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第七章 ルウたちの反撃と終末 inボルドウ国 後編



 すべてが終わった。

 残された者たちは、城の会議場のような場所に集まった。

「まさか、城の人間の半数近くが、大臣の一味だったとはな」

「お父様。原因はやはり、お金でしょうか」

「そうじゃな。ミレイよ、お前が持ってきたこのお宝は、一生遊んで暮らせるだけの価値がある。それでも余るくらいじゃ。全く、目的もなしにただ遊び呆けてるだけの人生に一体何の価値があるというんじゃ」

 国王の言葉には、重みがあった。まだ幼いミレイとダイトはあまり実感していなかったが、死ぬことが許されないルウにとっては、骨身にこたえる言葉であった。

「ところで、お父様。エリアスさんから聞いたのですが、国王がエリアスさんの国を壊滅的にしたという話は、本当ですか」

「な、なんじゃそれは? ワシは外務的なことは一切タッチしていなかったからの」

 国王が記憶を探る間に、ルウが答えを出した。

「恐らく、あの大臣の独断じゃないでしょうか。ひょっとすれば、カーマインの国を裏で操っていたのも、大臣が黒幕だったのかもしれませんね」

「それは、これから取り調べをすれば、色々とでてくるじゃろう」

 ごもっともという表情をルウは浮かべた。

 城に戻った彼らは、修羅場となった部屋を再び目の当たりにした。あちこちに血の跡や壁に無数の穴があけられていた光景だ。

「まずは、この城を立て直さなければならぬ。そして、この国も再建していかなければならぬ。大臣にめちゃめちゃにされた部分を、適切に直していかねば」

「もちろんですわ、お父様。この国を再建すべく、国王としてこれからもよろしくお願いします」

「じゃがな・・・」

 国王の悲しげな表情が、一同に伝わった。

「結果的には、奴を国の中枢として採用したワシに責任がある。だから、今回の責任を取る形で、ワシは国王の座から退くことにした」

「そ、そんな・・・」


「いつまでも上級国民の席に着いたままでは、周りがよく見えなかった。きっと、ワシは自分の国であるにもかかわらず、国民の想いとはずいぶんかけ離れた考えを持ってしまったのかもしれない。だから、強欲な大臣の発言が、国民の想いと勘違いをしてしまったのじゃ」


「じゃからミレイ。お前の夫としてふさわしい人物を国王にするのじゃ。いるじのじゃろ、この旅の中で見つけた最高の人物を」

「それなら話は早いわ」

 ミレイは国王としてふさわしい人物の方へ振り向いた。

「新たな国王として、私はダイトを迎えたいと思うわ」

 しばしの沈黙があたりに響いた。何より、この答えを出さなければいけないのはダイトであるが、衝撃のあまり、彼の思考は止まったままになってしまった。

「国王ということは、俺はミレイと」

 ようやく解凍し始めた頭で、回答することができた。

「その通りよ。だからダイト、私と・・・」

「待った!」

 まさに二人が結ばれそうになった雰囲気の中、唐突にダイトがミレイの発言を止めた。

「そ、そんな。ダイト、私のことが、嫌いなのですね」

「い、いや、違う。そうじゃない!」

 落ち込むミレイに対し、両手をブンブンと大きく振りながら、あたふためくダイトであった。

「俺の方から言わせてくれ」

 ダイトはミレイに近づき、ミレイの両手を掴んだ。

「ミレイ、結婚してくれ!!!」

「はい。もちろんですわ」

 ダイトらしからぬロマンチストな演出に、ミレイはこれ以上ない笑みを出した。

この瞬間。国を揺るがす出来事が発生した。ダイトが国王になったら、国がおかしな方向に進むのではないかと、ルウはひやひやした。

「そしてルウさん。私はこの国を統治するものとして、あなたにこの国に残ってほしいと思っています」

「私が、ですか?」

 想定外の希望を打ち明けられ、ルウはやや困惑した。

「いいのですか? 何百年も生き続けている妖怪みたいな私が、国を統治してもよいのでしょうか。それに、これまで人間を大量に殺めてきた私などが、務めてもよろしいのでしょうか」

「問題ありません。むしろ、大歓迎ですわ。ルウさんは人間の寿命ではどれだけ考えても解決できない難解な問題を、既に解決できているのではないかと思うのです。何百年もの間、人間を見続けてきたルウさんは、生きた歴史があります。人間とはどのような生き物かを、正確に把握しているような気がします。そのため、人間が犯しがちなことを、ルウさんは知っているに違いありません。お願いです。どうか、私たちと共に国を再建していけないでしょうか?」

 ミレイが本気がルウには伝わった。視線を左下に背け、しばしの沈黙が流れた中、ルウが答えを出した。

「わかりました。ですが、少しだけお時間をいただけませんか。一晩考えて、明日には答えを出したいと思います」

「本当ですか?」

「まだ、決まったわけではありませんよ。ちょっと期待しすぎですよ」

 喜ぶミレイの顔を見るルウは、やや罪悪感を覚えた。

「それでは、私は床に就きます」

「わかりました。客間を用意しますね」

「おーい、ミレイ、ちょっと来てくれ」

広間で城の職員らしき人物から、ミレイを呼ぶ声が聞こえた。

「ごめんなさい、ちょっと広間に行かなくては。ルウさん、客間はこの角を右に曲がったところにあります」

「わかりました」

 ルウが帽子を取り、軽く会釈をした。

「それではミレイさん、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

「どうか、お元気で・・・」

 変な言葉を発したルウに対して、いつものことだとミレイは気にしなかった。ミレイは挨拶を終えた後、広間へと向かった。ルウは温かい目で去って行くミレイを見送った。ミレイの姿が見えなくなるまで、ルウはその場に立ち尽くしていた。

ミレイの姿が見えなくなり、回れ右をして、案内された寝室へ向かう時であった。ダイトがコーヒーを飲みながら向こうからやって来るのが見えた。

「ダイトさん」

「ん?」

「ミレイさんをお守りするのは、ダイトさんに任せましたよ」

 ルウの突拍子もない言葉に、ダイトは飲んでいたコーヒーを噴き出した。

「な、何言ってんだ今さら。なんだか気味がわりーな。ミレイを守るのは俺意外認めねーぞ」

「いえ、それでこそダイトさんです」

 いつになく、相手にエールを送るルウに対して、薄気味悪くなるダイトである。ルウは薄っすら口元に笑みを浮かべていた。

ダイトの姿が見えなくなったころ、ルウは用意された部屋に静かに入り、ゆっくりと静かに音が鳴らない位にドアを閉め、最後に鍵を閉めた。


 夜も更け草木が起き始めたころ、ミレイとダイトは二人で暖炉の前で話をしていた。

「ひょっとしたら、お母さまがが恋した謎の青年は、ルウさんなのかもしれませんね」

「あいつが、か?」

 確かに、数百年前から死ぬことができなくなったルウは、ミレイの母の前に今の姿と同じで現れることができる。矛盾はしていないと、ダイトは納得した。

「結局、その青年とは一期一会だったと母上はおっしゃっていたわ。でもきっと、この絵本を作ったのも含めて、全てルウさんだったと思います。明日にでも、彼に聞いてみたいと思います」

 ミレイが言っているのは、この前見せてくれた絵本のことなのだろうと、ダイトは思った、絵本自体はハッピーエンドであったが、ルウの歩んできた人生は、悲しみにあふれんばかりだったため、どこまでが本当の話なのだろうか。

「お母さまは、この世界にはいないけど、きっとどこかで守ってくれたに違いないわ」

 ミレイは、これまで起こった惨劇に対して、護られていなければ命を落としていたことが何度もあったことを自覚した。もしかしたら、お母さまとルウさんはどこかで会っていたのかもしれないと、ミレイは感じ取った。


夜空を見上げる二人。ダイトはふと、かつて自身がいた街でリンゴを盗んだ後に見た夜空を思い出した。星空がキラキラと輝く中、自分だけは灯りが当てられておらず、世界は自分がいなくても廻っていると感じたあの夜空とは、まるで別物のように思えた。

「今日から俺は、この城で過ごすことになるんだな」

「そうね。なんだかダイトが私の家にいるのが、ちょっと不思議ね。もしかして、故郷が寂しい?」

「何とも思わないね。俺は、あの街に未練は一切ない」

 ダイトはかつての自分の暮らしを振り返った。生きる目的が空腹を満たすための生活。かっぱらったリンゴを、権力のあるものに奪われても文句が言えない、弱肉強食主義の国家。親も友人も誰もいない国。あらためて、未練はないと彼は悟った。

「これから、国王か。それにしても、一体何をしていけばいいんだ?」

「ダイトも一緒にいたからわかっていると思いますが。カーマインやエリアスさんのような、自分のことしか考えていないような政策をしてはいけません。自分は良かれと思っても、それが誰かを苦しめていることに繋がります。権力を持つと、世間では当たり前と思えることが、盲目となって私権に走ってしまうのです」

「そうだな。確かに、これまで国民を苦しめる国を見てきた。今度は俺たちがそういったことの無いように、国を統治していかなければならないな」

 深夜の影響か、ダイトが柄にもないことを語りだした。

「もう寝ましょうか、ダイト」

「そうだな」

「おやすみなさい」

 二人は、眠くなり部屋に戻ることにした。それぞれ、明日の希望を持って。


 翌日、昨日の出来事がまるで嘘のように、静かに太陽は昇った。朝食の時間になっても、ルウは姿を現さなかった。

「ルウさん、遅いですね」

「どうせ寝坊だろう」

そわそわするミレイをよそに、ダイトはあまり大事とはとらえていなかった。ミレイは何となく胸騒ぎがした。

「私、ルウさんの様子を見てくるわ」

無礼だと分かっていても、ミレイは、ルウが寝ている部屋へと向かった。彼がこのままいなくなってしまうのではないかと、よからぬ思いが頭から離れなかった。

ルウの部屋にたどり着いたミレイは、勢いよくドアノブを回した。カギはかかってはいなかった。

 扉を開け、ミレイの目に映った光景は、窓が開かれたまま揺れるカーテンであった。明らかに様子がおかしい。ルウが可愛がっていた猫ちゃんはいたが、部屋を見回しても、ルウの姿はどこにもなかった。

「ルウさん!」

 ルウがいなくなった。状況から察するに、ちょっと席を外しているわけではないようだ。開けっ放しの窓から、ルウは出て行ってしまったのだろうか。それは、姿を消したことを意味する。でも、一体なぜ?

 ミレイはあたふたして、パニックになっていた。なにか手掛かりになるものはないかと、ミレイは部屋を手あたり次第に捜索した。すると、テーブルの上に置き手紙のようなものがあった。ミレイは、手紙を手に取り目を通す。


『———ミレイさん・ダイト君へ

私の役目は終わりました。これからは若いミレイさんやダイト君たちが、時代を創っていくべきです。既に老いぼれ、現代の人たちと思想や考え方がかけ離れた私は、国民に寄り添うことなど、出来はしないのです。いわゆる老害と呼ばれいるものです。残念な言葉ですが、これも私が知る人間の歴史のうちの一つです。

 若いミレイさんやダイト君、あなたたちは今まさにスタートを切ったところです。それに、あなたたちの命を脅かす存在は、もはやありません。あとは、これから先に訪れる危機を事前に消し去ることが、あなたたちの役目です。ですので、私の役目はこれで終わりました。未練はありません。

 なので、私は皆さんの前から姿を消すことにしました。ミレイさんやダイト君たちによる国づくりに私は邪魔になると思います。ミレイさんとダイト君が素晴らしい世界を創った頃を見計らって、戻ってきます。大丈夫です、私は不死身ですから。時間はたっぷりとあります。

 ミレイさんとダイト君との旅は、思い返せば困難としか言えない出来事ばかりでした。旅で遭遇した出来事を言葉にして並べれば、楽しいことなど何一つないような出来事ばかりです。ですが、ミレイさんとダイト君と過ごしたこの時間はどんな困難があっても、それをはねのけるように輝きに満ちた日々でした。何百年と生きてきた中で、これほど楽しい時間を過ごすことができたのは、初めてでした。

 どちらかと言えば、私の方から一方的に付いてきた旅ではありましたが、本当に、ありがとうございました。かけがえのない時間を共に過ごすことができたのを誇りに思います。

 それから、わがまま気ままではありますが、私の愛猫をミレイさんたちに預けたいと思います。必ず引取りに向かいますので、それまでは、かわいがってあげてください。

 それでは、その時まで、ごきげんよう。

———ルウ』


「ルウさん・・・一言でもさよならの挨拶を言ってくれればよかったのに」

 ミレイの涙は止まらなかった。これまで、何度となく訪れた危機を救ってくれたルウ。自分たちと一緒にいてくれるはずだったルウ。期待していた出来事とは異なったが、何ともルウらしいとも、ミレイは思えた。

 ミレイはルウの置き手紙をダイトに見せた。

「そんな、ずっと俺たちと一緒にいてくれると思ったのに・・・」

 悲しみと怒りが交差するダイトの脳裏に、昨日ルウがふと漏らした言葉がよぎった。

『ミレイさんをお守りするのは、ダイトさんに任せましたよ』

 ハッとした。あの時から既に、ルウは自分たちの前から姿を消すことを決めていたのかと、ダイトは察知した。だから、これまでのルウとは思えない思いやりの言葉をかけられたのだ。不気味な違和感が、これで払しょくされた。この事実をミレイに言おうか悩んだダイトであったが、結局は言えずじまいであった。

「けど、ルウはこれからの未来は俺たちにかかってるって書かれているぜ。だったら、俺たちがここでうだうだしてたら、ルウの願いに反するんじゃないか? 癪だけど」

 ミレイはダイトの言葉に耳を傾けた。確かに、ダイトの言う通りだ。

「それに、ルウは死んだわけじゃないぜ。手紙には猫を引取りに必ず帰るって書いてあるぜ。ルウが帰って来たときに、俺たちが腑抜けていたらカッコ付かないぜ」

 ダイトが珍しく正論を突きつける。いつもはミレイの方がしっかりしているが、この時ばかりはダイトの方が未来を見通していた。これも、ルウと過ごした旅の功か。

「そうね、そうよね」

 ミレイがルウの手紙を握りしめ、青空に向かって誓いを立てる。

「ルウさん、私たちは決めました。これからは私たち自身で、未来を創っていくことを。ルウさんがこれまで私たちに教えてくれたことを、活かしながら国家再建に取り組んでいきます。これまでの私たちは、振り返ってみれば、ルウさんの助けがなければ、何もできずじまいでした。それどころか、こうして無事に旅を終えたことなどできませんでした。幾多の困難の中、最後にはルウさんが助けてくれました。ですが、もう泣き言は言っていられません。いつまでも、ルウさんに甘えることなどできません。ルウさんの力を借りたい時が、必ず訪れると思います。ですが、これからは、私たち自身で困難に立ち向かっていかなければなりません。本当に、本当に、助けてくれてありがとう。本当にありがとう。私の遠いおじいちゃん。そうは思えないけど、共に血のつながった一族として、これからの未来の繁栄を誓います。そしてルウさん、今あなたはどこにいるのでしょうか・・・」




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