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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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7-情報共有

アオイ達が手分けをして情報を集めた翌日。それぞれの場所での仕事を終えた後、ひとまず街外れの宿屋で一泊していた彼女達は、起床後に改めて情報共有をしていた。


「では、まずは私から。教会付近で見たものについて……」


部屋のソファに腰掛けているアオイは、窓から外を眺めているウィステリア、ベッドに寝転がるユウリに向かって自分が見聞きしたこと伝えていく。


アスセーナでの暴動よりも、規模や醜悪さが遥かに増していた暴動、より不安に苛まれて攻撃的になった暴徒達、教会には黒幕がいなかったことなどを。


まったく収穫がなかったとはいはないが、そこまで目新しい情報もない。アオイの話を聞いたユウリは、特に内容に驚くことはなく、ベッドの上から身を起こして彼女自身の心配を始める。


窓際で景色を眺めているウィステリアは、信頼やもう慣れていることからか、ぼんやりと成り行きを見守っていた。


「……それ、大丈夫だったのかー?

もしかして、俺が変わらない方がよかったか?」

「……? いえ、別に大丈夫でしたよ」


だが、当のアオイはユウリに心配されても不思議そうに首を傾げるだけだ。事件の発生源は3箇所で、彼女達も3人。

誰かしらがどこかへ行くことは確定であり、そのどれもに危険はあった。


それに、そもそもアオイを含めてこの場の全員が神秘であり、大抵のことは力づくで乗り越える強さがあるのだから、無理もないだろう。


理解ができないというよりは、必要ない、気にする意味がないという風なアオイに、ユウリも諦めて自分の報告に入る。


「じゃあ次俺なー。俺が歓楽街で調べてきたのはー……」


アオイの対応に脱力した彼は、そのままベッドから体を起こすことなく自身の調査結果を伝えていく。


他の区画よりも遥かに豪華だったこと、人格崩壊が起きていたこと、そういった人の反応的に、アオイがした記憶に関する取引は半強制だったであろうこと。


その人格崩壊は後から付け足されたものではなく、単純に壊されていたこと、セファール商会の経営する娼館付近で特に多かったこと。


さらには、商会の会長であると思われるセファールが、人格崩壊をもたらしていた可能性が高いということまで。


彼が集めてきたのは、アスセーナと同じ症状だったアオイのところと比べて、遥かに目新しい情報の数々だ。

アオイは彼の話を聞くと、少し考え込んでから口を開く。


「取引は商会幹部――リデーレだとして、人格を崩壊させたのは会長のセファール……ということですか?」

「断定はできねぇかなー……あそこで抜け殻になってた人達にも2種類いたんだ。恍惚とした人と完全に空っぽな人。

恍惚の発展系が空っぽなのかもしれねーけど、セファールのやり方じゃ多分、天使ちゃんのケースの説明ができねぇ」

「私のケース?」


ユウリが具体的な理由を述べつつもやや曖昧な答えを返すと、アオイは眉をひそめて問いかける。

その問いを聞いた彼は、ハッとしたように体を起こすと困り顔で自然を泳がせ始めた。


「あぁ。その……セファールは娼館の子達よりも働いてるって聞いた。そこから推察すると、まぁ恍惚としたやつは精気を抜かれたってことになる。けど、天使ちゃんの場合は飛行中だろ? 触れてもないのに無理じゃねーかなって」

「……? 視界に入れた相手から生気を抜くとかではだめなんですか? 必ずしも触れる必要はないと思いますけど」

「いや……うん、そうだな」


はぐらかしながら遠回しに聞いてきたことと考察を伝えていた彼は、アオイが理解していないことを察すると大人しく引き下がった。


昨晩歓楽街に行かせたがらなかったのと同じで、そういった知識もわざわざ教えるつもりはないようだ。

勢いをつけてベッドから飛び起きると、いつも通りの軽薄な笑顔を彼女に向ける。


「まぁ、人格崩壊にも2種類あったから、油断は禁物ってことだよ天使ちゃん」

「……はぁ。説明が難しいなら別にいいですけど」


彼に笑いかけられたアオイも、やや釈然としない様子だったがそれ以上は食い下がらない。

テーブルに置かれたお茶を風で浮かせ、喉を潤してから窓際に視線を向けた。


「最後は天使くんだけど……」


彼女の視線に気づいたユウリは、窓際に佇むウィステリアに声をかける。しかし、両腕を枕にして窓枠へ寄りかかっている彼は、ピクリとも動かず無反応だ。


アオイの風に頬を撫でられ、肩まで伸びた銀髪を揺らしているが、体を支える必要もないからか相当ぼんやりとしているらしい。


というより、もはや起きているかどうかも怪しかった。

彼を見つめていたユウリは、少し待ってみても、その後何度か「おーい」と声をかけてみても反応のないことから、ついには大声で呼びかけ始める。


「……あれ? もしかしてこれ、寝てるのか?

おーっい! 天使くーん!?」

「あぇ……!? あわわ、ごめんねっ!

昨日夜遅くまで活動してたから眠くって」


ほっそりとした両腕に頭を預けて、タイツに包まれた両足をクロスし、実に絵になる姿勢で眠っていたウィステリア。


だが、彼はユウリの大声で目を覚ますと、直前までの本物の天使のような神々しさ、最近の安心感ある落ち着いた雰囲気を消し飛ばし、以前のような弱々しさを見せる。


神秘そのものに……それも聖人になったとはいえ、やはりまだ子どもなのだろう。寿命はないとしても、実際には13年しか生きていない彼に深夜の活動は厳しいものがあったらしい。


慌てて窓際から離れ、アオイの目の前にあるソファに座ったウィステリアだったが、顔はとろんとした表情のままだ。


慌てる彼を見たアオイは、以前と変わっていないことに微笑みを浮かべ、初めてそういった姿を見たユウリも、自分より年下である彼の年相応な姿に朗らかに笑いかけていた。


「あはは、まだ情報共有してるだけだから問題ねぇよー。

……だけど、眠いなら寝とくか? 今は宿屋だからいいけど、セファール達の前でそれじゃマズいからなぁ」

「う、ううん……大丈夫。最近はこういうことも多いし、神秘は案外眠らなくても生きてける。気を、抜かなければ……」

「無理はしないでくださいね、ウィル」

「わ、わかってるって……」


2人から口々に心配されるウィステリアだったが、彼は自分に非があると思っているようで、提案をやんわりと断る。

特に、幼馴染みであるアオイの優しげな視線には居た堪れなそうにしているが、気を取り直して情報共有を開始した。


「じゃ、じゃあぼくが調べてきたものについてだよね。

えっと、ぼくが商店街で見てきたのは……」


恥ずかしさからか若干頬を染めるウィステリアは、ソファの上で居住まいを正すと調べてきたことを伝えていく。


冬なのに肌着だけで浮浪者になっている、数えきれない程の元商人、深夜なのに物陰で密かに取引をしている商人、物質以外を取引する現場と商会幹部――リデーレの名前・手法。


アオイと同じく特に目新しい情報はないが、リデーレの名前や手法、実際に取引されていることの確認など、中々に有益な話だ。


その話を聞いた2人は、案の定この町にリデーレが来ていたことに納得するも、不快そうに顔をしかめていた。


「アスセーナの屋敷で名前だけは聞いていましたが、やはり彼女が不自然な取引をしていたんですね」

「街に入ったら強制的に取引とか、ふざけてんなぁ。

……ていうか、親父陥れたのそいつだよな?

殺されたのは黒幕のせいでも、事件に加担させたのはよぉ」


最初はアオイと同じように顔をしかめるだけだったユウリ。

だが、彼はアスセーナに蔓延した薬物と父親の取引について思い当たると、瞳にひび割れた模様を浮かび上がらせていく。


恨みにより神秘に成った魔人らしく、腰掛けていたベッドを揺らがしながら、今にも周囲を破壊しそうになりながら。

まだぽわぽわしているウィステリアは気づいていなかったが、アオイは風で拘束を始めているくらいだ。


「……かもしれません」

「ハハッ、役職と名前がわかりゃ十分だ。もしまた逃げられたとしても、地の果てまで追いかけて惨殺してやる……!!」

「はぁ……あなた、宿を壊すつもりですか?

感情を爆発させるのは今ではありませんよ」


段々とヒートアップしていくユウリの影響で、宿はギシギシと音を立てていた。流石に看過できなくなったアオイは苦言を呈し、風を強めていく。


「うぐ……!! 悪かった……大人しく、するから風勘弁……!!」

「分かれば良いのです」


風で関節を極められると、暴走しかけていたユウリはベッドに倒れ込み、跳ねながら苦しげな声を漏らす。本来曲がってはいけない体勢で呻くその姿は、誰が見てもキツイ。


そんなつもりはなかても、つい目を逸らしてしまうだろう。

しかし、アオイは表情をピクリとも動かさずに見つめ続けると、満足気にうなずいて風を拡散させていく。


「ふっ……天使ちゃんになら、たとえ天国送りにされても後悔はないぜ……はい、すみません」


ようやく解放されると、ユウリはベッドに突っ伏したままで軽薄につぶやき、アオイに冷たい目線を向けられる。

それを敏感に察したのか、彼は一瞬で謝罪していた。


「あっ、じゃあ気晴らしに散歩に行こうよ。

外ならユウリくんも、周りを気にして暴走しないでしょ」


相変わらずな彼女達のやり取りを見たウィステリアは、苦笑しながら2人に提案した。

全員の気晴らし、ユウリの暴走抑制、昼間の様子の観察など、様々な利点がある提案を。


すると、さっきまでは死体のようにピクリとも動かなかったユウリは、ベッドの反発を利用して飛び上がる。


しかし、いくら神秘でも流石に数分で体は治せなかったようだ。彼は顔を引きつらせて前方へ倒れ込み、風のクッションに受け止められていく。


「お、いいな〜! けど、今体痛ぇー……

天使ちゃん、このまま風で運んでくれよー……」

「……」


甘えた声で頼まれたアオイは、ムッとした表情で彼を見つめる。とはいえ、そうなった原因は自分にあり、風も既に彼を受け止めているため、特に何も言わずに運んでいく。


微笑ましげなウィステリアも彼女達に続き、一行はランジャの町へと繰り出していった。




それから数分後……


「あ……」

「はぁー!?」

「……?」

「いらっしゃー……やぁ、君達か!

久しぶりだなぁ、少年少女!」


夜間のような異変がないか確認しつつ、観光を楽しむ彼女達の目の前には、朗らかに笑うクレープ屋――シロがいた。



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