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【本編完結】愛だの恋だの面倒だって言ってたじゃないですか!  作者: ぱっつんぱつお


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豹変のとき


 ──昨日の夜は楽しかったねと、大人な微笑みを浮かべるロイド。その顔はまだ幼さが残る。

 これはグレンよりもタチが悪いのではないか。

 子供だからと侮ってはいけない。人は見かけによらない。

 そう。アーサー殿下が童貞だったように──。




 高く昇った太陽を頭上に連れ、手を繋ぎ庭園をゆったり歩いていた。綺麗に薔薇が咲いてるねと、そんな話をしながら。


「ちさとお姉様の居たところではこれは薔薇というの?」

「えっ? 薔薇じゃないの?」

「うん」


 じゃあここでは何と呼ぶのかと聞けば〈乙女の道しるべ(レディホワイト)〉というそうだ。

 それは大昔、貴族の子女が結婚する前に本当に愛した人へ処女を捧げるためこっそり家を出た事に由来し、早朝だけほんのり発光するこの花がその時の道しるべになったそうだ。

 こんな性格の私だが、素敵な過去が詰まった話は結構好きだ。

 意外とロマンチストだねと驚かれることもあるが、誰かの思い出が今まで続いている事自体素晴らしいことだと思う。


 ロイド曰く、この国然り周辺の地域は魔窟から漏れ出る魔素によって、少し他とは違う植物形態になっているらしい。

 土や水がそう影響させるのだとか。

(だから野菜も映える色だったりラベンダーが葉っぱだったりするのかな。てか発光するあたり確かに薔薇ではないな……)

 特にこの国はかつてドラゴンが眠ったとされる神聖な場所だから帝国の中心地と比べると「よっぽどへんてこりんだよ」とロイドは言う。


「今頃おねぇ様とブルーおじさんはお父様の長くてつまらない話に付き合わされてるんだろうね。お父様がずーーーっと喋ってるだけだから疲れちゃうんだよね」

「あはは、そうなんだ。私はロイドくんに誘ってもらってラッキーだったな!」


 エメラルドの瞳をうんざりさせる実の息子のロイド。

 大体想像はつくが、興味のない話を永遠と聞かされ同意を求められるあれは苦行でしかない。

(てかハント公爵“おじさん”って言われてるんだ。そりゃ20歳も違ったらおじさんかーー……私も危ういなぁ〜……)


「ほんっと素敵なお庭だね。花の植え方も花壇も可愛いし、カレンさんの趣味? それともお母さん?」

「どっちも! おねぇ様もお母様も見た目は少し怖いけど可愛いものが大好きなんだ! ホントはね、おねー様はメグお姉ちゃんが着てるようなドレスが好きなの。でも似合わないからって、ちょっとでも強く見えるように、ドレスもメイクだって濃くして……」

「そのままで十分素敵なのにね」

「そうでしょう!? ぼくもそう思う! ね、あそこのベンチで少し座ろ、日陰だし景色がとっても綺麗なんだよ」

「ベンチ?」


 そんなもの見えないけどなと思いながらも近付いてみると、垣根と大きな木に隠れ丁度屋敷側からは見えなかったが、確かにベンチがあった。

 公爵家自体小高い丘の上にあるからか、街の様子が一望できる。


「わぁ……! ほんとだ、きれいだね!」

「でしょう? ぼくのお気に入りの場所なんだ!」


 それからベンチで暫くロイドと話をして、天気も良いし風も心地よいからうつらうつら眠気が襲ってきた頃、羽織っていたストールがするりと滑り落ちた。

 ロイドは首筋をじっと見つめ、この痕はどうしたのと問う。

 キスマークみたいだけど子供相手にそう答えるのもアレなので、「朝起きたら付いてたんだよね、なんだろうね」と誤魔化した。するとロイドはまるで思惑通りだと言わんばかりにニンマリ笑う。


「へぇ……ちさとお姉様ぐっすり眠ってたもんね」

「え。うん……、そだね……」

「それに、昨日の夜は楽しかったよね」

「…………うん」


 9歳のくせに目つきが色っぽくて、言いようのないオーラにごくりと生唾をのんだ。


「ちさとお姉様ったらお酒飲みすぎ。何したって起きないんだもん。つまんない」

「え…………と、どう言う意味かな……?」

「でもすやすや眠ってても可愛い声だったよ。ぼくもっと聞きたいなぁ」

「は……は、はい? ロイドくん……? なんの、はなし……?」


 何かを求めるような上目遣いで抱きついてくるロイド。

 眠気のせいで脳が覚醒していないのか、それともキャラの落差が激しくて受け止めきれないのか、これは一体どういう状況だろう。

(えーーっと。今分かることはロイドくんの腕が私のアンダーバストを持ち上げている事…………え、子供だからと気にしてなかったけど、す、すごい乳に顔押しけてるね?? わざとか? コイツ)


「ちょ、ロイドくん??」

「だいじょうぶだよ、ぼくに任せて。そうしたらみんな気持ち良くなるんだから」

「ふぁい?? なんのお話しですか?? ひゃっ! や、ちょ、ロイドくん!?」


 優しく腕を解こうとすると、逆にするりと慣れた身のこなしで私の手を抑えられ(慣れてる事自体おかしくないですか??)、そして右の首筋に唇を近付けて左耳を指で摘むという高度な技を繰り広げるロイド。

 ツツ──、と舌先を首筋に這わされると、思わず「んんっ」と声が漏れた。


「あぁその声。かわいいなぁ、もっと聞きたい。おねー様もメグお姉ちゃんもくすぐったいって笑うだけだからつまんないんだ。最近はおねぇ様のお友達も来ないし」

「ふぁ??? な、何を言ってるの???」


 何だか色々と恐ろしい話をされているようだが、ひとつひとつ情報を処理するのに時間がかかってサーバーがダウンしかけている。

 こんな恐ろしい子が現実にいるのでしょうか。カレンとメグにも似たような事をしていると?

(え?? どういう事ですか??)


「あっ! ちょ、ロイドくっ、どこ触って!」

「だいじょうぶだいじょうぶ」

「いや大丈夫じゃないよ!?? なにも!!」

「いいからぼくに任せて?」

「任せたらやばいでしょ! 犯罪でしょ! ち、ちょっといっかい離れよ?? んあっ!」

「あーーちさとお姉様、久し振りだからそんな声出されたらぼく我慢できないよ」

「何が?? 何が!?? 何か分かんないけどやめようか?? 止めないと無理矢理引っ剥がして放り投げるよ!??」

「ちさとお姉様、ぼくに虐待するの……?」

「ぐっ、それはっ……ズルくないか……!?」


 児童と成人の攻防戦は暫く続き、荒い息だけが周囲に響く。

 先程から脱げかけたドレスを直し、また直しの繰り返しだ。靴もいつの間にか脱げてしまい、ストールも何処かへ行った。

 あの可愛らしい天使は何処へ消えた。可愛い子供は好きだが、流石にショタの趣味は無い。


「ロ、ロイドくんっ……、とっても斬新な遊びだけどっ……いい加減疲れたよっ……、ま、また今度に」

「だめっ、ブルーおじさんと結婚する前にちさとお姉様と遊ぶのっ!」

「いやっ、普通に遊ぼうよっ……! ねっ……!? 子供らしくさっ! てか普通に諦めて!?? 貴族の男児野蛮すぎる!!」

「子供なのはどこかの阿呆殿下だよっ! ちさとお姉様もいい加減快楽に身を任せたほうが楽だよ!?」

「何言ってんのホントに!! あっ、ちょっ、ロイドくんだめッ!」


 暫く続いた攻防戦に終止符が打たれた。

 ロイドが徐々に解いていたコルセットの紐を、ついに全て解いてしまったのだ。

 そしてニヤリと悪い顔をして解いた紐で一瞬にして私の両手を縛った。本当にこの歳にしてどこで身につけた技なのか。

 これでやっと大人しくなったと笑い、隣に腰を下ろすと意外にも優しく耳の縁をゆっくり撫でられる。


「ふあっ、もう、ロイドくんったら……! 何でこんな事するの!」

「ぼくきれーなお姉様大好きだもん。ちさとお姉様って変だよね。皆喜んで僕に身を任せるのに、ちさとお姉様は何でそんなに抵抗するの?」

「いや喜ぶことに驚き!」

「だって気持ちいいこと好きでしょう? ぼく公爵家長男だし」

「考え方が悪魔!」

「でもね、皆が気持ち良いことが好きなのは、ほんとうだよ? だから、ちさとお姉様も、──うわッ……!!」

「はぁッ、はっ……全く。餓鬼(ガキ)のくせに生意気だな」

「こっ、公爵様ぁ……!」


 息を上げ、容赦無く後ろから餓鬼の首根っこを掴み上げる冷酷無慈悲なハント公爵。もしかして急いで来てくれたのだろうか。

 首根っこを掴まれ、ロイドは「ちぇ」と舌打ちすると可愛らしい男児に戻った。

 ハント公爵は私の縛られた両手を無言で解いてくれるのだが、その形相が恐ろしいったらなんの。


「あーあ。ジャマされちゃったなぁ〜」

「ぁあ!? ココにくそ餓鬼が居ます! 何なんですかこのくそ餓鬼は!!」

「ちさとお姉様口悪ーい」

「動くな。解けんだろう」


 この餓鬼は人様の言葉遣いを指摘する前に己の行いを改めてくれ。

 なにはともあれ私の身体は守れたらしい。


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