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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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13-眷属達の宴

「……シロォ!!」

「……」


ペオルやリデーレと共に、粉塵の中から姿を現したシロ。

そんな彼に対して、ユウリは破壊衝動のままに怒鳴り声を上げる。


だが、彼はユウリやアオイを見てもぼんやりとした目を向けるだけ。アスセーナの家でユウリに見せたように、昨日彼に詰問された時に一瞬だけ見せたように、無感情に黙り込んでいた。


「やぁ、ユウリくん。やはり元気だな、君は」


数秒後、シロはようやく無機質な声で言葉を返す。

その間放置されたユウリは、周囲に迸らせている破壊衝動によって足元クレーターを作っていた。


もっとも、彼自身やアオイ達は空を飛んでいるので、足場が崩れているということで悩まされることはない。

この状況でも無表情で淡々と話す彼に、これまで友人のように振る舞ってきた彼に、破壊的な怒りを向けている。


「結局テメェは敵なんだなァ、シロォ!?」

「……別に。ワタシはついて来いと言われたから、来た。

それだけだ。敵だと思うのなら、そうなんじゃないか?」


アオイが風の結界を創って、この場の全員を閉じ込める中、逃げ場がないはずのシロはそれでも無感情だ。

見た目どころか中身まで真っ白い彼は、ユウリの激情を受けても世界への興味を見せず、機械的に言葉を紡ぐ。


敵対の意思を否定し、だが敵であることを否定せず。

敵かどうかはユウリ達の主観に任せてしまった。

愉快そうなペオル、ダルそうなリデーレとは違っているが、彼も彼で緊張感がない。


そんな態度を取られれば、当然暴走しているユウリは感情を爆発させる。空気をひび割れさせながら、もはやひびが目を飛び出してしまっている瞳で邪悪を射抜く。


「これはアオイへの裏切りだ。

楽に死ねるとは思うなよ、シロォッ……!!」

「君の目的はこのクズだと認識していたのだがな。

そもそも、私の名前はシロではない。

少なくとも、この場で呼ばれる名は違う」

「あぁん!? じゃあ何だってんだよ!?」


シロという名を否定する彼に、ユウリは食い気味に怒鳴り、聞く。だが、彼はもう興味をなくしたのか、横に視線をズラして答えなかった。


代わりに答えたのは、彼の隣に立つリデーレ。

彼女は邪悪に唇を歪めると、悪意に満ちた目で言葉を返す。


「私達はディアボロスって呼んでいますよー」

「ディアボロスだぁ……? 随分と大仰な名だなぁ……!?」

「そうかもですねぇ。ですが、これ以上を知りたければ追加で取引を求めますよ。能力を封じる……以上のね」

「は……?」


リデーレがそう言うと、突然ユウリの周囲に迸っていた破壊のひび割れは消えていく。翼は"破壊された平穏(カマエル)"という呪いの力ではないので消えていないが、呪いの力である破壊は封じられていた。


ただ名前を聞いただけ。

それだけで能力を封じられてしまったユウリは、わなわなと震えながら目を見開いている。


これにはアオイ達も流石に驚愕しており、彼女達の反応を見たペオルは醜悪な笑みを浮かべていた。

唯一シロ――ディアボロスだけは、どちらにも一切の興味を示していないが。


「はぁ〜♡ 何をぶんどってやりましょう?

筋力でもいただきましょうか? それとも、視力?

その翼は筋力関係なさそうですもんねぇ」

「いや、いやいやいや……」


まだ取引を続けようとするリデーレに、頭が追いついていない様子のユウリは言葉を失い、ただ首を横に振る。

それを見たリデーレ達は、より自虐的な笑みを浮かべていた。


"アトマスフィア・コントロール"


動揺したユウリはまともな返事ができず、リデーレが今にも次の取引を持ちかけようと口を開いた瞬間。

アオイは開いた扇子を軽く振り、敵の動きを封じながら弾き飛ばす。もちろん取引は中断だ。


風の結界によって視界から逃れることはないが、結界自体が小さな村一つくらいなら軽々と包み込まれる程に大きいので、敵は瞬く間に分散した。


その範囲は、ランジャの人がいない廃墟が立ち並ぶ辺りから街の外の草原を広くカバーしている。

住民に被害を出すことはなく、なおかつ十分な戦闘スペースがあるだろう。


アオイ達は3人、リデーレ達も3人。

予定していた相手とは異なっているが、各個撃破の時間だ。

結界内に満ちる大気を支配しているアオイは、仲間と敵に風を流すことで同時に語りかけ、開戦を宣言する。


「人の名前なんて、近くにそれを知る者がいれば、呼ぶ瞬間にその場にいるだけで入手できます。その情報にそこまでの価値はなく、その取引は明らかに釣り合っていません。

それに、さっきのは彼の同意もなしに一方的に……

効果範囲、制限時間、何かしらのデメリットがありますね?

これ以上彼の自由を奪わせはしない……!! 必ず殺す……!!

……あなたは今すぐペオルを殺しに行ってください。

さっきの取引は、おそらくリデーレにだけ能力が使えないというようなもので、分断した今なら使えます。行って」

「おう……!!」


リデーレに精神的な圧をかけるべく能力の予想を語った彼女は、再びユウリの周囲にひび割れが発生したことを見ると、近くの仲間にだけ付け足した。


リデーレに影響が及ばない距離だからか、情報の代価に封じられたユウリの能力は復活しているようだ。


それを聞き、自分でも確かめたユウリは、アオイの支配する大気を破壊しひび割れを起こしながら、憎きペオルの吹き飛ばされた方向に向かっていく。


ただ翼で飛ぶのではなく、付近の大気を破壊しながら飛んでいるため、彼の通った後には異常な空気が渦巻いていた。

空気抵抗を無視して飛び去る彼を見送ると、アオイは隣で飛んでいるウィステリアに視線を向ける。


「さて、ユウリさんは予定通りペオルの元へ行きました。

残るはリデーレとシロ……ディアボロス。

予想とは違いますが、私達はどうします?」

「……君はリデーレと戦いたい?

流石にシロさんとは戦いにくいだろうし」

「いえ、私はディアボロス相手でも迷いませんよ。

彼は……優しく接してくれましたが、神秘であるということ、黒幕の協力者であることなどを隠していましたから」


アオイに気遣わしげな視線を向けるウィステリアだったが、彼女は迷いのない顔つきでディアボロスが飛んでいった方向を見つめる。


彼は廃屋跡地に姿を現した時も、ユウリと話していた時も、そして吹き飛ばされて地面に叩きつけられている現在も。

神秘である証になるオーラを一切見せていない。


聖人または魔人に成っている存在であれば、この星に満ちた神代の神秘そのものであるため、大抵の場合オーラを纏う。


普通の人でも神秘的だとわかり、同じ神秘であれば質で魔人か聖人かを判断できる基準。そんなオーラが、なかった。


だが、神秘の風に吹き飛ばされたというのに無事であるというだけで、彼が神秘であることはほぼ確実だ。

少なくとも、普通の人間ではないだろう。


つまり、アオイ達がアスセーナで事件を追っていた前回も、惨劇を見て、記憶を消され、ランジャにやってきた今回も、ずっと彼女達を騙していたことになる。


いくら親切にされ、お泊まり会までしていた友人とは言え、アオイが躊躇う理由はなかった。

彼女は歪みが渦巻く瞳を爛々と輝かせ、しかし冷静な口調で呟く。


「……むしろ、真意を知りたいかもしれないです」

「じゃあ決まりだね。行こう。

ユウリくんの邪魔をされたら困るから」

「そうしましょう。万が一のサポートは任せてくださいね」

「うん、頼りにしてる」


アオイの希望を聞いたウィステリアは、あまり時間をかけてはいられないのですぐに敵をリデーレと定める。

2人は軽く笑い合ってハイタッチすると、それぞれ強風と神炎を纏って超スピードで敵へ向かっていった。



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