この世の全てが旨いもの
どうもです。また見切り発車ですけどなにか。
いやほんと。申し訳ない(^_^;)
「漸く……漸く買えたぞ!《アウターヘイヴン》!!全く、ドMが多すぎるぞこの世界!!こんな過酷なゲームをやりたがる奴の気が知れんな!」
自分のことを棚にあげながら、《獅童 満》はそう悪態をつく。
「ネットで情報を見るたびに羨んでたが、漸く俺もこの世界にダイブできるぜイヤッホウ!!」
満は喜び勇みながらヘッドギアを取り付け、布団の上に寝転がった。フルダイブ型のゲームなので、プレイ中は生身の体はほとんど動かせないためである。
「よっしゃ!ゲームスタート!」
満はヘッドギアを装着し、スイッチをいれてゲームを起動する。
体から力が抜けていき目の前が暗転すると、その直後に目の前に簡素な服を着た自分の姿が写し出され、その周りには髪や顔、体型から年齢にいたるまでの項目がならんでいた。
《アウターヘイヴン》において操作するキャラクターのエディット。つまり、自分の分身をつくりだすのである。
「ムフフフ………。エディットの時間の何ともいえぬワクワク感。ああ……この如何にもゲームを始めるぞっていうこの感覚………。たまらんなぁ………」
満は気持ちの悪い笑みをニタニタと浮かべながら、項目を次々と埋めていく。
「まあ、元の体格と余り変え過ぎるとリアルに戻った時に異常が発生するからあんまし変えないがね」
満の言う通り。リアルで背の小さいものがVRで背の高いキャラを操作していると、ゲームを止めたときに脳がその差異によって混乱するという事例が多数発生していた。多少、その事について異論を述べる者もいたが、その他大勢のゲーマー達のあらゆる手腕により、その異論を述べる者達は皆相次いで消えてしまっているのだが。
その為、VRゲームでは余りリアルの姿と変わらないようにするというのが暗黙の了解となっていた。まあ、中にはそんなのを気にせず性別すら変更してしまう猛者もいるようで…。
「ただ、折角のゲームなんだしなにかしらの厨二要素は入れたいよなぁ。……………ふむ、独眼とか?いや、目や頬に傷も捨てがたい。竜やライオンを思わせる髪型なんてのもありだな。ううむ、悩み所だ」
10分少々悩み、漸く満はこれと言ったものを見つけた。
「うむ!これだな!!」
悩みに悩んだ末に満が選んだのは顔にペイントをいれるというものだった。165cmと小柄ながらも筋肉質な体型。少々つり上がった目尻に、オールバック風な短髪。低く渋めな声。スーツなんて着たら明らかにヤのつく自営業者を思わせる風貌が満のリアルの姿であった。そこに顔半分を覆うような炎のペイントが足され、一見するだけでは近寄り難い雰囲気を醸し出す“悪”な男が出来上がってしまっていた。
「ムッフッフッ!あ!と!は!名前を決めるだけだ!!だが、名前ならもうとっくに決まっている!」
悪く見えるのは外側だけで、中身はただのオタクとスポーツマンのダメハイブリッドな普通のいや、ちょっと残念な成人男性なのだが。
「しゃあ!名前も決まった!外見も決まった!!ゲームスタートと洒落こもうじゃねぇか!!」
満は名前の欄に《レイヴン》と打ち込み、エディット終了の項目を選ぶ。するとまた目の前が暗転し、〈ようこそ《アウターヘイヴン》へ〉という文字があらわれると、満──《レイヴン》は見知らぬ森の中に突っ立っていた。
そして、辺りを感動しながら見渡すレイヴンの目の前に〈チュートリアルを始めますか?〉といウィンドウが空中に浮かぶ。
「しゃあ!始まった!始まった!!チュートリアルはいらん!設定も散々読んだわ!それよりもスキルじゃスキル!!」
レイヴンは鬱陶しいとばかりにNOを選び、プロローグも読み飛ばし、自分が持つスキルを確認に走る。
このゲーム《アウターヘイヴン》の世界は、神々に見放され、人ならざる異形の化け物〔魔物〕が闊歩する世界というゲームであり、プレイヤーは神隠しにあいこの世界に飛ばされた哀れな異邦者という設定である。そしてプレイヤーはそんな世界で自由に過ごす事が出来る。そう。それはもう本当に自由に過ごす事が出来るのだ。
この世界に存在する冒険者という職業になる者。
点在するどこかの国に仕え、兵隊となる者。
生産職となって新たな武器や防具を作り出す者。
はたまた、何処に属す事もなく放浪する者。
商売人となり商いをする者。
新たに国を興す者。
プレイヤーを狩る、所謂PKを楽しむ者。
この世界で恋人を作るといった、リアルを捨てた者まで存在するほどである。
自由に、思い思いの行動をとれるのがこの《アウターヘイヴン》最大の魅力であった。
しかし、旨い話ばかりではなく。《アウターヘイヴン》には他のVRMMOに存在するスキルといった物がほとんど存在せず、リアルのように練習し、鍛練し、反復して習得するしか方法がない。自分のウィンドウにも表記されず、本当に習得できたかもわからない。そもそもステータスの表示すらないが。
他のVRMMOからするとクソゲーと呼称される事もあった。だが、その分他のVRMMOと違い習得限界など存在せず、いくらでも自分の力にできるのだ。リアルのように。
リアルと変わらない過酷な異世界というのもこの《アウターヘイヴン》の楽しみ方である。故に、ゲームなのにリアルと変わらない《アウターヘイヴン》をやる者は、頭のネジが何本かどっかにいったドM共の集まり、と言われている。
「スキル~スキル~♪」
レイヴンが楽しそうに確認しているのは、《アウターヘイヴン》において1つだけ最初に渡される特殊なスキルというものだ。それだけはウィンドウにも表記されるが、それは完全にランダムであり、ヘッドギアの都合上リセットして取り直す事も不可能であるため何がとれるかは運ゲーとなっている。ただそれは強力なものばかりで、それを主体にして《アウターヘイヴン》を遊ぶ者がほとんどであった。
「…………は?」
レイヴンが自分のスキルを見て固まる。
「なんじゃいこりゃ?」
レイヴンのウィンドウに表記されていたスキルは《美食世界》というものであった。