身を守るためならば
「アニーさん! お久し振りです!」
「千聖様! 以前お会いした時より顔色が良くなりましたね。お元気そうで何よりです!」
にこりと懐かしい笑顔。
カイと同じく両隣にはメイド仲間の女性達が居て、「初めまして」とそれぞれ挨拶をした。
アニーは「彼から聞いたかとは思うのですが私達……」と初々しくカイと見つめ合う。見ているこちらが恥ずかしい。周りもにこやかに祝福して幸せそうだ。
きっとこれが正解なんだろうな。
カイよりも薄いブラウンの髪や、ふたりの纏う雰囲気が、とてもお似合いだ。私とハント公爵が並んでいる姿とはたぶん大違いだと思う。
(そもそも惹かれ合って付き合った訳じゃないのだから当たり前か)
そして使用人の食事場であろう場所に案内され、「本来ならば千聖様にお出しする品じゃないのですが」と所謂賄い料理がテーブルに並べられる。
さすが普段給仕するメイド達、手際が良い。
「千聖様は特別扱いなど望んでいないでしょう?」
優しく微笑むアニーとカイは、私の事をちゃんとわかっている。本当の意味で生きてきた世界が違うから、そうした方が良いと気を遣ってくれているのだろう。
未だに彼らを『さん付け』している事にも特に訂正しないし、逆に『様付け』されていても気にならない。
一緒に過ごしているのが楽だ。
結構仲良くなれてる気がするので私は呼び捨てでも構わないのだけど、彼らの仕事上難しいだろう。
でも、それでも、友達一歩手前ぐらいまでは進んだのではないだろうか。
なんの定義で“友達”というのかは人それぞれだが、少なくとも私はそう感じる。
(いやそういう間柄になれる立場じゃないのは分かっているんだけどさ……!)
そして始まった合コンだが、なんと休憩時間は二時間もあるのでホントに居酒屋と同じ感覚なのだ。城で働く中にはもちろん貴族もいるので、平等に一律2時間という長い休憩らしい。
使用人はシフト制で休憩入り時間も変わるが、それでも2時間あればかなりゆっくりできる。というか多分そんなに休憩あったら暇だと思う。
時給制ならばこんなに長い休憩など要らないが、この城のみならず国全体の風潮が、基本給+能力給、それに役職手当という実力至上主義。羨ましい程素晴らしい制度。さすが輸入に頼らない自給自足の国。
能力給がちゃんと能力で判断されているところがあの王様らしい国だなと思う。私なら絶対たくさん能力給出ると思うのだが。
(自分で言うのもなんだけど結構気ぃ利くよ!? 実力至上主義、わりと向いてると思うんだけどなぁ!)
さて、この昼食もそろそろお開きの時を迎える。
知らない同士ではないので会話も滞りなく回り、流石にカップル誕生とまではいかなかったが出会いの場としては成功だったろう。
一組いい感じの雰囲気になっていたので順調にいけば付き合うと思う。ということで何故か次回も呼ばれる羽目になった。
(楽しかったから良いけど、もしや私まじの恋のキューピッドくせぇ……)
そして話の流れで城下町にはアニーも同行する事となった。
カップルに挟まれるのは何とも居た堪れないが、朝市に慣れた人が居れば安心できるしカップルの二人は人に仕えるのが仕事だ。放ったらかしでいちゃついたりとかは流石にしないだろう。
今日の午後も特に予定は決まっていないが、どうせ誰かに付いてもらわねばならないし、取り敢えず着替えようかと向かう方向が同じであるカイ達と練習場まで戻ってきた。
午前とは違い、黒い制服の護衛騎士たちがウォーミングアップなのか身体を動かしている。
さすが対人騎士。
剣など武器を主に使う騎士団とは違い、武術がメインのようだ。体格も護衛騎士達の方が大きい。
(ハント公爵もミハエルもスマートだけど、カイさん達は結構ムキムキだもんな)
「わぁ〜〜、懐かしいなぁ……私もずっと武術を習っていたんですよ〜」
昔を思い出し、懐かしくてなんとなく呟いたのだが、カイ達は「まさか! 千聖様がですかぁ?」と疑いの目。
失礼な。私はこんな事で嘘はつかない。父に薦められ、ちゃんと小学校の頃からテコンドーを習っていたのだ。
(今思えば大人の付き合いだったんだろうけど、とにかく家に居たくなくて二つ返事だったっけ)
それこそ試合なんて小学生以来していないし、高校に入ってからはアルバイトをしたくて週2で通うぐらいだった。
痣も誤魔化せるし身体を動かすのも好きだったので、大学に入ってからも続けていたが、全く発揮されずに死んだ。
(今思えば悔しいけどナイフ持って強姦してる男3人に蹴り入れるとかふつう無理でしょう。とりあえず傘で距離取らなきゃって判断したのは頭良かったと思うんだけど。てかそもそもそれ想定して習ってないしー)
「疑ってますね!? これでも平均より身長高かったので脚技は舞っているみたいだって褒められたんですからぁ!」
いくら訴えても「え〜〜?」と信じてくれそうにない。
そりゃあ女性の護衛騎士と比べれば体格が全然違うので信じ難いだろうが、事実は事実だ。
「カイさん。そこまで言うなら頭に一発蹴り入れるので避けてくださいね、もちろん避けれますよね?」
「え、そ、そりゃあ私だって騎士ですから!」
私が構えると、カイも「じゃあ一応……」てな感じで構える。
少し距離をとって見ている二人も「千聖様やっちゃえ〜」なんて、全然応援する気がない。
(このやろう。お姉ちゃん格好良い! とロリっ子に言われた回し蹴りを食らいやがれ!)
「いきます!」
セイ──! と結構本気でやったのだが当たらず。
やはり本職の人間には勝てなかった。
けれど「お、思った以上でした……」と信じてもらえたらしい。しっかり避けたくせに驚いているのがムカつく。
「ちぇっ、避けられちゃいました」
「いや、十分ですよ……驚きました」
「正直疑ってましたから、あはは」
「私達とは少し違いますね、東方の武術ですか?」
「え、そうです。東方、です」
この世界でも東洋・西洋がある事は知っていたのだが、武術の発祥まで似通っているのは驚きだ。
(異世界好きの先輩によればナーロッパとか言われてるらしいけど、私の世界でヨーロッパ系の人が転生したら東方に行くのだろうか……。私もいつか行ってみたいけど滅茶苦茶遠そう……)
「カイさん。つかぬ事をお伺いしますが……型を習っていただけに等しい私でも自分の身を守れるようになるんでしょうか?」
「なりますよ! 土台はありますから!」
「ほんとですか? もう死にたくないのでちゃんと護身用として昇華させたいんです」
「私達がいつでもお付き合いしますよ!」
「是非! お願い致しますっ!」
公爵家の方に武術を教えてくれる人を探してもらっていたのだが、自分で見つけてしまった。しかもこんなにも近くに居るではないか。護衛騎士が武術を得意としている騎士ならばそう教えてくれれば良かったのに。
いずれ公爵夫人となる女性にはそんなもの相応しくないと思われていたのは確かだから、本当に探してくれていたのかさえ疑わしい。
(やっぱ自分で動いたほうが早いな……)と、改めて感じたのだった。




