32-対策完了
エリスが村から去ってから2日後。
最終的に蜜柑の伐採を阻止することができた彼女達は、この場に集った者達の見送りをしていた。
『それじゃ、また?』
中の人格的に、普段は人型でいることで落ち着いた蜜柑は、複雑そうな表情で小首を傾げながら手を振る。
その目の前にいたのは、いつものようにサーラメーヤに戦車を引かせるエンだ。
蜜柑が生えている丘までの道を塞いでいた鬼哭衆は、暴走した商会に甚大な被害を受けたものの、アオイが制圧したことで死者はいない。
連結した荷車に全員無事に詰め込まれているため、先頭の戦車でふんぞり返っているエンも、豪快な笑い声を響かせていた。
「おう!! 俺様はまず鬼哭衆の頭だが、同時にお前の眷属的なやつでもある!! なんかありゃあ、テレパシー寄越しな!!
暇でその気になりゃあ助けてやるぜ!!」
『はいはい、わかったよ。かき乱されても問題なければね』
「なっはっは!! 特に、エリス関連はよろしく頼むぜぇ。
後味悪ぃっていうか、悔しいからな。んじゃ、あばよ!!」
"リードウェイ・ヤマラージャ"
エンは蜜柑に適当にあしらわれるも、特に気にせずさっぱりとした感じですぐに去っていく。
だが、その方法はまったくさっぱりしていない。
黒い流星のような超スピードで、地獄を撒き散らしながらの帰国だ。とはいえ、どこまでも禍々しくドロドロとした爆走は、村に呼び寄せていた魔獣も引き連れていた。
残された蜜柑達からすると地獄が去っていくことになるので、やはりさっぱりした別れである。
そして、その横では……
「すみません、イシャンさん……一応殺さずに捕らえはしたのですが、治す方法が見つからず……」
「いやぁ、別にあんたが謝ることじゃねぇだろ。あいつらは怪しげな薬を使った。自業自得ってやつだ。それに、伐採なしでも金は稼げたからな。問題にもならん。てか、連れ帰る方が面倒なことになりそうだったぞあれは……」
異形に変化した商会の男達をもとに戻すことができず、結局全員殺すことになってしまったアオイが、その責任者であるイシャンに謝っていた。
蜜柑の伐採に来た商会だったが、彼が道の整備で稼いだことを思い出したことで、敵対関係ではなくなっている。
それどころか、仕事を頼んだせいでほぼ全滅することになり、アオイの方が頭を下げているくらいだ。
しかし、彼としてはそれは大したことではないらしい。
胸を貫かれたハオの氷像を慎重に馬車に乗せながら、軽い調子で言葉を返していた。
そんな彼を見たウィステリアは、戦闘時とは打って変わっていつも通り控えめな様子で口を開く。
「でも、たくさんの人が亡くなったんだよ? 師匠。
これも商会の損害になるんじゃないの?」
「タイレンは荒れてっからなぁ。人はすぐ死ぬし、人はすぐ生まれる。ぞんざいに扱うことはねぇけど、そんなもんよ。
……どいつもこいつも先に死んじまって悲しいけどな。
けど、ハオさんだけは替えが効かねぇから助かったぜ」
しっかりハオの氷像を固定したイシャンは、ウィステリアの問いに答えながら額の汗を拭く。
話の内容は殺伐としているが、健康的な肉体美にきらめく髪を梳く姿は実に絵になっていた。
「そんなにすごい人だったのね……気持ち悪かったけれど」
「ははっ、それはめちゃくちゃわかるぜ。この人うぜぇんだよなぁ。けど、やっぱ魔人がいるから商会が成り立ってんだよ。やっぱそこが欠けるとなぁ……」
「人は、どうしても平等にはなれないものね」
自分の体を抱いて震わせるガーベラを見ると、イシャンは爽やかに笑って同意を示しながらも、説明をする。
商会の下っ端は死んでも問題にならないが、ハオが死んだら困ると言う彼に、村での疎外感に苦しんでいたガーベラは複雑そうだ。
「ぼくらは君と対等に接するよ、ベラ」
「うん。わかってるわ、ウィル」
しかし、ウィステリアが寄り添うように隣に立つと、彼女は幸せそうに微笑みを浮かべ、イシャンはうんざりしたように顔をしかめた。
「あーあー、お熱いこって。こっちは部下が全滅しちまって傷心だってのによ。つうか、領主んとこ行くんだろ?
加護の証人になってやるんだから、お前らもはよ準備しろ」
「お、お熱い……」
「ご、ごめんなさいっ……!!」
からかうようなイシャンの言葉に、ガーベラは夕日のように頬を赤く染め、ウィステリアは慌てたように謝る。
強さや輝きを失うことはなかったガーベラだが、その質はわずかに変化して守られる部分も得たままのようだ。
含みのある言葉をスルーしたっぽい彼に頬を膨らませながらも、しれっと旅にならないと答えるアオイから隠れるように表情を取り繕った。
「ああ、それなら大丈夫ですよ。全員私が運びます」
「ん……!? 全員!? え、この馬車ごとか!?」
「はい。タイレンまで数日で飛んだこともありますし、1日もかかりませんよ。急ぐ必要はないです」
「すげー……流石は神秘だなぁ……」
馬車から転がり落ちそうなほどの驚きようを見せるイシャンだったが、アオイはさも当然であるかのように告げる。
同じく神秘のウィステリアと戦った彼でも、やはり具体的な数字まで出てくるとポカンと口を開けるしかない。
なんとも思っていない様子のガーベラ達と同じように、蜜柑を呼びに行く彼女をただ見つめていた。
「では、蜜柑さんもこちらへ。飛びますよ」
『はーい』
イシャンとは一切の関わりがないため、瞬く間に消えていったエンを眺め続けていた蜜柑は、アオイに呼ばれると元気に返事をする。
運ぶメンバーが揃うと、アオイは馬車ごと全員を風に包み込んでいき……
"ジェットブラスト"
領主のいる町へと、彼女達は一気に飛び出していった。
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「なるほどな……前回は力を封じられていた、と」
数時間後。イシャンを伴った蜜柑達は、彼を使って面会時間をもぎ取り、みかんの木を伐採し、砦を建てようとしていた領主本人と対面していた。
堅苦しい雰囲気で執務机に向かっている領主だったが、特に頭が固い人ということはないらしい。前回はガーベラが力を見せられずに決行していたところ、今回はしっかりと使えたために興味深げである。
「そうなの! だけど、力自体はちゃんとある!
蜜柑ちゃんは魔獣に対抗するために有益よ!!」
そんな彼に、親族であるガーベラは距離感近く訴える。
蜜柑がこの場に来ていることで、精霊であることは確定。
加護という神秘の力もあるのだから、伐らないどころか砦を建てる必要すらないのだ……と。
すると、実物の精霊や神秘の炎などを見せてもらった領主も、それ以上は食い下がらない。忙しいのか書類に目を落としながら、すんなりと今回の事業を白紙に戻す。
「ああ、そのようだな。実際に見ては疑いようがない。私はこれ以上どうこうするつもりがないから、好きにするといい。……村から出るつもりもないのだろう?」
『はい、少なくともしばらくは』
「いずれは出るつもりがある……か。まぁ、とどまっている間だけでも、あの村を守ってくれればいい。兄さん達が心配だからな。その後は加護を与えてほしいところだが……」
『わかりました』
前回ガーベラが加護を見せられなかったことで、面会させてもらえるかどうか自体が危ぶまれていたが、イシャンがいること二度目の交渉は無事成功だ。
領主の頼みを聞き届けた蜜柑達は、軽く手を振ってから仕事に戻っていった彼を尻目に部屋を出る。
表情をゆるゆるにしながら、うずうずと足を速めながら。
「やった〜!!」
『生きた〜!!』
そして、蜜柑の伐採を阻止した彼女達は、建物から出てすぐに抱き合って喜び始めた。
蜜柑の伐採対策、オールコンプリートである。
報告。
本来はここで終わり、あとは化心に続くまでの間を少し埋めるくらいでいこうと思っていたのですが、終わり方が少し中途半端だなと思ったので続きを考えました。
完結する、エタらないとか言っておきながらあれなのですが、かなり膨らませることができたので、もうしばらく続きます。少しでも面白いと思っていただけていれば、もうしばらくお付き合いいただけると嬉しいです。
化心の前日譚なので、まぁやっぱりエタらないというか、これが終わらないと続きが書けない状態なので絶対にエタりません。
小説一冊で収める練習という書き方的に、このまま章で区切って続けるのもなということで、蜜柑の対策2、3……という感じのナンバリングで続けるつもり……
だったのですが、既に2を書き終わっていることから、章ごとに文字数を数えられなくてもいけるかなとこのまま続けることにしました。
現時点では、7まで続く予定です(章として)。
各10万字〜12万字、でもクライマックスは増えてもいいかなと思ってます。(増えても多分7を続ける感じにするので、8以降はいきません。多分、そう思います)
裏話は次回更新、キャラ紹介のところでします。




