そして運命の歯車が回り出した
カタン!コロコロ!
「あっ、失礼!お怪我はないですか?」
廊下で男女がすれ違いざまに肩がぶつかり、よろけた女性から装飾品が床に転がり落ちた。
「あっ!どうして!?」
女性の足元に転がるのは彼女がいつも身につけている仮面、学園内ではそれを外す姿を見た者は誰もいない。
「能面?いや違うな。認識阻害魔法に魔力抑制付きなのか、トレーニング用品かな?」
男はそれを拾い上げるとまじまじと見つめる。そして裏返すと眉毛を上げた。
「呪いだと!!いや待てよ?こうすると、、、祝!手の込んだ仕掛けだな」
手に取った仮面の上下を逆さまにすると唸った。
「この世界にこれを読める者は居ないだろうに、、、何の為に?」
男は女性に向き直ると仮面の裏を見せながら問い掛ける。
「貴女はこれを読めますか?」
「いえ読めません。我が家でも誰も読めなかったと聞いております」
「なるほど、そういう事ですか。貴女に神の祝福がありますように」
そう言うと男は素早く女性の頭に仮面を取り付けた。
「えっ!?あの?どうして!!」
廊下に無表情の君と呼ばれる女性の絶叫が響き渡った。
***
公爵家の一人娘だというのにアリシアは魔法が使えなかった。この世界では生まれながらにして皆、魔力を持って生まれ、自由に魔法が使えるのが普通だった。高位貴族ほど魔力の保有量が多く希少等級の高位魔法を使えるのだ。
それなのに魔法を使えないアリシアは平民以下の劣等であり、公爵家を継げるような立場では無かった。貴族学校への入学は無事に済ませたものの座学は別として実技においてはなす術がなかった。
「では最初にアリシア嬢!座学で優秀な貴女に実技でも素晴らしい腕前を披露して頂きたいがどうかな?」
実技至上主義の教官から指名が掛かる。その背後からはくすくすと嘲笑が聞こえた。
『無理でしょ?』
『いつもと同じよ。教官も悪趣味なんだから』
『気取り屋の彼女にはお似合いよ』
『いつも失敗しても顔色ひとつ変えないんだから肝が据わっておいでですこと』
「わかりました!」
返事と共にアリシアは教官の前に出て、的に向い詠唱を始めた。
「古の誓いに従い我に力を!プチファイア!」
『まあ、プチファイアですって』
『あら、失礼よ。彼女に通常のファイアは無理でしてよ?』
『いつものように魔力切れで倒れるのでしょ?』
ズドン!!という轟音と共に的が吹き飛び、背後の嘲笑がピタリと止まった。
『何あれ?』
『プチファイアにあれ程の威力ありまして?』
『ファイアですらあの威力は出ないぜ!クロスファイア位か?』
『そんな事ありえるのか?』
「ア、ア、アリシア嬢!貴女、今何しました?」
教官が興奮してアリシアの肩を掴んで揺さぶる。マナーとしては最低だがそれすら忘れているようだ。
「的に向かって攻撃呪文を、プチファイアを撃ちました」
「どう見ても通常のプチファイアの威力じゃないですよ?あの的には保護魔法が掛かっているのでファイアですら焦げ目が微かに付く程度ですからね」
理解不能だと教官は頭を掻きむしる。しかし、気を取り直したのか次の生徒を指名した。
「エボス君、次は貴方にお願いします。さあどうぞ!」