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(おっも……!! なに!? 金縛り!?)
目覚めた。
頭を少し動かすと、覆いかぶさり抱きついて眠るロイドの姿。
キョウダイや子供がいたら毎日こんな状況になるのかなと微笑ましい。一人っ子だからキョウダイに強く憧れた時もあったが、今思えば一人で十分だ。たぶん毎日居たらウザい。
外はまだ薄ら明るい。
夜更しして酒だってあんなに飲んだのにいつもと同じ時間に起きた。刻み込まれた体内時計は恐ろしい。
私はロイドを起こさないようにそっと絡められた腕を振り解いた。
昨日は確か散々泣いたカレンは自室へと戻り、ぐっすり眠るロイドを起こすのは可哀想だからとそのままこのベットで寝かせた。飲み過ぎたのか頭痛がする。
水を飲んで、シャワーでも浴びようと部屋に併設されているバスルームへ向かった。
お風呂は一人で入るからと事前に伝えてあるので、タオルなど諸々の準備は既にされている。鏡を見ると顔がむくんでいる。
こりゃあマッサージしなきゃと軽くシャワーを浴びたあと、カレン御用達の薔薇の美容液でくるくるマッサージしていると、左鎖骨の下に謎の痕を発見した。そして右の首筋にも。
見たままの感想を述べると、これはキスマーク。
(え……キスマーク……? は? え、え? キスマーク……?? だ、誰に?? え、まさか、ロイドくん……)
・・・思考停止中・・・
「なワケ無いか〜〜! なワケ〜〜……!」
どうせ酔っ払って自分でつねったり何処かにぶつけたりでもしたのだろう。
記憶が無いのがいささか心配だが、いずれは消えるモノ。いちいち気にしたって仕方が無い。と言いつつまた変な誤解を生んでとやかく言われるのは嫌だから、ストールでも羽織っておこう。
ハーディー公爵家を出発するのは明日の朝食後だ。
それまでカレン(&ロイド)とサロンにて昨日に引き続き楽しい女子会。
心の何処かで、『茶を飲んで菓子食ってただ喋って貴族女性って楽勝な仕事じゃん?』とか思っていたけど、家のため友達のフリをするのってぶっちゃけ私はバイトよりキツイかも。
(それで好きでもない男と結婚し子供を作るとか。人生何にも楽しくないじゃんね?)
悩みを話せる本物の友人が居ればいいけど、カレンの立場的に。本当にこの歳にしてよく頑張ったものだ。
無責任だとは分かっていても、カレンにはどうか心から愛し合える人と結婚し、幸せになってほしいと思う。
──「カレン嬢、随分表情が柔らかくなりましたね」
サロンに入室してきたハント公爵。そういう自分だって〈団長〉のときとは違い随分と表情が柔らかい。
朝からカレンの父、グレイブ公の趣味である古物武器を自慢されていたはずだが。
「ふふふ、千聖さんのお陰ですわ。素敵な方を連れてきて下さりブルー様には感謝しております」
「それは良かった」
「ところでお父様は……、武器庫へ連れて行かれたからてっきり晩餐まで籠もりきりかと」
「なんでも先日内緒で買ったものが見当たらないとかで。今は夢中になって探しています」
「あぁ内緒も何も。バレバレですわよ! あまりにも乱雑に置いてあるので少々片付けたのです。そのまま見つからない事を祈りましょう。さ、ブルー様もどうぞお座りになって」
ちょっと待てこのメンバーで茶なんか飲んで何の話をするんだいと心の中でカレンに念を送るも、届かず。にこり、と可憐な笑みを浮かべられた。
空いた席はカレンの隣か、オットマン。私の隣にはピッタリとロイドが張り付いていて退く気配もない。
「ほらロイド、ブルー様がお座りになるからこちらに来なさい」
「やだっ。ちさとお姉様とはもうすぐお別れでしょう? 僕はしばらく会えないんだもん、おねー様と座ればいいじゃん」
「もうロイドったら! お二人は婚約されているのだからわたくしの隣に座るのはおかしいでしょう?」
「あ、私は別に気にしないんで。開いてる席にどうぞ」
「ふん、私も別に何処だって構わん。カレン嬢も気になさらずとも結構ですよ」
「ブルー様! 千聖さんもっ! 弟の我儘なんて素直に聞かなくて良いのです! ブルー様と同じく公爵家長男なのですからもっとしっかりしなければ!」
「なら甘えたい時に甘えさせておけばいい。いつ終わりが来るか分からないからな。それに、まだまだ子供だ。なぁ? ロイド」
「っブルー様……」
結局、ハント公爵はオットマンに腰掛けた。長い脚を余らせて。
それから暫くは、最近の騎士団はどんな雰囲気なのか、メグが来てから貴族令嬢の趣味が変わっただとかそんな話をして、30分そこら経った頃だろうか。
グレイブ公が禿げかけた頭とでっぷり出た腹と諦めた表情を、サロンの扉から覗かせている。
(いやいやマジで子供の遺伝子どした? 似てなさすぎなんですけど)
「おいカレン……何処にやったんだ……?」
「ほんっっとにお父様ったら……!! いつもそうですわ! お父様の稼いだお金ですから買うのは自由ですけど! 乱雑に置かないで下さいな。ちゃんと飾ってあげて下さいませ!」
「わ、悪かったよ……。で、何処にやった?」
「〜〜〜っもう!! はぁ。千聖さん申し訳ありません、わたくし少し席を外しますわ」
「すまないねぇ、暫しカレンを借りるよ」
賑やかな父を睨みつけるカレンに、私は「お構いなく」と微笑む。ロイドはこんな時の父は面倒だと分かっているのか、知らんぷりだ。頭の良い子だと思う。
グレイブ公はとにかく古物武器を見せたくて堪らないのか、全く腰を上げる気のなかったハント公爵までお前も来るんだぞと呼び寄せる。
部屋に残るは私とロイドだけになってしまうワケだが、「ではぼくとお庭をお散歩しましょうか、おじょうさん」と可愛らしい紳士にエスコートの申し出があったので、その手を取った。
いつもの不満げな目付きに戻るハント公爵。グレイブ公の長話が嫌なのだろうか。
お前は来なくていいのかとハント公爵に聞かれるが、おじさんの自慢話ほど長いものはない。
「えっ、いや結構です……。ロイドくんとお散歩行くんですもん、ねー?」
「っだが、」
──「おいブルー! 行くぞ!」
「ほら呼ばれてますよ」
「グレイブ公、今行きますので」
「ちさとお姉様はやくー」
手を引っ張るロイドを、分かった分かったと宥め立ち上がると、「あッ千聖……!」と名を呼ばれた。
初めてだった。
ハント公爵に名前を呼ばれたのは。
「は?」
驚いて振り返ると心底不満げな顔がある。
急に呼び捨てして何なんですかと私も心底不満げな顔をして首を傾げた。
何か伝えたそうなので一応言葉の続きを待ってみるも、グレイブ公に「早く来ないか」と催促され、結局ハント公爵は何も言わず立ち去ったのだった。
(は? なんか急に名前で呼ばれたんですけど意味分かんないんですけど。てか呼んどいて何も言わないのかい)
暫く嫉妬モードにはいります




