13-アオイの策略
本日2回目の投稿です
「それでは、鬼哭衆を加えた作戦を発表します」
鬼哭衆を雇うことに成功したということへの歓声が、ようやく収まった頃。流石に居た堪れなくなってきた様子のアオイは、わずかに頬を染めながら口を開く。
その内容は、蜜柑達もアオイがやってくる直前まで話していた、ビオレ奴隷商会を力尽くで止めるというものだ。
加勢が来ることになったとはいえ、かなり無茶なことをすることに変わりはないので、ガーベラも含めて全員真剣である。
「まず、商会に対抗するために雇った鬼哭衆ですが、彼らは直接的には使いません。最終防衛ラインであり、保険です」
「えぇっ、どうして!? 3人じゃ大変じゃない!?」
「そ、そうだよ……! 人数差をくつがえさないのなら、彼らはなんのために呼んだの……!?」
軍事化を進め始めている商会への実力行使。これは、魔法のような力である神秘があっても大変なことだ。
多勢に無勢だったのを鬼哭衆を雇うことで解決すると思っていたガーベラ達は、驚いて声を荒げる。
だが、アオイが帰ってきたことや鬼哭衆の加勢により冷静さを取り戻していた蜜柑は、その意図を理解したらしい。
落ち着き払ってアオイの考えを確認していく。
『領主に加護の力を示すんだね。商会を倒してもう一度交渉に行っても、また使えなくされたら意味がない。戦いの場でも封じられたら対策にならないけど、その場合は仕方がないから鬼哭衆。交渉を妨害してきた黒幕もその場にいるはずだから、彼らに捕らえさせて交渉で加護を使う』
「その通りです。二段構えで力を示すチャンスを狙います」
蜜柑の説明を聞いたアオイは、満足そうに頷きながらその言葉を肯定した。しかしそんなアオイとは対照的で、アオイの思考についていく蜜柑に、他の2人は度肝を抜かれているようである。
彼女達は目をまんまるにして蜜柑を見つめ、しかしアオイは気にせず、地図を広げながら話を進めていく。
「最終防衛ラインは、もちろんこの丘。商会の兵が蜜柑様に近づくことのないように、周囲を固めさせます。
そして同時に、なぜか現れた対抗組織に混乱するであろうことを利用し、全商会メンバーの居場所を炙り出します」
『んー……それは村に来る時点でわからないの?』
「この村は辺境ではありますが、その分他国からの行商人などがそれなりに利用します。商会も一応は商売人ですので、見極めるのは困難です。また、伐採や砦建設など役割が違うので、一度に来る訳でも無いでしょう。基本的にこちらは3人ですので、監視は現実的ではありません」
『なるほどね。全員が宿に入ったあとで、鬼哭衆に動揺する人達を見つける訳だ。便利ー』
形だけの国から権力を奪ったビオレ奴隷商会は、タイレンという国の実質的な支配者であると言える。
しかし、恩にすら縛られるのを嫌う、自由奔放な無法集団である鬼哭衆は、彼らに唯一抗う組織だ。
商会からビオレ本人がやってくるとは思えないため、下っ端にとってはとんでもない事態で、大いに混乱することが予想された。
直接戦うのはここにいる3人だけとするのなら、これ以上ないくらいに適した使い方だろう。
だが、一度その案に納得したかに見えた蜜柑は、少し考えた後に改善案を提示する。
『……あ、でも待って。鬼哭衆の配置は村の近くにしようよ。
黒幕がいるなら、私の周りを空けて誘き寄せよう』
「それは……かなり危険ではないですか? 神秘を封じることのできる相手なのであれば、蜜柑様が何かされるかも」
『でも、どこに現れるかわかってた方がいいよ。
加護はもう与えたもので関係ないだろうし、一度駄目だったものを受け入れてもらうなら、商会の制圧くらいインパクトがほしい。なんなら、黒幕も捕まえたい。みんなと違って、私みたいな大きな木はそう簡単には伐り倒せないでしょ?』
「……確かに、事業の妨害は失敗したくないですね。
ただの悪ガキとして捕まったら、どうなるかわかりません」
『ね、決定』
アオイを納得させた蜜柑は、彼女の考えが変わらないうちにさっさと自分の案を決定事項にする。
当初の予定では丘を隙間なく監視する配置だったが、丘と村の間に壁になるような配置にし、多くて数人であろう黒幕の誘き出しと、より商会の動揺を誘う形に変更だ。
アオイが広げていた地図上でも、丘の周りから村を通行止めするように書き換えられていく。
しかし、アオイには他にも思うところがあったようだ。
地図上の配置を書き換え終わった彼女は、またも思案顔になってそれとは別の意見を口にする。
「あと、商会の制圧と言いましたか? 私としては、程々に暴れて責任者を捕まえるくらいでいいと思っていたのですが……そもそも、いくら加護があってもできまかすね?
難易度は跳ね上がりますよ……?」
『そこはウィステリアの力を使おう』
「え、ぼく……!?」
『うん。ウィステリアの炎は燃やさない。見た目だけの火事を起こして、戦場でも混乱させてゲリラ戦!』
「え、えぇ……!?」
伐採を阻止するための方針が実力行使に決まっているからか、蜜柑も焦っていた最初とは違ってかなり思い切った作戦を提案する。
それも、襲い来る商会のメンバーを3人が迎え撃つという受動的なイメージから、宿を特定するという能動的なイメージに変わったということもあるだろうが、かなりの荒業だ。
採用されると、放火魔になることを強いられることが確定のウィステリアは、今までと比べても遥かに真っ青だった。
しかし、鬼哭衆を引っ張り出すなどの実績がある策士アオイは、思いの外乗り気である。
村や相手に余計な被害を出す心配がないこともあり、どこか興奮した面持ちで検討を始めた。
「すごいことを考えますね、火計ですか……!!
練度にもよりますが、襲撃地全体が攻撃範囲にもなるかも……とても面白いです。テレパシーで連携も完璧なら、探す手間がかからない分難易度も下がりそうですね……!!」
「え、えぇ……? ええぇぇ……!?」
『うんうん、いい作戦でしょー?』
「はい、採用します。そしたら、商会が使う宿も1つに絞ってもらいたいですね……誘導しますか。人数は数えてませんが、村で一番大きな宿を空けて、他を客で埋めて……」
『そういえば、商会の人達はまだ来ないみたいだけど、いつになったら来るのかな? 雇いに行った時に見てない?』
蜜柑の作戦を採用したアオイは、さっきまで鬼哭衆の配置を考えていた地図で村の宿の規模や数を確認し始めた。
あ然としているウィステリアはお構いなしだ。
そして、同じように気にしていない蜜柑は、彼女の人数は数えていないという発言に触発されてか、ずっと不思議に思っていた疑問を投げかける。
ガーベラが領主に会いに行った時点で既に準備が進んでおり、帰ってきた時点で伐採に来てもおかしくなかったビオレ奴隷商会。
それが、なぜガーベラが帰ってきてから数日経っても一向にやってこないのか……と。
すると、彼女の至極当然な疑問を聞いたアオイは、地図から顔を上げながらしれっと言い放つ。
「えぇ、見ましたよ。というより、彼らが村に辿り着けないよう、私が妨害してきたんです。木を積み重ねたり、道に穴を開けたり。もちろん、人がいないのを見計らってですが」
『うぇぇっ!? 何それ凄すぎ!?』
「あ、あなたそんなに有能だったの……!? 情報伝達、手配、作戦立案、妨害工作、他国の情勢理解にその有効活用。
何でもできてもはや怖いのだけれど……!!」
この数日にアオイがしてきたことを聞いて、流石の蜜柑も度肝を抜かれてガーベラもドン引きだ。
そもそも最初から、遠い異国であるタイレンに迷わず行って、無事話をつけてくる行動力や交渉力はおかしかった。
だというのに、さらにはすべてを見透かし、操るように妨害工作までしていたというのだから、当然である。
ウィステリアなど、もはや息をしていない。
彼女達の劇的な反応を受けたアオイは、困ったように微笑みながら、風でウィステリアを蘇生と説明をしていく。
「私がタイレンに行く時間を稼ぐためですよ。流石に遠すぎるので、妨害しなければ寝ずに飛んでも不可能でした」
『しかも寝てなかった!? もう、何なの!?
実は人間じゃないの!? 実はあなたこそ精霊様!?』
「わたし、とんでもない子に目をつけられていたのね……」
これで止めとばかりに明かされた不眠宣言に、蜜柑はついに幹を派手に反らして驚愕し、ガーベラは遠い目をして嘆き始める。
気にせず宿の情報や誘導計画をまとめていたアオイは、完了と共に頭をゆらゆらと揺らし、重い瞼を閉じかけていた。
「まぁ、多分しばらくは来ませんよ……道の整備はお金になりますから。私は、宿をまとめ終わったので、少し寝ます……」
12歳にはあるまじきハードワークを終えたアオイは、数日ぶりの深い眠りに落ちていく。
その小さな体を慌てて受け止める蜜柑達は、一番の功労者を労るために木陰を作り、膝枕をし、毛布を取りに駆けていった。




