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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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6-行われる不自然な取引

アオイとユウリが、それぞれの目的地へ向かっていた頃。

同じように別行動をしていたウィステリアもまた、目的地である商店街の目の前に来ていた。


彼はやはり目立たないように翼は使わず徒歩で、夜間で活気のない商店街へと足を踏み入れていく。

そんな彼の視界に映るのは……


「こんな寒い時期に薄着で、しかも寝床もないの……?

もし商人だとしたら、どんな取引の結果で……」


街の入口で見たのと同じく、もう冬でかなり寒くなってきているというのに、着ているのは肌着だけという状態でなぜか草を食んでいる人々だった。


もちろんこんな時間に店は開いておらず、主張する必要もないので明かりなども街灯のみ。

ここにいるのは道端で転がっている浮浪者のみだ。


衣食住のすべてを奪われたかのような浮浪者達は、見た目は完全に美少女である彼に不審な目を向けている。


「……彼らの目には、まだ強い意思を感じるね。這い上がってやろうって、利用できるものは利用してやろうって感じだ」


油断ならない視線に晒されたウィステリアは、改めて気を引き締めると商店街の奥へと進んでいく。

おそらくは商会幹部が関わっているであろうこの商店街で、取引についてや敵についての情報を集めるために。


とはいえ、商会幹部に気付かれるのは黒幕に気付かれるよりも厄介になる可能性が高いので、軽はずみな行動はできない。


ひとまずは商店街の様子を見て回るつもりのようで、彼は誰にも話しかけることなく、黙々と歩き始める。


(ここにいるのは、元商人の浮浪者……

物陰で密かに取引をしている様子の商人……

取引で失敗したのか、必死に相手にすがる商人……)


"リッドスネーク"


ついさっき街の全体像を掴んだ時よりも、さらに数を減らした暗い炎の蛇は、歩くウィステリアに情報を伝達する。

彼の目が届かない暗がりでのやり取りを届け、浮浪者の分布を感知していく。


「多いのはやっぱり奥かな……? でも、現在進行系でおかしな取引をしているような人の姿は見えないね……表向きは。

さて、ぼくが今見ておくべきことはなんだろう?」


他の2人が向かった先と同じように、奥に進むに連れて段々と浮浪者が増えていく商店街を、彼は進む。

周囲を警戒している炎の蛇から、ここに怪しい人物はいないと知らされながらも、まだ何か得られるかもしれない奥へ。


(リッドスネーク、声も聞こえたらいいんだけどな……

いや、できると思えばできるはず。ぼくは炎の神秘。

だったら遠隔操作している炎だって、ぼく自身だ……)


少しずつ道端で身を寄せ合う人達が増えてきている中、彼は密かに神秘のことや目的のことを考える。

この静かな場所で、彼自身が暗がりでの取引現場を探ることは難しく、かといってその他に調べられることなどない。


彼がこの街に巣食う問題についての情報を調べるためには、自身の能力をより拡大解釈し、発展させるしかなかった。

浮浪者に聞かれないように心の中で決めると、彼は商店街に散らばっている炎の蛇に意識を割く。すると……


『本当に得られるんだろうな……?』

『もちろん。リデーレ様は、チャンスを与えると仰っておりました。あなたの財産と引き換えに、ね……』


『対価は感情……よろしいですね?』

『あぁ……わしにはもう財産がねぇからな』

『では、夜が明けたらセファール商会へ行きましょう。

リデーレ様に仲介していただかねば』

『おう……』


『本当に、そんな取り引きをしていいものか……』

『最初の取引にもあったでしょう? 欲望には素直になることですよ。ほら、あなたは欲しいのでしょう……?』

『……わかった。では一応、全財産の半分で……』


彼の頭の中に響いてきたのは、暗がりで行われていると思われるいくつかの取引の声だった。

しかも、その内容は明らかに不自然なものばかり。


全財産をかけていたり感情を取引に出していたりと、もはや商売というよりは賭け事のようなものばかりである。

それが物質だけではなく、感情のような精神的なものにまで及ぶというのだからとんでもない。


リデーレ本人やその現場、証拠などは見つけられないながらも、大まかな内容を知ることのできたウィステリアは難しい顔で引き返し始めた。


「破産も気にせず、精神的なものすら取引に……」


常人では行えない取引内容的に、その取引はどれも商会幹部――リデーレが関わっているものだろう。

どうやら彼女は、セファール商会の部下を使って自らが動くことなく様々なものの取引を行っているようだ。


もとからこの場でリデーレをどうにかする予定はなかったが、部下に持ってこさせるという彼女の方針的に、これ以上の情報を得る可能性も低い。


実際に異常な取引の様子を聞いた彼は、奥へと向かう理由をなくして次の行動に移った。




「こんばんは、少しお話いいですか?」


入り口近くにまで戻ってきたウィステリアは、比較的冷静さを保っている様子の男性に声をかける。

たった1人で道端に座り込む、見た目的にはかなり年老いて見える白髪の男性に。


彼を見定めるようにジロリと睨んだ男性は、自分とは違って小綺麗な格好をしていることに目を留めると、忌々しげに鼻を鳴らして口を開いた。


「……ふん。良いとこの嬢ちゃんにできる話なんざねぇよ」

「まぁまぁ。お礼に温かいパンを差し上げますから」

「……ベーコンかなんかもつけろ」

「もちろんです」


確実に女の子だと思われているウィステリアだったが、いつものことなのでわざわざ訂正することはない。

むしろ、男性に話を聞く場合は利点の方が大きいので、そのまま勘違いをさせたまま話すつもりのようだ。


会話を餌に話す機会を得ると、荷物からパンとベーコンなどの食事を出して男性に手渡した。

もちろん、神秘によって温めてあるものだ。


まるで作りたての食事を渡されて目を見開く男性だったが、空腹だったのか特に何も言わずに口をつける。

彼があっという間に食べ終わったのを見ると、ウィステリアはスカートを押さえながら屈んで質問を始めた。


「最近、おかしなことがあったりしませんか?」

「この街に入るための契約を覚えてねぇのか?

なんかあったとしても、なんとも思わねぇよ」

「んー……では、あなたは物質以外の取引をしましたか?

または、そのような取引の話を聞いたことがありますか?」

「……感情や記憶、みてぇなもんだよな? たしかに最近増えたよ、そういう輩。抜け殻になっちまってアホらしい。

まぁ、全財産を失った俺も強くは言えねぇか」


最初の質問にはぞんざいに答えた男性だったが、少し考え込んだウィステリアが具体的に問うと、真摯に答えていく。

食事に迷わず食いついていたこともあり、一飯の恩はかなり感じているようだ。


男性は精神的な取引をする者をバカにしているらしく、やや棘のある言い方だったが、ウィステリアが知りたい情報を正確に伝えていた。


「ここらにいる浮浪者も、そのような取引の結果ですか?

結構な人数がいると思いますけど、全員が?」

「当たり前だろ。あのクソアマ、あらゆる手を使って商人を搾り取ってきやがるんだ……!!」

「大変ですね……相当力を蓄えていそう」

「つうか、あんたは何だ? 最初の質問的に、これを異常だと捉えてるよな? 契約をしなかったのか?」


話を聞いたウィステリアが少し上の空になっていると、流石に怪しく思ったのか、彼は探るような目で問いかけてくる。

だが、もちろんウィステリアが慌てることはなく、ゆっくりと視線を戻すと唇に指を当て、妖艶に微笑んでみせた。


「秘密、です」

「……そうかよ」


彼の顔をしかめた男性は、ふいっと顔を反らす。

聞きたいことを聞き終わったウィステリアにも、これ以上とどまる理由はない。

軽くお礼を言うと、そのまま商店街を去っていった。



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