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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策1

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15-鬼哭衆の首領

アオイが倒れるように眠りについた日から、さらに数日後。

すっかり調子を取り戻した彼女は、村にある宿屋の中から1つを選んで、それ以外の宿を客で埋める、という作戦を見事に成功させていた。


また、彼女の妨害工作もかなりよく機能したようで、鬼哭衆もこの村に到着済みである。


ただし、彼らがやって来た影響からか、村の周りにはこの国にはいない魔獣が大量出没していたのだが……


「なっはっは!! おいおい、俺様は契約を守ったぜ?

お嬢ちゃんが提示した条件は、商会の奴らが来るまでに到着すること。助力の報酬は、金と強力な精霊の加護だ。

ちゃあんと間に合ってんだろうがよ、仕事させな」


荒れ果てた暴力の国――タイレンの無法集団・鬼哭衆。

その首領であるエンは、怒りを露わにするアオイに向かって舌を出し、人を食ったような態度で仕事を要求していた。


ほとんど裸だと言える上半身に、ゴテゴテした金属の装飾品を大量につけている様は実に威圧的。

彼が借り物ではない強力な神秘を扱う魔人であることもあり、雇われる側とは思えない態度である。


とはいえ、仕事をしたがっているのだから、もちろん彼もただ村に魔獣という脅威を呼び込んだだけではない。

その対策として、自身の能力で村の周囲を岩壁で囲い、安全圏を造っていた。


しかし、それを踏まえても横暴だ。

そもそも、魔獣が溢れた原因は鬼哭衆ではなくエン本人。


アオイとしては、ビオレが出てこないのだからエンも出てこないというつもりであったため、到底納得できる状況ではなかった。条件通りに来たと言うエンに向かって、強い口調で問いただす。


「そもそも、なぜ貴方が直接出向いてきたのです?

この程度の仕事に商会長は来ません、鬼哭衆から貴方が来る必要はなかったはずです。部下だけ寄越してください」

「そこはあれよ、時間制限。金はほしい、加護にも興味がある。けど、仕事を受けてぇなら間に合わにゃ。そうすると、俺様が率いるのが最も確実だったのさ。わーったか、小娘」

「っ……!!」


自身が設けた時間制限を盾にされ、アオイは言葉に詰まる。

この時間制限というのは、もちろんビオレ奴隷商会の到着日は自分達で選べないという理由からだ。


来ても間に合っていなければ仕事を頼めるわけもなく。

アオイとしては、出来るだけ速くとの条件は付けざる得ず、当然エンも了承するしかなかった。


ただ、普通に急いでもらうつもりだったアオイと、被害を厭わず自身で出向いたエンの認識が違っただけである。


ちなみに鬼哭衆がマンダリンに間に合った方法というのは、エンの能力でサーラメーヤという二つの頭を持つ犬の魔獣を呼んで操り、同時に地獄への道を切り開き、最速で進むというものだ。


そう、問題は地獄への道を切り開き……という部分。

エンは自身の力により、行く先々が地獄になってしまう。

確実に最速で辿り着けるが、目的地は必ず地獄になるのだ。


そのせいで、マンダリンの周囲はタイレンの凶暴な魔獣に囲まれることになってしまった。とんだとばっちりである。

とはいえ、そのお陰で間に合ったというのも事実。


アオイは悔しげに俯き、いつものように話し合いな場になった丘に生えている蜜柑は、静観をやめて控えめながらエンを受け入れ始めた。


『ま、まぁ、守ってもくれてるんだしいいんじゃない?

間に合わなければ、そもそも作戦が機能しなかったんだし』

「話がわかるな、精霊。俺様が帰れば奴らも帰る。

商会の奴らも来たことだし、さっさと片しゃ問題ねぇよ」

「どの口が言うんですか……!! 貴方達は、町からこの丘までの道を塞ぐだけでしょう……!?」


戦いに直接的には参戦しないはずのエンの言い草に、アオイはすぐさま噛みつく。蜜柑が止める間もない。

もちろんエンが悪びれる様子もなく、装飾品を鳴らしながら声を上げた。


「そう! 鬼哭衆は丘に近づこうとする敵を屠るだけだ。

これはお嬢ちゃん達の戦いだろう? ちなみに、俺様は一切手を出さない。流石に頑張りを無駄にしかねねぇんでな。

まぁ、移動と最大級の動揺を生んだだけでも仕事はしたぜ」

「はいはい、そうですね。

いるだけでいいだなんて、流石お偉いさん」


声高に成果を主張するエンに、諦めた様子のアオイは適当に褒めることで対処する。彼には何を言っても無駄だと悟ったようだ。


とはいえ、実際にエンは自分にできる役割を完璧に果たしたと言えるだろう。前線に出るつもりがないとはいえ、エンはタイレンの覇権を争う2つの組織の一方をまとめるボスだ。


自分達の組織からはビオレが来ないのに、なぜかいきなり現れた対抗組織はボスを連れてきたのだから、生まれる混乱はこれ以上ないほど大きい。


蜜柑と遠距離からテレパシーで話すガーベラ達の報告でも、宿で異常な騒ぎが起こっているとのことである。

火計を使うまでもなく、商会の人達は大混乱だった。


これならば、外部の者よりも多少は宿屋に詳しいガーベラ達は簡単に潜入し、制圧できることだろう。


しかし、だからといって決して油断はできない。

蜜柑のテレパシーでゲリラ戦を有利に進められるとはいえ、人数差や体格差は圧倒的であり、軍事訓練を受けている彼らとは経験も違う。


そもそも、ウィステリアの消えない炎による火計の目的は、混乱を生むというよりも広範囲攻撃だ。

逃亡を防ぐという効果への期待もあるが、何よりも彼が操る炎の範囲を広く取ることである。


素人の子どもがプロの大人に挑むならば、持てる力をすべて使わないなんてありえない。当然蜜柑も手を抜くつもりはなく、追い打ちをかけるように火計を使うことを宣言した。


『偵察に出てるガーベラとウィステリアも、目に見えて焦ってるって言ってるよ。まぁ、結局1つの宿に集中させてるから関係ないけどね。なんにせよ、彼らの混乱が収まる前に襲撃しよう。火計の効果を最大限に高めるために、今晩!』

「おー、やれやれ。おもしれー殺し合いは、酒の肴になる」

「勝手な……!! こほん。そうですね、ここまで周りに迷惑をかけておいて、悪ガキでは終われません。確実に蜜柑さんを守り、より安全な村にすることで償いましょう。もちろん、今まで以上に蜜柑さんを利用するのではなく、今の私達で」


蜜柑の宣言を聞いたエンは、もう部下に道を塞がせており、やることもないため完全な他人事で茶々を入れる。

まだ昼だというのに、持参していた袋から酒を取り出し本格観戦モードだ。


そんな彼の見世物宣言にもちろんアオイは眉をひそめるが、咳払いをして気を取り直すと、これからの決意を述べた。

しかし、それは未だに蜜柑に遠慮するようなものであったため、彼女は心外だとばかりに枝葉を揺らして抗議する。


『ちょっとー、何水臭いこと言ってんの? ここまで来たら一蓮托生! 命まで預けてるんだから、私達はもう友達を超えた友達だよ! 何でも協力するから頼って!』

「……ありがとう、蜜柑さん。頼りにしているわ」

「……」

「なんですか? 気味の悪い笑い方をしないでください」


すると、彼女の好意を全身で受けたアオイは、エンを相手に緊張していた頬を緩めて、陽だまりのように微笑む。


しかし、口調から雰囲気まですべて変わったことにニヤニヤ笑うエンに気がつくと、瞬時に視線を凍てつかせて詰り始めた。


「気味の悪いってひでぇな! 俺様はただ単に、微笑ましく思っただけだぜ、クーデレちゃん」

「は? 何言ってるんですかやめてください」

「なっはっは!! 俺様は知ってる! 科学文明で愛されていた、属性というものを!! 長生きだからな」


絶対零度の威圧を放つアオイがどれだけ止めようとしても、エンの口が閉じることはない。

夜の襲撃の時刻まで、ガーベラが戻ってきても丘では変わらずエンの声が轟いていた。


今日は昼にも投稿する予定です

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