いたるところで無理やり爆発させられ、制御を離れた爆炎は、他の戦いを巻き込みそうな程の規模で、見事に大爆発を引き起こしていた。


当然、リデーレは自分の引き起こした大爆発に巻き込まれたりはしない。権利の取引を無人の空に持ちかけ、完全な無傷で空を羽ばたいている。


「っ……!! 制御を離れた炎に私を傷つける権利はないわ。

誰も取引できないのなら、私は無傷!」

「でも、ぼくは炎の神秘だよ……!! 耐性は人一倍ある……!!」


しかし、大爆発に巻き込まれたウィステリアも、数秒後には爆炎を突き破って向かってくる。

リデーレの決死の取引は、彼にはほとんど意味をなさない。


無傷ということはないだろうが、最初から大火傷で肌が爛れている彼なので、できたのはせいぜい足止めだ。

焦げた皮膚を散らしながらも、スピードは変わらず彼女に炎で形作った腕を伸ばす。


「ふん、だから何よ? あなたは隙を見せた!

それがこの取引最上の成果なのよ!」


彼は一直線にリデーレへ迫り、彼女との戦いに決着をつけようとしていた。しかし、彼女は臆することなく声を張り上げ、彼の背後には目の前にいる敵以外の人影が現れる。


「……ッ!?」

「はぁい、可愛らしい子。あなたを頂きに来ましたわ」


慌てて振り返った彼の背後には、炎を無視して殴りかかってくる美女――セファールが。

彼女はいつの間に接近してきていたのか、その美しい細腕には似つかわしくないパワーで彼を吹き飛ばしていた。




~~~~~~~~~~




「アァ、アァアアア……仇は手強ク、オレハ満身創痍。

ナラば、さラニ壊すシか、ナイ……デスよネ」


セファールがリデーレ達の戦闘に乱入した少し前。

手足の全てを破戒して暴れまわるユウリは、醜悪な肉塊の中を蠢いて逃げるペオルを相手に、破片の涙を流していた。


血肉や大地を自由自在に拡散し、彼の潜む肉塊を握り潰して破壊しても、彼は毎回その場所にはいない。


何度も、何度も、何度も。壊して、壊して、壊し尽くした彼だったが、飛行しながらも肥大を続けるペオルの肉塊は果てしなく逃げ惑う。


本体には届かず、やがて彼の身には破壊の反動がやってきていた。さらには、触手のように伸びてくる肉塊に触れられれば体は醜悪に歪む。


最初から一貫して彼に余裕はなく、ひび割れた顔から溢れる破片を散らしながら、彼は地上へ落ちていく。


「キヒッ、キヒヒッ、キヒヒヒヒッ!! あなたの破壊で血肉が弾ける!! 赤黒い雨が地上を濡らす!! わざわざあの屋敷と同じ光景を見にいくとは、あなたマゾですかぁ!?」


自分から距離を取った彼を見ると、ペオルは醜悪な肉塊を鎌のように変形させながら気色悪くあざ笑う。


今は破壊されないとわかっているからか、その中心には彼自身が陣取り、ひき肉のようにぐちゃぐちゃと醜くくっついた手足で彼を追っていく。


だが、もはやペオルへの殺意以外には何も残っていない彼の中には、そのトラウマも存在しない。

彼は冷めた表情でペオルを見上げると、淡々と言葉を返しながら、地上へ量子の手足を使って着地した。


「オレノ中にハ、もウアナタを殺すコトしかアリまセンヨ。

こレはタダ、武器を増やソウとしテいるダケ」


四つん這いになっている彼は、そう言うと一気に周囲を破壊していく。ランジャの街にまではいかない範囲で、だが草原や地下には果てしなく。


自分の手足すらない彼は、標高何百メートル以上の山くらいの素材を手にしていた。


"呪神モード-カマエル"


「終ワリの始マリ、始まりノ終わり。

俺ノ中カラ、消えタモノ。オレノ中に、残るモノ。

オレが見るコトノできルのハ、あナたダケ」

「キヒッ、天変地異……!! 素晴らしいッッッ!!」


周囲のすべてを塵としたユウリは、降りてくるペオルを囲むように量子の拡張腕を振るう。次は逃さないように、止めまでさせるように、周囲に破壊粒子のドームを創っていく。


その規模は、ペオルの肉塊を超えてアオイやウィステリア達、クリフォト達にすら届くほど。


ペオルは醜悪な肉塊に包まれているが、この量の塵が一斉に襲いかかれば確実に本体にまで届くだろう。

どれだけのスピードで肥大化したとしても、巨大な山に押し潰されれば肉が破壊されるのは確実だ。


しかし、彼が仇に向かって一斉に量子を放とうとした瞬間。

戦場にはいくつかの変化が訪れる。


「……無感動ナド、破壊済みでアリ、破壊可能。

オレに影響ハ及ばナイが……邪魔ガ、入りかねマセんネ」


決して劇的な変化ではない。

せいぜい、感情が欠落しまともな人格が失われる程度。

貪欲な美女が取引に乱入した程度。


だが、もしも共闘相手が敗れてしまえば、彼がペオルに復讐する前に邪魔が入る可能性があった。

それは、唯一彼に残ったもので、何があっても邪魔されてはいけないものだ。


冷静すぎるほど冷静に判断したユウリは、周囲に広げていた破壊の粒子を復讐の土台作りに使い始める。


"壊れゆく世界"


彼が呪いの力を行使すると、辺り一帯への破壊が始まる。

ペオルの肉塊は外側のみ少しずつ破壊され、同時に空気などと合わせてディアボロスの無感動も影響を弱めていく。


当然、さっきまでアオイが苦しめられていた思考力の低下も少しだけ破壊されていた。


「……マダ、足りてイナイ?」


とはいえ、精神干渉が止まったとしてもベルゼブュートの剣技自体に変化はない。精神攻撃も完全に止まった訳ではないので、彼女は依然劣勢だ。


ユウリの視線の先では、風に舞いながら必死に剣技を避けるアオイの姿があった。


「……最優先は、ペオル。そのハズ、ナのに……」

「復讐という目的だけでは、やはり張り合いがないですねぇ!? もう少し泣き叫んだらどう‥」

「煩イ」

「プギャ……!!」


黙って空を見上げていたユウリに、接近してきていた醜悪な肉団子――ペオルは、嗜虐的に煽りの言葉を投げつける。

だが、彼はそれを一蹴に伏すと、無造作に振り下ろした量子の腕で肉塊を叩き潰す。


破壊されてトマトのように赤を撒き散らす肉を押し潰しながら、彼はなお空を見ていた。


ウィステリアは殴られているが、すぐに体勢を立て直していて問題ない。問題は、ふざけた動きのベルゼブュートに斬られているアオイだ。


じっと彼女を見つめていた彼は、最後に両手でペオルの肉塊を念入りに破壊すると、純白でひび割れた翼を広げた。


「俺ハ、復讐とイウ目的以外を、破壊シタ。

だガ、失ったノではナク、崩シたダケ。ダカラ、か……?」


曲芸のように風に舞うベルゼブュートは、何度も何度も泳ぐような動きでアオイに迫っている。


接近の度に素早く距離を取っている彼女だったが、完全には防げていない精神干渉の影響からか、風とは思えないほどに動きが鈍い。


空気抵抗を無視して飛翔する彼の目の前では、またもアオイに斬撃が繰り出され、強風に血が舞っていた。


「オレにアルのハ、復讐……確実ナ、復讐……

ダガ、他ニモ残るモノがあるト言うのナラ……」


ディアボロスも乱入したことで、アオイの注意は2つの方向に分断される。元々不利だった彼女はさらに劣勢に陥り、今にもベルゼブュートの剣は彼女の喉元に……


「オレハ、君を守ろウ。名前も知らナイ、記憶ノ欠片」


ベルゼブュートの長剣がアオイの喉を切り裂こうとした瞬間、一気に飛翔したユウリの手がその間に突き出される。

量子の腕はその剣を破壊し、バッと後退した彼からアオイを守るように彼女の体を包み込む。


何箇所も切り裂かれた和服から血を滲ませる彼女は、今にも壊れてしまいそうな緊迫した表情で彼を見上げていた。


「ユウリ、さん……ありがとう」

「……オレハ、微かナ衝動に従ったマデ。そシテ、もうソンナ顔をするコトもナイでショウ。繋がりヲ、感じマス。

希望はモウ、オレ達ノ元へと辿リ着いてイル」

「あ、あぁ……!!」


アオイのお礼を軽く流したユウリは、形のない腕で彼女を守りながらも、ひび割れた瞳を少し離れた空へ向けた。


その目が捉えるのは、クリフォト達とは対極にある輝き。

彼に、アオイ達に、神秘の加護を与えた希望の光だ。


『アオイっ、ウィステリアっ、無事!?』

「私達が来たからには、もう大丈夫よっ!!

これ以上、決してあなた達を傷つけさせないわっ!!」


すぐにはっきりと姿を見せた2つの人影は、到着してすぐに高らかに声を上げる。


その人影は、マンダリンでの聖花騎士団団長と対談を終え、アオイ達を助けるために飛んできた彼女達の家族。

心配そうに彼女達を見つめ、決意を込めた瞳でクリフォト達を睨む、精霊蜜柑と魔人ガーベラだった。



蜜柑の対策1ではウィステリアとガーベラが主人公味を出してましたが、2.3ではユウリが主人公ですね笑

(読者的には、作品の主人公以外あまり好まれないのだとは思いますが……)

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