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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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18-乱入者たち

すみません、よさこいを見に行っていていつもの時間に投稿できませんでした。

ウィステリアの両手から勢いよく飛び出した神秘の奔流は、まるでドラゴンの咆哮のように圧倒的な火力で、リデーレがいた辺り一帯を焼き払っていく。


散々仲間を弄ばれた彼には一切の手心はなく、その神炎が通過した後には一切の生命も残らない。

人は溶け、草は炭となり、大地は死に絶える。

その、はずだったのだが……


「……新手の敵」


両手から放出される炎が弱まり、段々と地上で燃える炎や煙の勢いが落ちてきた頃、彼の眼下にはリデーレの他にもう1人の人物がいた。


それは、彼に焼かれて地に倒れるリデーレを庇うように立つ女性。大きくスリットの入った、動きやすそうなドレスを身に纏った絶世の美女だ。


彼女は最初のリデーレと同じくあの炎の中でも無傷であり、警戒を強めて見下ろす彼のつぶやきに美笑を浮かべていた。


「御免遊ばせ、可愛らしい子。この子はうちの商会の経営を一手に任せておりますので、失う訳にはいかないんですの」


リデーレを庇っていたことから、彼が迷わず敵認定していると、彼女は優雅に膝を折って挨拶をする。

ここは戦場。両陣営に3人ずつの神秘がいる、自然災害のような力が荒れ狂う過酷な戦場だ。


それなのに、彼女の所作は貴族のパーティーに出ているかのように美しく、周囲が燃えているのは幻覚で、実際にはどこかのパーティー会場であるかのようだった。


妖艶に微笑む美女の異質な雰囲気を感じ取ったウィステリアは、彼女の行動や言葉、自分の炎で傷一つつかない程の実力から情報を読み取ると、気を緩めずに確認していく。


「うちの商会の経営ってことは、セファール商会だね。

つまりあなたは、商会の会長セファールだ」

「ご明察の通りでございますわ。可憐な聖人ちゃん」

「そういうあなたは、魔人だね。ぼくと戦うの?」

「いいえ。ひとまずは負けた2人の回収だけですわ」


ウィステリアの問いかけを聞いた美女――セファールは、優雅な所作で首を横に振る。


ただの一言、目線の動かし方、手足の動き。どれをとっても芸術品のようで、一挙手一投足がとてつもなく目を引く。

彼女の言動には死んだ大地すらも目を向けていると感じられ、さながら世界は彼女のための舞台のようであった。


しかも、彼女が持っているのは美しさだけではない。

露出している手足は陶器のように色白で華奢であるにも関わらず、彼女は意識のないリデーレを容易く抱き上げてしまう。


神秘だからなのだろうが、見た目にそぐわないパワフルさを見ると、ウィステリアは手を出せないながらも、より警戒を強めて目を細めた。


「ひとまずは、ね……」

「ところで、あなたは女の子? 男の子?

どちらでも(わたくし)はウェルカムなのですけれど、一応確認させていただいてもよろしいかしら?」


彼の質問が終わると見るや否や、セファールは抱き上げていたリデーレの体を安定させつつ小首を傾げた。


どうやら彼女は、戦いよりもウィステリア自身に興味津々のようだ。彼が警戒を高めているのに対して、彼女は無警戒にその可憐な姿を隅々まで観察している。


しかし、意味も分からず全身を余すところなく観察される彼が、わざわざそんな敵に教えることはない。

唐突で戦いに関係ない彼女の問いを聞くと、ウィステリアは不審そうに言葉を返す。


「ウェルカムっていうのがどういうことかわからないけど、どちらでもいいなら聞く必要なくない?」

「いいえ。男女で多少楽しみ方が変わりますでしょう?」

「女の子だったら、傷つけないように手加減するとでも?」

「……こういう話題はまだ早いみたいですわね。

まぁいいでしょう。雑談は終わりです。上をご覧なさい」

「……?」


話が噛み合わなかったことで、セファールは彼に余計な知識を植え付けない方がいいという風に話を切り上げる。

そして、そんな彼女に促されて空を仰いだウィステリアの瞳に映るのは……


「……」


闇すら飲み込むような漆黒の翼で羽ばたきながら、圧倒的な存在感を放つ青年だった。




~~~~~~~~~~




「……はぁーーーぁいーーー?」


やけにゆっくりとした返事をしながら、なぜか扇子を振るう手を止めていたアオイは、やはり緩慢な動きで背後を振り返る。


地上で半分潰れているディアボロスに向けていた風は、完全に凪いでいた。そして、10秒以上かけて振り返った先には……


「無事かぁ〜!? ディアボロスぅ〜!?」


髪も肌も、目すらも真っ白いディアボロスとは真逆で、派手過ぎるくらいに派手な男がいた。


グラデーションのついた派手な髪色、顔には度肝を抜かれるようなクラウンメイク、服も赤など目に痛い配色。

高いトーンのよく通る声をしていることもあり、彼を一言で説明するとしたらまさしくピエロがぴったりだ。


しかし、1つだけ普通のピエロとは違うのは、なぜか腰に木の棒を差している所。彼には他にもボールのような球体などもついているが、ただの木の棒は異質中の異質だった。


おそらく、半殺し状態であるはずのディアボロスが時間切れと言った理由であるそのピエロは、リデーレやペオルと同じく漆黒の翼で羽ばたきながら舞い降りていく。


「もう全身ぐっちゃぐちゃじゃーん!? 赤白で派手やなー!!

まさかまさか、見た目と同じく中身もハッピー?」

「ははは、もちろんハッピーだぜー?」

「あぁ、残念……いつか本当の笑顔も見たいものだにぃ。

はっはっはー、まぁいいさ!! この街では2人!!

久しぶりに家族が増えたよぅ!! めでたいわぁ〜。

あかーん、吐きたくなってきてもうた!! げぇ〜……」


重傷のディアボロスに対して、場違いにも明るく軽口を叩いたピエロは、彼の返事を聞いて一瞬テンションを下げる。

だが、すぐにまた口角を上げると、空中に爆発するボールを投げて騒ぎ、到達に口に手を当てて吐き始めた。


格好からテンションの上がり下がり、口調から挙動までもうめちゃくちゃだ。なぜか動きが止まっているアオイの眼下では、ひょうきんな動きをするピエロだけが動き続ける。


「ゲロゲロゲ〜!! うえっほい、ジャジャ~ン!!」


人間が吐き気を催した場合、口から出てくるのはほぼ確実に胃液等の吐瀉物だろう。

しかし、彼の口から出てきたのは胃液の類ではなく、綺羅びやかな刀剣。


本当になぜ腰に木の棒を差していたのかと聞きたくなる程、ちゃんとした立派な武器だ。

だというのに、彼は自らの口から出てきたその長剣を躊躇うことなく砕いてしまった。


「ん〜、ガッシャ〜ン!!」


すると、飛び散った長剣はいつの間にやら数多のナイフに。

くるりと回ったピエロの手にすべて収まると、彼はその刃物でジャグリングを始める。


ディアボロスは重傷で、アオイはなぜかピクリとも動かないので、目まぐるしく変わる場面に反応するものはいない。


「ほっほっほっほ……あ、グサァ……!?」


自由気ままにジャグリングをしていたピエロだったが、彼の曲芸の実力は特別高いということはなかったようだ。


いや、むしろ実力が高いのかもしれない。

空を舞っていたナイフ達は、綺麗にその先端をピエロに向けると、そのほとんどが彼の胴体に突き刺さっていく。


全身にナイフが突き立ったピエロは、断末魔の悲鳴を上げるとディアボロスの隣に張り付けにされた。


「……」

「……」

「……」


ディアボロスは重傷で、アオイはピクリとも動かない。

この場に生まれた騒がしいカオスな空間は、ピエロの自爆によって唐突に消失した。


もっとも、沈黙したというだけでカオスな空間に変わりはない。針山のようなピエロ、半分潰れたクレープ屋、空で硬直している和服少女。


他人が見てどころか、当事者達ですら正しく状況を理解するなど不可能だ。


しかも、誰もが混乱してしまうカオスな空間の中で、それを生んだツッコミ待ちのピエロは唐突にひょっこり起き上がる。ナイフはポロポロと抜け落ち、彼の派手な服に赤い斑点を付けていた。


「ちょいちょいちょ〜い、誰か反応してほしいんやけど〜!!

寂しいやんかぁ!! つって、あの少女の思考遅くしちょうがはワタシ〜!! しゃーない、戻したるわぁ!!」


1人でノリツッコミをするピエロは、空で固まっているアオイに向って指を鳴らす。直前までナイフの雨を受けていたというのに、その表情も声も動きも元気そのものだ。


ようやく活動を再開したアオイは、わずかにふらついてから厳しい視線を彼に向けた。


「あなた、一体なんですか……!?」

「ん〜? 俺はベルゼブュートって名乗っとるばい。

そらそうと、自分もうちょい上見なあかんでー」

「……!?」


アオイに強く詰問されたピエロは、ベルゼブュートと名乗ると彼女の注意を上に向ける。すると、慌てて見上げた彼女の瞳に映ったのは、闇すら飲み込むような漆黒の翼で羽ばたく青年。


白髪碧眼で黒い軍服のようなものを身に纏っている、まさに堕天使というような見た目の青年だった。




~~~~~~~~~~




肉団子状態のペオルと、彼に押し潰されているユウリ。

そんな彼らの上には、不貞腐れた様子でペオルの醜悪な肉を蹴る、薄手のアウターを羽織った黒翼の美少年がいた。


ちょいちょいと足でペオルの肉塊を小突く彼は、軽い力だけでその醜悪な塊を吹き飛ばしていく。


ぐちょっとつま先を突っ込みそっと動かせば、足は綺麗なままで肉塊だけが千切れて飛んでいく。

やがて中からは、血みどろの怪人――ペオルの本体が現れた。


それを見た少年は、臭そうに表情を歪めながらも渋々と手を伸ばし、怪人の体を引っ張り始める。

ブチブチと癒着した肉を引き千切ることになるが、彼の手は、体は、飛び散る血潮では一切汚れない。


血しぶきを浴びながらも、そのすべてを弾き飛ばし、最終的にペオルだった醜悪な残骸も蹴り飛ばしてしまった。


「この傷、段々と広がってる。この人、エグいな……

けど、おばさんの命令は、相打ちになったクズの回収。

ここに来たのがおれでよかったな、お兄さん」


そのさらに下から現れた四肢のないユウリを見ると、少年は興味なさそうに一瞥してから漆黒の翼を広げる。

彼の視線の先には、やはり漆黒の翼で上空から見下している青年が。


ペオルを適当にぶら下げながら飛翔する彼は、あっという間にその青年の前にやってきてしまった。


「よう、クズ持ってきた。やる」


風に長めの髪を揺らす青年に、少年は無造作にペオルを差し出す。しかし、彼は黙って一瞥すると、気にせず冷たい目を地上に向けた。


『……こんばんは、フュイールくん。その子はまだ君が持っていていいです。私は、先に邪魔者を……』


青年がそう告げると、少年は鼻を鳴らしてわずかに下がる。

意識のないユウリ、それぞれセファール・ベルゼブュートに促されて空を見上げるウィステリアとアオイ。


彼女達の視線の先には、白髪碧眼で黒い軍服のようなものを身に纏っている、漆黒の翼を広げた邪悪が顕現していた。


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