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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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5-症状は人格崩壊

すみません、インターンに行っていて余裕なかったです

アオイがまだ暴徒達の間を歩いていた頃。

同じように彼女やウィステリアと分かれて進んでいたユウリは、小規模ながら歓楽街と言えるような店の立ち並ぶ一角にやってきていた。


彼はアオイと違って風の神秘ではないので、普段から移動は徒歩だ。翼を生やせば空を飛べるが、それは元々騒ぎになるため人里ですることではない。


今回歓楽街へ行くのにも、当然自分の足で歩くのみである。

しかし、いつもとは少し違っている部分もあった。

それが何かというと……


「……はぁ。ここにいるよーなタイプとは、ほとんど関わったことねぇんだよなぁ。どーなることやら」


歓楽街を前にしたユウリは、直前まで見せていた、アオイを危ない場所に行かせなかった達成感の名残すら見せない暗い表情で肩を落とす。


普段から軽薄な雰囲気で、朗らかに笑っている彼だったが、どうやら歓楽街には入ったことがないらしく、珍しく憂鬱になっているようだ。


性格的には慣れていてもおかしくはない。

もっと言えばこの空気感が合っているとすら思えたが、彼はなかなか最初の一歩を踏み出さずに入り口を右往左往している。


「あー……いちいち断わんの面倒そー……どうせめちゃくちゃ声かけられるんだよなぁ。変な店に連れ込まれてもウザいし、マジでアオイちゃんと代われてよかったぜー」


十分近く経ってもなかなか歓楽街に入ろうとしない彼だったが、別にビビっているという訳でもないようだ。

強いて言うならば、むしろその逆。


多くの装飾品が壊れている現在であっても、どちらかというとチャラい部類に入るユウリは、声をかけられやすい。

そのことを自分でもよく理解しているから、単純に煩わしくて嫌がっているというようだった。


さらには、ここの歓楽街にも嫌がる理由がある。

一体どんな理由なのかと言うと……


「しかも、なんだよこの悪趣味な看板。たしか……ネオンって言うんだったか? 科学製品は神秘ですぐ壊れるってのに、よくやるなぁ。何の変哲もない街なのに実は金持ちか?」


歓楽街の入り口、多くの店の上に掲げられた看板だ。

ランジャは大都市という訳でもないので、もちろん入り口にかけられた看板もそう派手なものではない。


だが、この街の歓楽街はなぜかかなりの大金をかけられているらしく、すぐに壊れる科学製品――電灯なども使っていた。

大都市程に華やかさはないが、その分ギラつく照明によって存在をアピールしているのである。


さらには、入り口から見ただけでも多くありそうだと察せられる、いかがわしいお店の数々に呼び込み。

興味がないのであれば、明らかに誰でも避けるであろう区画だった。


そしてもちろん、彼はそういった店に興味はない。

現在は仇を追っている最中であるし、そもそも彼はアオイと仲を深めようとしている最中だ。


どう考えても店に入る理由はなく、むしろ入らない理由ばかりがあるのである。


「……ま、商会が関わってんだろうけどさ。

こりゃあますます怪しいというか、入らなきゃだな……ダル」


とはいえ、この街に巣食う問題の把握や解決、黒幕や商人らの断罪が目的である以上、いつまでもただ見ている訳にもいかない。


歓楽街にだけ異常にかけられた金、明らかに様子のおかしい男女の姿、抜け殻のように道端で虚空を眺めている人々などから、仇の関与を推察した彼は意を決して足を踏み出した。


「……臭ぇ」


すると、歓楽街に入った彼の鼻を襲うのは奇妙な香り。

度々香水を使う機会もあったであろう彼が、思わず顔をしかめて鼻を押さえる程の異臭だ。


しかもそれだけではない。心なしか彼の視界も、モヤのようなもので覆われ視線を遮られ始めていた。

うんざりした様子のユウリは、ほんの少しだけ能力を使って邪魔なモヤを破壊していく。


「よくわかんねぇけど……いるよな、これ」


わずかに晴れた視界により、彼の目は外から見ていたよりもはっきりと異変を捉える。もちろんここには暴徒はいない。


だが、心がないかのように糸の切れた人や、ピクピクと痙攣しながら恍惚とした表情を浮かべている人がいるのも、異常と言って差し支えないだろう。


近場で座り込んでいる糸の切れた男性を見た彼は、周囲への警戒を高めながらその男性に近寄っていく。


「おーい、あんたどうしたんだ?

意識はあるようだけど……」

「……あー」


ユウリが男性に話しかけると、彼はどこも見ていないままでだらりと開けた口から音を漏らす。

意識はある、呼吸もしている。しかし、本当に人格が壊れているのか、彼はまともな反応を返さなかった。


「……人格が崩れた、ねぇ」

「あー……は、い……」

「この感じだと、記憶に関する取引も半強制的か……」


その男性の様子を見たユウリは、少し前にアオイから聞いた話を思い返す。


彼女が空を飛んでセファール商会を追っていると、突然人格が崩れたのだと。墜落した先で商人と取引をし、記憶を対価に正常に追う権利を買ったのだと。


取引については歓楽街に関係なさそうだが、人格が崩れたというのは現在のこの男性の症状そのものである。

この歓楽街には、セファール商会の幹部に与する者が来ていることがほぼ確定だ。


しばらく考え込んでいたユウリは、思考を終えるとおもむろに右手を男性に突き出した。


「その症状が、俺に破壊できるのかはわかんねーけど……」


手に平に神秘を込めていく彼は、どうやら男性を治そうとしているようだ。もしもアスセーナと同じく原因がある症状なら、その原因を破壊することで元に戻せるかもしれない。


そんなかすかな期待を込めて、彼は"破壊された平穏(カマエル)"の力を使う。しかし……


「……やっぱ無理か。これは元々壊されてる症状だ。

治すために壊す部分がない。人格崩壊は、俺じゃ治せねぇ」


男性には一切の変化が見られず、変わらず虚空を見つめている。ユウリのやったことは徒労に終わった。


とはいえ、収穫もなかったという訳では無い。

治せなかったという事実から、わかったこともある。

これがアスセーナにばら撒かれた薬物ではなく、おそらくは神秘による被害だということだ。


男性に何もしてあげられないとわかったユウリは、静かに声をかけると、そのまま自分の目的を果たすべく歓楽街を進み始める。


「悪いなあんた。元凶を殺して、きっと元に戻してやっから。それまで我慢していてくれ……」


ひび割れた瞳を強く輝かせながら、ユウリは歓楽街の奥へと向かっていく。数歩進むごとにかけられる声をスルーして、この区画に蔓延る異変を観察しながら。


(暴動は……不安に苛まれる人はなし。ここにあるのは2種類の人格崩壊。さっきのような空の抜け殻か恍惚とした抜け殻。

割合としては恍惚の方が多いし、恍惚の発展系が空の抜け殻か……? 抜け殻になった人の数は奥に進むほど増える……)


彼の視界に映るのは、そこら中で倒れている抜け殻になった人達。暴動はないので一見平和な光景ではあるが、ここまで自分を見失うのは明らかに異常だ。


彼はより抜け殻になった人達が多い方を目指し、呼び込みを無視して歓楽街を進む。段々と症状の見られる人は増えていき、やがて辿り着いたのは……


「この店を中心にして、抜け殻になった人達は倒れてるな。

向こう側の抜け殻は減ってるし、全員がここから出てきたという訳じゃなくても、関係はありそうだ。誰か話を……」


この歓楽街で最も豪華そうな……というか、実際に豪華な娼館だった。ランジャの町に似つかわしくないその城のような店は、もはや商会の息がかかってなければおかしいレベル。


中からは時折、性別関係なく抜け殻となった人達がゴミのように運び出されてくるので、確実に元凶がいる。

ただ、運び出されてくる割合としては男性の方が多いので、この状況を作っているのは女性である可能性が高い。


敵の人物像に目星をつけたユウリは、近くで事情を聞けそうな人を探して視線を巡らす。

恍惚とした女性、ベンチの上に放り出されている女性、空になった男性、興奮気味な男性。


そして、やや体を痙攣させながらも比較的正常そうな女性……

話せそうな人を見つけたユウリは、いつも通りの軽薄な笑顔を浮かべてその女性に話しかけていく。


「こんばんは、綺麗なお姉さん。

時間があるなら、ちょっと話さない?」

「きゃっ……!? あ……え、えぇ。

別にひぅっ……いい、わよ……少しだけ、ね?」

「……ありがとう」


ユウリに話しかけられた女性は、目に見えて頬を染めて誘いに応じる。最初はかなり驚いていたようだが、彼の顔を見たからか、時折体を痙攣させて怯えながらも、質問に答えていた。


よそ行きの笑顔を見せるユウリは、落ち着きなく周囲を確認している彼女の警戒を解くよう雑談から始め、やがて本題に入っていく。


「この店、他とは違うみたいだけど何か知ってる?」

「え、えぇ。このお店は、歓楽街を作ったセファール商会が……うぅ、経営している娼館よ。特別豪華、でしょ?」

「なるほど……もしかして、すごい娘でもいるのかなぁ?

他のお店よりも繁盛していて、皆満足気に帰っていくけど」

「そう、ね……このお店には、最近はよくセファール商会の……会長である、ぐすっ……セファール様がいらっしゃるわ。

彼女は……お店の娘達以上に、楽しんでおられるのだとか……」

「……へー、そうなんだ。ありがとね、お姉さん」

「え、えぇ……」


ユウリは欲しい情報を聞き出すと、すぐさま話を切り上げて視線を外す。頬を赤らめていた女性は、少し残念そうに肩を落としながらも大人しく去っていった。


周囲に正常な人がいなくなったことを確認すると、ユウリはセファール商会の経営する娼館を見上げて呟く。


「セファール商会の会長、セファールねぇ……

黒幕との繋がりに、神秘でもおかしくない立場。さらには、抜け殻の出てくる娼館に居座るとくれば、これはもう……」


娼館で店のスタッフよりも楽しんでいるという、セファール商会のトップ。ユウリの見立てが間違いではなければ、この区画に見られる人格崩壊の元凶は彼女なのだろう。


敵の1人を見つけ出したユウリは、ひとまずは他の2人に情報共有するべく、娼館に背を向けて歩き去った。



3日にもあるかもなので、夜に投稿しようと思います

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