プロローグ
プロローグ
言い伝えによる見解を含めると、彼らの住む星では、時間と場所によって文化や文明が我々の住む星とは全く異なる。だが、どことなく我々が住む星と似ている。
そこには、水も酸素も空も海も山も大陸も街も人間もいた。
大陸の小さなエリアに、『ポルドウ』と呼ばれる小国があったらしい。抽象的な表現は全てが言い伝えによるもので、事実無根になっている内容が所々に見受けられるためだ。何百年も生きている人間がいればすべてを証言できるため、話は別であるが。
A2サイズのポスターでの世界地図で見れば豆粒にも満たないくらい小さな国であるボルドウであるが、国は小さくとも影響力はあり、周囲の国はポルドウの権力に支配されている。まるで、日本の弥生時代に見受けられた豪族のようである。
その甲斐あって、ポルドウに住む国民は、衣食住の暮らしは十分に保つことができていた。陽気な午前に太陽を燦燦と浴びせるための洗濯物を干す主婦や、公園では猫にエサを与えている青年もいる。
権力のある国の国王はどんな暮らしをしているのかと言えば、街から少し離れた高台に立派な城を構えていた。高台に城を立てたのは、外敵を監視できる利点のためだろうか。
城の中は国王だけでなく、毎晩書斎に引きこもっている大臣や広大な城の清掃をするメイド、1日三食の料理をするシェフが24時間体制の如く働いていた。10数年前に偉大な発明家が電気を開発したおかげで、これまでなら暗闇で何もできない夜中でも、関係なく仕事をすることができた。
ポルドウは栄えているものの、周辺の国は多種多様な国々である。強欲な独裁者による国家は、独裁者本人やごく一部のエリートのために収奪的な政治・経済制度により、国民に法外な負荷をかけていた。そのため、国民の暮らしは貧しく、治安の悪いスラム街があちこちに散見されていた。
一方では、現代社会とのかかわりを拒絶し、原始時代の生活から進化していない国まである。
いずれの国に言えることだが、入国の際は現代社会のようなパスポートは特になく、簡単に国境を超えることができる。とは言いつつも、仕事や生活面で異国はかなりの文化が異なることから、皆生まれた国から出ることはほとんどない。
ポルドウの城には国王の一人娘、すなわち妃が住んでいた。
ある日のこと、闇夜が更けたころ、雲が徐々に厚みを増し、夜空に輝く月を完全に覆い隠した。やがて、雨脚が強くなり、地面を突きつける雨音が徐々に大きくなり始めた。雷鳴があたりに響くときだけ、昼間のような明るさが戻る。
「お母さま、お母さま」
「あら、どうしたのミレイ」
「お母さま。ミレイ、怖くて眠いれないの。またいつものように、ご本を読んでくださらない?」
「はいはい、わかりましたよ・・・」
子供にとって、真夜中の落雷は恐怖となる。母親は何とか愛娘に安心を与えてやりたいと、いつものように本を読み始めた。
———今から数百年前の頃、世の中は戦争で混乱していたとさ。とある少年は、生まれてすぐに悪い奴らに捕まり、牢獄に捕まっていました。悪いことなんか、何もしていないのに、なぜ、自分はこんな目に合わなくてはならないのか、途方に暮れていました。
ですが、少年は希望を捨ててはいませんでした。この混乱した世の中から脱出するべく、少年はひそかに牢屋から脱獄する計画を立てていました。
外の世界は、きっと美しいに違いない。聞いた話では、外の世界は、青い空に鳥たちが舞い、青い海には魚たちが優雅に泳いでいる。なんて理想的な世界なのだろうと思っていました。
やがて少年は、鳥や魚を見るために、明日へ希望を持って生きることを決心しました。いつでも冒険に出られるよう、時間が余ったときには頭の中で計画を立てていました。
ですが、少年の夢とは裏腹に待っても待っても、この地獄のような日々が終わることはありませんでした。少年は徐々に生きる気力を失っていきました。
ある日、逃げ出すチャンスが巡ってきました。
夜も更け、誰もが寝にふけっている頃、少年は冒険に出た。ひそかに作っていた秘密の抜け道から、音を立てずに進む。誰かに見つかったら、処刑されてもおかしくはない。ただ、無事に乗り切ることを祈るばかりでありました。
幾度となく訪れる困難を潜り抜け、少年は地獄から抜け出すことができました。そして、少年は未知なる世界へと羽ばたいていく。青い空に鳥たちが舞い、青い海には魚たちが優雅に泳いでいる姿を見るために。
ですが、鳥や魚を見るためには様々な困難がありました。逃げた少年を追う者がいたのです。———
「おや、ミレイは寝てしまったようね。それでは、続きはまたの機会にお話ししましょう。彼の話を。事実はまだ話せないけれど。それでは、おやすみなさい・・・」