メルヴィン、開花する。+ウワサの小話
「アニーさん、なんかすみません。連れ回しちゃって」
「いえいえ、メグ様が見付からないことはしょっちゅうなので!」
「あはは……そうなんですね。とりあえずメルヴィンさんの所へ行ってみましょう」
神殿のグリーンルームを任されているローズおばさんのチームにも新人が配属された。こちらは規模が広いから全体で20名程の人数だ。
折角だからとそちらにも顔を出して挨拶を済ませると、丁度薬草の調達に来たアニーとばったり会った。
この前はご馳走様と他愛無い会話を交わしていると、「そうだ!」とアニー。
「リカルド様が都合が良い日を教えてくれと仰っていました。自分は13時頃ならいつでも良いとも」
あぁそういえば素敵なシェフの男性とチヂミの約束したのだった。魔物の一件があったので危うくそのまま忘れるところだ。
メグも一緒にと言っていたから、先ずは私とメグの予定を合わせるところからだな。なんて、軽い気持ちだったのだが。
それから私はアニーを連れ回す事となる。
厨房へ薬草を届け、アニーが途中メグを見掛けたという中庭に来てみたが、既に姿はなく。
ハント公爵が執務室に逃げ込んでくると言っていたから其処ではないかと訪ねてみるも、居らず。
ならば多くの時間を過ごしているメルヴィンか王子の元ではないかと思い、私達は先ずメルヴィンの元へと向かった。
恐らく書庫の隣りにある教室の何処かに居る筈だ。
王族専用の教師は、王子・王女への勉学が終わるとその後は宰相になる場合が多い。
特に社会や歴史を教える教師はその傾向にある。メルヴィンはそのどちらも担う教師だ。
教える事が好きだからと教師を続ける者も居るが、教師という長く成長を見守る存在だから、将来の『王』と信頼関係が生まれるのだろうか。
立派に成長した教え子に右腕として必要とされるなんて想像するだけで感動してしまう。
メルヴィンは、メグの来訪と第二王女がまだ7歳であるため現役教師だが、将来は宰相になるつもりなんだとか。
虐げられていたという人が宰相にまでなるのだからこれは凄い事だ。
「こんにちは、メルヴィンさん」
「千聖様! どうされました?」
教室の扉を開くと、教え子の為テストでも作っているのかメルヴィンは本を開き紙に何か書いている。
片眼鏡を外しているところを見ると、どうやら近視らしい。
(ていうか片眼鏡ってなんだよ。片方だけ視力悪いのかもしんないけど両方レンズ入れろよ)
「メグちゃん居るかなと思ったんですけど……居なそうですね」
「御覧の通り。先程まで一緒だったのですが、殿下に連れて行かれました。まだ授業中だったんですけどね」
「ああ。またですか」
「はは……。ええ、まぁ」
恐らくサロンにでも行っているのでしょうと言うので、ならば急いで私達も向かわねばと足を一歩引くと、ふわりと手を添えられた。その手の持ち主はまさかのメルヴィン。
驚いた。以前は強く腕を掴まれたのに。
「ちょっとお話が」
「お話?」
「私はこちらでお待ちしております」
アニーが扉の外で待機するというので仕方なく教室に入った。また噂をされるからあまり二人きりにはなりたくないのだが。
「その、千聖様に相談したい事があって……」
「相談……って?」
嫌な予感しかしないのだが。
困った表情のメルヴィンをじとりと見つめてみるが、魔法使いのくせして綺麗な顔をしてやがる。ムカつく奴だな。そして髪が本当につやつやさらさらだ。更にムカつく。
「千聖様にダンスを教わってからというもの……なんだか周りの態度が急変して。……その、特に女性から話しかけられる事が多くて……」
「……は?」
「あまりにも近寄ってくるのでお陰で女性に触れるのも慣れてきたんですけど、」
「はぁ」
「殿下のように輝いてもいないこんな私の身に一体何が起こっているのでしょうか……」
「はぁ?」
「まさかダンスにそういった効果があるとは知りませんでした。私もまだまだ知らないことが沢山ありますね」
「…………(こいつマジ)」
いつの間に女性への接し方を学んだのかと思っていたが、そういう事か。
(つうか……! 私は『あいつビッチじゃね?』って噂されてんのに何でメルヴィンさんは逆に人気出てんだよ! 魔法使いのくせして! 顔力こわっ。てか相談じゃなくて自慢なんですけど)
「えーーっと、つまり女性達に集られてどうすればいいかって事ですか?」
「はい……。今まで経験がないのでどう対処すればよいのか……。ブルーに聞いても良かったじゃないかと言われるだけで全く参考にならないですし……」
「あはは……聞いたんですね。まぁメルヴィンさん元々綺麗なお顔立ちですし私生児と言っても侯爵家です。それにメルヴィンさん自身努力されて今の地位に就いたんですから、遅かれ早かれそうなってたでしょうね。大切な人を見つけるチャンスじゃないですか?」
「大切な人を見つける、チャンス……?」
「貴族って家同士の結婚って聞きますけど、言い寄ってくる女性は皆メルヴィンさんの何を見てるんです? 家? お金? 政治的利用? それともメルヴィンさん自身?」
「それは……」
「折角の機会です。たった30分の散歩でもいいですから色々な女性とお話してみては? メルヴィンさんの事だから自分の好みだってまだ分からないでしょう? 将来宰相になりたいのならどの家の子がどんな娘か知るのにも丁度いいじゃないですか」
「それも……そうですね」
素直に納得するところは29歳にして可愛い男だなと思う。
メルヴィンは、ウー侯爵が愛人の女性との間に出来た子供だ。
当時、侯爵夫人は生まれてすぐの子を育てるのに必死で、メルヴィンのことを知ったのはメルヴィンが5歳のときだったそうだ。互いに家のための結婚で愛はなかったものの、それはもう大激怒だったらしい。
(まぁデリケートな時期だし、怒るのも当然か)
メルヴィンはある日突然貴族の家に連れて行かれ「今日からお前の母親はこの人だ」と言われたことを今でも覚えていると。
父は愛人のことを心から愛していたそうで、愛人に似たメルヴィンのこともかなり溺愛していたそうだ。
妻である侯爵夫人との間に出来た、長男よりも。
兄弟仲は悪くなかったが、仲良くしていると夫人が怒るので兄弟二人は自然と距離を取った。
夫の前ではメルヴィンの事を可愛がる良き母親だが、そんなものはただの仮面だった。
その後は説明するまでもなく、嫉妬に駆られた夫人はメルヴィンを苛めそして、メルヴィンが15歳の時、夫人は夫が愛する女を殺害しようとした罪で離縁に至る。
元侯爵夫人は実家に引き籠もり、ついには自害したそうだ。
現在の侯爵夫人は、ウー侯爵が心から愛した女性。メルヴィンの実の母。
身分も何もない平民の女で様々な嫌味も言われたが、愛する夫と支え合い、前妻の子も心から愛した。
長男も母親の愛に飢えていたため、幸せが出来上がるまでそう時間は掛からなかったそうだ。
メルヴィンにとって『女』とは嫉妬と怒りに満ちたものだと思っていた。
しかし母親が変わり、そうでないと知ったが、時すでに遅し。
歳は16、学園も卒業し自分も立派な大人の仲間入り。侯爵家を継ぐのは長男だ。己は仕事をしなければならない。
そうして王族付きの教師になったが、キラキラして可愛い女の子は雲の上の存在となっていた。
兄である長男も結婚し、お前はいつだと父に言われる。
そして『メルヴィン』が出来上がった。
「大丈夫ですメルヴィンさん、青春はいつだって出来ますからね……!」
「はい?」
「ま、女性ひとりひとりお相手するのは相当疲れるでしょうがとりあえず頑張ってください、応援してまーす」
「千聖様、それ気持ちこもってます……?」
「もちろんですよー、じゃ、私はこれで」
もちろん、全くと言っていいほど気持ちは微塵も込めていない。
社交辞令というやつだ。
ただのモテ自慢だと早いこと気付いてほしい。
最後にメルヴィンは、「また相談していいですか……?」と歳上らしくもないしおらしい表情で聞いてくるので、断れない私は仕方無く了承してしまったのだった。
(但し、貸した利子は高く付くけど)
「お待ちしておりました。メルヴィン様のお悩みは解決できましたか?」
「アニーさんすみませんお待たせしました! んーー、どうでしょう、メルヴィンさん次第じゃないですか?」
「……それは……私が聞いても良い内容でしょうか……」
「ああ。物凄く端折って簡潔に言うと女からモテて困ってるという相談なので別に大丈夫じゃないですか?」
「へ?」
「あっ、言っときますけど本人はいたって大真面目ですからね」
「え、メルヴィン様ってそういう方だったのですか……?」
「というか女性に不慣れですよね」
「不慣れ……? あ、なるほど、あ、そういう事でしたか! だからなのですね!」
「何か思い当たるところが?」
「あ、いえ、千聖様にお話するような内容じゃないかもしれないですが……、実はメルヴィン様は同性愛者なのではと噂がありまして……」
「へ?」
「ずっと片想いしてらした男性がいるとかなんとか」
「はぁ……まぁ、そういう方は実際居ますからね。私からは何とも……」
「あ、いえ、その、あの、その…………メルヴィン様がずっと片想いしてらした男性というのが……ハント公爵様でして……」
「…………はい?」
「もっ! もちろん噂ですけど……! 幼少の頃よりお二方は仲がよろしくて……、年頃になってもメルヴィン様は女性と関係も作りませんし……」
「く、……ふっ」
「その、千聖様が公爵様の婚約者になられて、一部の女性達からは二人の邪魔をするなという声も上がっていたりして、」
「くっ、ふふっ、ふっ……!」
「ち、千聖様っ!? 笑い事じゃないんですよ!?」
「いやっ! ごめっ、それは笑う……! だ、だって……! 女性とどう話していいかも分からないメルヴィンさんがそんな風に言われてたなんて……! あははっ!」
「ち、千聖様ぁっ! 笑いすぎですよぉ!」
「あははっ! あぁだから私とメルヴィンさんの噂で恋愛対象が女性だって分かってそうなってんですか! あはははっ……! これは笑う! それなら変な噂も許してやりますよ……! ほんとヤバい……!」
「千聖様ぁ〜! 私から聞いたって言わないでくださいね……!?」
「あははっ! 分かってますってー!」
「もうっ! 早く行きますよっ……! またメグ様が逃げちゃいますっ!」
「アニーさん待ってくださいよー!」




