第十四話 一歩を踏み出す
196日目。
現在は春、俺は訓練場で体力の限界を超えてギルド長と模擬戦をしている、これに勝てば魔大陸に入れるように手配をしてくれると約束している。
「どうしたっ!!こんなもんか!!」
傍から見たら既に勝負は着いたかのように見えるが終わっていない、なぜなら俺がまだ立っているからだ。
高速で傷が回復しているが常に風の魔法によってギルド長のに近寄れば全身を切り刻まれる、その上地の魔法により攻撃してくる為隙は一切無い。
しかひ半年にも満たないがギルド長直々に修行を付けてもらい【魔闘】の運用方法も習った、時にはカツジンに剣の稽古をつけてもらいながらハイオーガやマジックウルフを討伐したりした。
だが届かない、まだギルド長やカツジンには届かない。
しかし俺は対抗手段を手に入れた、それは【吸収】と【変換】
別にもあるがこの後わかることなので説明はない。
【吸収】は魔力、闘力、衝撃を吸収する。
これだけ聞けば最強だと思うが【吸収】だけだと自分の肉体の限界を超えるのは【吸収】出来ないように魂レベルで不可能になっている。
肉体の限界は腕が斬られるレベルの攻撃で肉体の限界を迎えてしまう、そこで登場するのは【変換】だ。
【変換】はその名の通り変換する能力だ、例えば肉体の限界まで【吸収】で溜まったエネルギーを闘力に変換するとしよう、一応闘力もエネルギーという枠に入るため八割も減るが【変換】出来るのだ。
一つ欠点があり、それは俺の【魔闘】が触れている事だ。
これでは使えないと思うが剣の表面に【魔闘】を流し、剣を介して【吸収】、【変換】を使えば肉体より遥かに多いエネルギーを蓄えられる、剣を介すせいか【変換】の過程で約一割になるが逆にちょうどいい、五割とかで変換されれば魔力とかが溢れてしまい、魔力酔いとかになるからな。
もちろんエネルギーの【変換】速度は一瞬もかからない、コンマ0.1秒とかのレベルだ。
「まだ…だっ!!俺は必ず魔大陸に行くんだっ!!」
構えを取り俺は吠える、強者に向かって。
「ならば私を倒して見せろっ!!クロトオォォッ!!!」
地面がぐらつき、そこから現れたのは数え切れないほどの先端が石になっている土槍、それが一斉に俺に向かってくる。
「ウオオッォォォォォォォォォォッッ!!!」
獲物は聖魔剣、それで【吸収】し、【変換】して叩き落として近づいていく。
とっくの前に【領域】に入っており少しでも判断を間違えば全身を土槍で突かれ、死んでいるだろう。
しかし俺の心には恐怖はない、あるのは勝つこととエイレーンの事のみ、ほかは全て無視している。
ギルド長が展開している魔法、刃陣風の領域に入る、全身に痛みが走るが関係ない、治っていくのだから。
刃陣風内でもお構いなく土槍は迫る、それを変わらず落としていく。
目を開けれないほどの暴風の中で俺は息を止め、ひたすらギルド長…いやセージに向かってひたすら進む。
周りを把握している方法は【空間知覚】をしているからだ。
原理は蜘蛛の巣状に【魔闘】を空中に流し、張った状態で魔力、闘力を内包する攻撃か生物が入れば魔力、闘力とどんな物かを完璧に分かる。
魔法も糸みたいに魔法陣と繋がっていて遠くに魔法陣を作れるほど優秀な魔法使いを判別する一つの方法だ。
ここまでは何度もたどり着いた、しかし土塊の弾丸が俺を吹き飛ばそうと迫る。
「ガアァァ【分解】ぃぃっっ!!」
「なっ!?」
俺は何度も試していた【魔闘】による魔法術式を乱すことに成功し、魔力による結合を解かれ、ただの土塊になった魔法を真っ二つに斬る。
その隙間から土塊を弾き飛ばしながら俺は一切の速度を緩めずに突っ込み、セージに迫る。
「甘い」
その瞬間の一瞬全ての攻撃が止まり、今の状態でも矢のような速さの鉄の弾丸が風を纏い、迫る。
まずい、受け流すか?ダメだ間に合わない、【分解】で魔法を消すか、しかし残った鉄の弾丸は当たりどころをずらすしかないか。
少しでも当たりどころをずらし、なんとか心臓を貫かれるのを防止する。
「ゴフッ…!」
しかし止まらない、このチャンスを逃せば次は無いと思って。
セージに近づくにつれ、全方位からの攻撃に変わっていく、俺は乱舞を踊るかのようにかわし、弾き、切り落とす。
また一瞬攻撃が止む、そしてあの攻撃が迫る。
次は頭を狙った弾丸が走り、激しい音を立てて右耳を穿ちながら飛んでゆく。
そしてまた一歩と近づく、既にセージとの距離はあと半歩で剣が届く。
「次で最後にするぞ」
その言葉を皮切りに全ての魔法が無くなり刃陣風により動けなかったセージは一気に後ろに下がり、手を突き出しながらある魔法名を唱える。
『風刃砲』
別名ウィンドノヴァ、前方に絶大なる破壊力を持った風属性の魔法だ。
俺は咄嗟に剣を盾にし、【吸収】して【変換】で耐える。
「ぐっ…おぉおおぉぉぉぉッッ!!!」
俺の【魔闘】の量は一秒にも満たずに溢れ反射的に外に逃がして吸収しきれない力に耐える。
しかしただ呆然と耐えているだけでは勝てない、少しづつ前へと出る。
圧倒的な魔法の前に声を出さずに思う。
俺は…!俺はここで躓くようじゃエイレーンと再開するなんて夢のまた夢だ!動くんだっ!!近づけッッ!
俺は全ての【魔闘】を消費するような勢いで身体強化をする、しかしすぐさま補給される為無くならない。
俺は止まらない、必ずその首に刃を突きつけるために。
そしてついにその時が来る、俺は『風刃砲』を抜け、セージに刃を突きつける。
「俺の…勝ちだ…ッ!!」
静かにセージは笑い一言言う。
「合格だ、お前の勝ちだ」
それを聞いた途端倒れ込み、意識が薄くなっていく。
「は…ははっ…やったぞ…エイレーン…」
それを最後にしばらくの睡眠に身を委ねる。
次に目を覚ました時は規則正しい揺れに揺られながら起きた。
「っ!…ここは…?」
「起きたか、今はセレス都市に向かっている」
その声は紛れもなくギルド長の声だった。
ギルド長が言った都市は魔大陸を繋ぐ船が出ている都市のことだ。
「どうして馬車に揺られていてなぜギルド長がいる?」
「起きるまで待つと間に合わなくなる可能性が高いからそのまま馬車に乗せただけだ、いる理由は本来は魔力か闘力のどちらかが50超えないとダメなんだがお前はまだそこまで行ってないだろう?オレもセレスに来るように言われただけだ」
結構ギリギリだったんだな。
「何日間寝てた?」
「4日間だな」
ちっ…4日間無駄にしたな。
「ギルド長、ここまで鍛えてくれてありがとうな、おかげでついに魔大陸に入れるかもしれない」
ハイオーガを倒した帰り、ギルド長に呼び出され、修行をつけてもらえることになったのだ。
その後体外【魔闘】操作を修行し、現在では二メートル範囲ならば自由に動かせれる。
ギルド長に教えてもらうおうかと思ってたがいざやってみると魔力操作と【魔闘】操作は全くの別物だった。
魔力は自分の魔力を空気中の魔力と反応させて繋げていくのだが【魔闘】はいかにして空気中の魔力と闘力と混ぜないかが鍵になっていた。
そのため自力で検証し、実験してやっと判明した。
あぁ、それとこの【魔闘】についても分かっていることを教えてもらった。
この力は【御業】と呼ばれている力の源でその【御業】は持っている者と持っていない者とでは勝負にはなるが圧倒的だと言う。
そしてどんな【御業】があるのかが乗っている本を見せてもらい、俺の少ない【魔闘】量でも使えるように効果がだいぶ下がったが正しく【魔闘】を操作出来ればどんな技も模倣…いや作れるためこのまま身体能力、魔力、闘力の量が増えれば最強になっている可能性が高いな。
「さてと、このペースならばあと6日ほどで着く、それまで好きにしててくれ」
あぁ、そうだ。
「いつか本気のギルド長と戦ってみたい」
「…そうだな、お前があと二倍ほど強くなれば勝負にはなるだろうな」
ギルド長は試験の時は本気を出していなかった、あれでまだ六、七割程度だと言う。
「約束だ、いつかこっちに戻ってきた時は戦って欲しい」
「…いいだろう、生きて帰れればな」
ギルド長は少し笑い、外に目を向ける。
馬車の外は夕焼け色に染っていた。
第一部~完~
この世界の人達の身体能力について。
身体能力は闘力か魔力の量の最大値まで上がります、しかし最大値まで行くのはよほど修練を積んだ者か最大値が低い者です。
これにて第一部は終わります。
ちょっと早い気もしますが16話あたりでエイレーネと出会うことにします。
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