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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策2 自由なる風の旅路

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18-少女を形作った地

ここ数日をアオイと過ごしていたユウリは、彼女から色々な話を聞いていた。今までのこと、夢、願い、何を思っているかというようなことまですべてではないが、それでも。


このアスセーナという街で、ほとんど唯一と言っていいほどに貴重な友人である彼は、彼女が"自由を望む風(ラファエル)"という風の呪いを得た理由や方法も、ほんのりとだが確かに聞いていたのだ。


「マンダリン……堕天使ちゃんの、故郷……」


アオイが神秘に成った場所は、故郷のマンダリン。

レーテーという老人に自由を奪われたといったきっかけはあるが、大本の原因は精霊の果実を食べたからだ。


"友を護る神秘の樹(セフィロト)"という名の精霊の果実を食べたアオイは、人のままで強力な神秘を扱える仙人になり、そして強い感情により神秘そのものである魔人に成った。


なればこそ、自分も。既に神秘に成りかけているとしても、無理やりその変化を押し込めてでも、焦がれた彼女と同じ物を得ようとその町に向かう。


そう、アスセーナからその身一つで全力疾走していたユウリは、アオイの故郷――マンダリンを目指していた。


「蜜柑という、精霊……人を強める、精霊……」


現在の彼は、もう立派な神秘だ。

自然に生きていないはずの人間だが、自然に生きる獣の生存本能並みに強い感情により、大自然の一部となっている。


そんな彼だからこそ、ただ走るだけでも疾風のように速く、さらには普通の生物よりも長く走り続けられていた。


「みかんの木の、精霊……名前は、蜜柑……」


走り続けることわずか数日。

アオイに神秘の力を与えた精霊の名を呟くユウリは、彼女の故郷マンダリンへと辿り着いた。




~~~~~~~~~~




アオイがアスセーナを去って空を飛んでいた頃。

ユウリがアオイへの憎しみから力を求めて走っていた頃。


ビオレ奴隷商会を退け、伐採対策を終えた蜜柑とその眷属達は、マンダリンで穏やかな日々を過ごしていた。


『寒い……日の光がめちゃ暖かい……』


現在の季節は、冬が近づいてきた寒々しい秋。

マンダリン付近の丘の上で野ざらしにされているみかんの木である蜜柑は、日の光で暖を取り、光合成をしていた。


その根本にいるのは、木で服を着られない彼女とは違って、見るからに暖かそうな服を着ている女の子……のように見える少年――ウィステリア。


彼は友人にかわいい格好を求められ、スカートを穿いているのだが、もう慣れたものでタイツを穿いてしっかり寒さ対策をしている。


おまけに彼もまた神秘……それも炎の神秘であるため、指先に炎を灯したりと蜜柑よりも遥かに暖かそうだ。

まだ本格的な冬ではないのに寒さにで震えている蜜柑に対して、ウィステリアはたまに火を灯して快適そう。


この差を見せつけられた蜜柑は、しばらくしてから足元に腰を下ろしている少年に声をかけた。


『ねぇ、リア。私も寒いから燃やしてくれない?』

「いやだよ。確かに、ぼくの炎は燃やさないこともできるけど、だとしても目立つんだから。

ただでさえ、聖人様だーって変な目で見られ始めてるのに」

『あはは、余計に仕事なくなったね。

ガーベラは変わらず朝仕事してるのに』

「悲しくなること言わないで……」


ウィステリアにすげなく断られた蜜柑は、木であるため表情が見えないながらも、彼の嘆きをニヤリと笑う感じでもう1人の友人の名前を出す。


今この場にいないガーベラという少女は、神秘に成る前から仕事を手伝っていたので、ウィステリアと違って居場所がある。


神秘に成る前も成ってからも、役立たずであることを気にしていたため、彼はその言葉を聞くとうなだれてしまった。


しかし、神秘に成ったということは仕事がある以上に誇らしいことだ。既に別の役割もあるためすぐに気を取り直すと、今蜜柑が困っていることに対して1つの提案をする。


「というか、寒いなら人型になればいいんじゃない?

人型なら服着てるし、火にも当たれるよ」

『それに、リアとくっつけば暖かいね、うん』


ウィステリアの提案を聞いた蜜柑は、幹を大きく反らして、葉の音をさわさわと奏でながら頷く。

くっつくと聞いて、提案者であるウィステリアは少し困り顔になっていたが、彼女は気にせず全身を発光させる。


それはどこまでも神秘的な輝きで、太陽が空と地を繋げたかのような神々しさ。光が収まった後、思わず目を閉じていたウィステリアの目の前には、白無地ドレスに白い翼を生やした、天使のような少女が立っていた。


『みかんの木から離れるのは久しぶりだから、結構晴れやかな気分〜! 木の体は落ち着くけど、ちょっと窮屈』

「だったら、普段からその姿でいたら?

人型ならガーベラの家に泊まれるでしょ?」


やはり木の体では人の体ほど自由には動けないようで、言葉通り思いっきり伸びをしている蜜柑に、まだ瞬きを繰り返しているウィステリアは続けて提案する。


普段は村に根ざす木の精霊として常にこの丘に鎮座している彼女だが、別に誰かから強制されている訳でもない。


おまけに、元々動物である神獣と違って、精霊が人型になる場合は魂が形を持つように実体化するため、消えて騒がれる心配もないのだ。


ウィステリアの提案は至極当然のものだと言える。

しかし、蜜柑からしてみると体を放置したままになるので、やはりあまり気乗りはしないらしい。

彼の言葉に頷きながらも、微妙な表情をしていた。


『そーだよねぇ……お泊りするのは楽しそうだよねぇ……

でも、普段からこの状態はちょっとなー。

何かあるなら常にこれでもいいけど、今の私は木だし』

「あの、抱っこするのはやめてくれない? 蜜柑お姉さん。

ガーベラがムッとしちゃうからさ……」


やんわりと断りながらも自然にウィステリアを持ち上げて、膝の上に乗せてしまう蜜柑。

あまり邪険にできず、されるがままになっている彼だったが、彼女の腕に包まれながらも控えめに主張した。


だが、男の子にしてはどころか、女の子も含めたこの年齢の子どもにしては華奢な彼なので、サイズ感はちょうどいい。

大きめなぬいぐるみよりも遥かに抱きやすく、蜜柑は彼を逃さないままで笑いかける。


『えー、いいじゃん。ちょうどいい大きさなんだから。

寒いし。ガーベラが来たら、あの子も抱っこするよ?』

「……ぼくだって、今に大きくなるんだからね?

寿命がなくなったからには、どれだけ時間をかけても」

『はいはい、そうなるといいねー。ガーベラの背が少しずつ伸びていく中、まだ140センチくらいのリアちゃん。

実際の背ってどれくらいなんだっけ?』


筋骨隆々の大男ではないどころか、年上とはいえ華奢な女子に抱っこするのにちょうどいい大きさ……つまりは彼女よりも華奢だと言われた彼は、ムッとした表情で振り返る。


しかし、家族のように親密で、普段から彼とは似たようなやり取りをしている蜜柑だ。軽くいなしながらからかい、今の身長を聞いていく。


すると、ウィステリアはパッと顔を前に戻してから、少し間を開けてから彼女に身長を申告した。


「……あと少しで150かな」

『嘘はいけないな〜。10センチ弱は誤差じゃないのよ?』

「……嘘じゃないよ。神秘からしたら、5年位あっという間」

『でも、今ガーベラは伸びてるのにリア伸びてないじゃない。やっぱりあなたはかわいいままかな〜』


ウィステリアが申告したのは、彼の年齢的にほんの少しだけ小柄かな……程度の身長。華奢なことは認めつつも、そこまでではないのだというかわいい主張だ。


しかし、普段から彼と親しくしている上に、こうして抱っこまでしている蜜柑は騙されない。前を向いた彼の頬を突きながら、並の女の子よりもかわいい彼を愛で始めた。


「……別に、かわいいとかっこいいは両立するからいいよ。

ただ、もう少しくらい背が伸びてほしいってだけで」

『ふふ、そうだよね。あなたはガーベラを守り、同時に肯定する。それでこそ聖人ウィステリアだよ』


頬を突かれた後、肩にかかるくらいの銀髪も梳かれていた彼は、諦めたように目を閉じて言葉を紡ぐ。

最初に会った時よりも遥かに落ち着いた彼の様子に、蜜柑も嬉しそうだった。


「あ、もしかしてガーベラが来たかな?

ぼくはもう諦めたから、お姉さんが説明してね」


されるがままに髪を梳かれていたウィステリアは、しばらくしてからポツリと呟く。

どうやら目を閉じていた分耳に意識が集中していたらしく、蜜柑よりも早く足音に気がついたようだ。


すると、遅れてその音に気がついた様子の蜜柑は、このままガーベラも籠絡するべく意気込んで声を上げる。


『はいはーい。2人は最高のカップリングだからね!

お姉さんに任せといて! 必ず2人とも愛でるから!』

「……あれ、そういう話だった?」


かなり話がズレていることに、ウィステリアは目を閉じたまま首を傾げた。とはいえ、もうガーベラが来るのであれば、わざわざ指摘するほどのことでもない。


彼女達は黙って足音の主がやってくるのを待ち、近くで止まるのを確認すると明るく声をかける。


『今日は早かったんだね、ガーベラ!』

「状況はお姉さんに聞いてね」

「……」


だが、足音の主は彼女達の声に返事をしない。

近くで立ち止まったことから、2人に視線を向けているはずなのだが、黙り込んだままだ。


少し経っても何も発さない足音の主を不思議に思った蜜柑達は、そこでようやくその人物を視界に収める。

すると、その先にいたのは……


「こんにちは、あなた方が精霊様ですか?」


完璧に作られた笑顔を浮かべ、チャラチャラとしたチェーンや指輪、髪にはメッシュを入れた少年――ユウリ・アキレギアだった。



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