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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策1

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12/205

11-交渉、失敗

「あの、何をしているの……?」

「すごいわねそれ、花火なのに燃え移ってない!!」


いつの間にか背後に現れていたアオイとガーベラは、直前までウィステリアが起こしていた現象をしっかり目の当たりにしたらしく、それぞれ対極にあるような反応を示す。


片や、膝丈のスカートをふわふわと揺らしながら嬉しそうに。片や、着物の袖で口元を隠しながら戸惑ったように。

感情の正負でも体の静動でも、印象的な位置すらも上下で対極的だ。


枝葉をピタリと止めてしまった蜜柑とギクシャクとした動きで振り返るウィステリアは、そんな彼女達に気が付くとすぐさま口々に弁明を始めた。


『べ、別にヤバいことはしてないよ!? 私は!!』

「ちょ、ちょっと蜜柑さん!? ぼくだって変なことはしてないよ!? 少し羽目を外しすぎたところはあるけど……

実行者がぼくなら、先導者は蜜柑さんだから!!」


少しお転婆なガーベラはともかく、アオイは普段から厳しいので、彼女達も今までに何度も注意を受けていた。

そのため、2人の口から溢れ出るのは、互いを売ってでもお説教を免れようという足の引っ張り合いだ。


アオイは何をしていたのか聞いただけで、まだ咎めたりしているわけではないのだが、彼女達は『私は何もしてない』「やらされただけである」と必死に互いを売る。


すると、それを見たアオイはより戸惑いを深めながら、タジタジで2人の弁明を止め始めた。

普段は怒られる側であるガーベラは、ウィステリアの神秘に興奮しながらも面白げである。


「べ、別に私は怒ってませんよ……すごいことをしているなぁって、感心していただけです。驚きはしましたけど、目立つことで存在を主張できますから怒る理由はありません」

「……なーんだ、怒られないのね。つまんない」


面白げに蜜柑達の様子を見ていたガーベラは、思ったよりもアオイがなんとも思っていなかったことに気を落とす。

思った通りの言葉を、バカ正直にも口に出してしまう。


その言葉を聞いたアオイは、さっきまで村でガーベラを問い詰めていたこともあり、逆に彼女を標的にし始めた。


「さて、ガーベラさん……? 一週間でやるべきことを忘れた残念な頭はどこでしょう……? (はた)けば治ります……?」

「きゃー!? ごめんなさいっ!! 私もこの力は覚えていたし、なんか変だなーって思っていたの!! 説明するわっ!!」


口元を隠したまま、細めた目や声に圧を込めながらジリジリと近寄ってくるアオイを見たガーベラは、いつものようにすぐさま謝って飛び退く。


アオイは明らかに脅していたので無理もない。

普段から厳しいアオイに叱られている立場なので、圧をかけられた彼女は速やかに自分のやらかしについて説明を始めた。やはり彼女達の力関係は明白である。


「えっと、アオの話を聞く限り、私はこのみかんの木を伐採されないように交しょうに向かったのよね……? あ、いえ!

もちろん覚えてるわ!? このすごい力――加護をこのみかんの木の精霊様に頂いたのでしょうっ!? 覚えて、いるわ……?」

「……とりあえず、このみかんを食べてみたらどうです?

もしかしたら、蜜柑様の力で記憶が戻るかも……」

「そ、そうね! いただきます」

『うん、どーぞー』


アオイの説教を回避すべく、直前まで問い詰められていた内容から手探りで弁明を始めたガーベラ。

しかし、明らかに何も覚えていない様子だったため、アオイの提案でまたみかんを食べることになった。


何が起こったか説明するにしても、大前提である蜜柑という存在を忘れていたら話にならない。

なぜ忘れていたのかがわかるのならいいが、旅に出た目的がなければそれも期待薄だ。


蜜柑も快く自分の果実を与えたため、ソワソワと手を伸ばしていたウィステリアも含めて、一旦おやつの時間になる。




「あー、おぼろげだけど思い出してきたかも……

少なくとも、蜜柑ちゃんはわかるわっ!」


みかんを食べたガーベラは、まだどこか釈然としないような表情をしていたが、一応は思い出したらしく口を開く。

ウィステリアが気にせずみかんを食べ続ける中、アオイに促されて改めて説明を開始した。


「えっと、わたしは元々伐採がいやで、叔父さんに会いに行った……蜜柑ちゃんは精霊だから、伐らない方がメリットがあるっていう交しょうで……」

「はい。交渉は1人で十分だと、旅の護衛のみで行きましたね。何があったのですか?」


まだすべてを思い出したわけではないのか、ガーベラはどこか自分に言い聞かせるように記憶を思い返していく。


どうやら、村で問い詰めていたという時間は彼女の記憶をどうにかしようとしていたらしい。

アオイはガーベラのつぶやきに若干補足をすると、一週間の旅で何があったのかという本題に入っていった。


「わたしは、叔父さんに会った。だけど、たしか加護の力が使えなかったんだ……だから、信じてもらえなかった」


(能力を封じる……まさに幻想殺しだね。不運な高校生でもいるのかなー、みかんの木に転生した私みたいな。あはは……)


「使えなかった? 今も使えないんですか?」

「今は……」


ガーベラの説明を聞いたアオイは、信じられないものを見るような表情で問いかける。今も蜜柑は実在しており、さっきもウィステリアが加護を使っていたのだから、驚くのも当然だ。


今回の交渉の軸も、みかんの木は精霊であり、加護を与えることで魔獣に対抗できるから伐るべきではないというものだった。


蜜柑のことを覚えていなかったのと同じくらいどうしようもないことで、それを自覚したガーベラは言われるがまま神秘を使えるか試し始める。


「使えるわ……」


すると、彼女の手からは一週間前と同じように氷が生み出される。さっきウィステリアの技を見たからか、蝶のような技巧を凝らした美麗な氷が。


今は使えることをその目で確認したアオイは、キュッと眉間にしわを寄せながら考え込む。

こういうことは彼女に任せておけば間違いはないと学習した蜜柑は、相変わらず黙って成り行きを見ていた。


「何で交渉の場で使えなかったんでしょう……? その時だけ使えなかったということは、誰かがじゃまを……? 蜜柑様を伐りたい人物がいる……? 気になった人などいましたか?」

「そうね……あの人は着実に準備を進めているのか、ビオレ奴隷商会という人達をやとってた。だけどお外にいただけで、交しょうの場にはいなかったし……」

「タイレンのビオレ奴隷商会ですか……本格的ですね」


(奴隷……!? 未来の地球って聞いてたけど、今はそんなのがあるんだなぁ……ファンタジーだ)


「そもそも相手は親族だし、その場にいた見慣れない人っていうと……変な神父さん?」

「神父?」


(変な……怪しい神父? 愉悦……?)


蜜柑が毎回枝葉を揺らして、何かしらを思い浮かべながらも黙って聞いている中、彼女達の会話は進んでいく。

ビオレ奴隷商会といういかにも重要そうなだけの単語の次は、変な神父といういかにも暗躍していそうな人物だ。


しかしガーベラからすると、見慣れない人としていたが特に気にかかることもなかったらしく、あっけらかんとした笑顔を浮かべたままである。


「うん、神父さん。でも、その人も見てるだけだったわ」

「見ているだけの、怪しい神父……」

「記憶という話だったら、多分その後……帰り際に誰かに会ったのよ。その人だけは、今も全く思い出せないわ……!」

「……神父も気になりますが、問題はそちらのようですね。

私達に対して、明確なじゃまをしています」


そして、最後に出てきたのが未だに全く思い出せないという人物。明らかに何かしらで関与している存在の話である。


ガーベラと違って神父のことも気にかけている様子のアオイだったが、彼女も明確な敵としてその人物を設定したようだった。


しかし、何が起こったのかをだいたい話し終わったと思われるガーベラは、唐突にハッとしたように目を見開く。

ずっと聞き手になっているアオイはもちろん促すも、珍しく恐る恐るといった雰囲気だ。


「あ……! でもそれよりもまずいことがあったわ……!!」

「な、何です……?」

「あのね、行って話して戻って一週間……行った時点でかなり準備が進められていたから……」

「ま、まさか……!?」

「うん。多分もう準備終わって、商会が伐採に来る……!!」

『え、えぇーっ!?』


交渉、失敗。

さらにその後に付け加えられた情報は、蜜柑転生後何度目かの叫び声を響かせることとなった。



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