権力行使
ミハエルと別れてからのこと──。
「アニー、なんかハント公爵様がお呼びなんだけど……」
「っえ!? わ、私を!? だ、誰が呼んでるって……?」
「ハント公爵様よッ……! 早く行ってよ……! あそこに立たれちゃ洗濯物が干せないわ……!」
「そ、そんな、なんでわたしっ……!」
洗濯場の入り口に腕組みしてもたれ掛かる公爵の恐ろしさったら。
陛下の甥で公爵という地位。そして騎士団・団長で更にあの顔だ。クールな感じもキュンとしたりするのだろう。
貴族の令嬢ならば、そりゃあ相手には申し分無いぐらいに素晴らしい方だと思う。
しかし使用人達から見たら印象は全く違う。血も涙もない、ましてや本人が魔物だなんて噂もされるぐらい冷酷無慈悲な公爵。そんな主になんて仕えたくもない。
(アニーさん相当恐かっただろうな……)
それについてはごめんなさいとしか言えないが、事情を説明され私の姿を瞳に捉えるとパッと笑顔が咲いた。アニーのスマイル0円はいつだって素晴らしい。
しかも直ぐに「どうしたっていうんですかそのドレス! そのドレスの色ですよ! 顔色が悪く見えます!」と的確な気付きはさすが城に仕えるメイド。
アニーが居るだけでなんだか凄く安心してしまうのはそれだけ気を張っていたということか。
それから手際良くお召し替えされ、無事に陛下に謁見中なのだが。
「して千聖殿。何故私に申す必要が? ブルーはこの事を知っているのかね」
「いえっ、私からは何も報告していないので……。申し訳御座いません、公爵様のお仕事を増やしてはいけないと思い私が勝手に、陛下に直接、と判断してしまいました……」
「いや、それについては良いのだ。そなたが望むのなら騎士の一人でも二人でも連れて行くがいい」
「ありがとうございます! では私は、」
これにて失礼、と言いたかったのだが、私の言いたいことをまるで分かっていたように「そなたがブルーと婚約して2週間が過ぎたな」と、違う話にすり替えられた。
なんとなく、陛下の仰りたいことが分かる気がする。
「え、はい……そうですね」
「千聖殿、つかぬことを聞くが、ブルーとは普段どんな話を?」
やはり気になるのはそこか。しかし良い機会、此方も言ってやりたいことが沢山ある。
城に来る道中ミハエルに、この国で私の地位はどれぐらいですかと聞いたのだが、返ってきた答えは「うーーん、明確に決まっている訳ではないですが……大体王女や王子と同じだと考えて頂いて結構かと……」だ。
(つまりはハント公爵より地位が上ということでおっけ?)
とするといくら部外者でただの婚約者だとしても、もっと私の意見が通っても良い筈なのだ。
なのにあの公爵家の使用人達ったら融通なんて微塵もきかなくて、「この世界の文化の基本から教えてやれ」という公爵の指示を忠実に守っている。己の主であるから指示通りに動くのは当たり前なのだが。
(くそう。私の意見もちょっとは聞いてくれよ。で? なんだっけ? 公爵様と普段どんな話をするのか、だって? いいでしょう。正直に答えてやりましょう)
「話し……というより、挨拶を交わす程度ですかね?」
「なに!? 挨拶だけ!? そなたとはもう歴とした婚約者であろう!?」
「婚約者と言われましても……何を話せば良いのか……」
「そなたは良いのだ! 右も左も分からぬ世界なのだからそれは当然の事! だがもっとこう……なんかあるだろう……!?」
「いやぁ……、そもそも日に一度顔を合わせることがあるかないか……」
「んなぁあんだとぉお!? ブルー! ブルーを直ちに此処へ呼べぇ……!! 話がある!!」
おや。思ったより大変な騒ぎになった気がする。
まぁいつかはそうなる運命だったのだ。何かを変えたければ自分が動かねば変わらない。私はただもふもふと平和が欲しいだけのに、それ以前の聞く耳がないのだから。
ハント公爵は因果応報というやつだ。
(私も因果応報気を付けよう……清く正しく美しく生きよう……)
「陛下……、一体私に何の用ですか……」
「ブルー!! お前は自分の婚約者としっかり意思疎通出来ているのか!」
「…………はい?」
働かなくたって生きていける今の幸せは本当に有り難いです。ですがハント公爵、私が望むのは平和な日常ともふもふ。
あんな世界でも進む道は自分で選べました。しかし今現在、私の意見は微塵も通りません。だから自分の望むものの為に、少々動かせてもらいます。
折角持った権力で──。




