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【本編完結】愛だの恋だの面倒だって言ってたじゃないですか!  作者: ぱっつんぱつお


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公爵の憂鬱【独りの食事】


 彼女はカイやメイド達と昼食をとるようだ。


 神官のグレンと屋台のサンドを美味しそうに食べていた彼女を思い出す。

 彼女は元々あんな表情で食事をする人間だったのだろうか。

 メイド長や執事の話によれば、公爵家ではただ黙々と食事しているらしい。

 本来ならば話し相手である私が居ないので仕方ないのだが、城では騎士や使用人達と楽しそうに話しているのに、公爵家ではそうしない。

 最近では王城勤めのメイド仕事を手伝っているようで、親しみやすく立場も気にせず話し掛けてくれる、と彼女の評判はとても良い。困らせてばかりのメグとは正反対だ。


 屋敷と此処では一体何が違うのだろう。

 公爵家の使用人達もかなり優秀であるから、仕事ぶりに関して不満は無いはずだ。

 彼女の中で何か線引きをしているのだろうか。

 いくら婚約者と言えどそれを話してくれる間柄でも無し、キッカケもなく公爵家で食事を共にするというのも不自然であるから、今回はいい機会だと思ったのだが……、少し残念に思う。


 何故、残念だと思うのだろう。

 正直に、堂々と食事に誘えば良い話なのだが、本人を目の前にするとなかなか言い出せない。

 よく考えてみれば私と食事をして楽しいのだろうか。久しく誰かと食事なんてしていない。

 たまにメグが逃げ込んできて勝手に人のものををつまむのだが、そんなとき、私は少しだけ楽しいと感じる。たまには誰かと食事するのも大事なのかもな。

 ただそれを今更変えるのも可笑しな話だ。


 そんな事を考えながら、結局今日も独りで食事をしている。

 資料に目を通し、料理を口に運んでいれば、コンコン、とドアをノックする音。

 こんな時間に一体誰だ。

 今は殆どの人間が休憩中。私の執務室を尋ねる者は居ない。

 大体食事の邪魔をするのは、魔物が出て緊急事態だという悪い知らせだ。メグはノックもせず「ブルちゃん居るー??」と質問と同時に入室してくるのでメグでないことは確か。

 悪い知らせでない事を祈って、ドアを開けると、そこには神官のグレンが居た。


「すみません公爵様。お食事の邪魔をしてしまって」

「それは良いのだが……、一体どうした。お前がこんな所へ来るなんて珍しいな」

「千聖さんに用があって……」


 私には目もくれず彼女の姿を探すグレン。

 出勤してから帰るまで滅多に神殿から出ないグレンが、わざわざここまで来るとは珍しい。

 それ程重要な事なのか。


 一体何の用なのだと聞けば、「研究してたものができたので」と目を細め言う。

 何を研究していたのか知らないが、そういう事情ならグレンがここまで来てもおかしくは無いだろう。

 研究の事となると豹変する男だ。


「昨日完成したので、千聖さんが来るのを楽しみに待ってたんですけど……、来ないって聞いて来ちゃいました」

「残念だが、彼女はここには居ない」

「えっ、でもまだ昼休憩中ですよ? 一緒に食事していらっしゃるんじゃ……」

「いいや。私はいつも一人だ。それはお前も知っているだろう」

「そうですけど……、いや、はい、そうなんですか、一緒に居ないんですね。それは残念です……」


 此処に居ないと分かり、残念そうに眉を下げるが、瞳の奥は笑っているようだった。

 私はこの男を恐いと思う。

 己が神官になりたいが故、もう子を孕む気が無かった両親に歳の離れた弟を作らせた。

 長年一人っ子だったグレンだが、弟が出来たお陰で侯爵家を継がなくてすむようになったのだ。

 孕んだ子が男だったから良かったものの、これが女だったならと考えると恐ろしい。きっと彼は弟が出来るまで母に子を生ませただろう。


 グレンはしたたかな男だ。

 ミハエルは自然体で可愛いと言われるが、グレンという男は可愛いを全て計算しているように思う。

 研究に関しては心底夢中だが、その他の人間にはあまり関心がなさそうだ。

 ただ、自分が動きやすいように、演じている。


 本当に恐ろしい男だ。

 表情も、仕草も、可愛がられるよう完璧に演じる。

 ただ、最近、私の婚約者となった彼女が神殿へ通うようになり、グレンが今までと少し変わった。

 以前屋台が来ていた時、彼女と初めて会った時、今だってそうだ。

 普段グレンは、可愛がられるよう演じているだけで、研究以外で自分から何かを誘うようなタイプではなかった筈だ。


 彼の中で何かが変わったのか。彼女と出会った事で。

 メグが強制的に干渉してくるのに対し、彼女はいつの間にか誰かに干渉している。

 心の隙間に入り込んでいくように。溶け込み、居ることが当たり前のように。

 そうなれば危険だ。誰かに盗られまいと閉じ込めたくなったり、いつか離れなければならない時、彼女を欲してしまうだろう。

 グレンはもう、そうなっているのかもしれない。


 私が彼女と一緒に居ないと分かれば残念だと口では言うものの、瞳の奥では笑っている。まるで己が勝利したと言わんばかりに。

 挑戦的な瞳だ。その瞳を、私はどう受け止めれば良いのか。


「…………今日は、護衛騎士のカイやメイド達と昼食を共にすると言っていたから、恐らく使用人の休憩所に居る筈だが」

「そうなんですね! 千聖さんったら色んな人に好かれるから嫉妬しちゃうなぁ。僕だって独り占めしたいのに」


 にこりと、誰もが可愛いと思う笑顔。

 まるで弟が姉に嫉妬しているような言葉。

 その笑顔が、言葉が、恐ろしくて堪らない。


「公爵様! 教えて下さってありがとうございます! じゃ、僕、千聖さんのとこに行きますね」

「………………あぁ」


 目を細め、笑うグレンに、私はまた恐怖を感じたのだった。

 就業時間まであとたったの4時間ほどだ。芯の強い彼女だから間違った行いはしないだろう。

 そう考えて、私はまた独りで食事をする。


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