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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策7 幻世に根差す神咒

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蜜柑の対策7 幻章-開花予告

生命の樹と氷樹の他は簡単な小屋くらいしかなく、動物どころか植物もいない、既に死んだ荒野で。

守り人は1人孤独に生き続ける。


目的は、ただ生きること。生き続けて、この大樹を見守り、エリスの子どもとなった愛する人の行く末を見届けることだ。


といっても、わざわざこんな何も無い場所で生きる必要自体はないのだが……生命の樹がここを眠る場所と定めたのだから、仕方がない。


当然食べ物などはないものの、大自然そのものである神秘に、食事は必要不可欠なものではなかった。


せいぜい集中力や戦闘能力が落ちるくらいで、ただ生きるだけならば何の問題もない。

そのため神秘である彼は、暇を持て余すどころか、飲み食いすらせずこの500年近い年月を生き続けている。


「……ふぅ」


目の前にあるのは、光そのもので構成されているのではないか?と感じられる程に神秘的な輝きに満ちた大樹。


少し離れた場所に生える氷樹も見通せる場所で、彼女達の守り手になった青年――ユウリは、自作の椅子に座ってため息を付く。


椅子とはいっても、木など守るべき生命の樹しかないので、材料は岩だ。硬い岩を座りやすい形に破壊し、粒子で少しでも快適になるように表面を覆っている。


決して、心安らぎはしない定位置。

他に正常な状態で生き残っている2人も、こんな死んだ土地になど滅多に訪れない。近くに設置された椅子は空席で、より彼の孤独感を高めていた。


ただ、眠りについた2人を見守り続けた500年。

結末を見届けるべき者も、エリスが行動を起こし、暴れ出さない限りはわざわざ様子を見に行く必要もない。


彼の人生の大部分を占めるのは、何の目的もなく空っぽな席を見つめ続けていたことばかりだ。


たまに訪れる同胞も、長居はしない。

さらに稀に訪れる、生命の樹の果実を求める者も、食べるに値しない者ばかりで守り人ノ仕事など殆どない。

ただただ空虚な生活だった。


「ふぁ……実に退屈で、夢しか喜びのない生活だった。

それも、もうすぐ終わると思っていいのかね、レイスよ」


何も無い空を見上げるユウリは、しばらく経ってから無表情のまま落ち着いた雰囲気で問いかける。

その目は空を眺め続け、誰も映してはいない。


だが、彼の目の前には……三角形状に3つある席の真ん中には、この場にはそぐわないような豪華な椅子に座った男がいた。


といっても、豪華なのは椅子だけだ。

それに座る男本人は、顔をすっぽりと覆ったボロボロの黒いローブをまとった流浪人といった風貌である。


いつの間にか現れた椅子に座る、いつの間にか現れた男は、抑揚のない声で名前を呼ばれると、口元だけしか見えない顔でニパッと笑う。


「そうだなぁ……実際にどうなるかはクロノスしか知らねぇけど、間違いなく幸運の青い鳥は生まれたと思うぜ。俺の期待通りになるとは限らねぇが、少なくとも状況は動く」


彼よりも遥か昔から生き続けているはずのレイスだったが、その口調は以前とまったく変わらない。

どこか軽薄で、何にも期待していないようなのに嬉しそう。


一度も素顔を晒さない見た目も怪しげではあるが、まったく摩耗しているように見えない姿が何よりも不気味だった。


もちろん、彼の恐るべき面はそれだけではない。

また他者より多くのことを把握していながら、今度も盤面を支配して自分は動かずに目的を達成しようとしている。


最古の神秘であるにも関わらず、神どころかユウリにも劣るような、普通の神秘と変わらないようなちっぽけなオーラを身に纏っている。


その黒幕じみた立ち振る舞いと、隠された能力や実力。

ずっと協力者のような立場であるのに、ひたすらに恐ろしく異質だった。


「蜜柑は、ようやく目覚めるのか……

その鳥とはアオイが、エリスが動くきっかけだね?

現人神には……あれが作ったルールには勝てなくても動かざるを得ないような状況を、その鳥が作り出すと」

「その通り。例によって、俺はルールで動けない。

蜜柑が起きるかは知らねぇが、お前は守り人を貫いてな。

お前が必要とされる時は、向こうから勝手に来るからよ」


適当な雑談のようなトーンで語るレイスに、ユウリは視線を下ろして疲れたような表情で目を瞑る。


クリフォトはエリスの支配下には入っていなかったものの、間違いなく彼女の配下だ。彼の主なのだから、目的は考えるまでもない。


当然それは、今目の前にいる男にも言えることなのだが……


「君は、私に何を望む?」

「いずれ来る日を待つこと」

「……何なら、今すぐに殺してあげても良いんだがね」

「ハハッ、そりゃあ無理だ。お前に俺は殺せない。

たった1人になっちまったお前にはな」


彼らの間に流れる空気は、決して殺伐としたものではない。

これは妙な信頼感の上に成り立った、穏やかな情報提供だ。

ユウリは素直に最古の神秘から助言を受け取ると、長い年月を感じさせる厳かさで言葉を紡ぐ。


「死にたくて、滅ぼしたい。難儀なものだな。

良いだろう。あの子のことは、ドルチェとエンに任せる。

私はこの死滅の国で、最後の戦いを待つとしよう」

「いい選択だ。お前という神秘は、この世界を救うのに必要不可欠だぜ。……いや、そうとも限らねぇか。

俺はクロノスじゃねぇし、ウィステリアは死んじまったし」

「……」

「まっ、とにかく伝えたぜ。ルールによって停滞した状況は近いうちにようやく動く。そのためにお前は、ちゃんと食事でも摂って英気を養っとけよ。家族の大商人に頼んでさ」


ウィステリアの名前を聞いて無言になる彼に対して、レイスはやはり軽い調子で言い放った。種はいずれ芽吹く。

来たるべき日のために、破壊は今広がり始める。


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