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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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17-破壊の覚悟

「アァァアァァアアァアアァッ……!!」


ペオルに醜悪にも負の感情を増幅させられているユウリは、破壊衝動を撒き散らしながら叫び続ける。

そのお陰でアオイの狂風を防げている、という面もない訳では無いが……


(親父が、ブロック肉、血の海、お前が、悪魔、怪人……!!)


体よりも何よりも、精神にダメージを受けていることが重大だった。ペオルが未だ醜悪に扇動し続ける中、もはや彼には怪人の言葉など耳に届かない。


両手で頭を抱えながら感情をぶちまけ、その暴走した破壊が草原や街を破壊していく。ウィステリアの炎がなかったら、きっと空から襲い来る風と大地から襲い来る破壊で街は滅亡していただろう。


それほどまでに、彼は醜悪な感情に支配されて暴走していた。


「アァァアァァアアァアアァッ……!!」


(血塗られた壁、輪切りの断面、肉屋みたいなッ……!!

血に染まって、もう原型すら……!! ……か、ぜ)


しかし、あの出来事にトラウマを受けていようが醜悪な感情を抱えていようが、彼は魔人だ。強すぎる負の感情により、大自然の化身たる神秘に成った者だ。


そのひび割れた瞳には、きっと敵の姿が映り続けている。

自らの心を見失うことなく、他者に操られることなく。

他の神秘を感じる事ができている。


ひたすらに叫び続けたユウリは、やがてひび割れた指の間から恋する少女の姿を見た。


(アオイの風を、感じる……自由を求める、風を。

あいつも苦しんでる。あいつ、もッ……!!)


彼の瞳は揺れ動く。

思い起こさせられている惨状、自分の付近で荒れ狂う破壊、周囲で吹き荒れる風、醜悪に嗤う怪人。


血の海、肉塊、嗤う怪人、風、潰れた内蔵、嗤う怪人。

制御できない感情によって、幻視や幻聴が襲ってくる中で、それでも自分の望みに手を伸ばす。


(俺にも、自由を……この醜悪な感情から開放された自由を……醜悪な感情に支配されず、前に進む自由(強さ)を……!!)


「こんな、醜悪な感情、いらねぇ……!!」

「おやおやぁ? どうしたんですぅ!? ほら、忘れた訳じゃないですよねぇ!? 肉屋みたいに並べられた父達の姿……」


叫びながらも意味のある言葉を紡ぐユウリに、ペオルはさらに醜悪な煽りを始める。唇の端を吊り上げ、三日月のような不気味な笑みを浮かべて神経を逆なでしていく。


しかし、自らの軸を、力の方向を無理やり固定した彼には、もはやそんなものは通用しない。


ひび割れた瞳は、ただ仇の姿のみを映す。

その他のすべてを破壊し、捨て去ったとしても……

彼はただ、ペオルを殺すためだけに。


怪人を破壊すること以外には、過去や望みすらも残さないことで醜悪な感情による支配を脱却していった。


「大事なノは、こンなモんじゃッ……ネェ……!!

こうナっちまウんなら、もう、俺すラも必要ねぇ……!!

俺ハ、オレ自身を、記憶ヲ、すベテを破壊シ尽くしテモ……!!

タダ、オ前を……破壊スルッ……!!」


アキレギア家で起こった惨状、破壊……

それに関する自らの感情、破壊……

醜悪な怪人を殺す以外の望み、破壊……


記憶、感情、人格、両腕、両足。その他、ペオルを殺すこと以外のすべて、破壊……


塵となった――破壊となった四肢を、変幻自在な粒子の手として操る彼の中には、もはや仇を殺すこと以外に記憶はなく。

ひび割れた顔には、仇への殺意以外に感情はなく。


醜悪な感情に支配されることのなくなった、かつてユウリであったものは、破壊し尽くした殺戮人形として、ひび割れた無機質な目を敵に向ける。


その先にいるペオルも、もう薄ら笑いなど浮かべていない。

彼らは互いに、相手を最悪の敵として認識して睨み合っていた。


「破壊の時ダ、醜悪ナ怪人……!!」

「そのようですねぇ、2代目人格崩壊者くん。まぁ、あなたの場合は体も……ですけどね。呪いに支配された神もどき」


"呪神モード-カマエル"


"アグリネス・トランス"


ユウリが決着を宣言すると、彼らの体にはそれぞれ歪な変化が訪れた。片や、破壊し塵となった四肢に、大地や木などの塵を混ぜた流動的な星の破壊兵器。


片や、他を受け入れず、それ単体だけで醜悪に変化していく単純に巨大な筋肉の塊。

しかし、どちらにも言えるのは固形でも流体でも、自由自在に形を変えられる体であるということ。


ユウリは四肢限定ではあるものの、塵となった体は砂のように広範囲にまで破壊をもたらすだろうし、ペオルは全身を好き放題醜悪に、グールのように異形化できる。


半分自滅のようでありながら、どこまでも醜悪な姿になってしまいながら、彼らは復讐と愉悦のために敵へと向かう。


「巨大化ナど、無駄ダ。オレの手足ニ、範囲はナイ」


体も中身もすべてを破壊することで自身を制御したユウリは、突き出した左手の塵を拡散させてペオルを囲む。

彼は体を不気味な色に変色させながら、5メートル近い巨体になっているが、まとめて破壊できるように。


「人の醜悪さとは果てなきもの。

神もどき程度に止められますかぁ? この醜悪さが!!」


しかし、破壊をもたらす塵に囲まれたペオルは、相変わらず三日月のような不気味な笑みを浮かべていた。

彼らは互いに接近していっているため、近づく程に塵は増加し、ペオルの体は破壊されていく。


表皮を破裂させ、肉を細切れにし、血しぶきを噴水のように噴き出させる。それでも、ペオルは破壊されるごとに膨れ上がる醜悪な肉により本体を守り、ユウリと激突した。


「ッ……!!」

「キヒッ……!!」


ユウリの塵となった破壊の腕と、ペオルの醜悪に肥大化した腕は、なんの小細工もなく正面からぶつかり合う。

破壊と醜悪の激突。その結末は、もちろん触れた瞬間に。


塵となった右腕にまともな形などなく、肥大化した腕を容赦なく包み込むとグシャグシャに破壊した。

まるで、ペオルの腕は水風船だったかのように、それは一瞬で溶けるように消えていく。


だが、ユウリと同じくペオルも既に魔人である。

飛行時にしていたのと同様に、破壊されるごとに肉を醜悪に肥大化させることで無理やり彼の右腕の塵を突破し、胴体に強烈な一撃を叩き込んだ。


「グッ……!? 力技、カ……!!」

「キヒヒッ!! 痛ぁいですねぇ〜!!」


巨大な腕に腹部を殴られたユウリは、その質量通りのパワーによって後方に吹き飛ばされていく。

だが、彼の背中にはひび割れた翼が生えているため、素早く体勢を整えてペオルに視線を戻していた。


当然、その時点でペオルは次の行動に出ている。

彼は破壊された腕を修復するのはもちろんのこと、追加で10メートル近くまで醜悪に体を肥大化させていた。


どうやら、もっと体を肥大化させれば容易くユウリを叩き潰せるとでも考えているらしい。


実際、腕だけでも破壊は芯まで届かなかったのだ。

その質量が倍増し、破壊しても破壊しても内部から肉が膨れ上がってくるのなら、太刀打ちできないだろう。


「ウゲェーっへっへ!! キヒヒッ、準備は万端ですかぁ!?

自身の破壊によってもたらされる、屋敷の惨劇と同程度の、醜悪な血肉の雨をご堪能くださいねぇ!?」


ユウリよりも上空を陣取ったペオルは、自分で肥大化していながら気持ち悪そうにえづく。

何度も破壊されていることも、自分の肉に中身が圧迫されていることも、思った以上に負担になっているようだ。


しかし、だからといって醜悪さに妥協などしない。

未だにユウリから負の感情を引き出そうと画策しているらしく、破壊されれば血肉が降り注ぐように上空から彼に突撃していた。


「火山が噴火すレば、森ハ容易く破壊サレル。

地震が起こレバ、大地は容易ク引キ裂かれル。

津波ガ起コレば、文明ハ容易く洗い流サレる。

人どころカ、星スラモ破壊ニは敵わナイ……!!」


ペオルの気色悪い笑みを見たユウリは、無表情のままで量子の腕を前に突き出し、言葉を紡ぐ。

腕だった部分から破壊をもたらす塵を拡散し、同じように両足、さらには翼すらも塵として彼に差し向けていく。


もはや彼に残るのは胴体と頭のみであり、それ以外は蜂の巣と蜜蜂のように、独立した存在としてペオルに向かっていた。


"破壊の蝗害"


空から落下してくる肉の爆弾と、下から立ち昇る破壊の嵐。

それらはあっという間に距離を詰めると、互いに互いを突き破るべく破壊と醜悪さを発揮する。


「キヒィッ、とてつもない勢いで破壊されてますねぇ!!

いっそ清々しい!! とても、面白い!!」

「自分の体ヲ破壊されてイテ、ヨクも笑えタモのダ。

ならバ遠慮ナく、芯マデ貫いてヤル……!!」


ペオルの肉塊は、破壊されても奥から湧き出る。

表面で破壊された血肉を浴びて、より醜悪に。

無限に増殖する血肉により、破壊を力尽くで突破していく。


だが、ユウリは今回、翼や両足の塵も差し向けていた。

たしかにペオルと全身だが、塵と相対するのは前に出ている手や腹のみ。


実際にぶつかり合う質量としては、取り込んだ大地なども含めて彼の方がやや大きいと言えるだろう。


破壊された血肉の残骸など気にしても無駄で放置しているので、それを返り血のように浴びながらも、彼は着実にペオルの肉鎧を剥がしていった。


「キヒヒッ、まさかまさかの!?」

「ここマデくれバ、アトは一点突破だ。

終ワリだヨ、醜悪ナ怪人」


10メートル近い巨体の半分近くを破壊したユウリは、半分だけ齧った後の果物のようなペオルに、細長く操った塵を放つ。


血肉の滴るペオルに胴体を押し潰されているが、果実の種をくり抜くように破壊の量子を奥へとねじ込み、彼の致命傷を与えるべく腹部を派手に貫いた。


「キヒヒィッ……おお、これほど面白いことが……」

「魂ノ灯火は消エ、オレハ役目を終エル……」


肥大化した部分ではなく、奥底に残る本来の胴体を貫かれたペオルは、唇の端を吊り上げ、三日月のような不気味な笑みを浮かべて墜落していく。


その肉塊の下では、唯一破壊しなかった仇への殺意を失い、抜け殻となったユウリが、無対抗に押し潰されている。

彼らはどちらも意識を失いながら、上空から地面に激突した。




「……」


地上に墜落した巨大な肉塊のペオルは、意識を失いうつ伏せで倒れる。その下で押し潰されているのは、もちろん四肢を欠損したままのユウリだ。


しかし、この場には空中とは違う部分があった。

それは、倒れ伏す彼らを隣で見つめる、薄手のアウターを羽織った美少年がいたことである。


ユウリくん、この作品で描写できる中では1番悲惨な人生なのでは……? 不憫だ

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