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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策2 自由なる風の旅路

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4-領主の息子

「う、動けねぇ……!! 何でだ……!?」


風で拘束されていたのは、派手な柄のTシャツにチャラチャラとしたチェーンや指輪、髪にはメッシュまで入れたやんちゃそうな少年。


悲鳴を上げていた彼は、耳についたピアスを揺らしながら、自分を見下ろすアオイに対して声を荒げる。


「おい、まさかこれお前がやったのか!? どーやってんのか知らねぇけど、やりすぎじゃね!? 遊び回ってる自覚はあるけど、ここまでやるこたねぇだろ!! それとも何か?

ちっこいくせに、うちに侵入してきた泥棒かなんかか!?」


どうやら彼はこの家の者らしいが、かなり迷惑をかけている人でもあるようだ。真っ先にお仕置きの類を口にする辺り、相当である。


しかし、最も良くなかったのは、アオイをちっこいと言ったことだった。故郷の友人ほどではないが、もう一人の同性の友人と比べてもかなり小さい彼女は、少年の言葉で明らかにイラッとした表情を浮かべ、風を強くして締めていく。


「……!!」

「痛っ!? いでででッ!? 悪かった!!

チビなんて言って悪かった!! 頼むからめてくれッ!!」


関節を決められる少年を見下ろすアオイの背後には、呆れ顔の警備員が追いついてきていた。


そのため、不審者ではなかったと気がついた彼はすぐに謝罪の言葉を述べる。ちっこいという部分で力が強まったので、チビ発言についての謝罪だ。


だが、普段低身長を気にしているのは友人であり、その影に隠れて気にしていない風を装っていたアオイは、本心を見抜いた彼の指摘を受け入れられない。


旅をしてさらに背を気にし始めていた彼女は、焦ったように訂正を求め始めた。


「ち、違います! 泥棒ではないという部分です!!」

「あい、わかった!! 変に疑ってすんませんお客人!!」


既に謝り倒すような姿勢になっている彼なので、迷いは一切ない。明らかにちっこいという発言に反応していたのだが、訂正を求められると床に頭を打ち付けながら土下座で謝罪する。


「ちょっ……!? そこまでしなくてもいいです!」

「ハハッ、女の子の怒りは怖ぇからなぁ」


堪らずアオイが止めに入ると、風から解放された少年はヘラヘラ笑いながら頭を上げる。なんともなさそうにしているが、彼の額からは血が流れていた。


「別に気にしてないですから、そこまで怒ってないです。

あと私も……変な動きをしていたとはいえ、いきなり手荒な真似をしてすみません」

「はいよー。変な動きってのはショックだけど、コソコソしてたのは事実だからなぁ。全然いいよ」


風で血を止めながら謝るアオイに、あぐらをかいている少年は左右に体を揺らしながら軽薄に笑う。

かなり懐が深い人物であるようだが、同時に痛みを感じないのか……? と思わされる姿。


彼らを見守る警備員は慣れているのか何も言ってこないが、初めて見るアオイは困惑気味である。

しかし、少年はそんな彼女を気にすることなくシュタッと立ち上がると、人懐っこく笑いながら問いかけた。


「ところで、嬢ちゃんいくつ? なんか前も見たことある気がするし、さっきも親父と話してたよな?」

「知ってて泥棒って言ったんですか?」

「あれはー冗談だー。予想以上の反撃を受けてビビったー」

「そ、そうですか……私は13です。ですが‥」

「うへぇ……俺より3歳も下で神秘に成ってんのかよ。しかも、この街の問題まで解決しようとするとか……天使じゃん」


アオイの年齢を聞いた少年は、補足説明をしようとする彼女の言葉を遮ってまだ言っていないはずのことを呟く。

父親であるシャンヴルとは少し違うが、同じように話を先取りする人であるらしい。


ただ、今回はそれによって話が進むことはなく、むしろ冗談で泥棒と呼んだ時のように話がズレた。

彼の天使発言を聞いたアオイは、少し居心地が悪そうに身動ぎしながら確認を取り始める。


「……あの、知ってるどころか聞いてました?」

「ハハッ、だから変な動きをしてたりしてな?」

「あぁ……盗み聞きしていたから逃げていたんですね。

……これ、引き渡した方がいいやつですか?」


彼が怪しい動きをしていた理由を理解し、アオイは呆れたようにふっと息を吐きながら微かに笑う。

しかし同時に、逃げているのならば彼自身も褒められた行為ではないと自覚していることに気がつく。


瞬時に真面目な表情を作ると、再び風で彼の周りを囲っていきながら問いかけた。すると少年は、風を吹き飛ばす勢いで手を振り、それを回避すべくツッコミを入れる。


「違ーう!! ここは協力を求めるばめーん!!」

「……別に必要ありませんが」

「え、マジで……?」

「はい、いりません」


だが、アオイの答えはNO。少年の様々な下心がある計画は、その初っ端から挫かれた。


とはいえ、もちろん彼はそんな簡単に諦める性格ではない。

堪らずポカンとしていた彼だったが、すぐに気を取り直すと自分の売り込みにかかる。


「いやいやいや!! 人手はあった方がいいよー!?

俺さ、これでもここの領主の息子だからさ? めちゃ便利!!

ていうか、元々色々気になってたから探ってたところもある訳でね!? あっ、これ言い方を間違えたというか、そもそも俺が頼み込む立場だなさては!? うん、手伝わせてくれ!!」

「よく喋りますね」

「辛辣ー!?」


引き渡しを阻止しようと早口でまくしたてる少年だったが、アオイの反応はあまり芳しくなかった。

一言でバッサリ切り捨てられた少年は、全身全霊で体をそらしたことで、壁に頭を埋め込ませる。


「ちょっ、あなたまた……!?」

「ユウリ様!?」


さっきの土下座よりも派手な激突に、アオイはもちろん驚きの声を出す。しかし、今回は彼女の後ろに控えていた警備員すらも声を荒らげていた。


当の少年本人も、今回は流石にやりすぎたと悟ったらしく、すぐに壁から頭を引っこ抜くと血で顔を濡らしながら軽薄な笑みを浮かべる。


「やべっ、すまん癖で」

「どんな癖ですか!?」

「いやぁ、あはははは。ノリよく生きる癖?」

「あなたのはノリじゃないです、サイコパス的奇行です!!」

「えぇ? これでも俺、街での評判は悪くないんだぜ?

確かに遊び回ってはいるけど、家がたまたま少し裕福なだけだって自覚してるからな。俺は、仕事ばっかして金回さねぇ親父の代わりに経済を促進してんのー」

「物は言いようですね、まったく……」


少年の軽口に怒りながらも、アオイは風で再び彼の頭から流れる血を止めていく。少年もさっきと同じように、立ったままでも体を左右に揺らしていた。


本当に評判はいいのか、彼女にサイコパス的奇行だとキツイ言葉をもらいながらも気にしていないらしい。

そして傷が綺麗に塞がった頃、ニパッと笑いかけながら再度彼女に提案をする。


「なぁ、天使ちゃん」

「アオイです!!」

「俺、ユウリ・アキレギアな。で、手伝っていい?」

「あなたに何ができるって言うんですか……」

「さっきも言った通りー、聞き込みは結構いろんな人が協力してくれるはずだし、土地勘あるし、環境的にそこそこ勉強はしてるし……あ、あと大人だぜ?」

「16は流石にまだ大人ではないです」

「でも、お前よりは年長者だろ?」

「少なくとも、私もあなたも無力な子どもではありませんね。説教してもらうよりは、協力してもらう方が得です」

「ハハッ、そうだろそうだろー」


ようやくアオイを説得できたユウリは、嬉しそうに笑いながら誇らしげに胸を張る。

実際、いれば役に立つのだろうが、結局のところ彼がやっていたのは遊び回ることなのに、随分なお調子者だ。


自分よりも年上のはずが遥かに子どもっぽく、簡単に得意になっている彼に、アオイもすぐさま釘を刺す。


「調子に乗らないでください。

私は神秘なので、大抵のことは1人でもできますから」

「グサァ……!! ちくしょう、俺よりもガキのくせに俺よりも有能と来た……なんて劣等感を刺激する女児なんだ……」


アオイの厳しめな言葉を受けると、ユウリはいつも通り全身を使って大袈裟に反応してみせる。

しかし、またも口を滑らせてしまっており、アオイは冷ややかな圧を放ち始めた。


「はい……? 私、これでも一人旅してるんですけど。

それと、13はもう女児ではないのでは?」

「はいっ、ということで君はもう持ち場に戻っていいよー」

「誤魔化してませんか……?」


それを瞬時に察した彼は、話を逸らすように警備員へ戻るよう言いつけて、無理やり資料室への案内を開始する。

風はユウリを包み始めていたが、案内を止めるわけにはいかなかったのか無事突破できており、彼の作戦は成功だ。


アオイ達はギャーギャー騒ぎながらも、一応はまっすぐ資料室へと向かい始めた。


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