お前もか、
「うーん、まずはお前の名前からだな、何が良いかな〜」
練習場へ向かいながら、うきうきして名前を考える。
この子はどうやら男の子らしい。脚もしっかりしているし体力もありそうだ。
淑女の嗜み教育である程度扱い方は習ったが、一頭の馬に付きっきりになるのは初めてだ。
どんな性格の子だろう、仲良くなれるかな、相性は良いかなと、兎に角心が踊って仕方ないが、正直な気持ち元の世界でなかなか馬は飼えないから、実感はあまり沸いていない。
馬を引くハント公爵は、「変な名前は付けるなよ」と私の顔も見ず言うのだが、ハント公爵だけには言われたくないし、そもそも今まで動物に変な名前など付けたことなど無い。
公爵はさておき、ここはやはり長年憧れていた『ブルズアイ』と名付けるべきか。
いや。でもなんだかちょっと違う。
確かに牛っぽい柄だからブルズアイでもいいのだけど、もうちょっとすぱっと呼べて、けれどずしっと重みのある名前が良い。響きはいい感じだが、もう少し……(ブル、ブ……ぶー、ぶるー……)
「ブルータス!! うん、ブルータスだ! お前の名前はブルータスだ!!」
空から降ってきたようにピンときて、この名前以外にはあり得ないぐらい自分ではしっくりだ。
しかしハント公爵は険しい目つきで睨んでくる。
「な、なに……? ブルータス? 本気で言っているのか?」
「え? 駄目ですか? 格好良いじゃないですか。ブルータス。響きがいいですよね。ブルータス」
「何度も言わなくて良い…………はぁ、いい、お前の馬だ、好きに呼べ……」
「ブルータス、お前の名前はブルータスだぞ。格好いいなブルータス」
流石にまだ反応は無いが、これから沢山呼んで覚えてもらえばいい。そう思いながらブルータスの背中に触れて歩く。
ぶち柄に面白い形はないかと眺めているけど、つい公爵の「お前の髪色に合う」という言葉を思い出してしまう。
こんな特に特徴もない容姿をよく覚えられたものだ。
自分には、メグのように個性がない。
髪だってミディアムでたまにセットするぐらいで染めてもいないし、光に当たると茶色いなと感じるぐらいだ。
顔の造りは自分で言うのも何だが不細工ではないし整ってはいると思う、けど特別可愛いとも、特別美人だとも言えない。
メイクもブラウンばかりで遊ばない。服もジーンズにスウェットやTシャツなどラフなものが好みだし、それでも身長は他の女性より高いから格好はつくからそれでいい。
本当に自分で言うのも何だが、見た目にキャラクターが無い。
恐らく“モブ”ってこういう感じの人をいうのだろう。ヒロインなメグとは大違いだ。
(そう思うと…………)
私はハント公爵の隣に並んで歩くことが本当に正しいのだろうか。
美しい銀の髪。宵の空を閉じ込めた瞳。誰もが憧れる権力と地位。
たとえ私がこの世界でいくら珍しい異世界人だとしても、向こうの世界で私は普通の人だ。実は私が三ヶ国語喋れたり、家庭状況が普通とは言えなくても、道を歩いていれば誰も気に留めないだろう。
私は、“モブ”と呼ばれてもおかしくない平々凡々な人間だ。
騒がしい男衆の声が次第に聞こえだし、「着いたぞ」と公爵がひとこと。
(こんな目立たない人が婚約者になって……、ほんと申し訳ない)
「他の騎士たちも居るから邪魔にならないように。此処から内側に居ろ」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
「それと、白衣を泥だらけにしては怒られるから女性騎士の服を用意した。まずあちらで着替えてくれ」
「わー! 久々のパンツですか! 嬉しい! スカートは嫌いです、ドレス重いし」
「ふん、淑女がいう言葉ではないぞ」
「あらごめん遊ばせ」
全く、とでも言っているような顔。
目付きは鋭いけれど、少しだけ読み取れるようになった。
練習場をざっと見る限り、女性騎士は7人程。比べて男性騎士は何十人居るのか数えられない。体力的にみても女性では結構きつい仕事だろう。男性と共に鍛錬している女性騎士は本当に尊敬する。
そのままハント公爵は騎士団と合流していった。
「さて、取り敢えずお着替えか。ちょっと待っててねブルータス」




