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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策2 自由なる風の旅路

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5-原因を探るために

アオイの風は、当たった感触などで人や物を感知する。

だが、文字にはほとんどそういった反応がないので、基本的には自分の目で確認していくしかない。


確認するのは資料室の全てではなく、暴れ出した人物の直近の行動のみ。さらに手でめくる必要もないとはいえ、かなり大変な作業だ。


結果、彼女達の作業は一日かけて行われることとなり、部屋から出た時には外はすっかり暗くなっていた。


「おー、やっぱりこの時期は日が落ちるの早ぇなー」

「そうですね。しかし、タイミングはいいです」

「え、なんで? あっ、俺に送ってもらえるからかー?」

「興味無いです」

「ぐっ……!!」


タイミングがいいと言うアオイに、ウキウキとした表情で問いかけるユウリだったが、変わらずズバッと切り捨てられてしまって胸を押さえる。


アオイは本気で興味がないようだが、ユウリはユウリで案外本気で言っていたらしい。どちらも言葉通り正直なものだ。


とはいえ、ユウリも普段から遊び回っている人物であるため、そこまで引きずることはない。すぐに咳払いをして気を取り直すと、改めて何がタイミングいいのかと聞く。


「こほん……で、何のタイミングがいいんだ?」

「夜闇は人の心に不安を落とす。暴れ出す人というのは、昼よりも夜の方が多いのでしょう? 今から探します」

「はぁ……!?」


アオイの返答を聞いたユウリは、シャランと装飾品を揺らしながら大袈裟に驚いて見せる。大袈裟なのはいつも通りだが、実際はかなり驚いているようで、言葉を返す彼に浮かんでいるのは比較的真面目な表情だ。


「いやいや、子どもは帰って寝る時間だろ?

そんなんじゃ大きくな‥」

「……」

「……あー、大きくなれねぇぞ? おえっ、いででで……!!」

「一瞬考えたのならやめるでしょう、そこは!?」


子ども、大きくなれない=アオイが小さいという、資料室に入る前に痛い目を見た単語を言いかけたユウリは、一瞬言うか迷うも結局言ってしまう。


地雷を踏んだこと+考えた上で結局言ったことで、アオイの風は彼の襟首を掴むようにして体を前後に振り回し始める。


不審者だと思っていた前回よりはマシだが、足りない身長を補うように使われる風に、抵抗できないユウリは悲鳴を上げていた。


「ギブー! 悪かったよ天使ちゃーん!!」

「……名前を覚えないのですか? あなたは」

「俺もあなたじゃなくてユウリ・アキレギアなー」

「ユウリ・アキレギアさん」

「なぁ、距離感……」


廊下に降ろされながらあなた呼ばわりされたユウリは、先程と同じように名前を名乗る。ユウリは天使ちゃんというあだ名、アオイはあなたという二人称での呼びかけなのだから、本来は比べるまでもない。


だが、この場合は親しげに名前を呼ばれるということが重要だったらしく、むしろ離れた距離感にユウリは悲しげに目を伏せていた。


「で、本当に探し行くの?」

「行きますよ、ユウリ・アキレギアさん」

「え……? それもしかしてこれからずっと固定っすか……?」

「ですが、あなたは無理してついて来なくてもいいです。

お腹が空いているのでしょう? さっき鳴ってましたし」

「あっ、スルーする感じね。了解」


彼がユウリ・アキレギアさんになってしまった呼び名にゲッと表情を歪めながら問いかけるが、アオイは無視して話を進めていく。


いや、進めるのは話だけでない。ユウリに食事を勧める彼女は、暴れ出す人を探すためにスタスタと足も進めていった。

了解とうなずきながらもしゅんと肩を落としていたユウリは、それを見て慌てて彼女を追いかけ、呼び止める。


「ちょい待ちちょい待ちぃ! 天使ちゃんだって何も食ってねぇだろ? せめてうちで食ってけよー」

「神秘には寿命がありません。同じように、食事だって無理に食べる必要はないのですよ」

「マストじゃなくてもベターだろ? 集中力とかさ」


ユウリはアオイを食事に誘うも、彼女がまともに相手をすることはない。足を止めることもなく断り、それでもなお言い募る彼に機械的な返事をする。


「少なくとも、今は問題ないですね。

数日程度なら飲まず食わず寝ずで活動可能です」

「おい待て。あんたどんな生活をしてんだ!?

科学文明が作ってたっつう機械人形かなにかか!?」

「失礼な。私はこの神秘文明から生まれた自然の化身です」


アオイのあまりに人間離れしたセリフに、ユウリが軽薄さを剥がされ素でツッコミを入れると、彼女はムッとしたように立ち止まる。


どうやら彼女は、友人のお陰で得た力を、友人と同じように神秘に成ったことを、かなり大切に思っているようだ。


ようやく立ち止まった彼女に、ユウリはここぞとばかりに笑顔で提案した。それも、彼女の反応から的確に自然の部分を引き出しながら。


「じゃあ生物らしく飯食おう!」

「生物の枠組みからは少し外れていますから。確かに生きてはいますけど、どちらかというと私は自然現象です」

「だぁー!!」


しかし、それでもアオイは断ってくる。

自然ならば生物だろうという交渉材料だったようだが、彼女はむしろ自然現象なのだと取り付く島もない。


何度も何度も断られたユウリは、ついに弱々しく叫んで廊下に突っ伏してしまった。


「では、私は暴れ出す人を探しに行きますので失礼します」

「待てぃ!! どうしても行くってんならもちろん俺もついて行くぜ!? こんな小さな……ゲフンゲフン。

かわいい女の子を夜1人で出歩かせられるか!!」

「そうですか。好きにしてください。

ですが、くれぐれも邪魔をしないように」


気にせず探しに行こうとするアオイに、またしても小さな子どもと言いかけた彼は慌てて言い直す。

彼女も慣れてしまったのか、悪意がないと理解したからか、顔をしかめただけで特に何も言うことはない。


ユウリは勝手についてこさせることにして、自分は気にせずスタスタと歩いていってしまう。

すると慌てて立ち上がった彼は、装飾品の音をチャラチャラと廊下に響かせながら、彼女を追い始めた。


「好きにしろってのはいいけど、結局二人で探しに行くなら協力した方がよくねーかなー? 置いてかれると、逆に迷惑かけるかもよー?」

「……脅してるんです?」

「いやいやいや、仲良くしよーなーってこと。

バラバラに動いてたら、その分バレやすいだろーって」

「わかってますよ。しかし、今すぐに必要なことではないです。街へ出たらある程度は指示を出しますが、今します?」


ユウリの申し出を受けたアオイは、特に異論はないらしくいたずらっぽく笑いかける。脅しているのかと聞かれたときは焦っていた彼も、彼女につられて人懐っこい笑顔を見せた。


「ん、頼みがあるなら承るぜ、天使様」

「ユウリ・アキレギアさん、あなたここに残ってください」

「嫌だー!! なんつーお願いしやがるんだおめー!?」


やはり大袈裟にかしずいてみせるユウリだったが、そんな彼に告げられたのはさっきまでとは真逆の内容。

ついてくるのは勝手にしろと言っていたのに、天使様発言を聞いたからか、彼女はいい笑顔で残れと言い始めていた。


同時に、アオイはユウリを確実に置き去りにするという意思を見せて、風を纏い廊下を飛んでいく。

室内なのでそこまでのスピードではないが、普通の人間では追い付くのは困難なスピードだ。


「うぉぉぉい!? マジで置いてくもりなのかよッ!?

手駒はいた方が便利だろー!! くそっ俺の身体能力を舐めるなよ……? 街へ出る前に追いついてやらぁッ!!」


だが、当然ユウリは諦めない。

アオイの風やスピードに驚愕しながらも、自分の足を全力で回して彼女を追っていった。



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