罪な生きもの
「無事辿り着きました……」
「あはは、また心労かけちゃいましたね」
「本当ですよ千聖さん! 勘弁して下さい……!」
城に着き、馬小屋にミハエルノウマを入れながらミハエルはほっと一安心。
私もミハエルノウマに感謝の気持を込めて撫でくり回しといた。主人に似て懐っこい性格の馬だ。
「ミハエルさん。こう言っちゃあ何ですけど、魔物に舐められてません?」
「ええっ!? それはどういう意味ですか!!」
「そのままの意味です。残念ながら」
「はい!?」
アヌビスや、アヌビス母が出てくるときは決まってミハエルと一緒に居るときなのだ。
それにアヌビスだけでは無く、他の魔物だってミハエルの送迎時だと遭遇する確率が高い。兎型や鹿型、鷲型なんかも殆どミハエルとしか目撃していないし、犬型なんか騎士団長であるハント公爵と居るときは絶対に出てこない。
ミハエルは犬であるから恐らく仲間だと思われているのだろう。
(それが本当だったらめちゃくちゃ羨ましいけど)
「そんなぁ! 遭遇率高いの私のせいだったんですか!」
騎士団は月イチで大規模な魔物駆除があるらしく、ミハエルは「先に偵察してこい」と大体人柱にされるらしい。という事は私はいま余計なことを言ってしまったのだろうか。知らない方が良いことだったに違いない。
「いいじゃないですか、公爵様と居ると出てこないんですもん。わたし的にはつまんないです」
「そりゃあ団長のオーラには敵わないですよ~。私だって一人で公爵家に行く時は猛スピードで突っ走ってますから」
ミハエルノウマはスピードでは誰にも負けませんよ!と己の自慢でなく馬の自慢をするのだからミハエルはいい奴だ。
そろそろ神殿へ向かおうかと歩きだすと、ハント公爵の馬であるサンゴウの隣に、見たことない馬がいる。
「あれ! 新入りですか!? ぶち柄可愛いですね! 誰の馬ですか!?」
「わ、本当ですね、誰の馬だろう……。新人が入ったなんて聞いてないですけど……」
茶色の駁栗毛が他の馬と並んでいると個性があって私好みの可愛い馬だ。顔つきも優しい。キリリとしたサンゴウの隣に並んでいるから余計そう見えるのかも。
匂いを覚えさせようと手を出してみると、怖がらず近付いてくる。
「う~わ~~、かーわーいーいー!」
「なんか……千聖さんて動物相手だと性格変わりますよねぇ」
「そりゃあ変わるでしょう。だってこんなに可愛いんですもん、ねー?」
新入りの馬と仲良くなろうと手を嗅がせていれば、「見つけるのが早いな」と後ろからハント公爵の声。
「わぁっ! 団長ぉ~、驚かさないで下さいよ~」
「公爵様、おはよう御座います」
また足音も無く背後に居るので、ミハエルはまんまと驚いた。
その様子に、背中を無防備にしすぎだと怒られているが、ハント公爵の言う通りである。
「この子何方の馬ですか?」
「お前のだ」
(お前の? え? 誰の?)と思考が一瞬止まる。
お前のだよと公爵の瞳が言うので、「え? 私の??」と聞き返すと、こくんと頷く。
「え! 私の!? この子わたしの馬ですか!!」
「そうだ。昨日村へ行って連れてきた。これでお前も誰かに乗せてもらわずともよくなるだろう」
「うわぁ! 嬉しい! 本当に嬉しいです! ありがとうございます!!」
「珍しい白黒の牛柄も居たのだが、お前の髪色に合うと思ってこいつにした」
まさかそんな所まで考えてくれたんですかと驚いたが、ある程度女性に慣れた男性ならそういう選び方もするだろう。
でもちゃんと選んでくれたんだと思うと、本当に嬉しい。
オスなのか、メスなのか、名前は何にしようかと考えてうきうきしてしまい、「うーっわ。もう公爵様大好きー。有難うございまーす」なんて友達に言うノリで言ってしまった。
貴族って恐らくこんなノリで好きだなんてそう言わない。動物って私の気を狂わすから罪な生き物だよね。
(やっべぇこと口走ったな。でもま、ほら……婚約者だし??)
「名前何にしよう!」
取り敢えずスルーして誤魔化した。
きっと聞き逃してくれていることだろう。ハント公爵の顔は見ないでおく。
「今日はこいつと関係を築けるよう練習場の一部を借りた。神殿にも話は通してある」
「うわ。何から何まで……、あれ、ミハエルさんは?」
「さぁ? また逃げたんだろ」
「そうですか。逃げ足早いですね」
ハント公爵は慣れた手付きで小屋から馬を出し、「ついて来い」と練習場までふたり歩き出したのだ。




