表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常サイエンス!!  作者: たかべー
5/23

プレゼントの選び方!!

 水無月は『相談部』部室の前に立っていた。本当は来るつもりなどなかったが、昼休み以降、如月の顔が頭の中に何度も思い浮かび、離れなかったので、ここまで来てしまった。そもそも、どうして今このような状況になってしまったのだろうか。『相談部』の部員は如月であり、相談に乗るのは如月である。なのに、なぜ如月の相談に自分が乗ることになっているのだろうか。水無月は如月を遠ざけるために、面倒くさそうな持論を述べたのに、なぜ如月は遠ざかるどころか、近づこうとしてくるのだろか。そんな悶々とした気持ちを抱えたまま、水無月は部室の前で三〇分程立っていた。

 そしていつまで考えても時間の無駄だと悟った水無月が、直接本人に確認するため、部室のドアを開けようとすると、いきなり声を掛けられた。

「よっ、翔! こんなところで何してるんだ?」と霜月が言った。

 水無月は突然のことに焦って霜月に「バッ! 大きな声を出すな」と小さな声で警告した。

「わ、悪い」

 幸い部室の中から何も音が聞こえなかったので如月には気づかれていないようだった。

「ここで何してるんだ?」と霜月は小声で言った。

「いや、別に何も…」

 水無月は適当に誤魔化そうとしたが、霜月は周りを見渡して、教室札に書いてある『相談部』に目をやり、事情を察知したようだった。霜月は「へぇー、ここが『相談部』か!」と言いながらウキウキした様子でドアに手を掛け開けようとしていたので、水無月が咄嗟に止めようとしたが、その勢いでドアが開いてしまった。

部室の中は昨日と同じ景色だった。部室の中央に長机、その真ん中に椅子があり、後方には生積みの机と椅子があった。しかし、昨日と違うところもあった。如月は中央の椅子に座っておらず、その向かいに置かれている椅子に座っていた。

ドアを開いたと同時に如月は振り向いてから読んでいた本を膝の上に置き、水無月と目が合った。

「あ、水無月くん…と霜月くん!」

「よっ、如月!」と霜月が言った。

「…あの…遅くなってごめん」と水無月は目を逸らして言った。

「……はぁ~、来てくれて良かった」と如月は胸に手を当てホッとした様子で言ってから立ち上がり「やっぱり水無月くんは思った通りの人だね」と笑顔で言った。 

「…どう思ってるんだ?」

「ん? 優しい人だなって!」

「別に俺は優しくない」

「でも、来てくれたんだね」

「それは…何も言わずに帰ったら失礼かと思って」

「フフ、ありがとう。……霜月くんも来たんだね」

「あ、うん。たまたま近くを通ったから来たんだけど、邪魔なら帰るよ」と霜月は言った。

「ううん。全然邪魔じゃないよ。せっかくだし、霜月くんにも相談に乗ってもらおうかな」

「いいのか?」

「うん!」

 如月はそう言って、教室後方に行き、山積みになっている椅子の中から一脚持って来て、長机があるところに置いた。そしてそこに座るように二人に言った。

「そこは如月さんが座る場所じゃないのか?」と水無月が言った。

「うん。本来はそうだけど、今日は私が相談者だから、私はあっち。この席は水無月くんと霜月くんが座って」

「そういうことか」

 水無月と霜月は納得して言われた場所まで歩いた。二人は肩に掛けていた鞄を机に置いてから、椅子に座った。そして如月と向かい合い、如月の説明を待った。水無月は如月が取り仕切るだろうと思っており、黙って待っていたが、如月も両手を膝について少しワクワクした様子で待っているようだった。霜月も隣で何も言わずにソワソワした様子だった。

そのままお互い何も言わずにしばらく沈黙が続いていると、ようやく如月が言葉を発したのだった。

「あのー、水無月くん。どうして何も言わないの?」

「ん? 如月さんが仕切ってくれるんじゃないのか?」

「えっ、あ、私は今日相談者なので、水無月くんがメインでお願いします」

「あ、そういうこと…」

 どうやら今回の相談は水無月が仕切るようである。それがわかった水無月は椅子に深く座り直し、姿勢を整えてから、如月と目を合わせた。

「ん、んん。じゃあ、如月さんの相談したいことは何ですか?」

「あ、はい! じっ、実は、お世話になった人にお礼をしたくて、その…プレゼントを渡そうと思っているんですけど、何を渡せばいいのか迷って……」

「あ~、わかる! プレゼント選びって結構と難しいよな」と霜月が言った。

「お世話になった人にプレゼント渡したいけど、何を渡せばいいか迷っている…」と水無月は言った。

「はい」

「如月さんは、どんなプレゼントを渡そうと考えているんですか?」

「そうですね…たとえば、お菓子……とか。手作りか市販の…」

「お菓子! いいね!」と霜月が言った。

「でも、もし相手が甘いものとか嫌いだったらどうしようって思って」

「あ、そっか! その可能性があるか」

「他にありますか?」と水無月は言った。

「他には…実用的なものとか。たとえば、ペンとか、ノートとか、ハンカチとか…」

「おー、いいね! それ!」と霜月が言った。

「でも、相手が必要としてないのにあげても、逆に迷惑になるんじゃないかと思って…」

「そうかな? 俺ならもらったら嬉しいけど…」

「他にもありますか?」と水無月は言った。

「他には…」

 如月は自分で調べていたようで、他にもバッグ、マグカップ、タオル、ペンケースなどの案を述べた。話を聞いた限り、如月は自分で入念に調べた結果、候補が多くなり、その中からどれを選んだらいいのか迷っているようだった。相談したのも自分の考えをまとめるための手段の一つのようだった。

「あの…お二人はどんなプレゼントいいと思いますか?」と如月は言った。

「そうだなぁ。俺ならさっき言ったものなら、どれをもらっても嬉し…」と霜月が言いかけた感想を遮って水無月は質問をした。

「その、如月さんがお世話になった相手というのはどんな人ですか?」

「えっ、そ、それは…」

如月はモジモジして恥ずかしそうにしていた。この反応からして、その相手はおそらく好きな人ではないかと水無月は推測した。如月も年頃の女子生徒であり、好きな人がいてもおかしくない。だが、あくまで憶測なので断定せずに話を進めることにした。

「あ、言いたくないなら言わなくてもいいです」

「い、いえ、言いたくないわけじゃないんですけど…その…」

 如月はそう言いながら水無月をチラ見してすぐ逸らすという謎の行動をしていた。

「ごめんなさい。相手が男性か女性かで、プレゼントの内容も変わると思ったので…」

「あ、そ、そういうこと! 男性です」

「男性か…だから翔に相談しようと思ったの?」と霜月が言った。

「はい。私、男友達がいないので、男性が何をもらったら嬉しいのかわからなくて…」

 如月のこの発言を聞いた水無月は、ますますその相手が如月の好きな人ではないか、という考えを強めたのであった。ただの友達相手のプレゼント選びにここまで真剣に悩むだろうか。水無月は自分に置き換えて、同じ状況だった場合の自分の行動を考えてみた。水無月は友達がいないので相手を想像するのが難しく、最初から躓いてしまったが、とりあえず霜月を相手にして想像してみた。その結果、水無月は適当に買ったお菓子をプレゼントするだろうという結論になった。ただの友達に対しては他の人も似た感じではないかと思う。

 しかし、相手が好きな人ならどうだろうか。水無月はそのパターンも想像してみた。水無月は好きな人がいないので、とりあえず大切な家族である妹の『つゆり』を想像してみた。大切であるといっても、決してシスコンではない。その結果、つゆりにプレゼントする場合は、水無月も真剣に考えるという結論になった。なぜなら、つゆりに喜んでもらいたいので、適当に選んだものではいけないと思ったからだ。

 という風に水無月は考えたが、これはあくまで水無月の場合である。この考えが如月に当てはまるとも限らない。ただ如月が真面目なだけで、誰に対しても最高のプレゼントを贈りたいと思っているだけかもしれない。憶測で人を判断してはいけないのだ。

「こういうとき、水無月くんはどうやって選びますか?」と如月は言った。

「そうですね。これはあくまで俺個人の意見として聞いてほしいんですけど……」と水無月は事前に忠告してから「俺だったら相手になにがほしいか直接聞いてから、それをあげます。もちろん買える範囲内で、ですけど。あまりに高価なものは買えないので…」と意見を述べた。

「それって、相手がほしいものを買ってあげるってことですか?」

「はい」

「へぇー、そうなのか。でも、自分で選んだものをサプライズであげたいって思わないのか?」と霜月が言った。

「まったく思わないわけじゃないけど、プレゼントについて、ある研究があって。自分があげたいものをプレゼントしたときの相手の満足度と、相手がほしいと思っているものをプレゼントしたときの相手の満足度を測った研究で、満足度が高かったのは、後者の相手がほしいと思っているものをプレゼントしたときだったらしいんだ。つまり、この研究から、プレゼントは相手のほしいものをあげた方がいいってことになる。だから俺は、プレゼントするときは相手に聞くようにしている」

水無月が実際の研究を例に挙げて、意見の理由を述べると、霜月と如月は「へぇー!」と感心した様子で頷いていた。

水無月が行動を決める基準は科学である。現在証明されている最も信ぴょう性の高い科学に沿って行動すれば、上手くいくだろうと信じているからだ。

しかし、ここで水無月はミスに気づいたのだった。水無月は、如月に質問をして自ら納得のいく答えを出せるように導こうと思っていたのだが、つい調子に乗ってしまい、自分の意見を語ってしまったのだった。最初は傾聴ができていたと思うが、自分の意見を言いたいという衝動を抑えることができなかった。こんな風に人は、特に男性は、自分の知識を示すために、一方的に語ってしまう傾向があるらしいが、相談に乗るとき、これは返って状況を悪くすることがある。

そう考えた水無月は「ま、まぁ、これはあくまで俺の意見であって、霜月みたいになにをもらっても嬉しいって思う人もいるから、全員に当てはまるわけじゃない」と慌てて補足した。

 如月はしばらく黙り込んでから、突然ハッと何か閃いた顔をして、足元に置いていた鞄を手に取り、膝の上に置いてからボールペンとメモ帳を取り出した。そしてメモ帳の真っ白なページを開き、ボールペンのノック部分をカチカチカチとしてから、水無月を見た。

「あの! ちなみにお二人は、今なにかほしいものってあるんですか?」

 如月は水無月と霜月のほしいものを聞いて、それを参考にしようとしているようだった。水無月は咄嗟に何も思いつかなかったので、霜月に視線を送り、先に答えるように目で訴えた。それに気づいた霜月は自信満々な顔で頷いて、答え始めた。

「そうだなー、今ほしいものか。…お菓子かな!」

 霜月も特に思いついてなさそうで、先程如月が言ったことに釣られて答えていた。

「お菓子…」と如月は小さな声で復唱し、メモをしてから、水無月を見た。

「水無月くんは、何かありますか?」

「そ、そうだなぁ…今は…特にないかな」

「えっ、なにもないんですか?」

「あ、あぁ…」

 霜月の時間稼ぎが思っていたよりもあっさり終わったので、水無月は何も考えつかずに正直に答えてしまった。何か一つくらいは答えた方がいいと思ったが、ほしくないものを答えても意味がないと思った。水無月の答えを聞いた如月は、明らかにしょんぼりした顔になり、落ち込んだようだった。その姿を見た水無月が、力になれなかったことを申し訳ないと思っていたとき、ふと如月の持っているボールペンが目に入った。それを見て思いついたことを言った。

「あ、いや、あった! ボールペンだ! ちょうど今使っているやつが古くなって壊れそうだから、そろそろ新しいのを買おうと思ってたんだ!」

水無月の答えを聞いた如月は表情が明るくなり、「ボールペン」と呟きながらメモ帳にメモしていた。そしてしばらく一人で考え込んでから、何かを決断した顔になり「よし!」と言った。「わかりました。あとは自分で考えてみようと思います。相談に乗ってくれて、ありがとうございました」と言って、礼儀正しくお辞儀をした。

「い、いや、こちらこそ。少しは役に立てたかな」と水無月は言った。

「はい。話を聞いてくれて嬉しかったですし、意見ももらえて助かりました!」

「そっか。なら良かった」

 水無月は先程意見を言ったことが、ミスだと思っていたが、如月が好意的に捉えてくれていたので、悪い結果にならずに済んで安心した。そして、自分の意見を言うときは、もっと慎重にならなければいけないな、と学んだのであった。

 これで相談は終わったようで、如月はモヤモヤが晴れたような顔をしていた。そして急いで荷物をまとめて立ち上がり、「じゃ、今日は相談に乗ってくれてありがとう!」と言って先に帰ってしまった。水無月は如月の素早い行動にポカーンとした顔で見つめるだけで、呼び止めることができなかった。隣に座っていた霜月も同じ顔をしていたので、同じ気持ちだったのだろう。水無月と霜月が呆気に取られた顔でお互いを見つめていると、突然部室のドアが開いた。一度帰った如月が戻って来て「あの、ここの戸締りお願いします!」と言ってから勢いよくドアを閉め、再び帰った。

 その後、水無月はなぜか『相談部』でもないのに、部室の戸締りをしてから、鍵を職員室まで持って行き、師走先生に返却場所を聞いてから鍵を返し、帰路に就いたのである。


如月の相談に乗ってから数日後、四時間目の授業が終わり昼休みになったので、水無月は立ち上がり、屋上に行こうとしていた。そのとき、霜月が声をかけてきた。

「翔、どこか行くのか?」

「あぁ、一人になれるところで休んでくる」

「そっか」

 そんなやり取りをしていると、如月が「あ、あの!」と声をかけてきた。

「ん? なんだ?」と霜月が言った。

「この前、お二人には相談に乗ってもらったので、そのお礼なんだけど…」

 如月はそう言って手に持っていた可愛くラッピングされた袋を差し出してきた。

「えっ、もらっていいのか?」

「はい」

霜月は「ありがとう!」と言って、如月のプレゼントを受け取った。そして如月は水無月を見て「水無月くんもどうぞ」と言った。水無月は「ありがとう」と言って如月からのプレゼントを受け取った。

霜月が「開けていい?」と如月に確認すると、頷いたので、袋の先端を結んでいたリボンを解き、中身を取り出した。霜月が「オォー、スゲェ!」と言いながら取り出したのは、クッキーがたくさん入った透明の袋だった。

「これ、もしかして如月が作ったのか?」と霜月が言った。

「あ、うん。私、お菓子作りが好きでたまに作ることがあって、今日の朝、作ってきたの!」

「今日の朝!? 何時に起きて作ったんだ?」

「そんな早くないよ」

 如月はそう言っていたが、おそらく朝日が昇る前に起きて作ったのだろうと水無月は思っていた。なぜなら、水無月もクッキーを作ったことがあり、混ぜたり、冷やしたり、型を取ったり、焼いたりと結構時間がかかるということを知っていたからだ。始業時間に間に合うまでに作るとしたら、朝五時頃には起きているだろうと予想できる。如月は水無月と霜月に気を遣わせないために、明確な時間を答えなかったのだろう。

「今食べていい?」と霜月が尋ねると「はい」と如月が頷いたので、霜月はすぐに袋を開けて、クッキーを一枚取って食べた。霜月は「うっま! めっちゃ美味いんだけど!」と一口食べるごとに感動し、それから次々と食べ始めた。

「はぁ~、良かったぁ」と如月はホッとしていた。

「これって、この前、俺がお菓子ほしいって言ったから作ってくれたのか?」

「うん。そうだよ」

「そっか! ありがとう」

水無月は、霜月と如月の会話を聞いてなんとなく状況を察した。もしかしたら、如月のプレゼントを渡したい相手というのは、霜月のことだったのではないか、ということだ。この前の如月の反応と今日プレゼントを渡したという事実。しかも、プレゼントは霜月がほしいと言っていたお菓子。これはもうそういうことなのだろう。それに、如月は霜月に好意を抱いているようにも見えた。あくまで憶測だが一度そう思い始めると、バイアスが働いて、そうであるに違いない、と思い込みそうになるが、水無月は必死にそれに抗っていた。しかし、如月の可愛さと霜月のイケメンさがとても相性良さそうに見えたので、結局如月の好きな人は霜月だと解釈したのだった。

「そういえば、翔って甘いもの苦手じゃなかったか?」と霜月が言った。

「え!?」と如月さんが驚いた顔で水無月を見た。

「だったら、それ俺にくれよ。美味しかったから!」と霜月はまだ自分の分が残っているにもかかわらず、水無月のクッキーに手を伸ばしてきたので、水無月は体を盾にして、もらったクッキーを抱きかかえて守りながら「別に苦手じゃない。ただあまり食べないだけだ」と言った。

如月は「ごっ、ごめんなさい。私、知らなくて」と焦った様子で言い「無理に食べなくても…」と落ち込んだ様子になった。そんな如月を見て、水無月は受け取らないわけにはいかないと思い、「いや、もらう! 嫌いとかじゃないんだ」と言った。

水無月はフォローしたつもりだったが、如月はまだ少し落ち込んでいるように見えたので、今度はその場で袋を開けてクッキーを一気に口に放り込み全部食べた。たしかに霜月の言う通り、クッキーはとても美味しかった。

「うん! 美味しかった。ごちそうさま」と水無月は両手を合わせてそう言ったあと、如月に視線を送った。如月は驚いた顔をしていたが、そのあと笑顔に変わった。

クッキーを全部食べてしまったので、中身がなくなっただろうと思い、袋を片付けようとすると、底にもう一つラッピングされている細長い箱のようなものが見えた。気になって取り出そうとしたとき、「あ、あの!」と如月が突然大きな声を出した。

「じっ、実は…もう一つ…お願いがあるんだけど…」

そう言って如月はポケットから一枚の紙を取り出し、それを水無月の机の上にバン! と勢いよく置いた。水無月と霜月がその紙に目をやると、その紙には「入部届」の文字が書かれていた。

「水無月くん! 『相談部』に入部する気になったかな?」

「いや、全然」

 水無月は結構頑固なのである。はっきり断られた如月は、茫然として真っ白になり動かなくなった。どうやら勢いに任せると水無月が入部するとでも思っていたかのようだった。とりあえず如月の用が済んだようなので、水無月は屋上に向かったのだった。

 その日、水無月は家に帰り着いてから鞄の中を整理していると、如月にもらった袋が視界に入った。そういえば、袋の中にもう一つ何か箱みたいなものがあったのを思い出し、中身を確認すると、それはボールペンだった。それもMINADUKIと筆記体で書かれた名前入りのボールペンだった。そして袋の底にメッセージカードがあるのに気づいた。

そこにはこう書かれていた。

『相談に乗ってくれてありがとうございました。もしよかったら使ってください!』

クッキーもそうだったが、同年代の異性からのプレゼントに水無月はキュンとして嬉しくなった。


それから数日後の昼休み、水無月は一人屋上の塔屋の上で寝転がり、空を眺めていた。天気が良く、心地良い風が吹く中、ゆっくり流れる雲を数えていると、下のドアが開くときに鳴る軋んだ音が聞こえた。屋上は普段誰も来ないので、水無月にとってゆっくり過ごせる数少ない場所だったが、今日は他にも来客があったようだ。

水無月は特に興味がなかったので、そのまま寝そべっていると「水無月くん、いますか~?」と言う声が聞こえた気がした。水無月は空耳だと思いそのままスルーしていると、また「水無月くーん」と言う声が聞こえた。今度は空耳でないと思った水無月は起き上がり、塔屋の端まで行き、上からそっと下を覗いた。そこには如月がいて、キョロキョロしながら屋上を見渡していた。そしてもう一度「水無月くん、いますか~?」と言った。どうやら如月は水無月を探しているようだったが、そんなことよりも、水無月はどうして自分の居場所が如月にわかったのだろうか、ということの方が気になっていた。

 水無月は塔屋の端に足をかけて座り「ここにいるけど」と言って上から声をかけたが、如月は「えっ、どこ!?」と言って周りを見渡していた。しかし、水無月がいる場所がわからないようで、「どこにいるの?」と言いながら探していた。声は聞こえるが、見つけることができないというホラーチックな現象に如月は少しずつ焦りだしたようだった。その姿が面白くかつ可愛かったので、もう少し見ていたいという思いがあったが、水無月はその衝動を抑えて「上だよ。上!」と言って居場所を教えた。

 その声を聞いた如月が上を向いたとき、ようやく水無月と目が合った。そして水無月は塔屋の上から飛び降りて如月の目の前に着地した。

「水無月くん! 上にいたんだね」

「あぁ。どうして俺のいる場所がわかったんだ?」

「霜月くんに聞いたの。そしたら、図書室か屋上にいるはずだって」

「あいつか…」

「屋上でなにしてたの?」

「空を眺めてた」

「空を? どうして?」

「ただなんとなく」

「ただなんとなく…そっか!」

「如月さんは何してるんだ? 俺を探してるみたいだったけど…」

「あ、そうだった! 今日の放課後、部室に来てほしいんだけど…」

「入部は断ったはずだけど」

「あ、うん。今日は入部のことじゃなくて、ちょっと相談したいことがあって…」

「俺に?」

「う、うん」

 如月は遠慮がちに頼んできた。おそらく、また断られるかもしれないと考えているのだろう。それも当然である。すでに二回も勧誘を断っているのだから、そう思うのも無理はない。それでもまたお願いをしてくるということは、如月は結構本気で悩んでいるのかもしれない。今度は一体何に悩んでいるのだろうか、ということが少し気になったのと、この前ボールペンをもらったお礼をまだしてなかったので、水無月は相談を受けることにした。

「わかった。放課後に行けばいいんだな?」

「えっ、いいの?」

「あぁ」

 水無月がそう言うと、如月の表情はパァっと明るくなり「ありがとう! 水無月くん!」と満面の笑みで言って両手を握ってきた。水無月はいきなりだったので、ドキッとしてしまい、顔を逸らし赤くなっているのを見せないようにした。

 そして放課後になり、水無月はトイレに行ったあと、中庭のベンチで少し休んでから、教室に戻った。水無月は、如月が教室にいないことを確認してから『相談部』の部室に向かった。部室前で立ち止まり、ドアを三回ノックしたが何の反応もなかった。もう一度ノックしたがそれでも反応がなかったので、ドアを開けたが部室には誰の姿もなかった。

(あれ? 誰もいない。どういうことだ?)

 そう思いながら水無月は部室に入り、辺りを見渡していると、長机に鞄が置いてあり、その横に一枚の紙が置いてあることに気づいた。それを手に取り中身を確認すると、紙にはこう書かれていた。

『ちょっと待っててね! 如月』

 どうやら如月は一度部室に来てから荷物を置き、またどこかへ行ったようだった。一瞬ドッキリか嫌がらせか、と思ったがそうではなかったらしい。まあそんなことをするタイプでもなさそうだが。

 水無月は肩に掛けていた鞄を長机に置き、椅子に座ってから鞄を開き、中から本を一冊取り出した。如月が部室に来るまで本を読んで待つことにしたのである。

 そのまましばらく待っていると、廊下から足音が聞こえた。どうやら如月が戻って来たようである。しかし、聞こえてくる足音を聞く限り、一人ではなさそうだった。

足音は部室の前で止まり、それと同時にドアが開いた。そこには如月と、その隣にもう一人女子生徒がいた。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ