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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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8-思わぬ再会

「やぁ、君達。久しぶりだなぁ、少年少女!」


街を見て回っていたアオイ達が、思わぬ人物と遭遇してあ然としていると、そのクレープ屋――シロは朗らかに笑いながら手を上げる。


最初から同じ街にいることを知っていたのか、そもそもどこで誰に出会おうが興味がないのか。

彼はアオイ達3人とは違って、まったく動じることはない。


アオイがポカンと自分を見つめ、ユウリがオバケでも見たような顔で驚愕し、初対面であるウィステリアが戸惑っている中、構わずクレープを売っていた。


「シロさん……私、挨拶もせずに‥」

「いやいやいやいや、待て待て待て待て……!!

あんたなんでこんなとこにいる!?

というか、そもそも無事だったのかよ!?」


少し黙り込んだ後、そのままクレープを売っている彼を見たアオイは、いつも通りの彼に安心したように口を開く。

アスセーナでのお泊まり会でユウリの足止めを頼み、途中で抜けてから、そのまま商会の追跡に出たことを謝り始める。


しかし、お泊まり会にいた3人それぞれの視点で見てみると、彼女達は体験してきたものが、状況が、このことへの見方がまるで別物だ。


1人は屋敷で起きた事件の渦中に、1人はすべて後手で事件の現場に、1人は事件とは無関係に失踪……


つまるところ、ユウリはアオイとは違ってシロの失踪を知り、家で起きていた惨状を、何よりもシロの狂気の一端を見ていた。


アオイを追わせないような足止めを、死を望むような発言を、血が塗りたくられた家と彼が失踪したことを知っているユウリは、彼女を庇うように前に進み出ると、詰問する。


警戒心を露わにするユウリに、呑気にクレープを焼くシロは困ったように眉を下げていた。


「無事……? 何かあったのですか……?」

「えーっとー……」


流石に戸惑い始めているアオイと、困りながらもクレープを売り続けるシロに挟まれても、ユウリは詰問をやめない。

彼の視点から見れば、シロは敵とも味方ともつかないのだから無理もないだろう。


その有無を言わさない勢いに、敵意を向けられるシロはもちろんのこと、3人のうちの1人であるアオイすらも口を挟めずに、成り行きを見守るしかできなかった。


この場で唯一の部外者であるウィステリアは、そもそもシロが誰なのかもわからないため完全に蚊帳の外だ。


「……あー。もうすぐお店閉めるから、終わったらね。

それまでクレープでも食べて待っていたらいいよ」


ユウリのひび割れた瞳に射抜かれ続けているシロは、それでもクレープを焼き続け、売りながら提案する。

まだ何人かお客さんがいるのに、後から来たアオイ達に対してクレープを差し出しながら。


それを見たアオイとウィステリアは、それぞれ微笑みと無邪気な笑みを浮かべてクレープを受け取っていく。


「ありがとうございます。

シロさんのクレープ、久しぶりですね」

「ははは、味は変わってないから安心してねぇ」

「……」


まだシロに胡乱げな視線を向けているユウリは、アオイ達が無警戒に受け取るのを嫌そうに見つめる。

止めたければ力尽くになるためしていないようだが、彼自身は流されず、決して受け取ろうとしない。


だが、代わりにアオイが受け取ってしまったので、最終的には彼もクレープを食べざるを得なくなってしまう。

他のお客さん達にサービスし始めるシロを尻目に、彼女達はベンチに座ってクレープを食べて待った。




~~~~~~~~~~




「もうすぐお店を閉める」とは言われたものの、結局のところ、クレープ屋が閉まったのはそれから1時間近く経ってからのことだった。


ベンチに並んで座る彼女達が、度々申し訳無さそうに追加されるクレープを食べながら待っていると、ようやく休憩中の札を貼ったシロがエプロンを外しながらやってくる。


「やー……遅くなってごめんねぇ。

思ったよりも繁盛しちゃっててさぁ」


髪も肌も、目すらも真っ白い彼は、日光を反射しながら軽い調子で顔の前で両手を合わせる。


謝りはしているものの、口調からもセリフからも謝意は感じられない。むしろ、わざと長引かせたんじゃなかろうか……と胡散臭く感じてしまう程だ。


彼が真似していると言うだけあって、普段のユウリに近しいものはあるのだが、だからこそ、ユウリはより険しい表情で詰問を再開した。


「いいから話聞かせろよ。あんたの言い訳を聞いてやる」

「あの、シロさんが何かしたんですか……?」

「それを確認するんだよ」


アスセーナでは領主の屋敷に向かって以降会っていないので、面識のあるアオイも事情がわからず戸惑うばかりだ。

しかし、事件に関わることで暴走気味のユウリは、彼女の質問をバッサリ切り捨ててしまう。


とはいえ、ウィステリアに至ってはシロが誰かもわからないので、彼女以上に話についていけていない。

ユウリが暴走気味だったこともあり、ウィステリアは強い口調の彼に恐る恐る問いかける。


「えっと、その前にこの人は誰なのかな……?」

「すみません、ウィルは初対面でしたね。この人は‥」

「こいつはシロって名乗ってる怪しいクレープ屋だ」

「あの、不機嫌な理由をですね‥」


ウィステリアが質問したことで、ユウリも事情どころかシロについて知りもしない彼のことを思い出したらしい。

彼はアオイの言葉を遮ってシロを紹介する。


しかし、遮られたアオイが流石にムッとした様子で問うと、少しは落ち着きを取り戻したようだ。

ウィステリアへの説明ついでに、軽く事情の説明を始めた。


「簡単に説明すると、自殺願望あり、アスセーナでの事件後行方をくらました、家は血だらけだった」

「そ、それは……」

「足止めがアオイちゃんの頼みだったとして、他は?

単純な性質の問題か? あんたは敵か味方か? どっちだ」


ユウリが説明したのは、彼が見たことのほんの一部。

ただ自殺願望があるどころか、包丁を渡して催促してくる。


彼が屋敷から帰ってきた時点で、家具ごと消え失せていた。

無人の家は、床どころか壁にまで血が塗りたくられていた。

これらの事実を、簡単に、一言でまとめているだけだ。


だが、断片的でも不審に思うには十分過ぎるほどで、アオイは彼の暴走を黙認する。シロは少し怪しい。

それを共通認識とした3人は、敵意を向けるとまではいかないが、やや警戒の込もった目で彼を凝視し始めた。


「敵か味方か、ねぇ……一緒に戦わなければ味方じゃないって言うなら味方じゃないけど、別に害する気はないから、敵という訳でもないと思うなぁ」

「下らねぇ問答してんじゃねぇよ。順番に答えろ。

自殺願望、行方をくらました理由、家の血は何か。

その次に何でここにいるのか、敵なのか味方なのか」


アオイ達から注目されたシロは、のらりくらりとした態度で言葉を紡ぐ。しかし、暴走気味のユウリがそんな答えで許すはずもなく、改めて項目を並べ、強い語気で尋問する。


アオイとウィステリアは彼に任せるつもりのようで、黙って話の行く末を見守っていた。


「はいはい、仕方ないなぁ。順番に答えてあげるよ。

だけど、ちょっと待ってね。座るもの座るもの……」


まったく弱まらないユウリの圧を見て流石に観念したのか、シロはやれやれと首を振りながら店に引き返していく。

駆け足で戻ってきた彼が持っていたのは、ベンチの前に座るための丸椅子だ。


彼は邪魔にならないように気にしながら椅子を置くと、彼女達と向かい合う形で座って弁解を始める。


「自殺願望については、まぁユウリくんに見せた通りなんだよねぇ。誰だって生きるのが嫌になることはあるし、ワタシはそれがちょっと強いだけだ。問題ないだろう?」

「そうだな、次」

「あの、なんですかその無機質さ……怖いんですけど……」


正直に答えていくシロは、話の途中からユウリの真似をやめて無表情になり、無機質な声で話し始める。

ユウリは二度目なのでスルーしていたが、アオイは若干引いているようだった。


しかし、シロが弁解するべき相手は主にユウリであるため、彼も特に気にせず話を続けていく。


「はい次ー、行方をくらました理由はだなー。

実は残りの理由とも関連するんだけど、ユウリくんを探しに外出て戻ったら、家が荒らされちゃっててさぁ。こんなとこいたくないなってここ来たんだ。以上!

最後のについては、別に必要以上に肩入れするつもりないけど、別にそれだけで敵認定はされねぇよな?」


ユウリに続きを促された彼は、またいつもの明るさを取り戻して2つ目、3つ目と次々に弁解をする。


それも、ただ明るいだけではなく生き生きと。

直前のテンションの低さとのあまりの落差に、自殺願望が際立ちすぎているくらいだった。


とはいえ、アオイ視点では少し病んでる部分もある程度であり、ユウリ視点でも最早ただのヤバいやつだ。

少なくとも、醜悪な黒幕やセファール、リデーレのような敵対者ではない。


たまたまシロの家が荒らされたというのは出来すぎているが、彼の家にはアオイ達が出入りしていたのだから。

敵がセファール商会だったのならば、見張られていたとしてもおかしなことではないだろう。


シロのことを一般通過狂人だと認定したユウリは、先程までの警戒心をほとんど消し去り、強烈にツッコんでいく。


「何だよあんた、紛らわしいな!?

家に招くくらいの仲なら、挨拶くらいしてけよ!?」

「あっはは、そんなこと言われてもなぁ。押し入りなんて、俺が関与できることじゃねぇだろー? 怖かったんだよぅ」

「そこは自殺願望発動しろよ!?」


ユウリの鋭いツッコミを受けてもシロは動じない。

弁解が終わったことで立ち上がりながら朗らかに笑い続け、そのまま店に戻っていってしまう。


彼を見送るアオイ達は安堵すると同時に、彼の狂気の一端を見たことで疲れたようにため息をついていた。



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