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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策2 自由なる風の旅路

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9-捜索か不審か

彼らが丸一日をかけてシロや街の人達に聞き込みをし、期待通りではないながらも、無事いくつかの情報を得た翌日。


ここまで手伝ってもらったのだから、と致し方なくユウリを協力者だと認めたアオイは、彼とこれからの方針を決めるために、そしてもう一つの目的を果たすために領主宅を訪れていた。


「こんにちは、ユウリ・アキレギアさん」

「どーもー天使ちゃん。相変わらずの距離感なー」


警備員に案内されてユウリの私室までやってきたアオイは、落胆で机に突っ伏す彼に笑いかける。


どうやら、昨日シロに紹介していた時のように誰かがいなければ、彼女は変わらずフルネーム呼びを続けるつもりのようだ。


彼女はユウリの反応を気にすることなく歩み寄ると、彼の目の前に用意された椅子に座ってメモを広げていく。


「早速情報を整理しましょう」

「大した情報ねーけどなー」

「価値がなくても、その整理には意味があります」

「わかってるよ。これでも領主の息子なもんでね。

ほら、クッキー。紅茶とかも頼もうか?」

「……なぜみんな、私に何かしら食べさせようとするのでしょう? 女性が男性よりも小さいのは普通です」


机に用意してあったクッキーの袋を差し出すユウリに、彼女は釈然としない様子で抗議する。

腕を組んで下から睨め上げてはいるが、怒っているというよりは不思議で仕方がないといった感じだ。


だが、一日目にシロからクレープを貰ったように、アオイは勧められると案外断れない。

ユウリはもう人を呼んで紅茶の準備をさせ始めているので、彼女も大人しくクッキーをかじった。


「まず、この暴動には神秘による介入があります。あの醜悪な扇動はともかく、私の風を部分的に封じている力は確実に。やたらと魔獣が現れることもそうかもしれません」

「あー、常に風で討伐してくれてるんだろ?

そこに関しては、本当に感謝する」

「片手間です」


紅茶を用意した人達が去った後、まず話し合われるのはこの事件の前提条件だ。彼女にも見通せていないが、風の能力を一部封じられて、黒幕の動きをまったく感知できないという状況が示している事実である。


街の外に異常に現れ始めた魔獣たちは感知できているため、意図的に扇動者のみを隠している神秘がいることは確実だった。


珍しく真面目な表情で頭を下げてくるユウリに、アオイはこれでチャラだと言わんばかりにクッキーを振って続ける。


「扇動の下地にも何かしらしていそうですが……そこはいまいちわかりません。探ろうとすると、少し意識が散ります」

「それも神秘? こっわ……」

「どうでしょうね。ともかく、神秘の介入で人々は暴走。

大々的に報じていないながらも、街の人々はある程度知っている噂でしたね。旅人間ではあまり話題になっていなかったことから、やはり標的は街。まぁ重要ではありませんが……」

「いやいや、標的が街なのは重大だろ。

親父、責任感に押し潰されて倒れるぞ」

「そうですか? しかし、それはそちらの問題です」

「仰る通りで」


次に話し合われるのは、彼女が最初にしようとしていた街の人達にどれだけ知られているかという調査について。

これは昨日、丸一日聞き込みを行った結果、この街の住人は四分の一程度が噂を知っているという結論に至った。


衛兵に酔っているだのなんだと誤魔化されているようだが、それでも似たような状態で暴れ出す者が多い……そう思われているらしい。


また、旅人は頻繁に入れ替わるからか、噂を知っている者は住人よりも少なく、目撃者も宿屋関係者には伝えないようにと言われているという。


面白がって被害が増えては困る、商人などが減っては良いことがないなどと言いくるめられているようだ。

それも、無理強いはせずにそれとなく伝えられたのだと。


だめだと言われれば言いたくもなるが、不利益があるけど自己判断で、と言われれば流石に言いふらせはしない。

シャンヴルの情報統制は中々うまく行っていた。


「この事件の問題は不安、ねぇ……」

「資料室で調べたところによると、暴れ出した人々の多くは普段は会わない人物と会っていました。その中でもさらに少ない証言ですが、毎回出てくるのは黒ローブの扇動者。

どれだけ口が上手いのか、不安を煽っているようですね。

暴れた本人たち以外、知っている者はいませんでしたが」


(ただ、あの時会った商人は何か知っていそうでしたし、1人であるとは限らないかもしれません。

それに、彼女から漂っていた匂いはこの屋敷と同じ……)


父親が行っている情報統制について、なにか思うところがあるらしいユウリのつぶやきに、アオイはその妥当性を示しながらも考え込む。


痴情のもつれで暴れていた男性と違って、商人という職業柄かあまり腹の中を見通せなかった女性について。

それでも何か知っていそうだった彼女と取り引きをしているであろう領主――シャンヴルについて。


いきなり黙り込んだアオイに対して、しばらく探るような目を向けていたユウリは、やがてもう我慢の限界だとばかりに直接的に問いかける。


「それで、その扇動者らしき人影を追った天使ちゃん自身の成果は? 本人か手がかり、見つけた?」

「いえ、やはり黒幕に関しては妨害されていて逃げられました。近くにはいたと感じたのですが、手がかりもなしです。

……まぁ、最初から勘違いだった可能性もありますが」

「ふーん……これからの方針は?」


ユウリはアオイの返答を聞くと、まだ少し胡乱げな目を向けながらもこの先の方針の確認をする。


扇動者を探しに街へ行かずここにいるのは、2人で集めた情報をわざわざ整理することというより、行動を起こす前に方針を決めておくためだ。


一部の情報や考察を隠したアオイだったが、これについては隠す意味がないので正直に答えていく。


「私としては、少し商人が気になっています。

事件が起これば現場にも行きますが、あまりできることもなさそうなので、基本的には商人の観察などですかね」

「商人……でも、旅人は標的じゃないんだろ?」

「そうですね。しかし、だからこそです。

危害が加えられている側と、加えられていない側。

バカ正直に考えるのであれば、敵は安全地帯にいます」

「……商人、ね」


先程からずっと何か思うところがありそうだったユウリだが、アオイが商人と言うと、さらにその含みのある雰囲気は増していく。


どこか遠くを見つめているその姿は、見方によってはそうであってほしくはない、といったものだ。

同じように視線を鋭くしているアオイも、これは何かありそうだと遠慮なく彼に指示を飛ばす。


「ユウリ・アキレギアさんは、このあと街でのツテを使って怪しい商人を探れませんか?

私は報告も兼ねて、少し領主様に会いに行きますので」

「……ん、りょーかい」


珍しくアオイから仕事を頼まれたユウリは、彼女とお互いに探るような目で向かい合いながらもそれを了承する。


そして、心が通じ合っているかのように同時に椅子から立ち上がった2人は、互いに互いを意識しながら、それぞれの仕事に向かっていった。




~~~~~~~~~~




「調査報告、とのことだけど……何か進展があったのかな?」


ユウリと別れてから数分後。

先日と同じように警備員に案内してもらったアオイは、領主であるシャンヴルの前に座って報告を始めていた。


しかし、彼女の目的はユウリに告げたように、領主に調査の報告をすることではない。もちろんまったく報告をしないというつもりもないだろうが、本当の目的は違う。


そもそも彼女が今日この屋敷にやってきた目的は、ユウリと方針を決めることですらなく……


「進展という程ではありませんが、いくつかは。

原因、黒幕の人物像辺りと、あとは……」

「あとは?」

「商人が関わっている可能性が出てきましたね。

ですので、領主様から見て怪しい商人などいないかなと」

「商人、商人ね……キヒッ」


商人という単語を聞いたシャンヴルは、ユウリと同じように他とは違った反応を見せる。だが、その反応は彼とは違ってやたらと不気味なものだ。


彼のように何か思うところがあるというより、ただ商人という単語が出たことを面白がっているような……


シャンヴルとあの商人の女性の繋がりを確信していたアオイは、その反応を受けると目を細め、鋭くも本心を隠して問いかける。


疑っているのではなく、いきなりのことに驚いているのだと、戸惑っているのだという風に。


「シャンヴル様……?」

「いやぁ、すまない。最近まったく眠れていなくてね。少しテンションがおかしくなっているんだよ。それこそ、変な笑い声が出てしまうくらいに。キヒッ……うん、商人ね。

私からすると、どなたもお金に貪欲だ。全員怖いよ」

「そう、ですか……細かな進展については、メモを残してありますのでそちらをお渡しします。後でご覧になってください。今はしっかりお休みになってくださいね」


テンションがおかしくなっていると言いながら、先程と同じく不気味な笑い方をするシャンヴルに、アオイは戸惑った風を装いながらメモを差し出す。


ユウリと同じように、女性やシャンヴルを疑っているという内容は避けて記した見せる用のメモだ。

それを渡したアオイは、彼を労るような言葉を述べながら腰を上げ、速やかにこの場を去った。



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