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泡の中で。

 

『ゴン! ご飯だよ、お手っ! おっ前はぶちゃかわいいなぁもう!』

『……? ゴン……? やだ! ゴン!? ねぇちゃんと息して!!?』


(なに……これ……夢……?)


『ただいま。うん、バイト。お父さん……今日はお酒飲んでないんだね』

『あ……お母さんが、週末もしかしたら帰ってくるかもって言ってた』


(違う……夢じゃない……私の記憶だ……。え。なに、まさか走馬灯……?)


『先生、いや、あの、ここ学校なんで……え、内定……?』

『は? 私別に身体使ってないし。っ、それはそうかもだけど……!』


(つーかなんでこんな記憶ばっかり……)


『悠真……ごめん……いっかい友達に戻ってほしい……』

『嫌いになったとかじゃなくて、……ちょっと疲れたんだ』


(てか何故こんなに脇腹が痛い……?)


 「や……た、たすけ……!」

 「あ゙? なに? お前もヤられてーの??」


(あ……そっか……女子高生が強姦されてて……それで、わたし刺されて……)



「お巡りさん……!! あっ、あの人が私を……!」

「オイ君……! 大丈夫か!? 救急車は!?」

「っま、まだ……!」


 ぼんやりと霞んでゆく視界の中──、辺りは眩い光がふわふわと浮いて、まるで泡が消えるように、身体が水の中に沈んでいくように、私はゆっくりと目を閉じたのだった。


(ちょ、は? 意味分かんない。待って。わたし……死ぬの……?)









 長い長い微睡みの後、いや、長いと思っているだけで実際には然程時間は経ってないのかもしれない。

 はた、と目を醒ますと、其処は森の中だった。

(え……、どういう状況……??)


 ──「なっ、何が起こったんだ……!? 君は……!?」

「えっ!?」


 ただでさえ混乱しているのに、男性が驚いて声を上げるから余計に驚いた。

 軍人なのか、アースカラーの制服を纏った人達。慌てた様子で何か言っているのだが、人はあまりにも驚くと言葉が出てこないらしい。


 私は、生暖かい血液を確かめるように、腹部に手を当てた。

 痛むのだ。

 刺された瞬間はアドレナリンが出ていたのか痛みはなかった。警察が強姦していた男達を捕まえるのを霞む視界の中で、やっとズキズキと痛みだした。


 着ていたネルシャツは確かにナイフで刺されたように穴が開いている。

 恐る恐る(まく)って確認すると、刺された痕が残っていた。けど、もうずっと前に治ったみたいな、そんな傷跡だった。

 まさかと思って父に強く掴まれた腕を見たが、その痣はそのままだった。致命傷だった傷だけが塞がったのだろうか。


 時刻は昼らしい。

 何故なら軍人らしき彼等が食事をしている最中のようだから。鍋や器なんかが広げられている。

 ふと上を見上げれば突き抜ける空の青さと、森の中の開けた此の場所を吹き抜ける風。

 心地良いなと、感じた。コンクリートのジャングルには無い香り。


「団長……!! 異世界人です……!!」


(異世界人……?)

 その言葉を聞いて、ああそうかと思った。

 近頃の疲れた現代人が行きたがる、あの(・・)異世界か。

(は? 異世界来ちゃったとかウケるんですけど……)


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