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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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14-醜悪に破壊を

妨害工作をしたアオイ達によって、邪悪な魔人達が街の外で風に閉じ込められたその夜。


嵐の球体の中では、雷のようにギザギザと空気を引き裂いて進む破壊的な流星が、夜空を真っ二つにしていた。

その軌道の先にいるのは、もちろん小綺麗なスーツ姿の怪人――ペオル。


破壊的流星――ユウリは、その衝動を全開で迸らせると、隕石のような勢いで愉快そうに笑う邪悪の上に墜落していく。


「死ねぇ、ペオルーッ!!」

「キヒッ……」


"破壊された平穏(カマエル)"


仇を前にしたユウリが結界内に流すのは、世界自体が破壊されているかのようなひび割れ。


体の近くであればある程強力なそれは、落下する彼の周囲で弾丸のような形を作り、ペオルがいた辺り一帯を破壊し尽くし、無惨なクレーターにしてしまう。


不気味に笑って両手を広げていたペオルは、避けるどころか防御すらもしていない。瞬く間に破壊と陥没に飲み込まれ、姿が見えなくなっていた。




「はぁ……はぁ……」


草原と道路、点在する廃墟が崩れた地底の底で、空中に発生しているひび割れを握って浮かぶユウリは息を切らす。


彼の瞳は当然ひび割れているが、全力で能力を使ったからか、今はそのひびが顔や腕にまで伸びている。

最初は純白だった翼も、自身の破壊の力でギザギザに崩れておりまともに飛べてもいなかった。


とはいえ、貴族の子息だった彼は元々遊び人で、ランジャでも多くの娼婦を魅了したくらいに端正な顔立ちだ。

歴戦の戦士のような全身のひびは、なかなかに様になっていた。


「……ふぅ。あのクズ、避けなかったな……

一体どういうつもりだ?」


ひび割れた空中を支えに上からクレーターを見下ろす彼は、少しだけ息を整えてから疑惑の目を眼下に向ける。


ユウリの呪いによって破壊された地面は、彼の体に這うひび割れと同じようにボロボロだ。


隕石のような落下であったため一応は球状に崩落しているが、決してツルツルはしておらず、いたるところでボコボコとした凹凸を見せていた。


クレーターの上部がそんな状態なので、もちろん底には崩れ落ちてた岩石が積み上がっている。


大きいものはベッド以上、小さいものでも人の手のひら並の岩石があるその崩落に巻き込まれれば、まともな生物は無事ではいられないだろう。


ユウリという破壊もあり、土砂崩れよりも危険な崩壊に見舞われたこの場には、当然人影もない。


破壊で消し飛んだか、岩石に潰れたか、どちらにせよ無傷ではいられないと思われた。

その光景をしばらく観察した後、彼はポツリと呟く。


「死んだのか……?」

「いえいえいえ〜! この私が死ぬはずないじゃありませんかぁ〜! こんな愉快なものを前にして、ねぇ……キヒッ」

「……!!」


しかし、ユウリのつぶやきにはどこからか胡散臭い声で返事が投げかけられる。この場には他に誰もいないはずなのに、同じように無事でいたらしい男の声が。


その胡散臭い声……ペオルの声を聞くと、ユウリは一瞬で厳しい表情を浮かべて周囲を見回し始めた。


しかし、さっきからクレーターの観察はしていたのだから、底の崩落地を見ても蟻地獄のように球状の崖を見ても、仇の姿はない。


いくらじっくり見回してみても、ここにあるのはクレーターだけだ。それだというのに、ペオルの醜悪な声はなぜか地底に響き渡っていく。


「家族を惨殺、貴族でなくなった少年……

知り合いの家で、実家の惨劇を再現されたような光景を目にした少年……私のショーはどうでしたぁ? キヒヒッ」

「どこに、いる……!? テメェはどこにいんだ!?」

「キヒッ、キヒヒッ……!! 人は見たくないものは見ないものですよぉ。醜悪ですねぇ、見苦しいですねぇ」


挑発するようにユウリのトラウマを抉るペオルに、彼は再びひび割れを悪化させながら叫ぶ。

どこからか彼の様子を見ているらしいペオルは、取り乱す彼を見て愉快そうに笑っていた。


「あなたは私を恨んでいる。心が乱れれば力も乱れる。

殺したと信じたのなら、私の姿は見たくない。

ああッ、なんと醜悪な結果なのでしょう!?」

「いいからさっさと出てこ‥」

「もっと、あなたを見せてください……」

「は……?」


さらに言葉を続けるペオル。どこまでも自分を翻弄し、醜悪で気味の悪い言葉を並べる彼に、ユウリはつい堪えきれずに声を荒げていた。


すると、ひび割れた彼の体には綺麗な指が触れ、背中を撫でられるのと同時に耳元へ吐き気のする声がかけられる。

壊れた瞳を見開きながらユウリが振り返ると、背後にいたのは当然怪人ペオルだ。


どうやら彼もユウリ達と同じように、背中に翼を生やすことができるらしい。濁ったようでいて、どこまでも透き通った不思議な引力を感じる瞳の彼は、ドス黒く大きな翼を広げて空を飛んでいた。


「どこ、から……!?」

「たとえ神秘であっても、魔人の元は人間ですからねぇ。

人は見たくないものは見ないのです。あぁ、醜い習性……

キヒヒッ、なんと弄び甲斐のあるゴミなのでしょうかッ!?」


唇の端を吊り上げ、三日月のような不気味な笑みを浮かべているペオルは、そのシュッとした顔を醜悪に歪めていく。


おまけに、彼の指がなぞったユウリの背中は、段々と醜悪な形に変形していき、めくり上がった服の下は醜悪な色に変色していた。


"アグリネス・トランス"


「くっ……!?」


気味の悪い攻撃を受けたユウリは、すぐさまその場を飛び退る。翼はギザギザで長時間は飛べなそうだが、たとえまともに飛べなくても変形させられ続けるよりはマシだ。


空中を破壊しているひび割れを足場に、翼を補助で使いながら距離を取っていく。また、彼がペオルから受けた醜悪な変形は、後から追加された部分だと言える。


彼は破壊の呪いを全身から迸らせることで、自傷しながらもその変化を治していった。


「ぐッ……うぅッ……!!」

「破壊とは、そのように便利な使い方ができるんですねぇ?

おかしな認識拡張をしているものです。無駄ですが」


醜悪な変形を治されてしまったペオルは、興味深そうにその治癒の様子を眺め、呟く。本能的な嫌悪には変化を出さず、感心したように、馬鹿にしたように。


その言葉を聞いたユウリは、瞳や四肢からひび割れをはみ出させながら荒い息を吐き、言い返す。


「はぁ、はぁ……無駄だぁ? 実際に治ってんだろうが!!」

「形あるものならば、でしょう? 私の真骨頂は、扇動。

あなた方が見たように、不安を煽って暴走させることです」

「俺にはテメェへの怒りしか‥」

「いいえ〜? あなたはあれを見たのでしょう?

わざわざ私が惨殺した両親、塗りたくられた鮮血!!」


変形を治されたペオルだが、彼は醜悪な笑みを崩さずに言葉を紡ぐ。有形は破壊されるとして、無形のものはどうなのか……と。


ユウリはすぐさま否定するも、その声は明らかに弱々しく、容易くペオルに遮られてしまっていた。

嗜虐的に顔を歪めたペオルは、彼が何も言えないでいる間に次々と言い連ねていく。


"醜悪な扇動(ベルフェゴール)"


「や、めろ……」

「あぁ、あぁ!! 恐ろしい光景でしたねぇ!?

元貴族のユウリ・アキレギアさぁん!?」

「その呼び方を、するなぁぁッ……!!」


ペオルに煽られたユウリは、両手で頭を抱え込み、濁ったようでいてどこまでも透き通った、何も見えていないかのような瞳で仇を見やる。


彼の周囲に破壊は健在だが、制御はまったくできていない。

空気もクレーターも、ただ無差別に破壊していながら、憎悪を向ける相手であるペオルには一切届いていなかった。


「アァアアアァァアアァアアッ……!!」

「血みどろで!! ズタズタに!! あなたのご両親は、一体どのような苦しみを感じていたのでしょうねぇ!? 想像してみてくださいよ!! 見たのでしょう? 輪切りの死体を……!!

血の海に浮かぶ、ステーキのような人肉を……!!」

「アァァアアアァアアァッ……!!」


正気を失って白目を剥くユウリは、大きく開けた口からこの世のものとは思えないような叫び声を響かせる。


抑えきれない呪いの影響か、翼をペオルのようにドス黒く染めながら、怪人に弄ばれる傀儡のように四肢を投げ出しながら。


そんな彼を見るペオルは、ただただ醜悪に。

愉悦に満ちた表情で、邪悪を体現したように負の感情を刺激し続けていた。



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