第七章 ルウたちの反撃と終末 inボルドウ国 中編
———僕は確かに死ななかった。もう何百年くらいの時が過ぎているだろうか。肉体の時間も止まったまま。見た目は少年から青年になったかもしれないけど。
そして、僕の隣にはずっとあの猫がいる。この猫も僕と同じように成長することはなかった。子猫から少し大きくなった程度で、大人の猫と呼ぶにはまだ未熟である。きっと、あの亡霊が憑りついた影響なのだろう。
このまま、未来永劫この猫と共に過ごすのだろうか。
だけど、少しだけこの世界での望みがありました。子孫たちが成長していく姿を見ることだ。もし、子孫の身が危険に迫ることがあれば、力になろう。あくまでさりげなく、自分の正体がバレることの無いように。
「感動をしているところ申し訳ないが、ルウよ。お前には消えてもらおうか」
大臣が手に持っているものは拳銃であった。だが、ルウはひるむことなく突っかかる。国王の言葉に、ルウは不敵な笑みを浮かべた。
「そうですか。先ほども言いましたが、できるなら消してもらいたいですね。天国も地獄も拒否されたこの私の願望でもあります。ただ、あなた如きの力で私を葬り去ることができるとは思いませんが」
「何を強がっている? 拳銃を目の前にして、よくそれだけ強気でいられるな」
「当たり前ですよ。何を隠そう、拳銃を発明したのは、他でもないこの私なのですから」
「「「な、なにいぃぃぃぃ!!!」」」
一同が驚きのあまり、声にならない声を上げた。
「な、何を言っているんだ、お、お前は?」
「作ったと言っても、今の私ではないのですが。と言っても、あなたたちの思考では理解できないようでしょうから、細かいことは割愛しましょう。とにかく、発明者ともなれば、拳銃のデメリットも十分熟知していますよ」
ルウが平然とした口調で歩み寄る。
「それに、ジェーンが言っていたではないですか。私が不老不死だということを。それなら、拳銃ごときで死ぬことなどないに決まっているじゃないですか」
法廷の演説のように、ルウが両手を上げながら論破する。大臣にとっては、なす術もないかのように見えた。だが、大臣は左の唇をいやらしく上げた。
「・・・!!!」
ルウの背中が、日本刀のような鋭利な刃物で突き刺さった。それも1つではない。4人の男が次々とルウの背中や頭や首をめった刺しにした。
「きゃああぁぁぁぁぁ!!!」
ミレイのけたたましい悲鳴が響く。
「あ・・・」
ルウは倒れこんだ。出血があちこちから出てきた。これでは不死身の彼といえど、無事では済まないと、ミレイは思った。
「たとえ不老不死だろうと、首を取られれば生きてはいまい。さぁ、気絶した奴の解体ショーといこうか」
不敵に笑う大臣。まるで勝利を確信したかのようだった。ルウはピクリとも動かない。
「だが、その前にやることがある」
大臣は、ミレイの腕をつかむと同時に、自分の身体に彼女を引き寄せ銃口を頭に向けた。
ミレイを人質にしたのだ。
「さて、このワシに歯向かうものは誰もいなくなったわい。さて、ミレイよ。このお宝を持っている部族の住処を教えてもらおうか」
「誰が言うものですか」
ミレイの態度に気に食わない大臣は、彼女の頬を殴った。
「素直に言わないからこうなるんだ」
「ふ、ふざけるなあぁぁ!」
ダイトの怒号がこだました。ミレイを傷つけた大臣に怒り心頭となった。
「ミレイィ、今助けに行くぞおぉぉ!」
ダイトが捨て身の覚悟でミレイを人質にしている大臣に向かった。
———グシャ!!
「・・・!!!」
「ダイトおぉぉぉ!」
ミレイが見たものは絶望の光景でしかなかった。柱の陰に隠れていた大臣の手下が、ダイトの腹部を剣で斬ったのだ。必死にダイトの名前を彼女は叫んでいた。
「み、ミレ・・イ・・・」
ダイトはその場で倒れてしまった。
国王は臆することなく、ダイトの近くに駆け寄った。
「息はあるようじゃ」
国王はダイトの治療を始めた。専門的な経験はなかったが、長年の人生の経験を活かして、自分の衣類をちぎって傷口の止血にあたった。
「あ、あなたはこれだけの人間を苦しめても、何とも思わないんですか」
「何を言っているか、そこに倒れているルウの方が、よっぽど人間を刺しているではないか。それも、ただ刺すだけではなく、殺害までしているのだぞ」
「彼は、自分の意思で人間を殺害していたわけではありません」
「結果としては同じことじゃ」
カーマイン、エリアス、借金取り風の男・・・どれも常軌を逸した人間たちと渡り合ってきたが、ここまで狂っている人間に会ったのは初めて出会った。それも、まさか自分の城の中にいたとは思わなかった。ミレイは、憤りを感じていた。
「ぐああぁぁぁぁぁ」
突如男のけたたましい悲鳴が聞こえた。
「騒ぐな。死にはしない」
一同が見たた光景は、ルウがダイトを刺した男から剣を奪い、そのまま男の身体に突き刺していた。彼の言った通り、剣で刺した場所は太ももであった。出血多量にさえならなければ、確かに死ぬことはない。
「人間の急所は心得ている。剣なら拳銃とは違い、狙いを外すことはない」
ルウは大臣をめがけて剣で狙いを定めた。
「まさか生きていたとはな。やはり、不死身というのは本当のようじゃな」
「ミレイさんを苦しめ、ダイト君に危害を与えた。二度と殺生はしないと誓ったが、この誓い、果たせそうにもないな」
ミレイはルウが人間を刺したことに恐怖を覚えた。これまで何度か彼の狂気が垣間見えることはあったが、人を傷つけることはなかった。それが、今まさに牙をむいたのであった。
「なにより、この手で人間の急所に当てることができるか、拳銃では確認できない。だが、この剣なら心臓、脳、頸動脈、致命傷になる箇所の感触を確かめることができる。久々に本気で殺したくなった人間に出会ったな。それに、お前らの手下も殺したくなってきた。どうせな大量の死体があふれるなら、久々に血のシャワーを浴びたくなってきたな。ただ、男の血では少々生臭いのが欠点だが」
ミレイは血の気が引いて、身体が震えた。エリアスと対峙した時に出た、あの狂気の人格が再び現れた。それも、今度はかなり好戦的だ。
「ルウさん。ダメです。あなたはこれ以上殺人を犯してはなりません」
「邪魔する気か?」
剣先を大臣から人質となっているミレイに向けたルウ。ミレイはショックを受けた。
(目の前の人は、ルウさんじゃない。完全に別人だわ)
「行くぞ」
ルウは颯のように大臣に切りかかろうとした。止めに入った大臣の手下たちであったが、ルウは迷うことなく次々と人間を斬っていった。
「いやああぁぁぁぁ」
ミレイは泣きわめいた。目の前で殺人劇が繰り広げられていた。
「何百年ぶりの感触だろうか。やはり、人間の肉を切る感触は好ましい。さて・・・」
ダイトは再び剣先を大臣に向けた。まるで、今すぐにでも切りかかるように。
「お、お前。こっちにはこの小娘を人質にしているんだぞ。お前が剣を振れば、この娘も一緒に死ぬんだぞ」
「命乞いか、見苦しい。それに、ミレイを人質に取ったからと言って何になる。血がもっと増えるだけだ」
「・・・・・・・」
大臣は呆然とした。
「それに、ようやく俺の欲望が満たされる。今度こそ、ミレイの血を大量に浴びることができる。美女の生き血ほど美しいものはない。極上の女性の血を浴びることができる子を考えると、ゾクゾクしてきた」
ミレイから正気が失われた。
「あ、あなたは、あの優しかったルウさんではない。悪魔そのものだわ。これなら、天国にも地獄にも行けないのがよく分かったわ。最低です!」
「死ね」
「ルウさん、やめてえぇぇ!!」
「!!!!」
ミレイに叫びを聞いたルウは、呆然とした。大臣の方に狙いを定めていた剣をゆっくりと降ろした。彼は下をうつむき、瞬きの回数が徐々に多くなっていた。
ルウの息が上がっていた。これだけ感情が高ぶっているルウをミレイは想像すらしていなかった。どんな時でも冷静沈着でどこかに余裕のある彼は、そこにはいなかった。まるで、純粋な感情を持った人間そのものであった。涙が流れないのは、長らく泣いたことがないと彼が話していたため、身体が泣くことを忘れてしまったのだろうと、ミレイは思った。
ミレイの瞳から、一筋の涙が頬をつたった。
「ミレイさん・・・」
「ルウさん。やっと、元に戻ったのですね」
ルウがあたりを見回すと、血まみれになって倒れている人たちがいた。その数10人はいるだろうか。
「うわああぁぁぁぁ」
ルウは驚きのあまり、情けない声で叫んだ。その表情は絶望に満ち溢れていた。
「や、やってしまった。あの時の収容所の時のように。また無意識のうちに・・・いや、違う人格が殺したんだ。もう、もう二度と、無益な殺生はしないと誓ったはずなのに。何百年も誓いを守って来たのに・・・」
ルウは膝から地面にもたれた。
「う・・・」
倒れている大臣の手下からうめき声が聞こえた。もしやと思い、国王が倒れている大臣の手下に近づき、生死を確認した。
「全員息がある。死んでないぞ」
ルウの顔に、かすかに希望の表情が灯った。
何百年も殺しをしていなかったせいで急所がずれたのか、無意識のうちに、ルウが急所を外したのか。今となって走る由もなかった。
「まだ、誓いを果たせている」
危機的な状況には変わりないが、どこか安堵の表情をルウは見せた。これで、まだ自分は誰かの助けになることができると、彼は思った。
「ふん。だが、この小娘はまだワシの手の中にいるわい」
「気色悪いことを言わないでもらえますか? なんだか、ミレイさんがあなたのような下品な豚に抱かれている表現で、虫唾が走りました」
仮にも、ミレイはルウの自身の肉親であったため、彼は半分は本気で嫌悪感を示したのだろう。相手を手玉に取るような口調は、完全に元のルウに戻っていたと、ミレイは安心した。
「だが、もうあなたの味方はいない。これから単独犯でこの状況を乗り切らなければならないのですが、どうするのでしょうか」
「わからんぞ。とっておきの逆転劇があるかもな」
人質になっているミレイは、どことなくデジャヴを感じた。
(エリアスさんと会ったときだわ。なら、少し狂ったふりをして相手を油断させなきゃ)
「ルウさん。私のことはかまいません。私と一緒に大臣と共々刺し殺してください」
「それは選択肢にはありませんよ」
「なら私に拳銃を貸してください。そうであれば、後ろにいる大臣めがけて撃つことができます」
一同はミレイが壊れたのかと思った。捨て身の選択に言葉遣いが荒くなっている。
「ははっ、こいつはいいぞ。国の令嬢が殺人鬼とは。この国はまさしく恐怖と暴力に支配された、最も忌まわしい国になるんじゃ。まさに、長年夢見た国家の建設じゃ」
大臣の銃口がやや下を向いた時だった。隙を見せたとミレイは判断し、拳銃を大臣から奪った。よくやったと、ルウが思わず手をたたいた。
「し、しまった」
大臣が一瞬の不意を突かれ、苦虫をかんだような表情を見せた。
だが、想定外の展開が発生した。ミレイは無意識のうちに銃口を大臣の方に向けていた。
「これ以上私の周りの人たちを苦しめるのであれば、私が全てを終わらせます」
ミレイは銃口の照準を大臣の左胸に向けた。
「お、おい。ミレイの奴、まさか本当に大臣を撃つんじゃ」
ダイトが事の重大さに気が付いた。ミレイは冗談でも決して人を傷つけるような真似はしなかった。それが今、本物の銃を人にめがけている光景が、彼には信じられなかった。
「だめだ。ミレイさんは人殺しになってはいけない!」
「私はルウさんの遠い娘です。人殺しのセンスは十分に備えているつもりです」
「何を言い出すんですか、バカを言っちゃいけない。そんな負の遺産など、あなたは受け継いではいけない」
ルウが大臣への殺意を完全に忘れ、ミレイを説得した。ミレイを止めたい一心か、口調が荒っぽくなっていた。
「ミレイ。銃をおろしてくれ。そんな姿、今まで旅してきたミレイじゃない」
「ダイト、ごめんね。私のせいであなたを危険な目に遭わせて。だから、私が責任を持つわ」
「だからって、人殺しになるなよ」
「私は決めました。この国を守るため、あなたたちを守るため、私は大臣を殺します。そして、その罪を償うため、私は自らの命を・・・」
「・・・・・・・・」
ミレイは狂ってしまったのか。ダイトはあたふためき、大臣は顔面蒼白であった。いつもは冷静なルウですら、やや取り乱していた。
「ミレイさん。その銃を放してください」
「みんな、ごめんなさい」
ミレイの意思は固かった。これから自分がどんな裁きを受けようとも構わなかった。
ミレイが銃口を大臣に向けた。
『に゛ぃー』
突如飛び出してきたのは、ルウが飼っている猫であった。猫は、ミレイの顔目掛けて飛び込んだ。
「きゃっ」
突然視界を奪われたミレイは、驚きのあまり拳銃を落とした。その瞬間を逃さなかったルウは、大臣のもとに走り頸動脈めがけて刀を振り下ろした。
「これだけは変わらない。たとえこの命に代えてでも、私はミレイさんをお守りする!」
ルウの目が、熱くなった。隣にいたダイトが、これまでの冷静沈着でどことなく自身を客観的な視点で見ていたルウからは想像もできないと驚いていた。
「ルウさん!」
ミレイの声が聞こえたルウは、とっさに剣を壁の方に投げた。腕をふり降ろした軌道からして、剣を持ったままなら、確実に大臣の頸動脈を切り、死に追いやっていた。
向かってくる剣の真横にいた大臣は、口をパクパク動かしながら、腰が抜けたように床にもたれた。
「あ、あれ、私、一体何を」
ルウは仰天した。まさか、自分が多重人格であるかのように、子孫にもその傾向が移ってしまったのではないか。
「ミレイ、さっきのこと覚えているのか」
「・・・・・・・」
どうやら、途中で記憶が飛んでしまったようだ。人間極限状態に陥ると、とんでもない行動をとると言われているが、今のミレイがそうなのだろうか。確かに、人質として自身の命が危険にさらされ、ダイトが刺され、ルウが再び殺人に手を染めようとした。それは、ルウの子孫と知らされたことが、決定的な引き金となったのか。
「ミレイ、まさかもう一つの人格が芽生えたんじゃ」
「そうとは言い切れませんが。とはいえ、あの非常な人格を生み出したのは紛れもなく私です。一時期は世界を恐怖のどん底に突き落とした忌まわしい過去があるのも事実です」
大臣はすっかり意気消沈し、その一味も戦意を喪失していた。ルウは、彼らがバカな真似を企まないよう縄で縛り、反逆できないようにした。
「さて、この大臣とその一味はどうしますか。ミレイさんのお望み通りに抹殺しますか?」
「やめてください!」
「優しいのですね、ミレイさんは。本当に、哀しいくらい。これだけの天使が、本当に殺人鬼の私の遠い娘だなんて、思えません」
隣でダイトが、いつものミレイであることにホッとしていた。
「ふふふ・・・」
ルウは見るからに大臣が怪しいとにらんだ。表情を見るに、まだ何か企んでいるのではないかと感じた。三流ミステリーでは、ここで犯人が最後の悪あがきとして抵抗するが、フィクションだけあって、犯人側がこれから自分の行動をベラベラ説明し始める。そんなことはネタバラシをするため、黙っていたほうが犯人の得となる。
大臣は一生遊んで暮らせるほどの富を得たからと言って、残りの寿命はそう長くはない。社会の第一線からリタイアし、残りの時間を道楽として過ごす時期に差しかかっている。
不老不死とは言っても、自身のように特殊な事情を除けば、寿命が来れば人生が終わる。ならば、寿命を延ばす術が欲しい。
お金、不老不死。どこかで聞いたことのあるフレーズだ。まるでドナーの国で富をなしていたエリアスを思い出す。最後はやけになって爆弾を出したが。
それに、大臣の発言した『とっておきの逆転劇』・・・
まさか!!
「大臣。まさか、この城に爆弾を仕掛けたな」
「何ですって!?」
ミレイは驚きのあまり、素っ頓狂な声を上げた。
「じ、じゃあ、まだこの事件は終わってなかったのか」
ダイトもルウの発言に驚きを隠せなかった。
「恐らく大臣は、ミレイさんの持ってきたお宝で莫大な富を得るのが第一の目的です。ですが、残り寿命を考えれば長くは遊んでいられません。そこで目をつけたのがエリアスの国です。あの国では臓器移植が頻繁に行われていたため、お金を持った大臣どもが、半永久的な命を得るために、自分の身体が悪くなれば、そのパーツを交換するかのように生き永らえます」
「ということは、大臣はエリアスさんとつながりがあったということですね」
ミレイもルウの言葉に推理を巡らせた。
「十中八九そうでしょう。そして、エリアスさんと繋がっているとすれば、彼女が持つ兵器も譲り受けている可能性が高いです」
「それが、爆弾」
「そうです」
一同は事件が解決したとばかり思っていた。だが、全てはまだ終わってはいなかった。爆弾騒ぎが起き、再び混乱を招いた。
「爆弾はどこだ、どこにある。さぁ、早く言え!」
ダイトが縛られた大臣の胸倉をつかみ、問いただした。
「ふっ、言うとでも思ったか小僧」
「くっそぉ、言わねーとぶん殴るぞ」
「ダイト、暴力で解決しようとする考えは大臣と変わりませんよ」
ミレイが感情的になっているダイトをなだめた。ルウは、さっきの人格が完全になくなったことを確認して、やや安心した。
「ならば、私が大臣やその一味の手の指を1本ずつ切り落として自白させましょうか。指がなくなっても命に支障はありませんからね」
「何言っているんですか! もっといけません!」
ルウは、ミレイから予想した通りの答えが返ってきて、どことなくホッとしていた。
「となると、この城に仕掛けられた爆弾を探すしか方法はなさそうじゃな」
「国王のおっしゃる通りですが、正直時間がありません。ここは、城にいる人間を全て避難させる方が望ましいですが、それまで爆弾が爆発する可能性が高いです」
「そんなことをすれば、大臣だって木っ端みじんじゃないか」
「彼は自暴自棄になっているのですよ、ダイト君。自分の楽園が築けなくなったと分かった今、自らを破滅に追い込んでも構わないと悟ったのでしょう。見たところ、残りの寿命も少ないと見ました」
「と、とにかく、爆弾を探すのが先決じゃ」
国王の言葉で、それぞれが爆弾を探しに駆け出した。
「ミレイ。この城は一体誰だけ広いんだ? 見た感じ、この城をくまなく探すには、相当な時間と人間が必要だぞ」
ダイトが、初めて訪れた場所で爆弾を探すとなると、どこから探せばいいか混乱していた。
「ふっ、バカめ。奴らが爆弾を探しに出た結果、このフロアにはワシら以外誰もいなくなったわい。まったく、こうも単純な奴らだと、簡単にこちらの思惑通りに動いてくれるわ」
改めて辺りを確認した大臣であった。
「今じゃ・・・!!! ぎゃあぁぁぁ!!」
大臣が突如悲鳴を上げた。
「な、何だ?」
ダイトが大臣の悲鳴を聞き、Uターンした。
一同が集まり、大臣の方を見ると、腕に短剣が刺さっている大臣がいた。その手元には、リモコンのようなものが落ちていた。
「そのリモコンは、起爆スイッチですね。全く、油断も隙もあったものではない。恐らくそのリモコンを押して自分もろとも爆破させる魂胆だったのでしょう」
ルウは爆弾を探しに行くふりをして、大臣の視界に入らない場所で監視していた。ルウは、爆弾を見つけても処理するのに時間がかかる。安全な場所に持っていく途中で爆破されては元もこうもない。それに、この陰湿な人間であれば、リモコンによる遠隔操作での爆破だって考えられる。
すなわち、ルウは爆弾を探しに行くという行為をすることで、大臣に油断を与えたのであった。爆弾を探しに行くと言えば、ミレイたちは所かまわず屋敷を捜索することになる。まるで、素人のバスケのようにボールに群がるあまり、周りが見えなくなるようなものだ。その結果、事件の首謀者である大臣一味を誰も見張ることが無くなってしまったが、ルウは想定の範囲内として、大臣のそばから離れなかった。つまりは、ルウ自身も味方は単純な駒であることを見越していた。
ルウは落ちたリモコンを拾い、ポケットにしまった。
「ミレイさん。これは想定外の超法規的措置と位置付けてください。大臣の腕に剣を刺さなければ、今頃みんなあの世行きでした。私を除いてですが」
「ち、ちくしょーー!! せっかくワシのハーレムな生活が幕を開けるというのにいぃぃ!!」
大臣が縛られた身体を前後左右にゆすりながらわめいた。
「あなたはまだ知らないようですが、ドナーの国であるエリアスさんは失脚しましたよ。そして、あの国は生きた人間の臓器提供はしないことになったのです。つまり、あなたが計画していたその『ハーレムな生活』とやらは、既に実現しないことになっているのですよ」
「そんなのは百も承知じゃ。だから、この国を第二のドナー大国として発展させればいいだけの話じゃ!」
「ひ、ひどい。あなたは人間なんかじゃありません。欲の化身です」
ミレイが憐みの目を大臣に向けた。
「殺人未遂、爆発物所持、銃刀法違反・・・ほかにも罪が埃のように出てきそうですね。どのみち、死ぬまで刑務所から出られることはなさそうですが」
ルウが罪状を述べた内容で、大臣は生気がすっかりなくなった表情をみせた。それもそのはずだ。どれだけお金があっても、臓器が提供できなければ寿命を劇的に伸ばすことはできない。その道が絶たれた今、大臣の目の前は真っ暗闇に侵された。
「残された寿命で、今まで自分がしでかしてきた罪を償ってはいかがでしょうか」
「ち、畜生。許さんぞ。お前たちは絶対に許さんぞ。これまでワシが夢見た永遠の命をお前らに奪われてたまるかぁあ!」
「人間って、ここまで醜くなることができるのですね」
ルウは、大臣に向かって吐き捨てるように言った。その口調は、いつもとは異なり、どこか怒気を含んだかのように、ミレイは感じた。
国王たちは、大臣たちに法の裁きを受けさせることで同意した。ルウは興味がなかったのか、彼らの会合には出ておらず、大臣たちがまた何かよからぬことを企てないよう、見張っていた。
大臣とその一味をしかるべき機関に身柄を引き渡した。身柄を送検される光景を見たルウは、どんなことを考えているのだろうと、ミレイは横目で見ていた。