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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策1

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11/205

10-冷たい炎

『え……!? ガーベラ、交渉どころか私のこと忘れてるの!?』


ガーベラがマンダリンに戻ってきた翌日。

蜜柑がいる丘の上では、衝撃の事実を聞かされた蜜柑の驚愕の声が響き渡っていた。


傍らにいるのは、ガーベラがいない間いつも話し相手になってくれていた2人の友人のうち1人――ウィステリア。

彼は蜜柑の声にビビりながらも、周りに誰もいないか見回してから言葉を返す。


もちろん、ここ最近蜜柑は大いに話し、派手に動いているのだからあまり意味はない。こちらの方向を見ていれば、すぐに異常に気がつくだろう。ただの気持ちの問題だ。


「う、うん……そうなんだ。だ、だけど安心して? 昨日からアオが問いつめてて、午後にはここに来る予定だから」

『安心、できるのかな……? 人のことを忘れるって、尋常じゃないよ? 何かあったんじゃない?』

「それは……まぁ。何かあったんだと思うけど……」


ウィステリアの言葉を聞いても、依然心配そうに体を揺らしている蜜柑に同意しつつ、彼はみかんを口に運ぶ。

蜜柑に生る実は加護を与える。


と言っても、加護は既に与えられているのだから、食べれば食べるだけ強くなるということはない。

影響がないとは言い切れないが、少なくとも彼は、このみかんが単純に美味しいのでつい食べ続けてしまっていたのだ。


そんな彼に、もちろん蜜柑はない目を剥く。

珍しいことではあるが、のんきに食事をしている彼に思いっきりツッコミをいれた。


『軽い、軽いよ、ウィステリア! 落ち着いてるのはいいけど、なんで食べるの!? おーかーしーいーよー!!』

「わわっ、ごめんなさい! じゃあ、特訓しようかな?

ほら、何かあったならこの力を制御することで証明に……」

『オッケー、すごく落ち着いてる! いいね!』


しかし、それもウィステリアが食べるのをやめればすぐに落ち着く。ガーベラの異常によっておかしな精神状態なのか、炎を生み出すウィステリアにおかしな歓声を上げ始めた。


「炎って、下手したら蜜柑さんを燃やしちゃうからこわいよね……ふ通なら種火程度なんだけど、今のぼくは強い火を出しちゃうから逆に大変かも。力加減がさ」

『火がつかなくて苦労するよりいいじゃない?

私は火なんて出せない……かは知らないけど、この体で出すつもりはないし、出せるだけいいよ』

「まぁねぇ……」


ウィステリアが生み出す炎は、蜜柑の枝まで届かないように加減をしている。しかし、始めてのことで弱々しかった前回とは違って、単純に手加減をしているだけだ。


蝶のような形になったり花火のように小さく弾けたり、派手ではない分他の人ができないような技巧を見せていた。

ガーベラが旅に出ていた期間で慣れたのか、炎の扱いも蜜柑との距離感もバッチリである。


『……でもさ、魔法みたいな炎なら燃やさないこともできるんじゃない?』

「えぇ!?」


ウィステリアがしばらく淡々と炎を操っていると、突然蜜柑が突拍子もないことを言い始める。

どんな世界であろうとも、炎とは燃えて広がるもの。

可燃物である木などひとたまりもないはずだ。


当然ウィステリアはドン引いており、ギョッと身を硬直させて炎を消してしまう。だが、燃えることになるであろう本人はなぜかノリノリであり、固まるウィステリアを気にせず試してみようとグイグイ勧めていた。


『ちょっとやってみてよー』

「へ、下手したら伐採対策の前に死んじゃうのに……!?」

『お願い!』


明らかに嫌がっていたウィステリアだったが、蜜柑は加護を与えてくれた精霊だ。かなり仲良くなっていた様子ではあるが、性格的にも強く頼まれると断りにくい。


何度も頼んでくる彼女についに折れると、アワアワと震えながらもぎくしゃくと首を縦に振った。


「わ、わかっ、わかったよ……!! 試してみる……!!」


勢いに押されて渋々頷くウィステリアは、緊張した面持ちで手を蜜柑にかざす。ゆっくりと深呼吸をして、わずかに歯をカチカチと鳴らしながらも全身全霊で神秘をコントロールして……


『うわっ、冷たいっ!?』

「ええっ、冷たいのっ!?」


赤々と燃える炎が蜜柑の幹に触れた瞬間、彼女は炎に触れて感じることとは真逆の感想を叫び、思わぬ反応にウィステリアも驚きの声を上げた。


蜜柑の望んだ通り、炎は彼女の体を燃やすことはない。

しかし、その見た目は普通の炎であり、いかにも熱そうな真っ赤な炎である。


だというのに、どうやら温度は真逆であったらしいウィステリアの炎は、一応は身構えていた彼女の意表をついたようだ。


『つ、冷たいっ! すごいよこの炎!

燃えないどころかひんやりしてる!』

「えええっ!? めちゃくちゃ必死で制御したけど、そんなことある!? 神秘って何なの!?」

『知らない! 私の方こそ聞きたいよ!』


この神秘の世界にあっても特別な炎に、彼女達は大はしゃぎだ。心配ないとわかったウィステリアがペタペタと冷たい炎を蜜柑にくっつけ続ける中、2人して「神秘ってすごい!」と騒いでいる。


『じゃあさじゃあさ! さっきの炎の蝶をめちゃくちゃ出すとか、葉っぱ気にせず特大花火を打ち上げるとかやって!?』


炎に興奮している蜜柑は、最初の燃えない炎という要望が通ったからか、続けてそんなことをお願いし始める。


頼んだことは冷たい炎を知る前と同じようなものだが、さっきまでとは違って加減をする必要がないため、イメージしているのはそれが何倍も派手になったもの。


手元にだけ生み出していた炎の蝶だったり、真上に飛んで引火しないように方向や威力を抑えた花火だったりを、何も気にせずに全力でやってとお願いしているのだ。


本来ならば、危険がある無いに限らず騒ぎになる可能性が高まるのだから、ウィステリアは拒否することだろう。

しかし……


「い、いいよ! 炎の演舞だね! 任せといてよっ!!」


同じように燃えない炎に興奮しているウィステリアも、最早これらを問題だとしていない。

胸を張ってそのお願いにうなずき、わずかに上気した顔を緩めながら両手を空に突き上げた。


「思いっきりか……だったら、力の方向性を定めるってやつをやった方がいいのかな? たしかアオが言ってたよね……?」


空に手をかざした状態で静止したウィステリアは、うっすらと思案顔になりながら小さく呟く。


力の方向性を定める。

神代の神秘が蘇ったこの地球では、最も自然の力を自在に操るのは過酷な自然に生きる、死が日常となった獣たちだ。


それを、死から遠い生活をしていた人間も使おうというのだから、人はそれに負けないだけの強い心が必要になる。


決して必須ではないが、その強さを高めるため、心が向いている方向を安定させるために、強い神秘の行使には言葉を紡ぐことが多かった。


村長の娘であり勤勉であるアオイから、魔導書などの存在をちらっと聞いていたウィステリアは、蜜柑の期待に答えるべく言葉を紡いでみることに決める。


「炎、冷たい、蝶、花火……」


言うなれば、呪文。

明確な意味がなくとも、行使する本人が、起こす神秘と言葉を=で結ぶことができればそれでいい。


蜜柑が望んでいる事象を呟いていくウィステリアは、その中から最も自分のイメージに合う言葉を選んだ。


"スパークバタフライ"


その瞬間、ウィステリアの両手の中から現れたのは、煌々と燃える炎の蝶だ。間違いなく冷たいが、確かに赤く燃えている無数の蝶。


見た目に反して、冷たい火の粉の鱗粉を巻きながら舞うそれらは、蜜柑の葉っぱを気にせず空高く舞い上がると、順々に花火として散っていく。


『すっっっごい……!!』

「わぁぁ、わあぁぁ!!」


その光景を見た彼女達は、恍惚とした表情で蝶の花火を見上げる。語彙力は消えて、この光景を生み出したウィステリアすらもただただ歓声をもらしていた。




そんな彼女達の視線は空に釘付けであり、最初はしていた配慮と共に警戒も失っていたと言える。

つまるところ、一週間前と同じように背後からやってきていた和服の少女に気がつけなかったということで……


「あの、何をしているの……?」

「……!!」

『……!!』

「あなたもすごい力を手に入れていたのね、リア!!」

「うわぁ!?」

『びっくりしたぁ!?』


爽やかな風が吹く丘の上からは、蜜柑を忘れたガーベラの歓声と蜜柑達の叫び声が響き渡っていた。



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