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【本編完結】愛だの恋だの面倒だって言ってたじゃないですか!  作者: ぱっつんぱつお


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ブルーという男


「うわ……!」


 帰りの馬車の中。思わず声を上げた私に、「いきなり大声を出すな」と少し驚いた顔をして叱るハント公爵。


「あっ、すみません。あの、なんか私、年相応に普通に楽しんじゃってましたよね、徹夜して疲れてるのに……」


 わりと本気で反省している。

 だってシフォンケーキが好きかどうかも知らないのに付合わせて、店を出れば大型犬を散歩させていた人が居たからついつい絡んでしまって、それでその飼い主の方が持っていた花籠が素敵だったからこれまたついつい聞いてしまって、花籠を買った花屋がすぐ近くだというから、折角だからとその花屋にも寄ったのだ。

 これをどう弁解しても解釈しても私だけ普通に楽しんでいただろう。

(だって止めないし嫌とも言わないし……!)


「何度も言わせるな。お前に、千聖に心配されるほどやわな男ではない」

「そう、ですか? なら良かった」


 名前で呼ばれるのは、これで二度目だったと思う。

 ハント公爵のことだから、人に要求しといて自分は直さないなんておかしいと考え、己も気を付けているのだろう。

 別に気にしなくても良いのに。『お前』と呼ぶたびバツの悪そうな顔をして。

 まぁ私は意地悪だから『千聖』と呼ばれたときも『お前』と呼ばれたときもその顔が面白いからあえて言ってあげないけど。


 私の呼び方で揺れ動いているハント公爵を黙って面白がっていると、綺麗な顔に似合う綺麗な手がこちらに伸びてくる。

 そして私の髪に引っ掛かっていた小さな花びらを柔らかに取って、窓からひらひらと風に乗せ舞い踊らせた。


「ついてました? 有難うございます」

「……それに、誰も楽しくないとは言っていない」

「え?」


 ふん、と返されるが、それはつまり若干なりとも楽しかったということだろうか。

 優しい人だから彼なりに気を遣ったのか。

 優しさを素直に受け取り、そういう事にしといてやる。


「てかウケますよね」

「何がだ」

「全然ブルーさんにわんこ近寄らなかったじゃないですか。明ら様すぎて!」

「……動物には懐かれないんだ。これでも幼少の頃は犬を飼っていたんだぞ」

「ええっ。そうなんですか?」

「元々、母が飼っていた犬で、私が8歳のときに死んだ。だから共に過ごした記憶はあまり無い」

「そうなんですか……どんな犬でした?」

「私より大きい犬だったよ。名前はグレースといって白く美しい毛並みだった。母によく懐いていて、母親が私に構うと嫉妬しているのか間に入ってきたな」

「なにそれかわいい」

「それで、母を取り合う私達に、母は心底嬉しそうに私とグレースを抱きしめていた」


 懐かしんでいるのか、寂しそうに、微笑む。

 冷徹で恐ろしい、この人自身が魔物ではないかと噂されている彼だが、やはりひとりの人間だ。

 むしろ辛い経験をして我慢して頑張ってきて、こんなに人間味溢れているのに、何故そんな噂をされているのだろう。

 恐い顔をしているからだろうか。よく見ていれば色んな表情をしているのに。

 幼少の頃に両親を失ったと聞いたが、それ以外の事は詳しく知らない。たぶん彼も私のことは詳しくは知らない。お互い何も知らない。

 メグの事を知りたいと思うのと同じで、彼の事も知りたいと思ってしまうのは、酷だろうか。


「………ブルーさんの、御両親はどんな方だったんですか?」


 酷だと分かっていながら、そう尋ねると、脚を組んで、すーっと息を吸い吐き出す息と共に、「そうだな」と、遠い目をする。


「私の両親は…………優しい人だった。私を心から愛していて、父も母も仲がよく、絵に描いたような家族だったと思う」

「そっか。……寂しいですね」

「そうだなぁ…………私が、10歳のとき、ハーディー公爵家から馬車で帰宅しているときだった。カレン嬢が産まれ、そのパーティーの帰り道、犬型の魔物に襲われ、馬車が転倒した勢いで御者と、私を守って両親は死んだ」

「え……」

「子供だったからな、辛かった記憶しかない。何故私だけが残されたのか、疑問だった。考えて出した答えが、もう二度と、私のような子供が出ない事。だから、私は騎士団に入った」

「そう、だったんですね」


(なにそれもうわたし絶対アヌビスのこと言えないじゃん)

 知らないほうが良かったなんて、それこそ酷だ。

 彼が魔物に家族を奪われた一人だったなんて。あんまりではないか。私達はこれから結婚するというのに。

 どんな運命で彼と生涯を共にすることになったんだ。これは誰が決めた運命なのか。


「お前の両親は?」

「わた、しの、両親ですか?」

「……言いたくないのなら別に構わないが」

「いえ、そういう訳では……。私の両親、というか、私を含めたわたしの家族は、噛み合わせが惜しい家族でした、かね」

「どういう、意味だ……?」

「説明するのはちょっと難しいです……。少し長くなるんですけど、それでも良いなら……」


 構わないと、流れる景色の中、大袈裟に同情するわけでもなく、彼はただ、わたしの話を静かに聞いていた。


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