見てたの?
活動再開前に軽く書いてみました。
「なんて事をしてしまったの...」
時計は深夜2時を回っている。
いつの間にか日曜日になってしまった。
布団を頭から被り、涙を流しながら後悔の言葉を呟く。
分かってるよ、自分が全部悪い事くらい。
まさかアイツとラブホテルを出て来た所を侑真に見られたなんて...
決して侑真が嫌いになった訳では無い。
ただ亮二に口説かれて、いい気なっていただけだ。
容姿、学力、性格、全てに於いて侑真はアイツに優っている。
当然身体の相性だって。
欲望のままに腰を振るしかないアイツとのセックスなんかで私が満たされる筈が無いのだ。
それなのに、私は背徳感という麻薬に犯され、頭が変になっていた。
その証拠に、侑真に見られた瞬間全部醒めてしまった。
侑真は私を見た瞬間、目を見開いた気がする、
呆然とする私が我に返った時、侑真の姿は無かった。
昨日は侑真のデートを断って、友達の優子と屋外コンサートに行くと嘘を吐いていた。
口裏を合わせは完璧だったのに、どうして侑真はあそこに居たのか。
疑問は尽きない、しかし怖くて聞けない。
そうこうしてる間に夜が白々と明け始めた...
「ほら彩也香、早く起きなさい。
今日は侑真君とデートなんでしょ?」
お母さんが私の部屋に入って来る。
起きてるけど...ベッドから出たくないんだ。
それに侑真とデートなんか出来る訳無い。
絶対来ないと分かってるのに...
「ダメ...今日はキャンセル」
布団を目深に被り直して呟く。
先週、お母さんに侑真とデートだから起こしてなんか言うんじゃ無かった。
「どうしたの?体調でも悪いの?」
「全部...最悪...」
本当最悪...もう昨日から一睡もしてない。
「どうしたの、病院に行く?」
違うよ、身体はどこも悪くない。
悪いのは違う部分だから。
「もう終わったの...」
「何、一体どうしたの?」
益々お母さんは心配そう...
仕方ない、どうせバレるんだ。
「...侑真に合わせる顔が無い」
「侑真君なら下で待ってるわよ?」
「...嘘?」
何で侑真が?
「どうだった?」
「なにが?」
「侑真の様子よ、変じゃなかった?」
「いつも通りだったけど、喧嘩でもしたの?」
「...そんな」
昨日のアレを見たんじゃないの?
ひょっとして私の見間違い?
あれは間違いなく侑真だった筈だけど...
「他には何か違う所とか無かった?」
「無いわよ。
『いい天気ですね』とか『昨日も良い天気だったから彩也香も喜んでいたでしょうね』って」
「...本当?」
昨日の事まで?
やっぱり見間違いなの?
震える手で携帯の電源を入れる。
あれからずっと怖くて、電源を落としたままだった。
「ねえ、侑真君と何かあったの?」
「な...何でもない」
お母さんの言葉を聞き流し、携帯をチェックする。
電話が掛かって来た形跡は無い。
ラインやメールも特に来てない。
ただ、アイツから、
[大丈夫か?][バレたか?]
狼狽えたラインが数通入っていた。
遊びの関係と割り切っていた、向こうも口だけで、責任なんか取る気も無いのだろう。
「侑真君どうするの?」
「待つように言っておいて、直ぐに行くから」
「分かった、早くなさい」
お母さんが部屋を出ていく。
侑真に違和感が無いなら、昨日は見間違いよ。
...あれは侑真じゃない。
アイツからのラインを全て消去する。
全部ブロックだ、もうアイツは私と無関係なんだから。
鏡に映るのは泣き腫らした目、酷い顔だ。
そんな事を言ってられない。
パジャマを脱ぎ捨て、今日のデートに用意していた洋服に着替える。
お風呂は昨日帰ってから徹底的に洗ったから大丈夫。
キスマークも残って無かったし。
でも今日はセックスを止めた方が良い。
本当は無茶苦茶に抱いて欲しいけど...
「...おはよう侑真」
「おはよう、遅かったな」
「...うん」
いつもと変わらない侑真の顔にホッとする。
大丈夫だ、きっと...うん。
「ん、どうした?」
「あ...ううん何でもない」
いつもみたいに侑真の腕を取りたい。
だけど勇気が出ない、振りほどかれたらどうしよう?
「そっか、昨日は楽しかったか?」
「...あ...その何が...?」
「何ってコンサートだよ、写真来なかっただろ?」
そうだ!アリバイに写真を優子から送って貰っていたんだ。
昨日の事で侑真に転送するのをすっかり忘れてた。
今から写真を見せる事は出来ない。
私が写ってないのを上手く誤魔化せる気がしないし、メールのフォルダーから取り出す時間も無い。
「そ...そうよ、楽しかったわ...写真撮るのをすっかり忘れてたの」
駅から電車に乗り、侑真との会話に冷や汗が噴き出す。
吃りながら言葉を出す、侑真の顔を見る事が出来ない。
「良かったな」
「な...何が?」
「楽しみにしてたんだろ?」
「...そうね」
楽しみ?
違う?昨日はアイツに呼び出されたんだ!
来ないとバラすって...
「あれ?」
今日は映画に行く予定だったのに、なんで降りないの?
「あの...侑真」
「何?」
「降りないの?」
「分かってる」
どうしたの?
侑真は笑顔だけど、何かいつもと違う...
「...え?」
見知らぬ駅に降り、辿り着いたのは一軒の日本家屋。
呆然とする私を他所に、侑真は中へと入って行った。
怖くて侑真の後に黙って続くしかない。
玄関の脇を抜けると大きな空間が開けた。
ここは何かの道場だろうか?
「着きました」
「はい」
侑真の声に三人の人間が現れる。
その中に、見覚えのある一人が...
「優子...なんで....?」
「おはよう彩也香」
どうして優子が?
昨日のアリバイを頼んだ本人がなんでここに?
「侑真、コイツよ」
「ありがとう優子」
優子が指を差す隣の男を、後ろに控えていた男性が蹴り出した。
誰だろう?よく見れば顔が腫れて涙を流している。
「す...すみません...」
呻き声を上げながら男が顔を上げた。
それは...
「...亮二」
「そうだよ、お前の愛しい恋人だ」
「ち...違う!!」
侑真がどうして亮二を?
恋人なんかじゃない!!
「全く...浮気のアリバイで私を利用する?
人が侑真の事を好きなの知ってて」
「ゆ...優子」
冷えきった目をする二人。
なんで?一体何が起きてるの?
「お陰でコイツの事も調べられたし、一石二鳥だ」
「そうね、本当お似合いよ」
「な...何の話...」
分からない事だらけじゃないか!
「3ヶ月前、アンタのアリバイ協力に直ぐ調べたのよ、おかしいってね」
「あ...ああ」
3ヶ月前...侑真に黙って初めて亮二と出掛けた時だ...
「まさかとは思ったよ...でも優子の言った通りだった」
「ち...違う!!」
「何が?」
「何が違うの?言って御覧なさい?」
「そ...それは...」
言葉が続かない!何とか切り抜けないと!!
「この3ヶ月地獄だったぜ、本当」
「そうね、侑真ずっと学校で大変だったし」
「止めて!」
なんで優子が侑真の腕を取るの?
それは私の!!
「コイツがクズで助かったわ、調べたら被害者が出るわ、出るわ」
嘲けながら言葉を続ける優子...いつもの彼女とは別人で...
「私達が変わったんじゃない、アンタが変わったんだ。
クズに靡いて身体をホイホイ開いたアンタがね」
「...なんでよ」
「言っとくが、コイツを痛め付けたのは俺達じゃないかならな。
コイツの父親だ」
「あ...え?」
一人の大柄な男性が近づいて来る。
アイツに似た...まさか?
「終わったかね?」
「はい、後はお願いします」
「分かった、また改めてお詫びを」
「いえ、僕はこれで充分です。
後はコイツの両親に」
「分かった...本当にすまない」
男性は亮二の首根っこを掴み、私を見る。
...威圧感が凄い...そう言えば何かの選手だったと...興味なかったから、覚えて無い。
「じゃな」
「バイバイ」
「待って!!」
なんでよ?どうして?平気な顔なの?
「待ちなさい」
「離して!!」
男性の腕を振りほどこうとするが、鋼の様で全く動かない。
「妊娠でもしていたら大変だ、早くご両親に」
「大丈夫よ!ちゃんとピルを飲んでいたから!!」
冗談じゃない!そんなヘマをするもんか!!
「...君はまだ高二だろ?」
何を呆れた声で!
「アンタの息子が言ったんだ!」
「馬鹿モン!」
「グギャアアア!!」
ヒッ!
男性が腕を大きく振り、亮二を投げ飛ばす。
数メートル先に落ちた亮二は転がりながら止まった。
「彩也香!!」
「...お母さん...お父さんも」
名前を呼ぶ声に振り向く。
そこには真っ青な顔をしたお母さん達が....
「...なんで?」
どうしてここに?
「し...写真が私の携帯に...嘘よね?
彩也香がラブホテルにその人と」
写真?まさか?
急いで自分の携帯を取り出す。
侑真のラインが一通届いていた。
「な...」
そこには私が亮二とラブホテルから出てくる写真が添付されていた...
「イヤアアアア!!」
携帯を投げ捨て叫んだ。
ありがとうございました