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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策1

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15/205

14-伐採の黒幕

記憶を失ったガーベラがマンダリンへと帰ってきていた頃。アオイの作戦が動き出す数日前。

領主がいる町の外では、夜闇に紛れてとある人物たちが密かに会合を行っていた。


「あれでよかったのかの? プセウドス」


白髪・白髭で、白い法衣のようなものを身にまとっている、伝承にあるような仙人のような見た目の老人は、待ち人が町から出てきたのを見て穏やかに問いかける。


彼の目の前にいたのは、闇に姿を隠すような黒いキャソックを身にまとった神父だ。プセウドスと呼ばれた神父は、胡散臭い笑みを浮かべながら老人に感謝の言葉を述べた。


「ええ、ありがとうございますレーテー。

あの場で何度も来られても面倒ですからね。

彼女には、大人しく帰ってもらわなくては」

「そうかのぅ? わしとしては、精霊と認められた方が楽になると思うのじゃが。どうせフラーの聖花騎士団もすぐには来られぬし、加護を与えられた子らも油断するじゃろう?」


ここは領主のいる町。

何度も来られると面倒であり、大人しく帰ってほしかった彼女とは、もちろんガーベラのことだ。


つまりは、ガーベラが領主の前で加護の力を使えなかったこと、蜜柑のことを忘れたことなどは彼らの謀略ということになる。


だが、黒幕の1人であるはずの老人――レーテーは、自らがしたことであるにも関わらず納得してはいないらしい。

どこか他人事のように呟く彼に、プセウドスは終わったことながら丁寧に説明していく。


「えぇ、それはたしかにそうです。しかし、私とあなたであれが伐れますか? もし商会が失敗しても、試練を与えれば力が強まり連行が楽になりますよ。見極めもできますしね」

「なんじゃ、その木の精霊はそんなに大きいのかの?」

「おや、また忘れていたのですか? では……」


プセウドスの説明を聞いたレーテーは、とぼけた様子で首を傾げる。どうやら蜜柑の大きさを知らなかったらしい。


いや、プセウドスの口ぶりから察するに、正確には覚えていなかったということになるのだろう。

プセウドスは呆れた様子で彼を見ると、片手を頭の前に持っていく。


そして、その手が一瞬霞んだかと思うと……


"オールレディ・プセウドス"


少しぼんやりとしていたレーテーはようやく焦点を合わせ、真っ直ぐと相手の顔を見返すようになる。

ゆっくり手を下ろすプセウドスも、相手を正常に戻せたことで満足げだ。


「ふふ、先日偽装したばかりなのに、もう忘却しているとは思いませんでしたよ」

「ホッホッホ、いつもすまんのぅ」

「いえいえ、そのお陰で得たものもありますからね」

「得たものとな?」


どうやら忘れっぽいのはいつものことらしく、正常に戻ったはずのレーテーは穏やかに笑いながら問いかける。

正常に戻したばかりで、そのお陰で得たものとなると、もちろん精霊――蜜柑の情報だろう。


しかし、レーテーは忘れていた間に精霊を捕らえると聞いたという様子なので、2つが結びつくことはなかった。

慣れているプセウドスも特に苛立つようなことなく、やはり丁寧に説明していく。


「忘却して彷徨うあなたを探していたお陰で、面白い神秘を見つけました。最近成ったはずなのに、やけに意識のはっきりした人のような木の精霊です」

「おお、記憶を消した子に加護を与えた精霊じゃな」

「ええ。たまたま伐採対象だったので、試しに試練を与えてみたのですが、正解でしたよ。タイレンへと飛ぶ少女……多少ベクトルが違いますが、明らかに超人の域に達しています。そして、たった1つの果実でその力を引き出す精霊……ぜひとも母に献上したいものです」

「超人に、精霊……いいのぅ、いいのぅ。

わしの記憶に刻まれることを願うわい」


すべてを忘れていた間の状況を聞いたレーテーは、ようやく頼まれていたことや具体的な標的について理解したようだ。

三日月のように目を細めながら、自身の特性を自覚した願望を口にする。


目に見えてわくわくした様子の彼を見つめるプセウドスも、彼とはまた違った昂りをもって頬を緩めていた。


「さて、そろそろ現場へ向かいますか。我々が勝つ必要はありません。戦いに乗じて、影から目的を果たしましょう」


プセウドスの宣言を受けて、彼らは町を後にする。

仙人のような法衣や長く白い髭をはためかせ、黒いキャソックを威厳たっぷりに翻し、標的がいるマンダリンへと向かっていった。




~~~~~~~~~~




影で暗躍する者達が密かに出発した数日後。

アオイが着々と迎え撃つ準備を進めていた頃。


領主のいる町からマンダリンへと続く道上では、ビオレ奴隷商会の男達による、アオイの妨害工作を利用した金稼ぎが行われていた。


「イシャンさん、木々の撤去完了しました!」


現在行われていた作業は、アオイが風の加護で伐り倒し、道に積み上げていた大量の木々の撤去だ。

今回の事業の責任者だと思われる、たくましくも美しい肉体を持つ男――イシャンは、部下の報告を受けて立ち上がる。


流石商会でも上の立場にいるだけある言うべきか、綺麗な髪をかき上げる彼は、荒れたタイレンという国出身でありながら他の者とは違って小綺麗だった。


腹筋や上腕筋などを派手に露出しながらも、質の良さそうな布地や所々に光る装飾品を揺らして指示を出していく。


「おう、ご苦労。んじゃあ、ちょいと道整えたら‥」

「大変です、イシャンさん!」

「今度はなんだぁ!?」


だが、丸太の無くなった道を確認し、多少荒れてしまった道の修繕を命じているところで、また別の男が駆けてきた。

明らかに問題があったと思われる声に、イシャンは思わず強めに怒鳴ってしまう。


しかし十分に人望はあるらしく、報告者も特に怯えるようなことはなく、真っ直ぐに彼の目を見て報告を始める。


「それが、この先の道を確認してきたところ、何かに派手に抉られたような跡がいくつもありまして……」

「おいおい、どうなってんだよ。こんなに平和な国なのに、急に治安悪ぃじゃねぇか。追加報酬はたんまりもらえるからいいが、次々に仕事が増えんのはダリィぜ。何箇所だ?」

「すべて確認できた訳ではないですが、現状でも3箇所……」

「3箇所だぁ……!? 派手に抉られてんなら意図的か?

はぁ、面倒なことになってきたなぁ」

「ど、どうしますか……?」

「そりゃあ仕事は放り出せねぇよ。金かかってんだ。木々の撤去は終わってるが、修繕後は休憩だから別の班を回せ」

「了解です!」


雲行きが怪しくなってきたことで、流石に不安そうに尋ねる部下に、イシャンは迷わず断言する。

まともな資源がなく、荒れている国からの出稼ぎとあっては、やはり利益は手放せないようだ。


すると報告者は、礼儀正しく返事をするとすぐさま踵を返して班の部下に号令をかけ、作業に取り掛かり始めた。


「ということだ、頼むぞお前ら」

「うはは、任せとけ!!」

「ボーナス頼むぜ旦那〜!!」

「黙って行け! なんのために俺が報告に行ってると思ってんだ!? 下手なこと言うな馬鹿野郎!!」

「へいへ〜い、悪かったな頭でっかちさんよぉ!!」

「お前ら……!!」

「うはははは〜!!」


報告者は礼儀正しく話していたが、どうやらそういった者は一握りであるようだ。

いかにも荒くれ者っぽい大男たちは、強く叱られてもお構い無しだ。彼をからかいながら走り去っていく。


すると報告者も、改めてイシャンに頭を下げて彼らを追っていった。最初に来ていた部下も、大した報告もなく次の指示も出ていたので既にいない。


この場に残されたのは、実質的な責任者であるイシャンと、本来の代表であり商会の幹部でもある魔人の男だけである。


神秘には寿命がないため長い時を生きている彼だが、見た目は精神に依存しているため若々しい。

しかし、イシャンと違って見た目に頓着しない性格なのか、痩せ型の体はみすぼらしいマントに包まれていた。


「ひっひひひ、随分振り回されてんなぁイシャン」

「そう思うならちったぁ働いてくれませんかね、ハオさん」

「嫌だね、オレは食う以外興味ねぇ……イナゴ、食うかぁ?」


ニタニタと笑いながら声をかけてくる上司に、イシャンは面倒くさそうに顔をしかめながら言葉を返す。

しかし、すげなく断った魔人――ハオは気にせずポケットからイナゴを取り出すと、見せびらかすように振り始めた。


予定表などに目を落としていたイシャンは、いつも通りのやり取りなのか慣れた調子で吐き捨てる。


「どうせくれねぇんでしょ?」

「あぁ、やらねぇー。ひっひひひ、うま。流石豊かなフラーの虫だぁ、クセになる味だぜぇ。うめーうめー」

「だぁ!! うっせぇなぁ、さっきから!!

面倒なことになってんだから、邪魔すんなら帰れよ老害!!

何しに来たんだあんた!?」

「いっひひひ!! 弱っちぃ人間をからかって遊んでんのさぁ。カリカリしてっと寿命が縮むぜぇ?

寿命がねぇオレ達神秘と違ってさぁ」


適当にあしらってもしつこく自慢してくるハオに、イシャンもついにキレて怒鳴りつける。


だが、それすらもハオにとっては食事のスパイスにしかならないようだ。バシンバシンと膝を叩きながら、舌を出して愉快そうに笑い出す。


「あぁ!? 殺しゃあ死ぬだろうが!!

いいからもう黙ってろ!!」

「あー、あー。すっかり大人な兄貴分になっちまいやがったなぁ。オレァ寂しいぜぇ? 昔なら殴りかかってきてよぉ、そんで返り討ちにされて泣き喚くんだぁ。無様によぉ」

「……!!」

「いっひっひっひ。うま、うま」


さらなる挑発をしてくるハオだったが、イシャンは歯を噛みしめるだけにとどめる。

ニタニタと笑い続けるハオも、その後はそれ以上は何も言わずに黙々とイナゴを食べ始めた。


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