ライバル登場?
(よかったよかった……無事に終われそう……誠によかった……)
何が、と問われればもちろん帝国のパーティーだ。
トラブルもなく時は流れ、気付けば日を跨ぐ。
メグも私もこの世界に来て初めて別の国の方と会って話をしたが、なんというか。
帝国の主要な貴族令嬢、令息達はものすごく都会感がある。ドレスの着こなしとかデザインとか、化粧とか、そもそも纏う雰囲気全て。
だからといって都会に憧れるわけじゃないし、むしろ都会に居たから田舎が好きというか、いや別にこの国が田舎だと言いたいわけじゃないけど。
(まぁ同じ伯爵家でも芋感違ぇなって思っちゃいました。すみません)
因みにメグはおもりしなくても結構上手くやっていた。
お洒落の話で盛り上がっていて、やっぱり好きなものが共通すると身分とか国境とか関係ないのかなって思った。
私たちのドレスも評判が良く、白黒で登場したから目を引いたんだとか。
特にメグの私服コーデから着想を得た、シャンタン生地をニット編みにしてメンズライクなシャツと組み合わせたドレスが「これは新しい」と人気を博していた。
残念ながらデザイナーの子は此処に居ないから、パーティーが終わったらすぐに教えてあげよう。きっと今も腹痛の薬を飲んで耐えているに違いない。
そして私はというと、単純に似合っていたらしい。
半分流れている韓国人の血を全面に押し出してオルチャンメイクをしたのが良かったのではないかと自己分析してみる。
(メグちゃんも私もメイクは自分でする派です)
化粧品メーカーに勤める母を持つだけあって、やれば出来る子なのだ。
普段しっかりメイクをしないので、メグにはすごく羨ましがられてしまった。メグは背が低いから確かに私がするスタイルは似合わないだろう。逆も然りなのだけど。
──「どうやら今回は無事に終われそうだな」
「! ブルーさん。そうですね、前回みたいなのは勘弁です。そちらは大丈夫なんですか?」
テラスで酒を携えこっそり休んでいると、ハント公爵が隣の席に座ってきた。
帝国軍の方々とずっと熱心に話していたからここに来て初めて会話を交わす。
「ああ。皆酒が入っているから少しぐらい抜けても気付かないだろう。私も気を遣って疲れるからな」
「あはは、言えてますね。私もすこし疲れちゃいました」
「お前、千聖はグラスを二本も持って……、休む気満々ではないか……」
「見つからないように遠回りしてここまで来たんですけどね。ハロルド様にもブルーさんにもバレちゃいました」
「帝王様も……此処へ?」
「はい、先程まで。結構話しやすい人だし歳もお若いんですね。びっくりしました。緊張してたからよかったです」
「どんな話を?」
「え? ……まぁ、私の居た世界についてが殆どですね。話題に困ったときのために持ってきてたスマホが役に立ちましたよ。写真に興味津々でした」
そうか、とひとこと言って、会話は終わった。
私は先程までしていたようにぼーっと空を眺め、どれぐらいか時間が経った頃、「ブルー! ここに居たのか! 探したぞ!」と力強い声。
声の主は帝国軍の第一部隊を率いる女性。
私が居ると気が付いて、「あ……すまない……婚約者が居たんだな……」と酷く申し訳無さそうにするのだが、そう見えるように演技をしているようだった。
第一部隊・隊長、クラリス·ギャロウェイ。
私よりも長い金色の髪を高い位置でひとつに結び、ハッキリした顔立ちと大きな胸、背も高く、帝国軍の軍服を着て凛々しく立つ姿は格好良くて美しい。女の私でも見惚れるほどだ。
見つかってしまったかと答えるハント公爵に、彼女は「そう簡単に逃がすか」とイタズラに、嬉しそうに、返した。
「お気になさらず。私はまだここで休んでまーす」
「ふん、あまり飲みすぎるなよ」
「分かってますって。それにグレンくんから事前にハーブ貰ってますし」
そうしてまたひとりになった。
静けさが丁度いい。ゆらめく燈火と涼やかな噴水の水音が私を落ち着かせてくれる。
クラリスという人は、ちょっと苦手かもしれない。
ハント公爵の婚約者になってから、国内令嬢達の針で指す程度の嫌味などとは違う。
ブルー·ハント公爵のスペックが欲しいだけの女ならば軽く交わせるが、クラリスはどうも本気で彼のことが好きらしい。
元彼の時と同じなのだ。性格というか、雰囲気というか、醸し出す何かが、元彼の事を好きだった大学の後輩である女の子と。
付き合う付き合わないは当人同士の問題。
いくら、『私の方がずっと前から好きだった』と言われてもそんなの知らない。
私は後輩が誰だかも分からないし、勝手にライバル視されても困る。
裏で私の悪口を言うわけでもなく、手のかかる後輩のフリをして恋人の間にわざとらしく入り込み、挑んでくるのだ。
私と正々堂々勝負しようとでもいうのか。
けれど私は別に後輩のことをライバルだと思ってもないし、勝てるとも思ってない。
誰を好きになるかは悠真次第だから私に選ぶ権利は無い。
ただ後輩が悠真のことを本当に好きなのだけは分かる。分かるけど、だからといって別れる理由にはならない。
何故なら悠真が好きなのは私だったから。
わたしはその気持ちと自分の気持ちをすり合わせ、応えただけ。そこに後輩は関係無い。
クラリスは、そんな面倒臭い感じを思い出させてくれる人。
ハント公爵と話す時、心底恋をしている瞳をする。
態度や表情も他の人と話すときとはまるで違うのに、彼は気付かない。
優しい人でよく気が付く人なのに、目の前の女性が自分のことを本気で好きだとは思わない。
ただの良き騎士仲間だと、そう思っている。
彼女も告白する勇気はないし、彼の気持ちが自分に向いていないと分かっているから私に牽制するしかないのだ。
一種の八つ当たりである。
全くもって迷惑な話だ。私はサンドバッグではない。
──グラス2つが空になってしまった。
いい加減私も戻らなければ。
重い腰を上げ、ぐぐっと背筋を伸ばして気合を入れた。
(なんか、クラリスさんって、言い方悪いかもだけど異世界ハーレムに出てくる女騎士みたいな人だな……。『私じゃ、不満か……?』とか言ってそうなキャラいるじゃん? だいたいが巨乳だよねー)
バイト先である漫画喫茶の先輩が好きそうな女性だ。
先輩は異世界ハーレムめちゃくちゃ好きだったからクラリスに会ったならば即落ちしてしまうのではないか。
そんなくだらない事を考え、これまたこっそりホールに戻ると、十二時を回ったというのにまだまだ皆は元気な様子。
すぐ傍に居たハント公爵と目が合ってしまい、同時に恋する瞳のクラリスも視界に入る。
下手に関わると面倒だから、グラスを戻すフリをして距離を取った。
態とらしく装って、私も、やっている事はクラリスと変わらないのかもしれない。




