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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策1

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32/205

31-呪いは絶えず、されど去りゆき

救援に来たガーベラ、ウィステリア、アオイがエリスと激突している真下。エンが作った足場の上では、体を休める蜜柑達が戦いの行方を見守っていた。


守護者の炎(ミカエル)深海の令嬢(ガブリエル)自由を望む風(ラファエル)か……俺様の死地に光る覚者(ウリエル)も合わせて、四大天使ってか。強ぇ名だなぁ」

『……勝てそう?』

「名前は重要だが、それだけで決まるわけでもねぇぜ。

各個人の神秘に合わせて力の方向を定めてっけど、結局のところ、強い名前には心も引っ張られるってなだけだ。

元々あれは誰よりも強い心で、そもそも名前も……」


愉快そうにつぶやくエンに蜜柑が問いかけると、彼は意外にもピンピンした様子で答える。蜜柑は雷に打たれてまだ辛そうだが、彼はもうだいぶ落ち着いてきたようだ。


珍しく真摯に答えながらも、エリスの実力やその思いを認めているようで思案げに呟いていた。


『じゃあ、準備しないと……みんなを、助けるために……』

「なっはっは!! 俺様も隙がありゃ入るぜ〜」


彼の言葉を聞いた蜜柑は、ご機嫌に錫杖を鳴らして笑う。

若干曲がっているが、装飾品もまだ健在だ。

必死に空を見上げている蜜柑の隣で、同じく気を伺いながらもジャラジャラと耳障りな音を立てていた。




~~~~~~~~~~




「動きが、止まらない……!? 酸素も奪えないし、ねじ切ることも、押し潰すこともできない……!!」

「君、そもそも戦闘よりもサポートの方が得意だよね?

俺と戦うには1000年は早い。私とは格が違うんだから」

「っ……!!」


蜜柑とエンが足場から見守る中。

エリスVSガーベラ、ウィステリア、アオイの戦いは、早くも劣勢に陥っていた。


レーテーの時と同じように大気を支配したはずのアオイだったが、エリスは戦いが始まってすぐに拘束を解いてしまう。

それどころか、逆に水上の竜巻を圧縮したものを新たに生み出し、アオイを包み込んでいく。


自由を望む風(ラファエル)がまるで通用しなかったことで、アオイはほとんどそれに対抗する(すべ)がない。

竜巻に巻き込まれた彼女は、小さな範囲に凝縮された雷雨と暴風に蹂躙される。


「アオッ……!!」


しかし、もちろんガーベラ達がそれを放置するわけもない。

2人で息を合わせて飛んでいた彼女達は、瞬く間に封じられたアオイに表情を変えると、顔を見合わせて竜巻に突っ込んでいく。


"ディヴァイン・スヴェート"


"グレイシャルイロージョン"


彼らは巨大な竜巻の中で巻き起こった凝縮された竜巻に対して、それぞれガーベラが上から、ウィステリアが下から消し飛ばすことを狙う。


まず、先に到達したガーベラが凍りついている小ぶりの剣を振るうと、竜巻の上部が凍りつく。

次に、ウィステリアが燃え盛るナイフを振るえば、竜巻の下部は消し飛び、熱で膨張した竜巻は瞬く間に消滅した。


半分ほどは凍っていたため、中から飛び出してくるアオイを傷つけることもない。呼吸は荒いながらも、彼女は溶けた氷に守られてガーベラの胸に飛び込んでくる。


「よかった、アオ……ぬれちゃったけど、無事ね」

「すみません、ベラも濡れてしまいましたね。すぐに乾かします。……サポート特化、私の戦い方。ふむ、理解しました」


風を使って自分とガーベラを乾かすアオイは、彼女から離れながら考え込むと、すぐに結論を出す。


そして、不思議そうに首を傾げるガーベラとエリスの足止めをしているウィステリアに対して、戦いをサポートする風を吹かせ始めた。


"風隠・副腕装剣"


すると、彼女達の背中には羽とは違った物体が生まれた。

羽が動く邪魔にならない位置に、風で作られた無数の腕や剣のようなものが。


今は前線から離れているガーベラはまだ不思議そうだが、1人エリスと戦うウィステリアにはすぐその影響が現れる。


炎の剣を振るう彼を助けるように、重ねて威力増強、支えて軌道修正、先んじて動いて敵の行動牽制など、様々なサポートをしていく。その光景を見たガーベラも、ようやく効果を理解して歓声を上げた。


「え、これすごく助けてくれるじゃない!? すごいっ!!」

「強者相手だと、私は直接手を下せない。

なので、私が殺すのではなく私が殺させる。

いえ、別に殺すことに限定している訳ではありませんが……」

「ありがと、アオ! 私も行くわね!」


彼女はまだ強めの言葉を使ってはいるが、戦いが始まる前に裏工作をしていたように、完全に補助する方向に戻ったようだ。


そんなアオイの様子を見て、ガーベラは安心したように微笑んでエリスに向かっていく。


直接戦闘はガーベラとウィステリア。

サポートを終えたアオイは、もうこの場でやることはないと見守る体勢に……


「動きが止まらず、酸素も奪えず、ねじ切ることもできず、押し潰すこともできない……ですが、前2つはサポート寄り。

後ろの2つを切り捨てれば、妨害特化にすれば……」


ならなかった。彼女はエリスに吹き飛ばされていくガーベラ達を見ると、しばし考え込んで1つの結論を出す。


妨害と殺害の両方をしようとするから、どちらも中途半端で通用しなかったのだ……と。

自分がサポート特化であるのならば、攻撃を捨てれば妨害でサポートすることはできるのだ……と。


歪みを渦巻かせる瞳でエリスを見上げる彼女は、冷徹な笑みを浮かべると再び風を操り始める。


"ジャック・タービュランス"


すると、その手から放たれたのは不規則な風。

上下左右や強弱など、あらゆるものが不安定に操作された風だった。


それはガーベラ達に影響を与えないように操作されているため、的確にエリスの動きのみに影響を与えていく。

ガーベラに炎を放てば横にそれ、ウィステリアに岩の槍を突き立てようとすれば、炎剣と鍔迫り合って砕かれる。


両者の実力差的に、絶大な影響を及ぼされることはないとはいえ、必ず誤差が生まれるのでエリスは明らかに不愉快そうだった。


「私はあなたと戦えるレベルにはいないようですが、決して戦いから目を離しはしません。常に監視し、妨げましょう。

怒りがなかったとしても、あなたは危険すぎる……」


蜜柑達とエリス達の、ちょうど中間辺りで飛び続けるアオイは、苛立つエリスを見て不敵な笑みを浮かべていた。




「っ……!! 本当に面倒だよ、君達は……!!」

「でも、面倒なだけで厄介な訳じゃないんでしょ?

今も、ぼくはあなたを捉えきることができない……!!」


蜜柑やアオイが下から見守る中。アオイの妨害が入り始めたエリスは、うんざりした表情で呟く。

しかし、ウィステリアの言葉は正しかったようで、彼の指摘を受けたエリスは困ったように微笑んだ。


「そうなんだ、厄介ではないんだよ。むしろ、数人がかりとはいえここまで対等に戦える相手は久しぶりでね。

正直、嬉しいよ。面倒だと思えるほどの相手、だからさ」


嬉しいと口にするエリスだったが、やはり面倒なことに変わりはないらしく、最終的にはため息をつく。

ウィステリアの炎剣をかわし、ガーベラの氷剣をあしらい、勝負をつけるべく昏い目を不気味に輝かせる。


"バミューダトライアングル"


すると、上空に広がったのはどこか歪んだ世界。

深い霧のようでありながら、透明で見通すことができる。

妖しげに輝いておりながら、暗闇のように視界を妨げる。


ブゥーン……と不気味な音が響いていながら、何も聞こえない。上に飛べば、段々と下に落ちていく。

ただこの場にいるというだけで、下手したら自滅して死んでしまいそうな三角形の空間だった。


「うっ、これは……!?」

「かつての文明では、空や海を移動する乗り物が消えてしまう海域というのがあったんだよ。それをね、私なりに神秘で表現してみました。3人がかりなんだし、いいよね?」

「下手に、動けない……!!」


動きを止めたウィステリアに、エリスは愉快そうに笑いかける。面倒だと思える相手。そんな人物達が抵抗できずにいることが面白いようだ。


エリスはウィステリアとガーベラの前へ交互に移動し、その頬をパシパシ叩いたり手足を引っ張ったりし始めた。


「ね、ガーベラちゃん? 君はとっても若いよね。

俺が君くらいの頃は、クラスの子達と恋バナで盛り上がっていたものだけど……君はもう神秘だ。僕も、君みたいに苦しんでいたらみんなを守れたのかな……?」


しばらく2人の間を行ったり来たりしていたエリスは、やがてガーベラの前で止まると、彼女の体をペタペタ触りながらつぶやき始める。


もちろん、まともに動けないガーベラに抵抗できるはずもなく、彼女はどこを触られてもされるがままだ。


まったく動けない訳ではないため、手を払ったり、離れようとしたりはしているのだが、周囲の様子がわからない彼女は逃げられない。


ガーベラのことだからか、どうにか聞き取った声から様子を察したらしいウィステリアは、声を荒げていた。


「ガーベラに近づくなっ……!!

彼女に何かするつもりなら、ぼくは無理にでも動いて……」


だが、この空間内にいる以上まともに動けはしない。

慎重に飛び始めるウィステリアだったが、向かう方向はてんで的外れでエリスも気にせずガーベラに話しかけ続ける。


「1人生き残ってさ、頭の中がぐちゃぐちゃになって、人格も体も壊れて、それでも生きてほしいって願いを守るしかなくて……君は、これからもっと女らしくなるんだろうね。

私は性別も入れ替わるから、胸もなくなってしまっ‥」

「ハッハァ!! 隙ありだぜぇ、エリス!!」


エリスが一方的にガーベラに語りかけていると、突然下から轟音と共に笑い声が響き渡ってくる。

お互いの胸に手を当てていたエリスがパッと視線を移せば、そこにあったのは風に背中を押されるエンと蜜柑の姿。


凄まじいスピードで飛ぶ彼女達は、エリスが身構える前に接近していき、その手を標的に向けた。


"ダアト"


瞬間、エンの手からはまたも黒いモヤが放たれ、それを額に受けたエリスはどこかぼんやりとした目で体勢を崩す。

追い打ちをかけるのは、彼の背中にくっついている蜜柑だ。


彼女もまた手をエリスに向けると、手の平で輝く四色の玉が四方に飛び出していく。そして、エリスを閉じ込めるように火水風土の神秘を放出する。


"エレメントコスモス"


ガーベラ達と同じように、エンの攻撃を受けたエリスはまともに動けない。四方から襲いかかる4属性の力の直撃を受け、無表情で落下していった。


「よっしゃあ、最古の神秘に一泡吹かせたぜ!!

蜜柑を守るっつう名目で隙を伺ってて正解だったなぁ!!」

「ちょっと、まだ倒せたかはわからないんだから……」


落下していくエリスを見て無邪気にはしゃぐエンだったが、蜜柑はすかさず注意すると、彼を引っ張って滑空していく。

彼女達の眼下には、自身の海に落ちたエリスが生んだ水しぶきが散っていた。


だが、その水しぶきが収まった後に残る波紋は、すぐにまた別の水しぶきによってかき消される。

海を割って現れたのは、もちろんエリス。


死んだような表情で、黒く染まった羽で飛びながら、黙ってガーベラを見上げているおぞましいエリスの姿だった。


「ああ、萎えた……帰る」


しかし、エリスにはもう完全に戦意がないようだ。

びしょ濡れになった黒い羽を羽ばたかせると、ガーベラを横目に見ながらそのまま去っていく。


思わず体を硬直させる蜜柑達だったが、彼のあまりの威圧感に動くことができない。最初に彼女を引き止めたアオイですらも、指一つ動かせずにそれを見送っていた。




黒幕は去った。その母親だというエリスも去った。

暴走していた商会の男達も、ここに来る前にアオイが制圧していたので、蜜柑を脅かす敵は完全にいなくなったと言えるだろう。


だが、彼女達の間には未だ恐怖が渦巻き、瞬きすらもできずにその場にとどまっていた。


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