メグちゃんはたぶん、着実に攻略している。
「ねーメグ、チーちゃん好きだからずっと居て欲しいぃ〜!」
「えー? 私がずっと居たらメルヴィン先生困るでしょう?」
「そんなっ! 困るだなんて! 私だって出来ればずっと居て頂きたいですよ!」
メルヴィンもハント公爵と同じく私達よもり大人だから、気を遣ってくれているのだと思って「も〜、メルヴィンさんもお世辞なんていいですよ〜」と何気無く肩をぽん、と触れた。
すると驚かせてしまったのか、びくんと背筋を硬直させるメルヴィン。
「わ! わわわわ私は真実しか口にしません! 今の言葉も誠にございまする!」
「めるるんうけるー! 侍じゃーん! たまに壊れたおもちゃみたいになるよね〜」
そんな反応をされて私も驚いたのだが、メグがけっこう辛辣なことを言うので思わずクスッと笑ってしまった。
メルヴィンは顔を真っ赤にしながら、思った事をそのまま口にするなとメグを叱っている。
今のこの状況に至るのも、メルヴィンが私を所望していると公爵から聞いたから。
何故私が必要なのか本人に話を聞くと、以前より勉強に向き合ってくれるようになったメグだが、代わりに制御できないらしい。
制御出来ないとはどういう意味か。全く意味が分からないから詳しく聞いても、口を濁すばかり。
とにかく居てくれればその内分かるから、と見ているけれど。今のところいつもの『メグ』なのだが。
「あのねぇ! めるるんすっっっごいダンス下手なの! めっちゃ面白いんだよ!」
「下手ではありません! 得意でないだけです! 言い方に気をつけましょう!」
このブレないノリを見る限りいつものメグだ。
私でさえ五月蝿く言われる喋り方なのに、メグを直すのは中々骨が折れるだろうな。いちいち訂正するメルヴィンも見ていて面白い。先生ってのは大変だなぁ。
「これでもメグさんに内緒で練習しているのですよ!」
「うっそ!」
「ふふん、教え子をエスコート出来るぐらいには私も努力しないとですからね」
「えー、じゃあ踊ってみよーよー」
「へっ!?」
「めるるん頑張って練習したんでしょ? メグだってアッくんといっぱい練習したもん!」
口をぱくぱくさせて「そこまでメグさんが言うなら!? 良いですけど!?」と結局色んな意味で踊らされてるメルヴィン。
しかし賑やかだな。メグが賑やかな人だから自然と周りもあのノリに乗せられてしまうのかな。
(それにしてもアッく……いや、殿下は自分でメグちゃんに教えてるんだ。ちょっと見直したかも)
「ワルツのリズムでいきますよ」
「はーい」
そう言ってスタンバイする二人だが、既に頼りないメルヴィン。もう少ししっかり腕を回して腰を支えてあげないと動きがバラバラになってしまうのではないか。
腰も引けてるし、表情はガチガチだし。
(はっはーん、さては女性に慣れてないなー?)
ぎこちな過ぎるメルヴィンに、なんとか笑いを堪えて壁にもたれ見物している私。
「んもう! めるるんちょう下手っぴ!」
「へ、へへへ下手ではありません! 得意でない、だけでするっ……!」
「なんで侍になるのー!? もーやだぁー! メグまで下手になるー!」
(やばい。メグちゃんがストレート過ぎて笑ってはいけないになっちゃう……っ。しかもメルヴィンさんキャラおかしいし)
私が必死に笑いを堪えていると、リズムがとうに崩れた二人の息はバラバラで、ついには躓いて転んでしまった。
「もー! めるるんのばかっ!」
「あっ、す、すみませっ、んっ……」
「だ、大丈夫!?」
「うん、チーちゃんありがとー。めるるんいつもこうだから慣れちゃった」
何食わぬ顔のメグ。
しかし目の前に広がる光景がかなりヤバいのだが私はどうすれば良いのだろう。
メルヴィンの上に跨っているメグは「ばかばか!」と可愛らしいグーパンチでぽかぽかメルヴィンの胸を殴っている。
そもそも男性の上に跨っている時点でヤバいのだが、メルヴィンもメルヴィンで「あっ、そんなっ、めぐさっ、だめ、です! 人を殴ってはっ……! あぅっ!」と訳の分からない喘ぎ声を出しているではないか。
(は? 何なの? 何やってんの?? これは直視していいやつなのかな? モザイクかけた方がいい?? つか喘ぎ方)
暫く眺めて考えたのだが、きっとこれは“イベント”に違いない。この世界を乙女ゲームに例えるならだけど、でもきっとそうに違いない。
(てかそうじゃないと現実でこんなラッキースケベみたいな人居ないでしょ〜)
と言いつつ、目の前の世界も私も皆もちゃんと生きているのだけど。
「はぅっ、ち、ちさと様もっ、見てないでっ! なんとかしてくだ、あっ……!」
めちゃくちゃに耐えた顔で救いの手を求めるメルヴィン。ただ女性が上に乗っているだけなのだが。
(たぶん、この人……童貞なんだろうな……。つか自分で動けよ。あれ、今の言葉はモザイクが必要かもしれない)
全く、と溜息をつき「免疫無さ過ぎです」とすこし意地悪を言って、メグを抱き締め持ち上げる私だった。




