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日常サイエンス!!  作者: たかべー
8/23

芙蓉葉月とポモドーロ・テクニック!!

 芙蓉は水無月に相談した日から早速教えてもらったポモドーロ・テクニックを実践してみることにした。

まず、部屋で勉強をするときはスマホをリビングに置いた。そして冷蔵庫に引っ付いていたキッチンタイマーで二五分セットしてから英語の勉強を始めた。言われた通り、電子機器は一切部屋に持ち込まない状態で勉強を始めたのである。また、集中の妨げになるだろうと思われる少女漫画も一時的に父の部屋に置かせてもらった。勉強するための環境作りは徹底的に行った。

しかし、そんな中でも最初はあまり集中できずに何度もタイマーを見て残り時間を確認してしまった。五分の休憩時間はやることがなくて暇だったので、目を瞑って机に伏せたり、ベッドに横になったりして休んでいたけど、なんとなくソワソワするので休んだ気がしなかった。スマホについては、芙蓉は元々SNSにあまり依存していないので、勉強の途中で気になるということはなかった。だが、せっかくやる気に満ちて取り組み始めたことだったけど、なかなか集中できなくて、自分はできないのではないか、と思うこともあった。

ただ、そんな中でも根気よく続けていると、段々その周期に慣れてきて、二五分があっという間に過ぎるように感じ、休憩時間もちょうどいい気分転換になっていった。途中、面倒に思うこともあり、やめようと考えたこともあったけど、牡丹の励ましや協力のおかげで忍耐強く続けることができたのだった。

牡丹には教えてもらうことが多かったけど、時折覚えたことを説明したり、問題を出し合ったりしていた。

とりあえずの目標は、五月下旬にある中間テストである。このときの英語のテストで平均点以上を取るのが最低限の目標である。さらに他教科の点数も下げないこと。人によっては低い目標かもしれないが、いつも英語の点数が赤点ギリギリな芙蓉にとっては大きな目標である。

水無月があまりお勧めしなかった過去問を入手して解く、ということはしなかった。水無月が言った、その場しのぎで英語を覚えて、テストが終わった瞬間に忘れてしまうのが、なんとなく嫌だと思ったからだ。英語なら将来役に立つだろうから、それなら覚えたままでいたいと考えた。もし英語が進級に関わるほど致命的な点数だったなら過去問を解いただろうが、まだそこまで深刻な状況ではないので、とりあえず長期的な利点がありそうな選択をしたのだった。おそらく水無月もそのつもりで教えてくれたのだろう。

芙蓉は英語に限らず、すべての科目のテスト勉強でポモドーロ・テクニックを実践したのだった。水泳の練習もあったので、前と勉強時間は大きく変わらず、勉強法だけを変えてみたのである。

そして五月下旬の中間テストを迎えた。芙蓉はいつも以上に緊張した様子で家を出た。なぜなら、牡丹に手伝ってもらったり、水無月に相談したりしたので、もし何の成果も上げられなかったら、二人に申し訳ないと思ったからだ。学校が近づいてくるとさらに胸のドキドキが激しくなるのだった。必死に落ち着こうと胸に手を当てたり、深呼吸したりしたが、なかなか落ち着くことができなかった。

そんな状態で学校に到着し、靴箱で上履きに履き替えていると牡丹と出会った。

「おはよ、葉月ちゃん!」

「あ、お、おはよ。牡丹」

「ん? 葉月ちゃん、どうしたの? 具合でも悪い?」

「ううん。どこも悪くないよ。ちょっと緊張してるだけ」

「緊張…? そっか。今日テストだもんね」

「牡丹は緊張してないの?」

「してるよ。ちゃんと覚えてるかなって不安だよ」

「そうなんだ。でも、そんな風に見えないよ」

「見えないように装っているだけだよ。私も結構不安症だから」

「そうなんだ…」

「前にね、水無月くんがこう言ってたの。大事なことの前に不安になるのは人として当たり前だから、気に病むことはないって…」

「不安になるのは人として当たり前…?」

「うん。あとね、不安を感じたときは無理やり押さえつけるんじゃなくて、それを受け入れて、これは興奮しているんだって自分に言い聞かせると本来の力を発揮できるって!」

「そうなの!?」

「うん。不安は悪い感情じゃなくて、本来の力を発揮させてくれるためには欠かせないものなの。だから私もそんな風に考えるようにしてるだけだよ」

 如月のそう言われて、芙蓉は早速試してみた。ドキドキしている胸に優しく手を当て、今度は無理やり落ち着こうとするのではなく、「これは興奮しているんだ」「今回のテストで良い点を取るために力を与えてくれているんだ」と数回呟いた。すると、先程まで感じていた不安が少し軽くなった気がした。胸のドキドキは治まらなかったが、気持ちは楽になった気がした。

 芙蓉と如月は教室まで一緒に行き、二年A組の教室前でお互いの健闘を祈り合ってから別れた。

 テスト当日だけあって、C組の教室はいつも以上に緊張感が漂っているのがわかった。C組には上位常連の初御空睦月はつみそらむつき生徒会長と神無月紫苑かんなづきしおんというイケメンがいる。芙蓉が教室に着いたときには、すでに二人は机に座って誰も近づくなオーラを纏って勉強していた。二人の気迫の凄さに芙蓉は少し怖気づいてしまったが、今回のテストは芙蓉にとっても大事なテストになるので、切り替えて最後の勉強に集中することにした。

 そして時間になる頃には、芙蓉は落ち着きを取り戻し、テストに臨むことができたのだった。


すべてのテストを終えてから数日後、いくつか返却されたテスト結果はいつもより少し良かったが、英語のテストが帰って来るまで芙蓉は安心できなかった。

そしてテスト後の最初の英語の授業を迎えた。始まりのあいさつをしてから早速先生から出席番号順にテスト用紙が返却され始めた。芙蓉は自分の名前が呼ばれるまでドキドキして待っていた。先生に名前が呼ばれ受け取りに行くと、先生はテスト用紙を半分に折った状態で渡してきた。おそらく周りに見えないようにしているのだろう。芙蓉はそのまま受け取り、机に戻ってから、ゆっくりとテストを開いて点数を確認した。そこに書かれた点数は、芙蓉が英語のテストで今まで見たこともない数字だった。なんと八十二点だったのである。芙蓉はこの点数を見て数秒間思考が停止して固まったあと、ようやく驚愕したのだった。

最初は本当に合っているのだろうか、このテストは自分のものだろうか、と信じられずに、何度も名前を確認したり、自己採点をしたりしてみたが、紛れもなく芙蓉葉月のテストだった。

今回の芙蓉のテスト結果は全体的にすべての教科の成績が上がっていた。これはポモドーロ・テクニックのおかげなのだろうか。それともいつも以上に頑張ったからその成果が報われただけなのだろうか。おそらくそのどちらもだと思う。科学的に正しい勉強法で勉強し、かつ、いつも以上に頑張ったから成果が出たのだろう。芙蓉はただ闇雲に頑張るのではなく、しっかりと成果が出るやり方で頑張ることの大事さを学んだのである。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想お待ちしております。

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