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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策2 自由なる風の旅路

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22-醜悪な扇動の結末

「風も、お前も、すべて破壊する……!!」


"ディザスターエクスプレス"によって一瞬のうちにアオイに接近したユウリは、空気抵抗などを受けない勢いのままに、彼女の腹部を殴りつける。


ユウリは破壊という神秘であるため、その一撃はもちろんただ殴っただけではない。至近距離から破壊されたアオイの腹部は、神秘の丈夫さを貫かれて崩れ、和服の切れ端どころか血肉をまき散らすことになった。


同時に風もかき消された彼女は、殴られた衝撃によって背後に吹き飛ばされ、球体を囲う壁に激突していく。


「ぐふっ……!! 速い上に、威力も……!! ですが……」


しかし、アオイもまた彼と同等の神秘だ。ユウリに殴られ、破壊され、その勢いで壁まで吹き飛ばされながらも、彼女はそれに対抗するべく風を操っていた。


ほとんどの風は破壊されているものの、壁にめり込んだ体を引き抜く彼女の視線の先には、風に拘束されるユウリの姿が。


"アトマスフィア・コントロール"


風であれ何であれ、あらゆるものを破壊するユウリではあるが、相手を殴るくらいに近くまで来ていれば、包み込むのはそう難しいことではない。


現在の彼は、アオイに破壊的な打撃を食らわせていながらも、その代償に全身を破壊できない規模の風に包み込まれて身動きを封じられてしまっていた。


「ぐっ……!! 破壊して、破壊しきれねぇ……!!」

「私の不自由、あなたの不自由……さぁ、覚悟してください」


"赤爪の風鷹"


大気を支配してユウリを捕らえているアオイだったが、彼は身動きが取れないながらも風の破壊を続けている。しかも、破壊は彼に近いほど大規模であるため、普段ならばそのまま捻り潰すところを防がれてしまっていた。


そのため、彼に止めを刺せないアオイは、赤い爪を持つ鷹を風で創り出し、彼に差し向けていく。

赤い爪の部分に火薬を仕込み、衝撃によって爆発を引き起こす神秘の自動追尾兵器を。


「この拘束、邪魔だァッ……!!」


ユウリの破壊は、不可視で球体状の領域中に及んでいる。

だが、同じ神秘である風はそう簡単には破壊できないため、彼のもとには続々と風鷹が衝突していく。


おまけに、彼の周りには"アトマスフィア・コントロール"によって障壁が作られているのだ。自分の体に近い、より威力のある破壊は風鷹までは届かない。


彼は身動きもできず、防ぐこともできず、同じ風としてすり抜けてくる風鷹の衝突と、爆発をその身に受け続けた。


「ゴホッ……!! 焼ける、けど……風は揺らいだぞ、アオイ!!」


だが、風鷹の引き起こす爆発は、ユウリを拘束していた風に少しずつ影響を与えていく。彼の周囲で固定されていた部分は外で動く部分に流され、隙間が生まれる。


隙間が生まれれば、彼の抵抗も防がれることはない。

一気に破壊することはできないながらも、一体、また一体と風鷹は爆発四散していった。


さらには、その爆風も相まって、着々と風の拘束は解かれていく。風が揺らげば揺らぐほどに破壊が大規模になるので、彼の完全解放も目前だ。


「ハハッ、一度出ちまえばこっちのもんだ!! 爆発する鷹も、風の檻も、全部破壊し尽くしてやる……!!」


やがて、アオイが支配する大気の影響下を逃れたユウリは、ひび割れたような瞳で標的を見据える。

風鷹を生み出し操っていた彼女は、風の操作に意識を割いていたためまだ球状に2人を包む壁の近くに。


自らが破壊したものを、破壊の影響下、破壊そのものであると拡大解釈しているユウリは、容赦なくその牙を剥いた。


"カタストロフ・クラフト:ランス"


「っ……!?」


ユウリが繰り出したのは、球状の壁から生み出す破壊された粒子の槍。槍を構成するのは破壊した岩や木々等だったが、それぞれの大きさがまちまちである上に、彼の意思によって自在に変化するため、避けるのは至難の業だった。


さらには、槍を向けられるのは球状の壁に囲まれた時も離脱が間に合わなかったアオイだ。

腹部を破壊され、壁にめり込む勢いで激突していたことで、ダメージもかなり蓄積している。


彼女はユウリの言動から慌てて壁を離れるも、当然逃れることはできずに槍をその身に受けてしまった。


「ぐぅぅ……!!」

「拡がれ、破壊!! 塵となれ、堕天使……!!」

「あぁっ……!!」


背後から槍に突かれるアオイは、槍が突き刺されている横腹と羽を少しずつヒビ割らせていく。


どうやら、破壊そのものと拡大解釈された粒子の槍なので、それに触れたアオイ自体にも破壊は伝播するようだ。

ひび割れた皮膚は次々に剥がれ、血すらもパラパラと粉のように暴風に舞っている。


また、腹部まで完全に貫通しているため、この向きでは抜いて体勢を立て直すこともできなかった。

彼女は飛び立った体勢のまま、それを追って突き刺された槍にどこまでも高く運ばれていく。


「あぅぁあぁっ……!!」


"ジャック・タービュランス"


だが、アオイもただでやられている訳ではなかった。

全身から吹き出す彼女という神秘の風は、突き上げられながらも順調に領域内に広がり、その槍に混ざっていく。


完全に静止することはできない。

しかし、少しずつ……少しずつスピードを弱めていき、ついには風による加速で無理やり槍を抜くことに成功する。


"ジェットブラスト"


背後から風を吹き出すアオイは、槍を置き去りにして空を舞う。何箇所も穴が空き、ボロボロと彫像のように皮膚の欠片をこぼしながらも、風で動きを補助してユウリに向き直る。


「くぅ……!! はぁ、はぁ……私は、サポート特化なのですが……!! 自由の、ために……!! あなたを……!!」


既に彼女は満身創痍。ユウリを忘れていたことから、内面は戦う前からダメージを受けており、体の方も神秘でなければ死んでいる程に破壊されていた。


だが、それでもアオイは自由を渇望する。

右手に握られた扇子を優雅に扇ぎ、さらに強まった歪みが渦巻く瞳でユウリを睨む。


その背後に現れたのは、風で形作られた羽のある少女。

天使のような翼を持つアオイを、風でより大きく作ったような妖精だ。


"シルフィードブレス"


"スカイチェーン"


"鳳爆雨"


アオイが扇子を振るうと、妖精は彼女を守るように包み込みながらも、両手から風の息吹を放つ。

同時に、アオイ自身も眼下のユウリに向かって、風で生み出した数多の鎖と鳳を。


天と地を繋ぐような風の鎖は、無軌道に彼に向かって殺到すると、彼の生み出した槍や風に対抗して作られた防壁を縛り付けた。


もちろん、破壊はこの領域自体で周囲のすべてだ。

槍や防壁を止めたとしても、息吹や鎖、鳳が破壊されなくなることはない。


とはいえ、物質として存在するのとしないのとでは、しない方がいいに決まっている。実際の脅威度がどうあれ、防壁にまでなってしまっているのだから、止めるべきだった。


実際、形を持った破壊のすべてが動きを封じられている間に、鳳は障壁を避けて標的に向かう。

いくつかは破壊されて四散しながらも、形を持った破壊を封じている分、より多くがユウリに殺到していく。


妖精の息吹も同様で、鳳の勢いを増すように、彼の全身を叩きつけるように前方に吹き荒んだ。


「ぐ……ううあッ……!!」


彼女に抵抗しようと防壁を作るも、そのすべてを鎖で縛り付けられてしまったユウリだ。もはやそれを防ぐ術はなく、彼は荒れ狂う暴風に身を曝すこととなる。


直撃する度に炸裂し、爆弾のように皮膚を引き裂いていく風の鳳、単純な風圧によって呼吸を阻害し、全身を叩く妖精の息吹。


これらを受け続けることになったユウリは、みるみるボロボロになっていく。槍に貫かれたアオイ程ではないが、当たりどころの悪かった部分は歪に曲がっていた程だ。


「ぐッ……!! アオイーッ!!」

「はぁ、はぁ……!! 滅べ、自由の敵ッ……!!」


アオイの体力切れで攻撃が途切れた頃、手足がおかしな方向に曲がっているユウリは、ひび割れたような瞳に憎悪を込めて向けて叫ぶ。


すると同様に、アオイもまた歪みの渦巻く瞳を彼に向ける。

彼らは互いに互いを思っていたはずが、現在は、ただ排除すべき敵としてしか見えていないようだった。

しかし……


"ディヴァイン・スヴェート"


どちらも満身創痍ながら、互いを滅ぼすべく羽ばたこうとする直前、彼女達を囲っていた球状の壁が破られる。


彼女達の目に飛び込んできたのは、破壊を宿した壁をバターのように軽々と斬る炎の剣。


世界を焼き斬るような巨大すぎる炎の剣だ。

そして、その炎の発生源にいたのは……


「ごめんね、困ってるおばあさんを助けていたら、少し遅くなっちゃった。あと、壁も邪魔で……あれ?」


金色の翼を羽ばたかせ、全身にも鎧のように金炎をまとっているウィステリアだった。


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