12-苦行を終えて
シロに調査の協力をしてもらう代わりに、彼のクレープ屋を手伝い始めてから数時間後。
その可愛さや美味しそうに食べるクレープによって、多くのお客さんを集めていたアオイは、商品を買って来た女性客に囲まれながらも呼び込みを続けていた。
「ね、アオイちゃんはよくクレープ食べるの?」
「最近は多いですが、普段から食べるということもないですね……いらっしゃいませー!」
「和服着てるの珍しいね。東の方から来たの?」
「両親は、そうですね。クレープいかがですかー?」
アオイの仕事は店の宣伝をして客を呼び込むことだが、エプロンにロゴがあるので近くにいるだけで効果はある。
その上、たまにシロから宣伝用クレープが届けられるため、今では彼女と喋ることや一緒に食べることなどがオプションのような状態だ。
最初は悶絶していたアオイが段々と慣れてきたこともあって、彼女はベンチに座る女性客に愛でられることで、無意識ながらも通行人の目を引いていた。
「あ、もう終わりそうだね。寂しいな」
「私としては、とてもありがたいことです……」
「ふふ、お疲れ様。可愛かったわよ〜」
「あ、ありがとうございます……」
ベンチに集まるお客さんも、食べ終われば邪魔にならないように去っていくので、シロのノルマが終わるのにもそう時間はかからない。
少しすると、彼は残り30個との看板を貼り出し、残りの客達を捌きながらも店じまいをしていく。
いち早くそれに気がついた女性客に教えてもらったアオイが浮かべるのは、流石に疲れ切った表情だ。
彼女達からの労いと賛辞を受けると、もう呼び込む必要がなくなったアオイは素早くエプロン等を脱ぎ、頭を下げてから店に駆け寄っていった。
「またねー! アオイちゃーん!」
「は、はい。失礼します……!」
アオイが店の近くで足を止めると、女性客達は親しげに声をかけてくる。率先して話しかけていた人達なので、アオイも帰っていく彼女達に手を振り返してからシロに話しかけた。
「シロさん、もう私の仕事は終わりましたよね……?
ちゃんと協力してもらいますからね……!?」
「ははっ、そんな縋るような目を向けなくたって、もう仕事は終わりだし協力もするさ。安心していいよ」
「それならいいです……」
仕事の邪魔をしないようにしながらも、店の横から必死に問い詰めてくるアオイを見ると、シロは苦笑しながら両方ともにうなずく。
それを聞いたアオイは、パパっと畳んで袋に詰めていたエプロンなどを押し付けると、ホッとしたように呟いて脱力した。
故郷の友人やユウリが驚くほどに有能な彼女だが、普段しない服装や行動をしてかなり消耗してしまったようだ。
それこそ、寝ずに遠国まで急行した時よりも辛そうにしている。
しかし、シロが仕事を終わらせている間にもう既に落ち着きを取り戻し始めており、店を閉めた頃には完全にいつも通りの彼女だ。
清々しい表情で店から出てくるシロに、アオイは冷静に自分の用事に協力するよう要求し始めた。
「終わりましたね? では協力してください」
「もちろん! じゃあまずは事情を聞こうか?」
「えぇ、そうですね。実は……」
協力の姿勢を見せたシロに対して、アオイはこの街で今までしてきたこと、これから行う予定のことを伝えていく。
この街に広がる噂、実際に見てきた暴動、原因、セファール商会を探るつもりであること。
それを聞いたシロは、相変わらず陽気な調子で口を開いた。
「へー……あんまり覚えてないけど、そんな噂もあったねぇ。
大人に任せていればいいとは思うけど、偉いじゃん」
「神秘ですから。それで、協力していただけますか?」
「するさ。さっきも言っただろ?
まぁ、何すればいいかはわからないけどね」
柔らかい笑顔でアオイを褒めるシロだったが、彼女は適当に受け流しながら改めて問いかけた。
協力してくれるとは聞いていたものの、実際に何をするかという内容は伝えていなかったので、その最終確認を。
だが、当然シロが意思を変えることはなく、やはり軽い調子で笑って続きを促していく。
するとアオイも、最初からわかっていたとばかりに頷いてこれからの予定を話し始める。
「それについては、もちろんこちらから。あなたにもユウリさんと同じで、この街でのツテがありますよね?
今すぐ集められる人を集めて、商会を探りたいのです」
「んー? 素人しか集まらないけどいいのかな?」
「はい、そこは仕方のないことです。私は訓練した部下を従えている訳ではありませんので、それも踏まえて動きます。
素人でも才能のある人がいるかもしれませんしね」
シロから懸念点を聞かされても、アオイに迷いはない。
もちろん最初から理解していたようであり、あくまでも少し手を借りるだけで基本は自分、という方針を示した。
才能という面を見ても、商売人であるシロのツテであれば情報を取り扱うような人がいる可能性もあり、彼も納得している様子だ。
「ま、商人とかだと情報を集めるようなのもいるかもねぇ。
じゃあ、とりあえず集めてくるよ。クレープでも食べて‥」
「いえ、流石にもうお腹いっぱいなので」
アオイから具体的な予定を聞いたシロは、彼女の言う通りに人を集めてこようと歩き出す。
確実に待たせることになるので、少しでも時間を潰せるようにクレープを勧めながら。
しかし、さっきまで店の手伝いで何個もクレープを食べていたアオイだ。当然とっくに満腹になっているため、食い気味に断ってベンチに座った。
シロも自覚はあったのか気を悪くした様子はなく、爽やかに笑いながら歩を進めていく。
「あははっ、だよね! うん、集めてくるから待っててね」
「夕方まで……最悪夜までには終わらせたいので、できるだけ急いでもらえると助かります。あなたの家で、ユウリさんと三人でお泊まり会をする予定なので。
あと、カメラなども仕入れていただければと」
「はいよー……え? ……うん!? ……まぁ、急ぐよ……?
すぐ壊れるだろうけど、カメラも問題ないけど……うん?」
シロが去っていくのを見送りながら、アオイは彼を待つ体勢になる。お泊まり会について聞かされていなかったシロは、いきなり告げられたことに目を白黒させながらも急いで人を集めに行った。
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シロが人を集めに行ってから数十分後。
ベンチでぼんやりと待っていたアオイの目前に集められたのは、20人はくだらない程の人達だった。
集まるのが素人であるということ以前に、ここまで集まるとは思っていなかった様子のアオイは、その光景を見てポカンとしてしまう。
しかし、その人混みをかき分けてやってきたシロを見ると、すぐさま我に返って戸惑いを残しながらも口を開く。
「あ、あの……こんなに集まるものなのですか?」
「ははっ! まぁ普段なら無理かもだけど、今は状況が状況だからなぁ。君が商会を探ろうとしているのは、この街が荒れているから。荒れた街では商売どころじゃない。
みんな暇で、少しでも稼ぎが欲しかったのさ」
「あ、報酬……ユウリさんは頼んでやってもらっていたようなので、忘れてました。もちろん払います」
「いーや問題ない。俺が前金出しといたし、成果があれば俺のところに来るように伝えてあるぜ」
シロの答えを聞いたアオイは、意表を突かれた様子で反射的に目を見開く。しかし、懐から財布を取り出した彼女を静止するシロの言葉を受けると、険しい表情に早変わりした。
「なぜあなたはいつもいつもそうなのですかっ……!?」
「んー? 俺は特に金に頓着してないし、誰かが喜ぶことならそれはいいことなんだろ? お得だし良いじゃん?」
「あなた……いえ、今は置いておきましょう。
ありがとうございます」
声を荒らげかけるアオイだったが、シロの浮世離れした発言に眉をひそめると、一旦置いておくことにして頭を下げる。
彼の異常性を垣間見たものの、今はそんな場合ではない。
手がかりを得る可能性を高めるためにも、ユウリとの約束を守るためにも、時間はいくらあっても足りないのだ。
スルーして集まった人達に向き直ると、彼女は早速調査を始めるべく彼らに向かって口を開いた。




