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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策3 聖邪の対立

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2-諸悪の根源を追って

アオイ達が激突の跡地を出発してから数日後。

天使のような翼により空を飛べる彼女達は、大した苦労もなく目的地であるランジャの街に辿り着いた。


しかし彼女達の予想では、この街に黒幕の一派がいる。

もちろん、黒幕やセファール商会の人間に気づかれる訳にはいかないため、直接町中になど降りられない。


そうでなくても、いきなり空から人が降ってきたら騒ぎになるはずなので、彼女達が降り立つのは町から少し離れた位置の小高い丘だ。


さらに警戒に警戒を重ね、真っ先に降り立ったウィステリアは、何の変哲もない街を目の前にポツリと呟く。


「さて、噂の街ランジャに到着した訳だけど……」


視線の先にあるのは、とても噂通りの不思議で不気味な事件が起きているとは思えないような、普通の賑わいを見せる街。


立派な領主の館や煉瓦造りの塔などがあったアスセーナよりも質素ながら、より住民同士の距離が近く感じられる、親しみやすく活気のある街だ。


しばらく街の様子を観察していた彼は、続いて降り立ってきたアオイに問いかける。


「……アオが聞いた噂って、本当にこの街のこと?」

「そのはずですが……おかしいですね」

「だよね。ここの話じゃないなら噂が広まってるの怖いし、ここの話だったならこんなに普通なのが怖い。

どちらにせよ、嫌な感じがするよ。風は使える?」


訝しげにしながらも、自分が集めてきた情報を疑いきれない様子のアオイに、彼はこの街の不気味さについて語る。


前者なら誰かしら――おそらくは自分達に向けた罠だったり、単純に町人への悪意、後者なら住民の精神状態が異常。

アオイが受けた取り引きのこともあるので、可能性としては後者の方があり得るのかもしれない。


だが、たとえ真実がどっちだったとしても、彼女達にとってろくな事ではなく、不快感を覚えることに変わりなかった。

それを見極める材料にするため、彼に頼まれたアオイは上に向けた手のひらの中で風を循環させ、情報を集めていく。


"風のたより"


「アスセーナでも一部能力が封じられていましたが、ここでも少し違和感がありますね。風のたよりが届きません」


しかし、やはりこの街でも彼女の能力は一部封じられているらしく、しばらく風を集めていた彼女は首を横に振る。

見た感じ風自体はちゃんと流れてきているのだが、その中身は何一つなく、大した情報は得られないようだ。


とはいえ、アオイもこの状況自体は前回で体験済みである。

特に慌てることはなく、黙ってランジャの喧騒に自分の耳を傾け始める。


「ここから聞いている感じ、普通……なんですよね。罠なのか、それだけの異常事態なのか……もう少し様子見ますか?」

「まービビっててもしょうがねぇだろ?

とりあえず街に行ってみようぜー」


神秘の風に頼らず、自分の耳を使って情報収集を行っていたアオイが慎重な提案をすると、最後に地上に降り立ってきたユウリが軽薄に軽率な提案をする。


それを聞いたアオイは、あからさまにげんなりした表情を彼に見せた。普段から表情がまったく動かないということはないが、彼女がここまで表に出すのは珍しい。

ジト目を向けており、今にも口論が始まりそうな雰囲気だ。


もちろん、ウィステリアは最終的に相手のを尊重し、もしも危なくなれば自分が守るというスタンスなので、揉めれば間に入るだろう。


2人もそう熱くなる性格ではないので、そう白熱したものにはならないはずである。そのため彼女達は、特に敵に気づかれる心配もなく、理性的な議論を始めた。


「あなたには危機感がないのですか? 敵は何かしら仕組んでいる可能性が高いというのに、思考を放棄して突入するなど愚の骨頂。仇を取る前に死にますよ?」

「危機感あったら復讐なんてしねーもんだぜ、天使ちゃん。

それに、敵が何か仕組んでるってんならそれこそ実際に見てみなきゃだ。騒いでる騒いでないで判断なんかできるかよ。

死ななくても仇取れなきゃ意味ねーだろ?」


アオイが冷たい口調でユウリに言い聞かせていくと、彼は彼で軽薄な笑みを浮かべながら反論し始める。


だが、彼はアオイの意見に納得できないというよりも、こうして再び彼女と言い合えることが嬉しいようだ。

彼が浮かべるのは彼女の鋭い言葉を受け流すための笑顔ではなく、明らかに嬉しそうな笑顔だった。


この状況に見合っていないが、たとえ勘違いからでも、一度は敵対してしまっていたのだから無理はない。

彼とは違って表情を崩さないアオイですら、やはり薄っすらと微笑みを浮かべているのだから。


「……ですが、今すぐ行くのは話が別です。

長く様子を見る必要がないにしても、一呼吸置きましょう」


軽率な行動にはなるが、たしかに現在地から観察していても埒が明かない。素直にその意見を受け入れたアオイは、表情を動かさずに冷静に問う。


しかし、ユウリは彼女とは違って意見を受け入れるつもりはないようだ。普段通りに振る舞ってはいるが、見た目以上に余裕なく反論を重ねていく。


「いやいや、ここにとどまって何するんだよ。

どのタイミングだろうが、入る時は気をつけて……だろ?

警戒して侵入すりゃいいって。速く殺しに行こう」

「あなた……」


反論する勢いでついにこぼれた彼の本音に、アオイはわずかに眉をひそめる。口元に浮かんでいた微笑みも消え、冷静沈着な表情も歪み、辛そうに彼を見つめる。


ユウリは彼女がなぜ顔色を変えたのか理解できていないらしく、不思議そうにしているのがより痛ましかった。


「とりあえず、夜まで待ってみようよ。待つだけでも様子はわかると思うからさ。いつ起きるのか、とかね」


黙り込んでしまった彼女達を見ると、成り行きを見守っていたウィステリアは折衷案を出す。


アオイとしては数刻でも様子を見ることができ、ユウリとしても長時間飛行で疲れた体を休める時間になる。

どちらの方針も取り入れた、現時点で最善の案だ。


しかし、精神的な余裕がないユウリは、やはりすぐにはうなずかない。彼の案に対して、すぐさま反論を始める。


一応は冷静に思考できてはいるようだが、もはや今すぐ仇を探し出したいという願望を隠そうともしていなかった。


「昼普通なのは、夜しか事件が起こらないからってことか?

だとしたら、なおさら今行った方がよくね?」

「ぼくが君と話したいんだ、ユウリくん。

ぼくって、お友達がアオともう2人しかいなくてね。

男友達って初めてだから、もっと仲良くなりたいんだよ」

「……まー、そういうことならいっか。暴走してる間、結構見守ってもらったし。けど、別に異性の友達なんていなくてもおかしくないと思うけどなぁ」


彼に反論されたウィステリアは、行動の良し悪しでは納得させることができないと察したのか、説得方法を変えた。

間髪入れずにユウリ自身への友好的な態度を見せ、自分をだしにとどまる理由を作る。


親睦を深めたいという彼の言葉は、流石のユウリも無下にはできない。渋々ながら折れることとなり、脱力してその場に座り込む。


彼女達は完全に歓談をするモードになり、町への侵入は夜になってからに決定だ。顔を歪めていたアオイも、それを見てホッと一息つくと、跡地の時と同じようにお茶の用意をしていく。


だが、彼らの間には1つだけすれ違っている部分があった。

それはもちろん、ウィステリアが男の娘であるということである。


男友達を異性の友達だと思っている辺り、ユウリは確実に彼を女の子だと認識していた。

たしかに、見た目だけで言うのならば間違ってはいない。


しかし、実際は彼が男らしくないということでいじめられ、その対策として数少ない友人にこの格好を勧められただけで、特に女の子だと見られたい訳では無い。


スカートを押さえて女の子座りをした彼は、少し申し訳無さそうに事実を告げた。


「えと、ごめんね……ぼく男なんだ」

「はぁ!?」


ウィステリアの告白を受けたユウリは、もちろん驚愕する。

目をまんまるに見開き、顎が外れそうなほど口を開け、いつも通り大袈裟に体を反らせる。

彼の反応を見て、逆にウィステリアも驚いてしまうほどだ。


お茶の準備をしながらその様子を見たアオイは、気づかれていなかったことへの感心、相変わらずなユウリの大袈裟な動きなどに笑みをこぼしていた。


「え、なんで……!? 女装……?」

「ぼく、実は女々しいっていじめられててね。初めての友達に、なら逆に可愛くなれってこんな格好させられたんだ。

多分その子がいたからだけど、それからいじめは減ったし、慣れちゃったし、このままでいいかなって」

「へぇ〜! 良い出会いをしたな〜! 大切にしろよー」


思いもよらないことに言葉をなくしていたユウリだったが、彼がその格好をする理由を話すと、途端に目を輝かせる。


彼からしてみれば、実際にかわいいウィステリアが女の子の服を着ることよりも、辛い状況から助けてくれた人がいることに心惹かれるようだ。


その言葉を聞いたウィステリアも、聖人として、自分という存在の核となっている部分なので迷わず頷いていた。


「もちろんだよ。ぼくはあの子を対等に扱い、輝きに憧れ、でもその弱さを肯定して守るんだ」

「ふ〜ん……なら、天使ちゃん2号じゃなくて天使くんにしよう! これからよろしくなー」

「アオ、よくそのあだ名を許したね……」


アオイのあだ名が天使ちゃんだから、同じような翼を持った神秘で、実は男の子だったウィステリアは天使くん。

本当に女の子だったら2号になっていた辺り、彼が女の子ではなかったことに感謝できる、数少ない出来事だろう。


天使くんというおかしなあだ名を付けられたウィステリアは、拒否はしないものの、お茶を持ってきたアオイに弱々しく声をかける。


「ユウリ・アキレギアさんのことですから。

あと、ウィルの格好と同じで慣れたしまぁいいかなって」

「あはは、アオはアオでフルネーム……

君達の距離感、よくわからないなぁ」


見た感じ、お互いにお互いを信頼し合っているように見えるが、アオイが彼を呼ぶのに使うのはフルネーム。

対して、ユウリがアオイを呼ぶのに使うのはは奇抜なあだ名で、なぜか本人も許している。


距離感が近いのに遠いという不思議な関係に、ウィステリアは思わず首を傾げていた。

とりあえず言えることは、もはや家族なのではないか? と言える程に気のおけない関係ということだ。


自分でもそう思っているのか、そうなりたいと思っているのか、彼の言葉を聞いたユウリは、アオイに笑いかけて仲良しだということをアピールしていく。


「めちゃくちゃ仲良いってことは確かだなー」

「殺し合ったのに、ですか?」

「だからこそだろー」

「……」

「ちょっと天使ちゃーん!?」


だが、呆れたように微笑むアオイはYESともNOとも答えない。ランジャの街付近の丘では、どうしても彼女と仲良くなりたいユウリの絶叫が響き渡っていた。



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